グランドセイコー メカニカル ハイビート 36000|Part1:新たなるデザインへの挑戦
Watch & Jewelry
2015年4月1日

グランドセイコー メカニカル ハイビート 36000|Part1:新たなるデザインへの挑戦

Grand Seiko Mechanical High Beat 36000|グランドセイコー メカニカル ハイビート 36000

Part1:新たなるデザインへの挑戦

2009年、セイコーの定番コレクションである「グランドセイコー」からニューモデルが発表された。毎時36,000振動を刻む高速振動ムーブメントを搭載した新開発のモデル「グランドセイコー メカニカル ハイビート 36000」だ。ムーブメントの開発に始まり先端の技術を集めたモデルだが、そこにはゼンマイ開発を始めとする地道な時計作りを重ねてきたセイコーの「実用時計へのこだわり」を見て取ることができる。このハイビートモデルにまつわる人々の話を聞きながら、実用時計と真摯に向き合ってきたセイコーによる時計製作の指針を覗く。

文=野上亜紀Photo by Jamandfix

新開発を支えたデザイナーの力

今年、新開発のムーブメントが話題となった「グランドセイコー メカニカル ハイビート 36000」。ムーブメントはもちろんのこと、デザイン面においてもまた、今回の新開発を支えてきた人がいる。

小杉修弘さんはグランドセイコーのウォッチデザインを手がけてきたデザイナーだ。「9S」シリーズのメカニカルモデルや、古きよき時代を感じさせるクラシックラインなど、15年以上「セイコースタイル」を守り続けながら新しいデザインを編み出してきた人でもある。

「セイコースタイル」とは1960年代のグランドセイコーのデザインを受け継ぎ、1967年に完成したスタイル。当時、国産時計も舶来品に負けないようにと研究を重ねられてきたもので、セイコーが得意とする「ザラツ研磨」を活かすための表現方法でもある。実用時計の基本として、ことにグランドセイコーではそのスタイルを今でも守り続けている。

セイコーのデザイナー、小杉修弘さん。「グランドセイコー」はもちろん、セイコーのラグジュアリーブランドである「クレドール」など、セイコーの主軸ラインのデザインをすべて統括する。

セイコースタイルを受け継いだ新解釈

円錐からフラットへと繋がる接線スタイル、多面カットされたインデックス、5面カットの笹針など、継承されてきたその意匠はいくつも存在する。いわばそのような多くの制約の中で、小杉さんはブランドの進化に合わせたデザインに挑んできた。今回もこのセイコースタイルを守りながら、如何にして新開発ムーブメントの特性を表現していくかということで試行錯誤を重ねていった。

「ハイビートの復活ということで、最初の誕生である1968年の光を感じさせるということ、かつシャープなスタイルを保つことを心がけました。もちろん、現代におけるザラツ研磨の進化を見せるという点も課題のひとつでしたね。たとえばインデックス。今までは太くしっかりとしたデザインのものが多かったのですが、今回はあえて当時のデザインに倣って“細く、長く”しました。これはハイビートに宿る“緊張感”をも表現すると同時に、視認性をよくするという利点もあるんですよ」

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実用性を求めたデザインの“引き算”

今回のハイビートモデルでは、携わった人々の思いが深いからこそ、その分伝えたいこともたくさんあったという。しかし小杉さんはグランドセイコーの実用性を守るため、“引き算”をすることもつねに意識していた。
「パワーリザーブ表示を付けることも考えましたが、ムーブメントの素性のよさがよく分かっていたので、余計な装飾はあえてしませんでした。10振動ということで1/5秒の目盛りも案に出ましたが、やはりグランドセイコーは実用時計。

目にうるさい主張は必要ないということで、思い切って60秒表示のみにしたんです。セイコースタイルの発端そのものが最たる例ですが、私達の時計は、実用性あってこその品格を考えて作られています。

今回、動力ゼンマイが新しくなったので巻き上げやすくするためにリュウズを握りやすくしたんですが、大きく張り出してしまうのはやはり違う。そこで径を7mmの大きさにすることで、薄くてシャープながらも操作感を高めるという、そのような姿勢を繰り返していったんです」

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制約があってこそのデザインの面白み

セイコースタイルもさることながら、立体の中で辻褄を合わせていくデザインの作業は非常に根気の要る仕事でもある。しかし思わぬ発見や楽しみが生まれることもまた楽しい、と小杉さんは語る。
「ケースも腕に巻きつく形だと柔らかい光になってしまうので、3時位置と9時位置から始まって極限ぎりぎりのラインまでカーブを抑えていくことで、シャープさをより追求しました。

側面から全体を決め込んでいったことで、偶然のラインが生まれたのも成功ですね。ことにグランドセイコーは製作側はもちろん、お客様も含めて細かいこだわりを持つ方が多い時計です。今回は周りの意識が高まっていったことで、よりよいデザインが生まれていったのではないでしょうか。実用性に基づいたセイコースタイルは制約があるからこそ、チャレンジするべきハードルも高い。だからこそデザインがますます面白くなるんです」

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「グランドセイコー メカニカル ハイビート 36000」

新開発である、毎時36,000振動を刻む高速振動ムーブメントを搭載したモデル。振動数が高くなることで持続時間の低下や耐久性の問題が発生するが、新素材を用いた動力ゼンマイとひげゼンマイを開発。36,000振動に必要な約1.5倍のトルクと最大55時間のパワーリザーブを実現した。またガンギ車とアンクルに新素材「MEMS」を採用。伝統であるセイコースタイルに、職人技術と最先端技術を忍ばせた時計。

SSケース&ブレスレット、57万7500円。

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「グランドセイコー メカニカル ハイビート 36000」の限定モデル

上のレギュラーモデルの精度(静的精度:日差+5~-3秒)よりも高い精度(同+5~-1秒)を実現。
深く濃いグリーンが印象的だ。このグリーンは、雫石高級時計工房から臨むことのできる岩手山を彩る新緑のイメージから生まれた。

SSケース&ブレスレット、限定200本(シリアルナンバー入り)、63万円、6月発売予定。

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「グランドセイコー メカニカル イエローゴールドモデル」

グランドセイコー誕生当時の薫りを今に伝える手巻きモデル。シースルーバックの裏蓋からはムーブメント「9S54」の美しさはもちろん、テンプの精緻な動きまでをもじっくりと堪能することができる。アンティークウォッチのようなボックススタイルの風防、セイコースタイルを伝える立体的なバーインデックスがとてもクラシカルかつエレガントだ。

手巻き、YGケース×クロコダイルバンド、105万円。

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「グランドセイコー メカニカルGMT」

24時間表示のGMTモデル。メカニカルムーブメントの「9S56」搭載。1998年の機械式時計復活にあたり誕生した「9S」系キャリバーは、セイコー独自の厳しい精度基準である「グランドセイコー規格(新GS規格)」をクリアしている。“実用時計”を追求してきたグランドセイコーの姿勢を垣間見ることのできる時計。太めのバーインデックスにアイボリー文字盤、ボックス型の風防など、セイコースタイルをよりクラシカルに表現。

自動巻き(手巻き付き)、SSケース×クロコダイルバンド、45万1500円。

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「グランドセイコー メカニカル自動巻き 3DAYS」

2006年に新しく開発された自動巻きの「9S67」を搭載し、72時間のパワーリザーブを誇る。3日巻きの時計だが、ゼンマイの厚みと幅を改良することで長さを10センチ伸ばし、香箱の厚みを変えることなくロングパワーリザーブを可能とした。

自動巻き(手巻き付き)、SSケース&ブレスレット、52万5000円


セイコーウオッチ
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