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2021年12月22日
女性起業家指数で世界1位を獲得した、イスラエルの女性支援システム|INTERVIEW
INTERVIEW|「日本人が知らないイスラエル」#3
広告代理店SIVANS代表取締役社長 中村シバン氏
「スタートアップ・ネーション」。すでにAIをはじめとしたデジタル産業に関わる者にとって、イスラエルは世界でもっとも進んだデジタルテクノロジーが生まれる場所だ。他方、我々日本人をにわかに驚かせたのはあのコロナ禍において、世界最速で国民の7割以上にワクチン接種を完了させた驚愕の事実だ。
それでもなお、アメリカやフランスその他ヨーロッパの国々を差し置いて、世界幸福度報告で世界12位を獲得している(ちなみに日本は58位)ことはあまり知られていないだろう。
そんなアクティブで高い幸福度を誇るイスラエルをインタビューで紐解く第3回目は、日本で広告代理店SivanS(株)を起業、代表取締役を務め、イスラエルに特化した日本初&唯一のウェブマガジン「ISRAERU」を運営する中村シバンさん。
それでもなお、アメリカやフランスその他ヨーロッパの国々を差し置いて、世界幸福度報告で世界12位を獲得している(ちなみに日本は58位)ことはあまり知られていないだろう。
そんなアクティブで高い幸福度を誇るイスラエルをインタビューで紐解く第3回目は、日本で広告代理店SivanS(株)を起業、代表取締役を務め、イスラエルに特化した日本初&唯一のウェブマガジン「ISRAERU」を運営する中村シバンさん。
Interview by MAEDA Yoichiro|Text by MAEDA Yoichiro|Photograph by TAKAYANAGI Ken
中村シバンさんはイスラエル出身。両親の教育方針により、すでに15歳の頃には教育以外の自分の身の回りのことは自分で解決できるように、学校に行きながら飲食店で働いていたそうだ。溢れるバイタリティで世界を旅した先に日本に移り住んで20年、キャリアと家庭を両立しながら、今では東京南青山にオフィスを構え、忙しい毎日を送っている。そんなシバンさんにとって、まずはイスラエルの女性像を伺った。
「イスラエルの女性はとにかくよく働きますよ。例えば日本ではイスラエルと比べて早めに産前休暇に入ることがよくありますが、イスラエルの女性は出産直前まで仕事に関わろうとします。私も15年前に出産を経験しましたが、会社を立ち上げる前ではあったものの、大きなお腹で動き回っていました。周りからヒヤヒヤされたかもしれませんが。当時と比較すると、現在は女性支援の動きが活発になっており、キャリアと家庭を両立させている人が増えていると感じます。幼い頃から女性支援を教育に取り組み、継続的に学ぶことで、今後活躍する女性がもっと増えていくと信じています」。
イスラエルのスタートアップ企業のマネジメント部門の大半は男性であるという調査がある一方で、マスターカードによる「2020女性起業家指数」では58カ国で1位となっている。これは政府が起業に関わる助成金制度で女性を優遇していること、政府主導による起業に関する座学やネットワーク作りの仲介など、手厚い支援があることが大きく作用している。ちなみに日本が同指数で47位であることを踏まえると、女性にとってもやはりイスラエルは起業しやすい国であるようだ。
フツパの精神が支える楽観主義と“やってみる”姿勢
「私自身はイスラエルで起業したわけではありませんが、15歳の時から飲食店でアルバイトをしていました。経済的に自立するために何をすべきか、どうやって稼ぐかという意識を持ち始めたのもこの頃からでした。徴兵制があることも大きく影響しているかもしれません。18歳で義務教育を終えると男性は3年、女性も2年間の兵役を経験します。18歳の少年少女が強く”世界”を意識するようになることは大きいと思います。世界の中でのイスラエル、世界の中での自分を考えるようになります。」
さらに、これは性別に関係なくイスラエル人特有の「フツパの精神」が寄与しているという。
「自身も起業家であり”起業家精神のルーツ CHUTZPAH イスラエル流"やり抜く力"の源を探る”の著者でもあるインバル・アリエリさんの本にもあるように、Chutzpah(フツパ)とは、失敗を怖れず、逆境に屈せず、とにかくやってみるという、とても楽観的で強い心のことです。これはイスラエル人に共通する考え方で、だから社会全体が”とりあえずやってみる”という姿勢に寛容です。もちろん失敗することにも寛容ですから、誰もが当たり前のようにチャレンジする心を自然と持つようになるのでしょうね。私はこうして日本で起業することになるわけですが、それでも常にフツパの精神を強く持っていることに変わりはありません」
多様な価値観こそ価値。 に込めた思い
兵役を終えて21歳の時に世界を見てみたいと旅に出る。数カ国を経て長年の夢であったオーストラリアへ。このオーストラリアへの旅で現在の旦那様と出会い、日本で生活することに。とはいえ、仕事といえばまだ学生の頃の給仕のアルバイトと兵役しか経験のないシバンさんにとって、日本で仕事に就くのは容易ではなかったそうだ。それでも不屈の姿勢で臨んだ出版社での面接に合格してからは懸命に働いた。
「半年後には誰よりもいい成績を残せるまでになっていました。それはイスラエルでの教育を自分なりに発展させることで、他とは違う精神、アプローチ、考え方があったからです。現在も一貫してこの思いを持ち続けています。」
