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MUSIC
2019年11月2日
ピアノスト上原ひろみ、10年ぶりのソロアルバム『Spectrum』がリリース|MUSIC
MUSIC|上原ひろみ
即興とはすなわち“冒険”。世界的ジャズプレイヤー上原ひろみが誘う、音色という色彩世界(1)
この人は、とても素敵な自由人だと思います。ワタクシ、上原ひろみさんの楽曲を聴いて、勝手にそう決めつけています。だってピアノの音が、むちゃ楽しそうなんだもん。プレッシャーとか、ストレスとか、現代人の誰もが等しく、いろんなものを抱えているはずなのに、彼女の音って、とっても楽しそうに弾けています。ですから新譜『Spectrum』は、“自由”が枯渇している現代人への処方箋。効き目たっぷりの、聴く処方箋です。
Photographs by OHTAKI Kaku|Text by TSUCHIDA Takashi
ホンモノな人って、どうしてホンモノになるのか? それはきっとホンモノの人に認められるからではないでしょうか? 音楽は音楽。デザインはデザイン、写真は写真。“似た者同士”なんて、言葉にすると薄っぺらいけど、両者はピンとくるんでしょう。そうやって彼女は、かのチック・コリアにピンとこられた。
それは彼女がラッキーだったからではありません。もしもチック・コリアからピンとこられなくたって、同等の偉人から遅かれ早かれピックアップされていたはずです。上原ひろみさんの音楽は、看過されざるものなのです。なぜか?
それは彼女がラッキーだったからではありません。もしもチック・コリアからピンとこられなくたって、同等の偉人から遅かれ早かれピックアップされていたはずです。上原ひろみさんの音楽は、看過されざるものなのです。なぜか?
***
――2016年の全米チャート1位獲得をはじめ、世界中が上原さんに注目している状況を、ご自身ではどう感じていらっしゃいますか?
上原 デビューした頃に比べると、自分のライブを見に来てくださるお客さまがすごく増えました。そういう意味では、何か信じられないような、でも現実だなと思っています。
――今回、ソロアルバムとしては10年ぶりのリリースとなりましたが、10年ぶりだった理由は何でしょうか?
上原 自分のピアノのまっさらな記録として最低でも10年に1枚はソロピアノアルバムを残したいと思っていたんです。そしたら10年がアッという間に経ってしまって、結局、本当に10年に1枚になってしまったんですけど(笑)。
――“まっさらな記録”とは、どういうことですか?
上原 ピアノの音が隅から隅まですべて聴こえるような。ピアニスト冥利に尽きるセッティングがソロだと思うので。自分の記録として残したい、ということです。
――今回のアルバム『Spectrum』というタイトルが、音楽なのに色彩の名前がついてますよね。聴覚で勝負するアイテムを視覚で例えていて面白いですね。
上原 “音”と“色”って、密接に関係してるっていう感覚を持ったのは、まだ小さかった頃です。当時のピアノの先生は、楽譜に色鉛筆で色を塗る方でした。激しく弾くところは赤で塗ったり、悲しげに弾くところは青で塗ったり。
わたしは、ピアノを弾き始めて34年になりますが、弾けば弾くほど、自分の音色がドンドン増えていくように感じます。自分のパレットにグラデーションが増えていく感覚です。青だったら、それが深い青だとか濃い青だとかになっていくような。
――いま自分でメモを取っていて気が付いたんですけど、「音色」って“色”って言いますね。改めて日本語に気づいてしまいました。
上原 そうなんです。オンショクと書いて、音色なんです。
上原 デビューした頃に比べると、自分のライブを見に来てくださるお客さまがすごく増えました。そういう意味では、何か信じられないような、でも現実だなと思っています。
――今回、ソロアルバムとしては10年ぶりのリリースとなりましたが、10年ぶりだった理由は何でしょうか?
上原 自分のピアノのまっさらな記録として最低でも10年に1枚はソロピアノアルバムを残したいと思っていたんです。そしたら10年がアッという間に経ってしまって、結局、本当に10年に1枚になってしまったんですけど(笑)。
――“まっさらな記録”とは、どういうことですか?
