ピアノスト上原ひろみ、10年ぶりのソロアルバム『Spectrum』がリリース|MUSIC
LOUNGE / MUSIC
2019年11月2日

ピアノスト上原ひろみ、10年ぶりのソロアルバム『Spectrum』がリリース|MUSIC

MUSIC|上原ひろみ

即興とはすなわち“冒険”。世界的ジャズプレイヤー上原ひろみが誘う、音色という色彩世界(2)

――オウプナーズは音楽専門媒体ではないので、ジャズに対してちょっと敷居が高いかな? って思っている読者もいると思います。どういう風に接していくといいか、アドバイスがあったら教えてもらいたいです。

上原 即興演奏って難しそうというイメージがあるかもしれませんが、「即興」って常日頃から誰もがやっていることです。毎日生きている中で、どこで誰と会って何を話すか、そういうことはすべて即興だと思っています。

「今日はどんな話をしようか」「この人はどんな話をしてくれるんだろう」っていうことを音楽でやる、その会話を聴きに来ていただく、それがコンサートです。だから「今日はどんな話をしてくれるかな?」ぐらいの気持ちでかまいません。それが言葉ではなく音で行なわれるのが、ジャズにおける即興だと思っています。

――なるほど。それをさらに「ソロ」という演奏スタイルで置き換えると、どんな感じなんですか?

上原 自己との対話になります。自分で言葉を紡いでいくという感じです。

――上原さんの音楽は、掛け合いのなかでの自由さ、広がりを感じるんですが、今回、ソロでも同様の広がりを感じていて。上原さんは、今回のアルバムを通して、どんなことを伝えられたら良いかなと思っていらっしゃいますか?

上原 ピアノの魅力、可能性が伝わると嬉しいです。前回、10年前のソロアルバムで「ピアノをまた弾きたくなった」とリスナーの方が言ってくださったのがすごく嬉しかったので、今回もピアノとの触れ合いのキッカケになれたらすごく嬉しいです。
――上原さんはなぜピアノが好きなんですか?

上原 こんなに楽しい楽器はないです。やればやるほど、今の自分ができないことも見えてきて(笑)、それは不思議な話なんですけど、だから「もっともっと弾きたい」っていう気持ちを持たせてくれます。

――ツアーへの意気込みを教えてください。

上原 その日その場所で一生懸命生きるっていう。そこで弾くっていうことが生きるっていうことなんですけど。

その瞬間を捉えに行くという。毎日、同じことはもう絶対ないので、ひとつひとつを大事にしていくという感じですね。その積み重ねで何が生まれてくるのかを、私自身も楽しみにしています。

――オーディエンスと一緒に、空間を共有しつつ、音の冒険をするという感覚でしょうか? でも上原さんはピアノを毎日のように弾き続けてきて、まだ冒険の余地はあるんですか? もう探し切っちゃったんじゃないですか。

上原 いや、弾けば弾くほどきっかけがあり、ライブの数だけ冒険があるんです。それがあるから楽しいんですよ。

――即興中に、どんなことを考えているんですか?

上原 音に集中しています。この後どんな音を聴きたいかな? 弾きたいかな? と。どんな音が今、存在するべきかを探し当てていく感じです。

――確かにスリリングですね。でも見つからない時の怖さってないですか?

上原 怖さはないですが、何も出てこないときは寂しいです(笑)。

――コントロールできないものだからこそ、面白みがあるんでしょうね。ところで、レコーディングとライブって何が違いますか?

上原 基本的には違いはないです。レコーディングでも、そのスタジオにいる人たちに向けてライブをしているような気持ちで録っています。

ただしライブにはテイク2はありません。音を弾いた瞬間にそれは過去のものになって更新されて、ライブが終わるとすべてが過去になる刹那的要素が高いものです。一方で、アルバムは残っていくものなので、現時点での自己ベストを出して、残すものを作っているという感覚はあります。

***

上原ひろみさんは、とても真摯な人だった。自分と向き合うことに正直で、照れたり悪びれたりせずに、音楽を楽しんでいる人だった。エッセンシャルな人だった。他人の意見に乗らず、自分を持っている人。きっとそれが答えなんだと思います。自分であり続けるからこそ、得られる自由。他人に依存しない価値観。自由とは、自分で得るものであり、他人から与えられるものではないのです。

2016年、上原ひろみザ・トリオ・プロジェクト名義の『SPARK』が全米ジャズチャートで1位を記録。2017年にはハーブ奏者エドマール・カスタネーダとのカナダ・モントリオール国際ジャズフェスティバルでの熱狂のライブを収めた『ライヴ・イン・モントリオール』をリリース、さらには英国BBC主催のイベント「BBC Proms」での演奏が絶賛を浴びるなど、世界規模での活躍を続けてきた上原ひろみさん。ご本人はジャズに限定しないって言っていましたが、ワタクシ、ジャズマンのかっこいいところって、その生き様だと思うんですよね。そして生き様は音に現れる。上原さんの音色は、ワタクシには“自由の象徴”のように聴こえています。

新譜『Spectrum』は“自由”が枯渇気味な現代人の処方箋として、とってもオススメです。さらに上原ひろみさんは、現在、海外ツアーの真っ最中。それが終わるとJAPAN TOUR 2019がスタートします。詳しくは、こちらへ(http://www.hiromiuehara.com/s/y01/page/live?ima=0928)。

Hiromi - Spectrum (Live)

問い合わせ先

ユニバーサル クラシックス&ジャズ
Tel.03-4586-2341
https://www.universal-music.co.jp/jazz/

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