沖野修也インタビュー|5年ぶりソロアルバム『Destiny』を発表
LOUNGE / MUSIC
2015年5月27日

沖野修也インタビュー|5年ぶりソロアルバム『Destiny』を発表

沖野修也インタビュー

5年ぶりソロアルバム『Destiny』を発表(1)

国内外で精力的な活動をおこなっているDJ・音楽家の沖野修也氏が5年ぶりにソロアルバム『Destiny』を発表した。最新のクロスオーヴァー/ジャズ・サウンドをつくり上げるべく、10人のヴォーカリストと10人のプロデューサーとに、みずからの楽曲をメールで送り、作曲家としての立ち位置を確立させながら完成させた前作『United Legend』(2006年)から一変。今回は、1970年代に流行したジャズ・ミュージシャンによるディス・コサウンド「ブギー」をテーマにオリジナル曲とカバー曲を作り上げ、5人のボーカリストとの密なコミュニケーションのなかで作り上げた傑作だ。 あらゆる方面に対し鋭いアンテナを張るDJとしての彼が音楽家としてアルバムを作るとき、つねに時代がそこには映っている。今回、彼がどのような想いで本作を作り上げたのか、話を聞いた。

文=大野智己写真=吉澤健太

「いまの時代のクロスオーヴァーサウンドになりました」

──オリジナル・ソロ・アルバムとしては5年ぶりですが、ブギーをテーマにしたのは、どういうきっかけだったんですか?

『United Legend』には、数名のプロデューサーが80 年代的トラックを提供してくれていたんです。その後、翌2007年にSleep Walker(中村雅人を中心とするジャズ・バンド)によるリミックスアルバムを出したんですけど、それは完全にジャズだったので、つぎはその両者を組み合わせてブギーで一枚作りたいって思ったのがきっかけですね。

──2007年っていうとクラブ・シーンで「ディスコ」が注目されたころですね。

リンドストロームなどの北欧のディスコ・ダブや、ディミトリ・フロム・パリがやるようなディスコのリエディットが流行ったりね。ブギーって言ってみれば、70年代にあったジャズミュージシャンによるディスコですから。僕も当時の空気を肌で感じたんでしょうね。でも作るうえでブギーを当時のままにやるのではなく、いまの時代の音でやりたいと思って、ループやサンプリングを使ったり、歌 をエフェクト処理したり、当時にはない手法をどんどん使いました。決して懐古するつもりはないし。その結果として今の時代のクロスオーバー・サウンドになったんじゃないでしょうか。

──5人のヴォーカリストがいて、各自が当時のブギーのカバーとオリジナルを歌うというフォーマットですね。

制作するにあたって、自分のモチベーションをあげるためここ20年くらいのジャズ~クロスオーバーの名盤を聴き込んでみたんですよ。United Future OrganizationのファーストやMasters at Workの『ニューヨリカン・ソウル』とかね。そこで思ったのは、名盤と呼ばれる作品にはカバーが多いなってこと。『ニューヨリカン・ソウル』なんて半分程がそうですし。優れたオリジナル曲を提供しつつも、一方でカバーをやってDJのセンスを活かすべきなんだなと。じつを言うと僕はカバーって否定的だったんです。『United Legend』もKyoto Jazz Massiveとしての作品も一曲を除いてカバーはないんです。

──カバーに否定的だった理由は?

やっぱり「DJは曲を作れない」て思われるのが癪だった(笑)。あとカバーって、DJはみんなやるでしょ、だから安易な気がしてね。ただ色々やってきた今だからこそカバーをやるのもおもしろいかなと。もちろん、ただ普通にやるのではなく新しいカバーの形として、一人のヴォーカリストにオリジナルとカバーを歌わせようと思いついたんです。

──そうするとある意味、オリジナルとカバーの比較をすることにもなりますよね。

そうなんです。僕の曲より、昔の曲のカバーのほうがいいって思う人もいるだろうし。音楽家としてはかなりリスキーな企画なんだってあとで気づきました(笑)。

──それくらい自分のオリジナルに自信がある、と?