上原 ピアノの音が隅から隅まですべて聴こえるような。ピアニスト冥利に尽きるセッティングがソロだと思うので。自分の記録として残したい、ということです。
――今回のアルバム『Spectrum』というタイトルが、音楽なのに色彩の名前がついてますよね。聴覚で勝負するアイテムを視覚で例えていて面白いですね。
上原 “音”と“色”って、密接に関係してるっていう感覚を持ったのは、まだ小さかった頃です。当時のピアノの先生は、楽譜に色鉛筆で色を塗る方でした。激しく弾くところは赤で塗ったり、悲しげに弾くところは青で塗ったり。
わたしは、ピアノを弾き始めて34年になりますが、弾けば弾くほど、自分の音色がドンドン増えていくように感じます。自分のパレットにグラデーションが増えていく感覚です。青だったら、それが深い青だとか濃い青だとかになっていくような。
――いま自分でメモを取っていて気が付いたんですけど、「音色」って“色”って言いますね。改めて日本語に気づいてしまいました。
上原 そうなんです。オンショクと書いて、音色なんです。
――上原さんにとって音楽の楽しさ、ジャズの楽しさってどういうものなんでしょうか?
上原 単純にピアノという楽器が好きなんです。弾けば弾くほど発見もあります。そして即興演奏が好き。その時、感じたことを音にして紡いでいくのがとてもスリリングです。
――スリリング? それは即興の中で、何らかの発見があるからスリリングなのでしょうか?
上原 そうです。今日はどういう方向に行くかっていうのが、弾いてみないとわからないので、冒険みたいな感じです。
――上原さんがジャズに出合ったキッカケは、ピアノの先生のお宅でレコードをご覧になったことだったと伺いました。その後どういう風にしてジャズにのめり込んでいったんですか?
上原 ジャズ・ピアニストになろうと決めたことは一度もありませんし、今も特にそう思っていないです。ただ8歳のときにエロル・ガーナーとオスカー・ピーターソンを聴いて、「すごく自由な音楽で、すごく楽しいな」と感じました。それからいろんなジャズのレコードを聴くようになりました。
でも当時もジャズだけじゃなくて、いろんな音楽を聴きました。ただ自分が心を惹かれたのは、即興演奏の部分だったんだと思っています。
上原 単純にピアノという楽器が好きなんです。弾けば弾くほど発見もあります。そして即興演奏が好き。その時、感じたことを音にして紡いでいくのがとてもスリリングです。
――スリリング? それは即興の中で、何らかの発見があるからスリリングなのでしょうか?
上原 そうです。今日はどういう方向に行くかっていうのが、弾いてみないとわからないので、冒険みたいな感じです。
――上原さんがジャズに出合ったキッカケは、ピアノの先生のお宅でレコードをご覧になったことだったと伺いました。その後どういう風にしてジャズにのめり込んでいったんですか?
上原 ジャズ・ピアニストになろうと決めたことは一度もありませんし、今も特にそう思っていないです。ただ8歳のときにエロル・ガーナーとオスカー・ピーターソンを聴いて、「すごく自由な音楽で、すごく楽しいな」と感じました。それからいろんなジャズのレコードを聴くようになりました。
でも当時もジャズだけじゃなくて、いろんな音楽を聴きました。ただ自分が心を惹かれたのは、即興演奏の部分だったんだと思っています。
1.カレイドスコープ|2.ホワイトアウト|3.イエロー・ワーリッツァー・ブルース|4.スペクトラム|5.ブラックバード|6.ミスター・C.C.|7.ワンス・イン・ア・ブルー・ムーン|8.ラプソティ・イン・ヴァリアス・シェイズ・オブ・ブルー|9.セピア・エフェクト
MUSIC|上原ひろみ
即興とはすなわち“冒険”。世界的ジャズプレイヤー上原ひろみが誘う、音色という色彩世界(2)
――オウプナーズは音楽専門媒体ではないので、ジャズに対してちょっと敷居が高いかな? って思っている読者もいると思います。どういう風に接していくといいか、アドバイスがあったら教えてもらいたいです。
上原 即興演奏って難しそうというイメージがあるかもしれませんが、「即興」って常日頃から誰もがやっていることです。毎日生きている中で、どこで誰と会って何を話すか、そういうことはすべて即興だと思っています。
「今日はどんな話をしようか」「この人はどんな話をしてくれるんだろう」っていうことを音楽でやる、その会話を聴きに来ていただく、それがコンサートです。だから「今日はどんな話をしてくれるかな?」ぐらいの気持ちでかまいません。それが言葉ではなく音で行なわれるのが、ジャズにおける即興だと思っています。
――なるほど。それをさらに「ソロ」という演奏スタイルで置き換えると、どんな感じなんですか?