以降様々な職種を経験しながら起業への思いは大きくなる。「大胆な精神」を形にし、日本市場における革新的なプレイヤーとして、新たな価値を与える会社を作りたいというのが今も変わらぬSivanSの理念だ。
「壁に書いた<Different Passion、Different Energy >は私の直筆なんですよ!これが私であり、SivanSなんです。世界を見て気づいたのは自分の当たり前が当たり前ではないこと。日本の18歳はイスラエルの18歳とは違うということでした。イスラエルはそもそも移民による国家です。いろんな価値観が入り混じる中で、子供の頃から自然と自分の価値観を確立していきます。その多様な価値観や意見を肯定しながら、「違う」ことを恐れることなく、女性も男性も活躍できる会社を作りたい。そしてクライアントに喜んでもらいたいのです」。
ウェブマガジンISRAERUで本当の祖国を伝えたい
自身が世界を見てきた経験から、逆に自身のアイデンティを強く意識するようになったというシバンさん。日本にもっとイスラエルの文化や自然、商品、サービス、そして人を紹介し、知ってもらいたいという思いが強くなる。
「長年広告やマーケティングの世界に関わっており、情熱を捧げています。そしてこの情熱を私のルーツであるイスラエルにも向けたいと思いました。そして、イスラエルのビジネス、テクノロジー、文化、ライフスタイル、フード、ファッションなどを日本にもっと紹介し、届けたいという思いで、それを伝えるハブとなるウェブマガジン「ISRAERU(イスラエル)」を立ち上げました」。
ISRAERUは2020年7月にサイトローンチ。シバンさんから編集責任者として運営を任されているのが濱田紗羅さんだ。
「私もイスラエルを訪れていますが、実際に訪れてみるとそれまでの固着したイメージとまるで違うことを体感します。例えば観光地。死海のことは知られていても、ヨーロッパのベスト10に選出されるような美しいビーチがあることはあまり日本では知られていませんよね。地中海気候のため、年を通して過ごしやすく、ワインにも注目が集まっていますし、(イスラエル大使館でも話題に上がったように)ガストロノミーでも注目されています。オリーブ商品や自然由来のコスメはすでに世界的にも有名となったサボンやラリンに続くブランドが誕生しています」。
イスラエルと日本のさらに強い協力関係の架け橋に
ファッションやアートの活動も盛んで、テレアビブではファッションウィークも開催される。ランバンの故アルベール・エルバスや歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリもイスラエル人であることを例にすれば、文化面でも世界に多大な影響を与えていることがわかる。
「イスラエルには200以上の美術館、博物館があり、シェンカーなど世界に影響を与えるエンジニア・デザイン・アートスクールなどそれぞれがアクティブに活動しています。ISRAERUではまだ知られていないイスラエルを紹介しながら、実際にこれから日本に進出したい企業や個人に、メディアソリューションを提供もしています。タイアップ記事、インタビュー、インタラクティブ動画、インフルエンサータイアップ、バナー広告、ソーシャルメディア運営、メールマガジン配信、Eコマース、ウェビナーやライブストリーミングイベントの企画制作などを介して、他にはないイスラエル企業の製品またはサービスを適切なパートナーと繋げています。テルアビブにもオフィスがあるので、現地の情報をタイムリーに収集できるほか、より円滑にイスラエルと日本の企業がビジネスパートナーとして取り組めるようサポートしています。またイスラエル在住の日本人ライターの方と協力しながら、日本人が興味を持つであろうトピックを検討し、日本人のまだ知らないイスラエルの魅力を発信しています」。
ISRAERUで担おうとしているのは個人や企業、国家機関までのあらゆるネットワークの構築ということだそうだ。
「イスラエルと日本にはすでにたくさんのBtoBはできあがっていますが、私たちはこのサイトを通してさらに新たなBtoBのきっかけとなり、BtoCの活発な関係を築きたく考えています。そのために、本国のスタートアップ企業やすでに世界的にも成功しているイスラエル企業とも常に連携するようにしています」。
イスラエルは訪れてみないとわからない国です
あらためてシバンさんにこれからの抱負を伺う。
「今やビジネスの分野では世界中から数多くの起業家や技術者、研究者たちが新しいテクノロジーの種を求めてイスラエルを訪れています。その様子は新聞やテレビを通じて日本の一般の方が描くイスラエルのイメージとは必ず違うと思います。それは女性の働き方や、ライフスタイルに関しても同様です。今後はイスラエルの“今”を「ISRAERU」で発信していきながら、ビジネスコミュニティとの接点を生かして、『Japan Israel Business Forum』のボードディレクターの一員として、日本におけるコミュニティ作りもしていきたいと考えています」
シバンさんの描く未来への構想は膨らむばかりだ。その姿勢が「違う」ことを恐れない精神の為せるものなのか、世界を旅して得られたセンスなのか、それともイスラエル人のもつエネルギーなのかは、やはりイスラエルに行ってみないと理解できないかもしれない。