いやいや(笑)。でも、過去の名曲と勝負する気持ちがないと音楽なんて、いま作れないですよ。だってこれだけ旧譜がデジタルでアーカイブ化されて、新譜が出なくても誰も困らないでしょ。今って聴いたことのない音楽を聴くのが音楽との出会いで、決して新譜のフォローじゃないですから。僕たちは旧譜に負けない曲を作らないとダメなんですよ。

──カバーの選曲に関してはブギーということ以外に決めていたことはあったんですか?

今回はヴォーカリストありきで、それぞれに合った曲を選びました。ヴォーカリストに関しては前作に参加してもらったひとや友人などですね。気心知れた人とじっくりやってみたかったんで。ネットでやりとりしつつ、一緒にレコーディングもしたり。

──前作は、ネット上でのデータのやり取りがメインだったので、それとは異なりますね。

僕自身、過去にSleep Walkerのような、生バンドのレコーディングに何度も立ち会ってきたんです。なのでその反動もあって、『United Legend』では、敢えてネットだけという考えがあったんだけど、今回はそうではなかったですね。

──一緒にやることが重要だったと。

たとえばブランニュー・ヘヴィーズのボーカルのエンディア(・ダベンポート)とは20年来の付き合いなんですが、実は一緒に共演したことがなかったんです。で、今回1カ月くらい僕の自宅に泊まって、いろんな話をして、東京でのレコーディングにも立ち会って、ああでもないこうでもないって、細かくディレクションもしながらやって。24時間一緒にいるもんだから、話をしたことが歌詞にも反映されたりとかね。

沖野修也インタビュー

5年ぶりソロアルバム『Destiny』を発表(2)

「音を全部排除することで、器に滴り落ちてくるのが作曲」

──かなり濃いコミュニケーションですね。

はい。まぁ、そこまではないけど、他の人にしても、ただデータを送ってもらうだけだと、「そこのニュアンスちがうねん」って言っても、伝わらないでしょ。だから今回はフェイス・トゥ・フェイスでやるレコーディングの醍醐味を改めて感じましたね。メールでデータをやりとりするのは簡単だけど、顔をつきあわせたほうがいいなって。

──なるほど。

もちろん、全部が全部、エンディアみたいにはできないからデータも使うんだけど、コンセプトと注意事項を相手にメールで送って、ただ送り返してもらうだけじゃないというかね。たとえばクララ・ヒルは、メロディを変えていいかなんて聞いてきて、結局、原曲のとおり歌ってきたんだけど、それでもヴォーカルだけじゃなく、あらたにスキャットを入れてくれたりね。

──お互いアイデアを持ち寄る、やりとりのなかで曲づくりをしていったと。

『United Legend』はコミュニケーションが薄いぶん、意外性のあるやり取りがあったけど、今回は確認しながらだから確実にどういうものが仕上がるか読める。どっちがいい悪いとかじゃなくてベクトルがちがうというか。音楽家同士の気持ちの繋がりとか、音楽に対する愛情が抽出された作品になりましたね。

──今回はROOT SOULの池田憲一さんがプロデュースをされてますけど、それも前作になかった試みですね。

彼は、KYOTO JAZZ MASSIVEのライブのバンマスなんで、今回のコンセプトもわかってくれてる。で、僕自身、ずっとプロデュースをする立場だったんで、今回は逆にプロデュースされてみようかなと。思いつきですけど、新鮮でしたね。

──普段、言われ慣れないことを言われたり……。

「Give Your Love a Chance」って曲のカバーをクララ・ヒルと僕のデュエットでやるってアイデアがあったんですよ。彼女の歌を先にもらって、東京で僕のヴォーカルを録ったんですけど、いざミックスのだんになって池田から「二人の声が合わないので、沖野さんのヴォーカルはなしでいいですか」って…(苦笑)。

──ばっさりですね(笑)。沖野さんのヴォーカリスト・デビューはひとまずお預け、と。

うん。でも、人にプロデュースされる気分が少しわかりましたよ。ヴォーカルの件は残念でしたけど(笑)。

──沖野さん自身、DJと作曲家のちがいってどんなところにあるんですか?

