永久に止まらない「永久カレンダー」を目指して|VACHERON CONSTANTIN
VACHERON CONSTANTIN|ヴァシュロン・コンスタンタン
ふたつの“心臓”をユーザー自身が使い分ける
画期的な“ツインビート”システムを開発
SIHH2019において、ヴァシュロン・コンスタンタンが時計ジャーナリストに驚愕を与えたのは、このモデルでした。振動数の異なるふたつ(ツイン)の脱進機(ビート)を搭載し、両者を使い分けることで、実用性を担保しつつも65日を超える超ロングパワーリザーブを実現してみせたのです。これだけの長時間駆動であれば、日常使いすることのないコンプリケーションアイテムであっても、ゼンマイが解き切れることなく、いつでも好きな時に取り出して、面倒な時刻合わせをせずに、すぐに腕に着けることができるのです。
Text by TSUCHIDA Takashi
“蛇足の美学”なんてもう古い、と言わんばかりの豪傑なメッセージ
非常に合理的な設計思想なんです。
複雑時計のひとつに数えられる「永久カレンダー」ですが、4年に一度の閏年までカウントする複雑極まる輪列ゆえに、じつは他モデルに比べて非常にデリケート。それゆえ、日常使いするには向きません。高級服地で仕立てたスーツはもちろん美しいですが、生地の擦れに弱く、毎日着用するようにはできていません。それと同じです。もちろん、昨今では技術陣の努力と改善により、かつてのモデルとは比べ物にならないほどに実用性が増しています。それでも、万一の不具合が生じた場合に、複雑時計はほぼ本国送りとなり、一般モデルより修理日数的にも費用的にも嵩むことは避けられないのです。
永久カレンダーとは、本来はそういうコストをしっかりと払える人だけが持つべきアイテムです。ただ、そうは言っても、時計好きならば永久カレンダーを持ちたい、そして時には身に着けたいですよね。すると、とっておきのパーティに呼ばれた時など、此処ぞ! という時だけに出番が限られてくるのですが、イザ、その出番の時に時計が止まっていて、針合わせにひと苦労というオチがついたり……。
そこで、このモデルの設計思想が生み出されました。身に着ける時にはアクティブモード(5Hz)、時計をしまっておくときはスタンバイモード(1.2Hz)。8時位置のプッシュピース操作で、ユーザーは任意のビートに切り替えることができます。実際、時計をしまっておく際には、時計は平置きされ、衝撃が与えられることがないのですから、ビートはゆっくりでいいのです。ビートがゆっくりなら、ゼンマイの力を少しずつしか使いませんから、約2カ月放置しても動き続けるという、機械式とは思えないほどの超ロングパワーリザーブが生まれました。一方で、時計を身に着けるときにはテンプを高速回転させ、精度保持に努めます。このモードでも4日間巻きですから、十分な動力確保がなされています。
今年、ヴァシュロン・コンスタンタンは数々の新作を発表し、ブランドの勢いをアピール、他ブランドとの違いを決定付けました。なかでも、こうしたメカニカルウオッチの限界を超えるエクストリームなモデルを発表したことは称賛に値します。価格は時価となり、そうとうに値が張ります(2019年6月時点での税別予価は2900万円)。むろん、誰もが買えるものでないのは明らか。ただ、私がもしも一生モノの時計を真剣に選ぶとするなら、そうした勢いのあるブランドを注視します。なぜなら時計を購入するとは、そのブランドの将来を買うことに他ならないからです。
トラディショナル・ツインビート・パーペチュアルカレンダー