ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団の東京公演第2弾イベントレポート|MUSIC
LOUNGE / MUSIC
2017年4月14日

ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団の東京公演第2弾イベントレポート|MUSIC

MUSIC|ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団コラボ公演第2弾

エレクトロとクラシックが織りなす音楽の宇宙とは

2017年2月25日(土)、渋谷のBunkamuraオーチャードホールにて、「爆クラ!presents ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団×アンドレア・バッティストーニ クラシック体感系II-宇宙と時間編-」が開催された。このイベントは、昨年3月に同プロデューサーによって開催され、多くの反響を呼んだ「クラシック体感系-時間、音響、そして、宇宙を踊れ!-」の第2弾として、ジェフ・ミルズの最新作『Planets』のリリースを機に日本に再上陸したエレクトロニック・ミュージックとクラシックの異色なコラボレーションプロジェクトである。今回も前売りチケットは完売し、当日券の販売はゼロ。世界的なエレクトロニック・アーティストが新たに発表する史上最大の野心作をライブ体験しようと、約2000人が会場に集まった。

Text by ASAKURA Nao

前半目玉は100台のメトロノーム演奏、「The Bells」はタブラ奏者U-zhaan氏がゲストで参加

第一部の演目は「Short Ride in a Fast Machine / ジョン・アダムス 」、「月の光 / ドビュッシー」、「ポエム・サンフォニック(100 台のメトロノームのための / リゲティ) 、「BUGAKU(舞楽)より第二部 / 黛敏郎 」、そしてジェフ・ミルズの大ヒット・アンセム「The Bells」。「爆クラ!」のプロデューサーであり、本イベントの発起者である湯山玲子氏が前回と同様MCとして登場。存在感抜群の佇まいでユーモアを交えながら、クラシック初心者にもわかりやすく解説をしてくれる彼女は宇宙飛行のナビゲーターである。

今回、ジェフ・ミルズと東京フィルハーモニー交響楽団の共演に、次世代のクラシックを牽引していくと期待される若干29歳の指揮者、アンドレア・バッティストーニが参戦。切れのあるエネルギッシュな動きで、経験豊富なオーケストラ陣たちを堂々と導いていく。

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©正木万博

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©正木万博

ミニマルなアプローチがエレクトロニック・ミュージックにも通じる「Short Ride in a Fast Machine」でダイナミックに幕開け、印象派ならではの浮遊感あるピアノ曲「月の光」オーケストラ編曲版により、フワフワと羽毛布団に包まれたような心地良さに浸り、続いて爆クラ!presentsのお楽しみ、問題作実演コーナー(前回は「ジョン・ケージ「4分33秒」で、無音の演奏というスリリングな時間体験をした)は「ポエム・サンフォニック(100 台のメトロノームのための)」。バッティストーニ氏が持つメトロノームをはじめ、奏者たちの足元にそれぞれメトロノームが置かれ、それら100台の「カチカチ」という響きのみで演奏をする。

湯山氏はその音を雨の音や人の心臓の音に例えていたが、だんだんと止まっていくカチカチ音に、緊張とリラックス感が混ざり合った不思議な空気が会場に立ち籠めていた。日本の独特な伝統的音楽の響きがオーケストラの奏でる音のうねりで見事に表現された「BUGAKU(舞楽)より第二部」を終えて、前半のラスト曲、ファンお待ちかねの「The Bells」。これには、タブラ奏者のU-zhaan氏がゲストで参加。

バランスの統一が難しい電子音とオーケストラのリズムに、民族楽器タブラのタカタカという生音を見事に融合させ、異色の3ジャンルの音世界を体感させてくれた。

『Planets』日本初公演、客席に奏者を配置し、サラウンドサウンドを生演奏で表現するという演出も

休憩をはさみ、いよいよ本イベントのメイン演目である『Planets』が始まる。ジェフ・ミルズが初めてオーケストラと演奏するために書き下ろした本作の、日本初公演の瞬間に、会場内が緊張感と期待でいっぱいになる。

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©正木万博

『Planets』は、太陽系の惑星「水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星」を科学的データにもとづいて制作した9つの曲と、惑星と惑星の間の闇=9つの「ループトランジット」から成る壮大な交響組曲である。曲間そのものが一つの曲(ループトランジット)であり、約60分通し演奏となる。

公演では曲の移り変わりを表現するために照明に趣向がこらされていた。惑星から惑星へ移動する度に、その惑星を特徴付けるカラーやライティングのパ

フォーマンスが展開され、視覚的な要素も加わってこの宇宙旅行をよりリアルに、よりファンタスティックに演出してくれた。

「Introduction」による壮大な幕開け後は、オーケストラの各パートとジェフ・ミルズによる電子音が主客を逆転したり、互いに絡まり合いながら各惑星を表現していく。中盤のクライマックスは「Jupiter」。生楽器が一斉にダイナミックな旋律を奏で、オーケストラの魅力が存分に発揮された。