曲を選ぶときは、情報を全部をチェックしないと曲を探せないんです。とにかくいろんな音を集めて、ダウンロードして、レコードを実際にかけて、それこそ事務所のスタッフが趣味で聴いてるの聞いて「それ何?」みたいな事もある。でもその一方で、作曲するときは自分のなかを空っぽにしないとできない。音を全部排除することで、器に滴り落ちてくるのが作曲というか。

──2つをやることで、互いにいいものが仕上がるという相関関係はあるんですかね。

ありますね。お宝探しで、自分のキャパを満タンな状態をいつも作ることじゃなくて、作曲することで一度、空の状態をつくる。そこを往復することで、つねにフレッシュな精神状態でいられる。どちらか一方だけだったら自分自身、どこかでパンクしてるかもしれませんね。

──カバーを「解禁」したことで、ある意味、今回の作品は、DJである面と作曲家としての両面が出たアルバムとなったわけですが、バランスはどのように取ってましたか?

最初は自分のオリジナルでカバー曲に勝負したいって気持ちがあったんで、気持ち的には作曲家よりだったと思うんですけど、次第に、自分が選んだカバーでもオリジナルのアレンジを超えたいとも思えてきたんですよ(笑)。だからカバー・ヴァージョンも他人の曲じゃなく、自分の曲に思えてきた。

──ある意味、カバーもオリジナルである、と。

そうそう。原曲を意識しつつも、いかにそこから離れるかが大事ですからね。原曲がフォー・ビートならドラムを変えるとか、ベース・ラインをサンプルするとか。一方で、オリジナルにしても、アレンジを考える上でDJ的な視点はやっぱりあるわけですからね。そう考えると、過去のどんな作品よりも自分の両面がバランスよく発揮できてて、最も自分らしい作品になった気がしますね。

──最後にこのアルバムの「Destiny」というタイトルははどのような想いからつけられたのですか?

もともとはエンディアとの会話からなんですよ。20年も友人なのにいままで一度も一緒にやらなかったのは不思議だけど、言い換えれば20年越しに曲を作ってるってことでもあるわけで。そこまでいくとある意味、運命と言っていいんじゃないかなんで話をしてたんですよね。で、しばらくして彼女がこの「Destiny」をオリジナル曲のタイトルにつけてきたんです。僕はそれってアルバムのタイトルでもいいんじゃないかなって思った訳です。っていうのは、エンディアもふくめ、今回一人一人とじっくり曲を作り上げるなかで、みんなとは出会うべくして出会ったんじゃないかって思えてきてんです。それもまた「Destiny」~「運命」だろうと。

──なるほど。

あと、アルバムの制作が終わったあとに、3.11の震災があって、一瞬、不謹慎かなって思ったんです。被災した人に運命を受け入れろみたいな意味に聞こてしまうのではないかと。でも今回、エンディアの詞に、「Runnning
towards your Desitiny」(運命に向かって走れ)ってフレーズがあったんです。日本人とちがい、欧米人って運命は自分で切り開くもの、チャンスは掴むものって考えてるから。そういう前向きな意味でも「Destiny」っていいタイトルなんじゃないかなって。もちろん、自分自身も音楽家として、これからも新しいものを作り、もっともっと運命を切り開きたいなって思ってますね。

DESTINY
レーベル|Village Again

沖野修也|OKINO Shuya
DJ/クリエイティヴ・ディレクター/執筆家/選曲評論家/The Roomプロデューサー/Tokyo Crossover/Jazz Festival発起人。Kyoto Jazz Massive名義でリリースした「ECLIPSE」は英国のBBCラジオZUBBチャートで3週連続No.1の座を獲得。アルバム「Spirit Of The Sun」(COMPOST RECORDS)で全世界デビュー。この5年で世界30カ国120都市に招聘されただけでなく、CNNやBILLBOARDなどでも取り上げられる。3冊目の書籍『フィルター思考で解を導く』(フォレスト出版)も好評発売中。

http://ameblo.jp/shuya-okino

Kyoto Jazz Massive
http://www.kyotojazzmassive.com/

           
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