上原 自己との対話になります。自分で言葉を紡いでいくという感じです。
――上原さんの音楽は、掛け合いのなかでの自由さ、広がりを感じるんですが、今回、ソロでも同様の広がりを感じていて。上原さんは、今回のアルバムを通して、どんなことを伝えられたら良いかなと思っていらっしゃいますか?
上原 ピアノの魅力、可能性が伝わると嬉しいです。前回、10年前のソロアルバムで「ピアノをまた弾きたくなった」とリスナーの方が言ってくださったのがすごく嬉しかったので、今回もピアノとの触れ合いのキッカケになれたらすごく嬉しいです。
上原 即興演奏って難しそうというイメージがあるかもしれませんが、「即興」って常日頃から誰もがやっていることです。毎日生きている中で、どこで誰と会って何を話すか、そういうことはすべて即興だと思っています。
「今日はどんな話をしようか」「この人はどんな話をしてくれるんだろう」っていうことを音楽でやる、その会話を聴きに来ていただく、それがコンサートです。だから「今日はどんな話をしてくれるかな?」ぐらいの気持ちでかまいません。それが言葉ではなく音で行なわれるのが、ジャズにおける即興だと思っています。
――なるほど。それをさらに「ソロ」という演奏スタイルで置き換えると、どんな感じなんですか?
上原 自己との対話になります。自分で言葉を紡いでいくという感じです。
――上原さんの音楽は、掛け合いのなかでの自由さ、広がりを感じるんですが、今回、ソロでも同様の広がりを感じていて。上原さんは、今回のアルバムを通して、どんなことを伝えられたら良いかなと思っていらっしゃいますか?
上原 ピアノの魅力、可能性が伝わると嬉しいです。前回、10年前のソロアルバムで「ピアノをまた弾きたくなった」とリスナーの方が言ってくださったのがすごく嬉しかったので、今回もピアノとの触れ合いのキッカケになれたらすごく嬉しいです。
――上原さんはなぜピアノが好きなんですか?
上原 こんなに楽しい楽器はないです。やればやるほど、今の自分ができないことも見えてきて(笑)、それは不思議な話なんですけど、だから「もっともっと弾きたい」っていう気持ちを持たせてくれます。
――ツアーへの意気込みを教えてください。
上原 その日その場所で一生懸命生きるっていう。そこで弾くっていうことが生きるっていうことなんですけど。
その瞬間を捉えに行くという。毎日、同じことはもう絶対ないので、ひとつひとつを大事にしていくという感じですね。その積み重ねで何が生まれてくるのかを、私自身も楽しみにしています。
――オーディエンスと一緒に、空間を共有しつつ、音の冒険をするという感覚でしょうか? でも上原さんはピアノを毎日のように弾き続けてきて、まだ冒険の余地はあるんですか? もう探し切っちゃったんじゃないですか。
上原 いや、弾けば弾くほどきっかけがあり、ライブの数だけ冒険があるんです。それがあるから楽しいんですよ。
――即興中に、どんなことを考えているんですか?
上原 音に集中しています。この後どんな音を聴きたいかな? 弾きたいかな? と。どんな音が今、存在するべきかを探し当てていく感じです。
――確かにスリリングですね。でも見つからない時の怖さってないですか?
上原 怖さはないですが、何も出てこないときは寂しいです(笑)。
――コントロールできないものだからこそ、面白みがあるんでしょうね。ところで、レコーディングとライブって何が違いますか?
