変異と適応を繰り返しながら加速度的に進化する「これからのジャズ」シーンを牽引するのは…イスラエル|MUSIC
LOUNGE / MUSIC
2022年2月15日

変異と適応を繰り返しながら加速度的に進化する「これからのジャズ」シーンを牽引するのは…イスラエル|MUSIC

MUSIC|変異と適応を繰り返しながら加速度的に進化する「これからのジャズ」シーンを牽引するのは…イスラエル

魅了されるイスラエルのジャズシーン

今回の特集「OPEN TO ISRAEL」では、編集部の視点からさまざまな側面のイスラエルに注目してきました。なかでも音楽は、注視されるITテクノロジーの話とは相まって民族性を象徴するかのように豊かな感性が生きる・・・特にジャズシーンにおいては注目すべきプレイヤーが多く存在し、曲のアレンジや即興性など、おそらくイスラエルの時代背景とともに風土文化から生まれた感性なのでしょう。熱く、それでいてさりげない美しい旋律に我々は心を惹かれるのです。柴田廣次氏が魅了されるイスラエルのジャズシーンとは。

Text by SHIBATA Hirotsugu(Long Distance Love)

イスラエルジャズの特徴はずばり「エモーショナル&テクニカル」

洋楽を中心に年代やジャンル・カテゴリーにこだわり、レコードやCDを大量にコレクションしながら、ライヴ会場にも足繫く通って、好きな音楽(アーティスト)を追体験&投資を繰り返した自分の「No Music,No Life」が、この数年で大きく変化してきました。
時代の流れとともに膨大な音楽個人資産が不良債権化する中、SPOTIFY等の音楽配信フォーマットの出現によって、月1,000円程度の出資で4,000万曲もの未知の音楽に出会える時代が来るなんて驚くばかり。結果、今まで見向きもしなかったK-POPやクラシックに興味が湧き、アメリカンロック一筋で30年近くほぼ素通りしていた「ビートルズ」や「ローリングストーンズ」との遅すぎた出会いをがある等、大げさですが第二の音楽人生がスタートしたと言っても過言ではありません。
なかでも「ジャズ」という音楽の過激な進化(変異と適応)をリアルタイムで体験できることが何よりの喜びです。元々ジャズというジャンルには興味がありましたが、その歴史に比例した膨大なカタログ数や、アドリブとテーマ(リフ)を繰り返す退屈さ、スーパーのBGM的に変異した安っぽいフュージョン等にどうしても夢中になれなかったことも確か。
そんな自身の音楽生活(歴史)に飛び込んできた3人のアーティスト、「フランク・ザッパ」「オーネット・コールマン」「ジョニ・ミッチェル」…それぞれ「ロック/現代音楽」「フォークソング」「フリージャズ」という軸足(出自)は違えど、「雑食性」と「自由度」に溢れた3人の音楽の共通性は「変異と適応」を繰り返しながら、独自の音楽観を創造していること。そして彼らの音楽の存在が、自分の中の「ジャズ」という既成概念を徐々に破壊し、再構築してくれました。
さあ、ここから本題です。「変異と適応」を繰り返しながら進化するジャズの中心がアメリカであることは疑いありません。おおざっぱに言ってしまえば、その道の先達はマイルス・デイビスやハービー・ハンコックあたりですが、この10年くらいの加速的進化のリーダーはロバート・グラスパー周辺でしょうか。
特にヒップホップやエレクトロニクスと異種配合を繰り返しながら創られた新たなブラックカルチャーとしてのジャズは海を渡って、ヨーロッパ(最近ではイギリス・サウスロンドン周辺)にも波及して大きなムーヴメントになっています。
そこで一気に注目されるのが中東・イスラエルのジャズシーンです。イスラエルには「軍事・IT国家」「厳格なイスラム教徒」等謎めいた、(誤解含みの)多少物騒な印象がありますが、最近ではファッション、映画、コンテンポラリーダンス等で多様な才能の恵まれたクリエイターが活躍する国というイメージが出来始めました。
なかでも脚光を浴びているジャズシーンその存在を世界に広く知らしめ、自分自身が興味を持ち始めたキッカケでもあるのが、ジャズジャイアント、故チック・コリアと現代最高のジャズ(系)ドラマー、マーク・ジュリアナの2人の存在です。
これまでも才能ある次世代ミュージシャンを数多く輩出してきたチック・コリアのバンドに、突然現れた謎のベーシスト、アヴィシャイ・コーエン。アルバム「ORIGIN」(1997年)に抜擢された当時全く無名だった彼は、瞬く間にNYジャズシーンの話題を独占し、イスラエルとNYのジャズシーンを繋ぐ架け橋的な存在となりました(今では300人前後、NYジャズミュージシャンの30㌫近くがイスラエル人とも言われるほど)。そして彼が自身のトリオに迎えたのが、やはりイスラエルジャズのキーマン、シャイ・マエストロ(p)とNYジャズシーンから参加した、ビート・ミュージックの革命児、マーク・ジュリアナ(ds) 。このトリオによる「Gentry Disturbed」(2008年)がアヴィシャイ、そしてイスラエルジャズの実力を世界に示した金字塔的アルバムであると断言します。
イスラエルジャズの特徴は一言「エモーショナル&テクニカル」。地理的・文化的背景から中東音楽をベースにしながら北アフリカ(モロッコ系)、クレズマー(東ヨーロッパ発祥のユダヤ系音楽)とアメリカ・ヨーロッパの王道ジャズが複雑に絡み合ったハイブリッドミュージックです。
