“文字盤に何も記さない”気高き誇り。それがすなわち高品質の証となる|H.MOSER & CIE.
H.MOSER & CIE.|H.モーザー
シャフハウゼンの地で育まれた
クオリティ重視、誠実なモノづくりを
標榜するウェルメイド・ウォッチメーカー(1)
チューリッヒから35キロほど北に進んだライン川沿いに、工業の街シャフハウゼンがある。ライン川の水流を駆動源に換え、この地は古くから工業が発展。時計業界では、IWCが同じ土地で成功を収めている。ところでドイツ語圏らしい質実剛健的モノづくりをベースとしながらも、新生H.モーザーにはかつてない色気がある。美しさに拍車が掛かったフュメ文字盤、ケースサイドを大胆にえぐった特徴的なフォルムなど、ひとひねり加えた“艷やかさ”があるのだ。
Text by TSUCHIDA Takashi(OPENERS)
無銘ゆえに個性が際立つ、正統派“紳士のJEWEL”
グリーンのグラデーションを文字盤に施した2017年の新作「エンデバー・センターセコンド・コンセプト・コズミックグリーン」は、まるでエメラルド石の輝きを纏っているかのようだ。スーツスタイルに合わせてもビジネスコードから外れず、それでいて艶やかさを主張する。
この美しいグラデーションを備えた文字盤を、H.モーザーではフュメ文字盤と形容している。塗装作業を丹念に重ねることで柔らかなグラデーションを生み出す特殊仕様は、H.モーザーのトレードマーク。このモデルでは、フュメ文字盤の美しさを損なわないために、ロゴもインデックスさえも廃している。
まるで星雲。もしくは小宇宙。腕時計の複雑さを宇宙に例えるロマンティストにとって、この時計ほどしっくりくるものはない。グリーンという色のポテシャンルの高さなのだろうが、高貴であり、優しくもあり、華やぎも添えている。
この時計の生産本数は、18KWG、18KYGのケース素材違いで各20本。その希少性の高さも、時計の価値を高めている。
エンデバー・センターセコンド・コンセプト・コズミックグリーン
Ref.|1343-0211(18KWG)
ムーブメント|自社製手巻きHMC343
パワーリザーブ|約7日間(デュアルバレル)
文字盤|コズミックグリーン フュメダイアル
ケース素材|18KWG
ケース径|40.8mm
ケースバック|シースルー
ストラップ|アリゲーター
限定数|20本
価格|290万円(税別)
Page02. 新合金ヘアスプリングを載せ、次世代の姿をひも解く
H.MOSER & CIE.|H.モーザー
シャフハウゼンの地で育まれた
クオリティ重視、誠実なモノづくりを
標榜するウェルメイド・ウォッチメーカー(2)
新合金ヘアスプリングを載せ、次世代の姿をひも解く
現在のH.モーザーの年間製造本数は、およそ1200本。この生産数を55名の社員で支えている。そのなかでも、製造に携わる時計師30名。ざっと社員の半数以上が時計師ということになるが、ヘアスプリングから自製するマニュファクチュールとしては当たり前なのかもしれない。
そうH.モーザーは、規模こそまだまだ小さいが、時計のヘアスプリング(ひげぜんまい)を内製できる数少ない時計メーカーのひとつなのである。その秀でた技術開発力は、グループの技術部門Precision Engineering AGとの提携により育まれている。
新作「ベンチャー・スモールセコンドXL」に搭載されたヘアスプリングは、新開発の独自合金PE5000。これはニオブとチタンの合金と説明されている。現在、他ブランドでは、ヘアスプリングにシリコンを用いることが試みられているが、このシリコンは調整が難しいという面で生産上の短所を持つ。生産上の短所は、すなわちコストとなり跳ね返ってくるから、ユーザーにとっても由々しき問題である。そこでH.モーザーは、PE5000を代替素材として今年、新た
に発表したのだ。
常磁性、耐衝撃性に優れるPE5000ヘアスプリングを搭載するモデルは、今季、10本限定でリリースされる。いわばテストモデルである。この新素材が次世代のベーシックになり代われるかどうかはまだ分からない。ただし、初年度限定10本というレア度の高さは、後世になっても消え去ることはない。
文字盤に採用されたのは、ミッドナイトブルーフュメ。そのブルーに呼応するように、テンプとテンプ受けにもブルーカラーが採用されている。
ベンチャー・スモールセコンドXL
Ref.|2327-0206
ムーブメント|自社製手巻きHMC327
パワーリザーブ|約3日間
文字盤|ミッドナイトブルーフュメダイアル
ケース素材|18KWG
ケース径|43mm
ケースバック|シースルー
ストラップ|アリゲーター
限定数|10本
価格|270万円(税別)
ちなみに、現CEOエドワード・メイラン氏は「あと数年の間に、年産3000本程度にまで増産していく」つもりだ。そのために技術を持つ時計師をリクルートすることも含めて社員数を増やし、生産体制の強化を目指している。