第二部で、おそらく会場のほとんどの人が経験したことのないオーケストラの演出を体験したのは「Saturn」だろう。この曲では土星の環を表現するために、客席にトランペットとホルンを4組配置し、Blu-rayでは5.1chで表現されたサラウンドサウンドを生演奏で表現するというスペシャルな演出が行われた。また、ひと組のフルートとバスクラリネットを2階席に配置し、土星の衛星であるタイタンを表現するという演出もあり、生音に包み込まれるような感覚に、観客が皆思わず酔いしれた。

「Uranus」以降は演奏のタイミングを絶妙にずらすことにより、ディレイのような音響効果を生演奏で実現したりと、ミニマルかつ電子音楽的なアプローチの楽曲が続き、ミステリアスな曲調になっていく。CD音源を聴いた際には電子音であろうと思われた部分が、実は楽器による生演奏であったなど、実際の演奏を見て驚かされる部分が後半には端々に見られた。電子音とオーケストラのサウンドの境目がわからなくなるように追求したと発言していたが、そういった意味では見事に成功していたと言えるのではないだろうか。

Page02. 瞑想状態により、宇宙と時間軸の旅をする

MUSIC|ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団コラボ公演第2弾

エレクトロとクラシックが織りなす音楽の宇宙とは(2)

瞑想状態により、宇宙と時間軸の旅をする

そもそも、惑星を科学的な事実にもとづいて表現するというのはどういうことか、完成度の高いオーケストラの演奏を聴いているだけで読み解くのは難しい。具体的には、「地球、火星、冥王星のように、水がある惑星には、似たリズムをつけて水の要素を表現した。また、岩やガスが特徴的な惑星は、全体のサウンドの質感で表現していった。

自転速度は楽曲のテンポで、惑星の直径は曲の長さで表現し、太陽からの距離と惑星に当たる光の量で全体の曲調を決めていった。それによって、アレンジメントを構造的なものから、実験的なものにしていきました。」とジェフ・ミルズは解説しているのだが、なるほど、そういった制作の工程を念頭に置いて鑑賞に臨めば、また違った解釈ができるのかもしれない。

しかし、本格的なオーケストラの演奏に身を委ね、余計なことを考えずにただただライブ版『Planets』に聴き入っていると、一種の瞑想状態に陥っていく。目の前の映像だけに集中し、音像を感じ、意識が演奏の宇宙に溶け込んでくると、瞑想状態が深まり、「Uranus」まではあっという間に時間が過ぎていった。

「Neputune」を抜けたあたりでなんだか気分がスッキリしていて、「Pluto」では神秘的な気持ちにさえなった。自身のいる地球から最も遠い惑星に来たのだから、当然の感覚かもしれない。頭で「この部分はこの惑星の構造や質感が表現されているんだな」ということに気づかなかったとしても、体感として、『Planets』で宇宙旅行の擬似体験ができたようだ。

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©正木万博

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©Nestor Leivas

本イベントのサブタイトルに「宇宙と時間編」とあるが、まさに日常に過ごす「時間」とは全く異なる次元の「時間」体験ができたと思う。
「『Planets』は手が届かないと思っている世界との心の距離を狭めたいという願いをこめて、宇宙を私たちが住む世界に近づけるために考え、つくった作品です。(ジェフ・ミルズ)」

そういう時間の捉え方、考え方があるのだと気づかせてくれたジェフ・ミルズの思惑や演出は、やはり超人的である。データ分析がもとにあるとしても、鋭いアーティストとしての感覚で創作されている本作を体験してみて、やはり「ジェフ・ミルズは宇宙人なのかもしれない。」と思わずにはいられない。

Jeff MILLS|ジェフ・ミルズ
1963年アメリカ、デトロイト市生まれ。現在のエレクトロニック・ミュージックの原点ともいえるジャンル“デトロイト・テクノ”のパイオニア的存在。Axis Records主宰。DJとして年間100回近く世界中のイベントに出演する。音楽のみならず近代アートとのコラボレーションも積極的に行い、2007年、フランス政府より日本の文化勲章にあたる芸術文化勲章Chevalier des Arts et des Lettresを授与される。2013年、日本科学未来館館のシンボル、地球ディスプレイ「Geo-Cosmos(ジオ・コスモス)」を取り囲む空間オーバルブリッジの音楽「インナーコスモス・サウンドトラック」を作曲。現在もその音楽が使用されている。2005年、モンペリエ交響楽団との共演をきかっけに開始したミルズとオーケストラの公演はこれまで全世界ですべてソールドアウト。エレクトロニック・ミュージック・シーンのパイオニアでありながら、クラシック音楽界に革新を起こす存在として世界中の注目を浴びている。
http://www.axisrecords.com/jp
http://www.umaa.net/who/Jeff_Mills.html

ジェフ・ミルズ & ポルト・カサダムジカ交響楽団 『Planets』
初回生産限定盤[Blu-ray+CD] ¥3,800(税抜) UMA-9090-9091
通常盤[CD2枚組] ¥2,800(税抜) UMA-1090-1091
http://www.umaa.net/what/planets.html

           
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