また歴史的にもクラシックを中心とした音楽教育が盛んであることで、高度な音楽的スキルに裏打ちされたライヴパフォーマンスが特徴的です。アヴィシャイとともにシーンを牽引するダニエル・ザミール(sax)の音楽はこれぞイスラエルジャズの要素が凝縮されています。哀愁漂う中東のメロディを高速&変拍子のリズムに乗せて(あのマーク・ジュリアナがここにも登場)ソプラノサックスを吹きまくる「ダニエル・ザミール「REDEMPTION SONGS」(2015年)は、アドリブとテーマを繰り返す退屈なジャズとは一線を画す「2020年代のグローバルミュージック」です。
他にも民族楽器「OUD(ウード)」の哀愁漂う音色と旋律を、超絶テクで操るダッファー・ユーゼフを、現時点でNY最強と言える4人のミュージシャン(やはりマーク・ジュリアナds、アーロン・パークスp、ベン・ウィリアムスb、アンブローズ・アキムシーレtp.)が完璧にサポートする「Diwan of beauty and odd」(アメリカの名門レーベル『OKeh』よりリリース) も極めて中毒性(純度)の高いイスラエルジャズです。
その奥深さ、可能性をさらに拡げて変異・適応する注目のイスラエルアーティストがギラッド・ヘクセルマンとオズ・ノイという2人のギタリストです。渡辺貞夫の日本国内ツアーにも参加していたギラッド(ちなみにベースはベン・ウィリアムス)はいわゆる普通の(退屈な)ジャズもさらりとこなすテクニシャンですが、ベースレストリオによる最新作「TRIO GRANDE」( 2020年) は、個人的にはパット・メセニーにも比肩する音楽性・創造性を備えたスーパーギタリストであることを証明していると思います(トリオのドラマーはメセニーの相棒、アントニオ・サンチェスというのも納得)。
一方オズ・ノイは中東のルーツを(表面的には)全く感じさせない、超絶テクニシャン。NYのファーストコールミュージシャンや、あのスティーヴ・ルカサー(TOTO)を従えてハイパーフュージョンを展開したと思えば、ブルースどっぷりのアルバム「TWISTED BLUES vol.1&2」を出して、その勢いでアメリカンロックのレジェンド、オールマン・ブラザーズ・バンドのライヴにゲスト出演してみたり、その変幻自在な活躍ぶりは、異端ではありますがイスラエルジャズシーンの底力を如実に表しているのではと思います。
さらにイスラエルジャズを拡大解釈(俯瞰)していくと、音楽プロデューサー「リジョイサー」の存在に目が離せません。例えばアメリカの鬼才プロデューサー、フライング・ロータスが自らのレーベル「ブレインフィーダー」で、ジャズ・HIP-HOP・クラブミュージック等を軽々と超えた音楽を創造しているように、リジョイサーも自身のレーベル「RAW TAPES」から、いわゆるジャズとソウル/R&Bのハイブリットミュージック(ネオソウル)バンド「BUTTERING TRIO」でイスラエルミュージックの「変異と適応」による「越境性」を大胆かつ緻密に表現しています。
ちなみにCORONA前の2018年頃に恵比寿の小さいクラブでリジョイサーがDJとしてイスラエルの映像クリエーターと組んでアンビエントな空間を作り上げていたトリップ感あふれるなライヴは衝撃的でした。
そして、最後に。イスラエル・テルアビヴ出身、モロッコ育ち、活動拠点がベルリン、J・ディラをリスペクトし、自らビートメーカーとなって、ライヴではトランペットを吹きながらキュートなヴォーカルを披露する越境感はなはだしい女性アーティスト「J・ラモッタ・すずめ」を紹介し忘れるところでした。
この数年でイスラエルジャズの新鋭達もたくさん来日し、日本でも人気大爆発寸前の矢先に世界がCORONA禍に見舞われ、「変異と適応を繰り返しながら、高速進化するイスラエルジャズ」の最前線を体験する時間が止まりました。
2022年こそはイスラエル現地に乗り込んで、待望の「RED SEA JAZZ FESTIVAL 2022」(毎年8月に開催されるが、公式㏋では2022年は11月との記載も)を体験したいと思います。もちろんテルアビヴの海を眺めながら極上のイスラエルワインも堪能したいと思います。
【追記】5000年以上の歴史があると言われるイスラエルワイン。四国くらいの面積に300以上のブティックワイナリーが存在する、まさに(隠れ)ワイン大国。日本では限られた種類しか手に入りませんが、個人的には 知人からいただいた「エメラルドリースリング」(ソーヴイニヨンブランとミュスカデの交配品種)が抜群の美味しさです。
柴田 廣次(しばた ひろつぐ)
Long Distance Love LLC./CEO。パルコ、三越伊勢丹ホールディングスを経て、現在は自社にて企業のブランディング(特にクリエイティブ・コンサルティング)や音楽・アートイベントのプロデュース他を幅広く手掛ける。ちなみに現社名は、アメリカのロックバンド「Little Feat」の隠れ名曲から。音楽と下町(B級)グルメをこよなく愛する、浅草在住30年超の自称「永遠の自由人」。
FB @longdistancelove
instagram @hirotsugushibata
                      
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