上原 基本的には違いはないです。レコーディングでも、そのスタジオにいる人たちに向けてライブをしているような気持ちで録っています。
ただしライブにはテイク2はありません。音を弾いた瞬間にそれは過去のものになって更新されて、ライブが終わるとすべてが過去になる刹那的要素が高いものです。一方で、アルバムは残っていくものなので、現時点での自己ベストを出して、残すものを作っているという感覚はあります。
上原 こんなに楽しい楽器はないです。やればやるほど、今の自分ができないことも見えてきて(笑)、それは不思議な話なんですけど、だから「もっともっと弾きたい」っていう気持ちを持たせてくれます。
――ツアーへの意気込みを教えてください。
上原 その日その場所で一生懸命生きるっていう。そこで弾くっていうことが生きるっていうことなんですけど。
その瞬間を捉えに行くという。毎日、同じことはもう絶対ないので、ひとつひとつを大事にしていくという感じですね。その積み重ねで何が生まれてくるのかを、私自身も楽しみにしています。
――オーディエンスと一緒に、空間を共有しつつ、音の冒険をするという感覚でしょうか? でも上原さんはピアノを毎日のように弾き続けてきて、まだ冒険の余地はあるんですか? もう探し切っちゃったんじゃないですか。
上原 いや、弾けば弾くほどきっかけがあり、ライブの数だけ冒険があるんです。それがあるから楽しいんですよ。
――即興中に、どんなことを考えているんですか?
上原 音に集中しています。この後どんな音を聴きたいかな? 弾きたいかな? と。どんな音が今、存在するべきかを探し当てていく感じです。
――確かにスリリングですね。でも見つからない時の怖さってないですか?
上原 怖さはないですが、何も出てこないときは寂しいです(笑)。
――コントロールできないものだからこそ、面白みがあるんでしょうね。ところで、レコーディングとライブって何が違いますか?
上原 基本的には違いはないです。レコーディングでも、そのスタジオにいる人たちに向けてライブをしているような気持ちで録っています。
ただしライブにはテイク2はありません。音を弾いた瞬間にそれは過去のものになって更新されて、ライブが終わるとすべてが過去になる刹那的要素が高いものです。一方で、アルバムは残っていくものなので、現時点での自己ベストを出して、残すものを作っているという感覚はあります。
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上原ひろみさんは、とても真摯な人だった。自分と向き合うことに正直で、照れたり悪びれたりせずに、音楽を楽しんでいる人だった。エッセンシャルな人だった。他人の意見に乗らず、自分を持っている人。きっとそれが答えなんだと思います。自分であり続けるからこそ、得られる自由。他人に依存しない価値観。自由とは、自分で得るものであり、他人から与えられるものではないのです。
2016年、上原ひろみザ・トリオ・プロジェクト名義の『SPARK』が全米ジャズチャートで1位を記録。2017年にはハーブ奏者エドマール・カスタネーダとのカナダ・モントリオール国際ジャズフェスティバルでの熱狂のライブを収めた『ライヴ・イン・モントリオール』をリリース、さらには英国BBC主催のイベント「BBC Proms」での演奏が絶賛を浴びるなど、世界規模での活躍を続けてきた上原ひろみさん。ご本人はジャズに限定しないって言っていましたが、ワタクシ、ジャズマンのかっこいいところって、その生き様だと思うんですよね。そして生き様は音に現れる。上原さんの音色は、ワタクシには“自由の象徴”のように聴こえています。
新譜『Spectrum』は“自由”が枯渇気味な現代人の処方箋として、とってもオススメです。さらに上原ひろみさんは、現在、海外ツアーの真っ最中。それが終わるとJAPAN TOUR 2019がスタートします。詳しくは、こちらへ(http://www.hiromiuehara.com/s/y01/page/live?ima=0928)。
2016年、上原ひろみザ・トリオ・プロジェクト名義の『SPARK』が全米ジャズチャートで1位を記録。2017年にはハーブ奏者エドマール・カスタネーダとのカナダ・モントリオール国際ジャズフェスティバルでの熱狂のライブを収めた『ライヴ・イン・モントリオール』をリリース、さらには英国BBC主催のイベント「BBC Proms」での演奏が絶賛を浴びるなど、世界規模での活躍を続けてきた上原ひろみさん。ご本人はジャズに限定しないって言っていましたが、ワタクシ、ジャズマンのかっこいいところって、その生き様だと思うんですよね。そして生き様は音に現れる。上原さんの音色は、ワタクシには“自由の象徴”のように聴こえています。
新譜『Spectrum』は“自由”が枯渇気味な現代人の処方箋として、とってもオススメです。さらに上原ひろみさんは、現在、海外ツアーの真っ最中。それが終わるとJAPAN TOUR 2019がスタートします。詳しくは、こちらへ(http://www.hiromiuehara.com/s/y01/page/live?ima=0928)。
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ユニバーサル クラシックス&ジャズ
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