イタリアの職人パオロ・マリアーニが靴作りへの情熱を語る|BOTTEGA PAOLO MARIANI
FASHION / MEN
2015年7月15日

イタリアの職人パオロ・マリアーニが靴作りへの情熱を語る|BOTTEGA PAOLO MARIANI

BOTTEGA PAOLO MARIANI|パオロ・マリアーニ

イタリアの職人が靴作りへの情熱を語る

イタリアの靴職人パオロ・マリアーニがはじめて日本を訪れた。彼は、1922年に祖父が立ち上げた工房を受け継ぎ、ひとりでハンドメイドの靴を作りつづけている。革や糸、靴紐にいたるまで天然の素材にこだわった、既存のシューズメーカーのものとは異なる価値観の靴だ。情熱を捧げながらも自分のペースで作っているという理由をパオロは、楽しそうに語りはじめた。

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Photographs by JAMANDFIXText by MURAMATSU Ryo(OPENERS)

人生とともに歩む靴を作る

―― ビスポークの形で靴を作っているのでしょうか。

そうですね。一日一足、年間だと300足ぐらいしか作れないんです。だから、既製品とは価値が異なるとおもいます。最後の仕上げだけ機械を使うので、ほぼオールハンドメイドですね。靴の種類は、紳士靴のクラシックなタイプからスポーティなものまで用意しています。

―― 靴を作る上で大切にしていることは?

一番は履きやすさの追求。足に馴染んでこそ靴なので、そこを計算したうえで、見た目の美しさといっしょに落とし込む。その兼ね合いを図るところに注意を払っています。

―― 作るときのインスピレーション源はありますか。

基本的にむかしのものです。1920年代から40年代ぐらいのものをヒントに考えています。

―― それはお祖父さんが作った靴ですか。

そうですね。私の祖父が1922年に工房(BOTTEGA)をはじめたときから脈々と受け継がれている伝統を大切にしています。むかしから質を落とさずに本当に良いものを作ってきたので、私もそこには自信があります。大量生産には興味がないですし、それをおこなうと積み上げてきた伝統が途切れてしまう可能性がある。背景を大切にしながら、本当にいいものを突き詰めていくようにしています。

PAOLO MARIANI|パオロ・マリアーニ

PAOLO MARIANI|パオロ・マリアーニ

―― パオロさんは11歳から靴を作りはじめたと聞きました。

生まれたときから革の匂いがする環境にいました。祖父と父が仕事をしている工房を走り回っているような子どもだったので。遊び場から靴を作る場所に変わったのが、11歳でした。工房があるマルケ州のカセッテ・デーテには、イタリアを代表する靴のブランドの本社工場があります。歴史的な背景として、この街は第二次世界大戦後、軍が使っていた戦闘服の一部で靴を作っていました。そのため、現在でも何らかのかたちで靴の製作に携わっている方がほとんどです。

―― 工房がはじまってから100年近く経ちますね。長い歴史のなかで、お祖父さんの代から守りつづけていることと、逆にパオロさんが変化をくわえていきたいことはありますか。

伝統を受け継いでいくこと。ただ、時代に合わせて変化をくわえていくことは必要だとおもいますが、どういったかたちで遊び心をくわえるにせよ、何よりも大切なのは、靴の作り方。靴を構築するうえでどのように組み立てるのか、基本的なことは絶対に変えてはいけないとおもっています。

―― 具体的には?

靴紐や糸、もちろん革も、すべて天然の素材にこだわっています。余計な化学物質はふくんでいません。革の鞣しや色付けも手作業でおこないます。こちらの内羽式のドレスシューズは、ボルドーとマスタードを混ぜた染料を何回も塗って色を出していきます。できるだけ糊も自然なものを使っています。例えば、栗の粉と水で作った糊です。それが徐々に足の温度や汗の水分を吸収して、どんどん糊が変化していくんです。そうやって自然に馴染むことで、そのひとの足にあった形になっていきます。

PAOLO MARIANI|パオロ・マリアーニ

PAOLO MARIANI|パオロ・マリアーニ

―― パオロさんの靴を扱っているショップはありますか。

基本的には卸していません。リクエストをたくさん頂くのですが、生産量に限りがあるのでお断りしてきました。今回、来日するまで日本人に売ったこともありませんでした。

―― 工房を大きくする考えは?

そういうことには興味がないのです。先代が積み上げてきた伝統をこれから先も保っていきたい。

―― 世界にはたくさんのシューズメーカーが存在します。そのなかでご自身はどのような靴を作っているとおもいますか。

一生使ってもらえる靴です。いっしょに人生を送ってくれる靴。履くひとといっしょに育つし、人生そのものが靴に表れます。履きつづけるなかで、傷になったところは、もう一度作り直します。もともとあった状態のものを、より良くするために再構築することもやっていますが、そういった意味でそのひとの人生をお預かりするような靴だとおもっています。

PAOLO MARIANI|パオロ・マリアーニ

Paolo Mariani|パオロ・マリアーニ
1979年、イタリア・マルケ生まれ。靴職人であった祖父や父の仕事に興味をもち、11歳から靴を作りはじめる。その後、父から工房を受け継ぎ、伝統を守りながら現代のスタイルに合った靴をひとりで作りつづけている。今年のはじめにファッションディレクターの村松規康とFacebookを通じて知り合い、今回の来日が実現した。2015年の秋冬シーズンよりユナイテッドアローズ、Takizawa Shigeruで展開が始まる。プライベートでは、野菜や家畜を手がけ、自給自足の生活を送っている。

BOTTEGA PAOLO MARIANI
http://www.bottegapaolomariani.it

           
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