シロッコ|Scirocco|Volkswagen Scirocco:The Car makes Style. ベーシックデザインに宿る、最高の機能美
Volkswagen Scirocco|フォルクスワーゲン シロッコ
Scirocco × ファッションデザイナー 倉石一樹
ベーシックデザインに宿る、最高の機能美
倉石一樹氏は、イギリスのブランド「カシュカ」を中心に、世界で活躍するファッションデザイナーだ。フリーデザイナーとしてもadidasやfragment designを手がけるほか、CDジャケットのグラフィックなどその活動は多岐にわたる。奇をてらわないベーシックデザインと着心地へのこだわりが、支持される所以だ。その姿勢は、シロッコのスタイルともシンクロする。
文=小川フミオ写真=五十嵐隆裕
シロッコとファッションの接点
装うとは、からだを覆うこと。外界の刺激から身を守るためが第一義的な目的。祭祀や非常時に特別な意味をこめて着ることもあれば、ふだんは一種の自己表現として服を選ぶ。服のもつさまざまな機能が、日常的に定着して、それが生活を楽しくしてくれている。クルマの場合、コスメティクスという言葉がある。まさに装い。燃費をよくするための空力的なカーブなどが重視されるいっぽう、周囲の注意を喚起する美しさが求められる。機能と美がともに重要という点では、クルマもファッションとつうじるものがある。
ただしクルマはより機能性が求められるものなので、装いといっても、合理性や機能性の裏づけが必要になる。ここが重要なポイント。品質と関係してくる。コストがかかっていないクルマは、塗装が波打って見えたり、ドアと車体とのすきまが大きかったりする。高品質さこそスタイリッシュと言い換えることも可能だ。フォルクスワーゲン シロッコは、たぐいまれな作りのよさで、まさにもっともスタイリッシュな1台といえる。
シロッコをかたちよく見せているものとは。空力や、エンジンやトランスミッションと居住空間の位置関係などを決めるパッケージングを担当するエンジニアたちと、デザイナーとの密なる協力関係から生み出された、説得力のあるシェイプがなにより特長的だ。ボディの面とラインは、じつは空気の剥離に役立つなど合理性をもちながら、彫刻のような力強さという審美的な価値を両立させている。
1990年代からはじまった高品質のあくなき追求は、車体外板をはじめ、内装のパーツとパーツの合わせ目を極力小さくすることで結実している。それが、見た目のよさとともに、外板では空力の低減に奏功している。
ダッシュボードなど室内の素材には黒色を好むのがドイツの自動車メーカー。合成樹脂とひとことで言っても、異なる組成をもつものを同色に仕上げ、一体感を演出する。乗るときはそこを評価したい。「フォルクスワーゲン・クオリティ」という言葉が自動車界に生まれたように、他社と一線を画す出来のよさが、シロッコを特別の存在としている。
ファッションデザインという個性
ファッションについて、趣味人として知られ、世界中の「いいもの」を集めていた作家であり映画監督でもある伊丹十三がエッセイにこう書いている。「(……)いい服というのは、目立たず、ごく上等で、由緒正しく、かつ野暮なものがよい」。あまり流行の服に飛びつくと、結果として周囲とおなじ装いになり、自分の個性を強調するつもりが、風景のなかに埋没してしまうという。逆にかえせば、自分の個性を際立たせてくれるのがよいもの。シロッコは、日本の路上で、その美しさでオーナーの個性を強調してくれるはずだ。
「洋服をデザインするとき、ヒントになるのはアートなど日常のなかの美しいもの。また、どちらかというと歴史、伝統ある被服レーベルが継承する技法やディティールにインスパイアされます」
「adidas」のクリエイティブプロダクトマネージャーとして「adidas originals by
originals」を手がけ、2010年の春夏コレクションからはイギリスのニットウェアブランド「カシュカ」のメンズラインも担当する倉石一樹氏。ファッションデザインをメインに、グラフィックデザインや、自身のバンド活動など、多くの創造的な仕事を手がけている。
倉石一樹氏による洋服は、裁断、縫製、生地の素材や図柄など、奇をてらったところがない。本来金属製のパーツがつくところに、アウトドア用品のような合成樹脂性を用いるなどちょっとした遊び感覚がおもしろい。
