TIMEX ATELIERコレクション「Marine M1a」。17万6000円(税込)。
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2026年2月17日
時計への愛が導いた、10年越しの挑戦――デザイナー・ジョルジオ・ガリ氏が語る、TIMEX ATELIER誕生の軌跡
TIMEX|タイメックス
「時刻確認は、実はスマホを見ているんです。でも、他人が着けている時計を見てしまう。光がどう当たっているか、どう見えているか。そういうのをつい見ちゃうんですよね」。ジョルジオ・ガリ氏はそう言って、照れるように笑った。30年以上にわたり時計デザインの最前線で活躍してきたデザイナーが語る、衝動的関心。それはプロ意識を超えた、時計に対する深い愛情だ。
Text by TSUCHIDA Takashi
TIMEXが選んだ、「100万円のラグジュアリー」とは異なる道
米Esquire誌が「2025年、最もクールなウォッチブランドの一つ」と評したTIMEX。アメリカで先行発売されたTIMEX ATELIERコレクションは、初回生産分が即完した。この成功は、単なる価格戦略の勝利ではない。時計市場における、ある種の潮目の変化を捉えたものだ。
「値段が高いからとか、有名だからっていう理由で時計を選ぶことを、もはや気恥ずかしいと感じる世代の人たちが現れています。特にその傾向がアメリカで出てきている」と、ガリ氏は指摘する。
タイメックス・グループのクリエイティブディレクターを務め、タイメックスをはじめ全ブランドのデザインを統括する。イタリアとアメリカでインダストリアルデザインを学び、ルーカス・フィルムを経て時計デザインの道へ。1990年代前半にはスウォッチデザインラボ所長を務め、その人気に寄与。以後、タイメックス以外の時計ブランドのデザインにも携わり、時計業界においてレジェンドに数えられる人物のひとりと称される。
製造コストの高騰や為替変動の影響を受け、スイスメイドの時計価格は上昇を続けている。一方で、高額な時計を日常的に身につけることを疑問視する世代の行動にスポットが当たっている。彼らは時計にステータスシンボルを求めるのではなく、その価値を本質的に理解したいとする。
「TIMEX ATELIERコレクションは、TIMEXとして見れば、値段はちょっと高い。それでも20万円前後と現実的です。100万円の時計でなくたって、時計は楽しいと感じてもらいたい」
ガリ氏が語る“現実的な価格”とは、単に安価であることを意味しない。それは、手の届く価格でありながら、時計としての本質的な魅力を妥協なく追求する姿勢だ。
「今回、アメリカで先行販売していますが、TIMEXが定義した新たな価値をお客様がきちんと理解してくださっている。手が届く価格で、どういう良さがあるのか、そのことに対しての反応がある」
プライス、デザイン、品質のバランス。その価値が納得できるものであること――。TIMEX ATELIERの成功は、時計への向き合い方が変わりつつある時代において、ブランド側の真摯な姿勢が評価されたことの証左だろう。
ジョルジオ・ガリの旅路。そしてTIMEXの再定義
ガリ氏の時計業界との出合いは、“奇妙な巡り合わせ”だったという。イタリアやアメリカでデザインを学んだ後、1990年にミラノで自身のデザインオフィスを開設。開業直後、スウォッチのクリエイティブディレクターとして時計デザインの世界に飛び込んだ。スウォッチが全世界的に攻勢を極めた時代である。
その後も時計関連の仕事を継続。1997年、事務所をTIMEX社に売却し、TIMEXグループのクリエイティブディレクターとして参画した。
しかしTIMEX ATELIERが誕生するまでには、じつは長い道のりがあった。
TIMEXは170年の歴史の中で、カジュアルで手の届く価格というイメージが定着していたからだ。「ブランド製品の価格帯を下げるのは簡単ですが、逆に価格帯を上げる場合、消費者の認識を変えるのは長いプロセスなのです」
約10年前、ガリ氏は“アフォーダブルラグジュアリー”を目指した試行錯誤を始めた。その中で誕生したのが、Sシリーズ。「S1」「S2」「S2チタニウム」。TIMEXが新しい価格帯に到達できるかをテストする実験的モデルだった。
S2は特に好評だった。人々が良いデザインのものにより多くのお金を払う意欲があることを証明した。そのS2のデザイン言語を継承しつつ、モダンでありながら時計製造の本質を押さえる。TIMEXらしい価格帯で、時計としての魅力があるものを作る。それがATELIERコレクションの出発点だった。
ゆっくりと発見されるデザイン
TIMEX ATELIERのデザインを語る上で、ガリ氏が繰り返し強調する言葉がある。“Design to be discovered slowly(ゆっくりと発見されるデザイン)”だ。
一見して、Marine M1aは初期ダイバーズウォッチのようなクラシカルなルックスだ。しかし、手に取り、着用し、日々を共にする中で、リング状のインデックス、スケルトンケースの複雑な構造、別パーツのリューズガード、カーブしたサファイアクリスタル風防など、随所に工夫が凝らされていることに気づく。
ガリ氏は、特定の一つの時計を参照したわけではない。50年代の初期のダイバーズウォッチ全般からインスピレーションを得た。
「重要だったのは、単に古い時計をコピーするのではなく、その時代の本質、DNA、精神性を捉えることでした。初期ダイバーズウォッチが持っていた冒険心、探求心、そして機能美。これらの要素を現代的な文脈で再解釈することが目標でした」
そのスタイルを“ニュー・クラシック”とガリ氏は表現する。古いものを復刻させるのではなく、現代的な視点を通してクラシックなダイバーズをデザインした結果だ。
「安くすることが目的ではないのですが、現実的な価格帯だと考えています。何かを妥協するのではなく、奇を衒ってはないけれども魅力がある。そこに時計メーカーとしての矜持というか、こだわりが入っています」
2つの表情――Marine M1aとGMT24 M1a
TIMEX ATELIERの第一弾として登場したのは、2つのモデルだ。




「Marine M1a」は、41mm径のスケルトン構造ステンレススチールケース、200メートル防水、セラミック製回転ベゼルを備えた正統派ダイバーズで日常使いに適した耐久性を確保している。スイス製CATENA SA製自動巻きムーブメント搭載。価格はステンレススチールブレスレットが19万8000円(税込)、NBRラバーストラップが17万6000円(税込)。




「GMT24 M1a」は、40mm径のややコンパクトなプロポーション。ベゼルを排したボックス型サファイアクリスタル風防が特徴的だ。24時間表示GMT機能を搭載し、オレンジ色の針で異なる国の時間を表示する。スイス製Landeron 24 GMT自動巻きムーブメント搭載。価格はステンレススチールブレスレットが27万5000円(税込)、NBRラバーストラップが25万3000円(税込)。
2つのモデルに共通するのは、M1aという体系的な命名システムである。これは「Model 1 Automatic(モデル1 オートマチック)」を意味している。工具なしでコマ調整ができる新機構を採用したブレスレットと、NBR製プレミアムラバーストラップをラインナップしているのも共通したスペックだ。
「今日、機械式時計を選ぶ人は、意識的に選択をしています。実用性の問題ではなく、価値観の表明に他なりません」
デジタル時代において、アナログ的な、機械的な、要所要所でハンドメイドな作業が加えられたものには、特別な価値がある。機械式時計を身につけることは、そうした価値を肯定する行為だ。
時計への純粋な愛が導いた、10年越しの挑戦。その先に見えてきたのは、テクノロジーの時代にあって、だからこそかけがえのない価値を背伸びすることなく、自然体で選択するスマートさである。
ガリ氏とTIMEXが紡ぐ物語は、まだ始まったばかりなのである。
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