Volkswagen Scirocco|フォルクスワーゲン シロッコ
Scirocco × ファッションデザイナー 倉石一樹
ベーシックデザインに宿る、最高の機能美
着るひと、乗るひとの個性を引き出す
「無理して服を着る必要はない。最先端の服を着るためにきついのをガマンするなどは本末転倒。着こなしの基本は着るひとの個性をいい方向で際立たせること。adidasで提供している服も、スポーツのためのアウトフィットを得意とするブランドのよさを活かしている。古典的なスタイルのベストの裏側に、保温力にすぐれる現代的な素材を用いるなど、快適性を重要視している」
倉石一樹氏が興味をもっているファッションは「レイヤード(重ね着)」という。もっとも下に着るアイテムから、もっとも上に着るアイテムまで、4つぐらいのグループに分けて番号を振り、組み合わせによる重ね着を提案するアウトドアメーカーもある。その試みを「おもしろい提案」と評価していると語ってくれた。自身も今回のフォトシューティングのために、カシュカをはじめみずからが手がけたブランドの服を数多くレイヤードして着てみせてくれた。
倉石一樹氏も、着るひとに「個性を強調する」ことの重要性を訴えかける。言葉に出てくる快適性とは、マネキンのように服を着るのでなく、あくまで自分がいて、服がある、という、本来の人間と装いの関係を貫くこと。中心に人間がいないと、創造を試みても核を失ってしまい、先へ進めなくなる。1974年に初代が発表されたシロッコ。時代にさきがけるスタイルをもったスポーティクーペとして市場に受け入れられてきた。その核をいまもしっかりもっている。そこに倉石一樹氏の強調する創造の源と通底するものを感じる。
「クルマにとってスタイルは大事。自分にとって、それはカタチがよくて、居住性が高く、そして操縦性がいいこと」
倉石一樹氏はみずからがクルマに求めるものを定義する。日常的にはドイツ車やハイブリッド車に乗り、クルマに大いなる興味をもつ倉石一樹氏にとって、クルマとは「むずかしいとか、なにかガマンする必要があるのはダメ。気持ちよく自然なかんじでつきあえるものがよい」と言う。
日常から見出す、クリエーションの源
倉石一樹氏にとって、フォルクスワーゲン シロッコをじっくり眺めたのは、今回がはじめてだそうだ。晴天の下、太陽の光でゆたかな面で構成された車体のカーブが際立ち、みごとな存在感を見せていた。周囲を回り、室内に乗り込み、感心したような表情を見せた。
「外観のスタイリッシュさと、インテリアの個性的なデザインがぱっと見で強く印象に残る。個人的にセダンよりハッチバックとかクーペを好むこともあって、シロッコのスタイリングは好ましい。独自のスタイルを確立している。それはとても大事なこと」
そこで思い返されるのは、倉石一樹氏がファッションデザインについて語ったときの言葉。「ヒントになるのはアートなど日常のなかの美しいもの」。つまり、なにかの喚起力をもつものは、あらたなクリエーションの播種をする。アートによる感動が倉石一樹氏のファッションのどこかに根をおろして、人びとに支持される作品を生んだ。
シロッコの美さにしても、たとえば、美によってデザイナーを刺激することで創造を生み出すかもしれない。また、シロッコに乗ることで日常が楽しくなれば、仕事のスタイルが変わることもあるだろうし、家族や友人とのつきあいもさらによい方向へゆく可能性もある。それも創造の播種だ。
布地と金属とは、まったくかけ離れたマテリアルのようだ。しかし、ひとを包みこみ、社会との関係を構築する手助けをするという点において、つうじるところが数多くあるように思われる。少々極端な表現になってしまうが、シロッコを着てはどうだろう。最良の自己表現たりうるからだ。
倉石一樹|KURAISHI Kazuki
1975年東京生まれ。adidasや「Levi’s Left handed Jean by Takahiro Kuraishi」などを手がけるいっぽう、2010年春夏コレクションより、イギリスのニットウェアブランド「カシュカ」のメンズレーベルのデザイナーに就任。ファッションのほか、アルバムジャケットのデザインなど幅広く活動する。