INTERVIEW|うじきつよし、小町渉が語る『ロックにはまだやれることがあるんじゃないのか』
INTERVIEW|子供ばんど『ロックにはまだやれることがあるんじゃないのか』発売記念
うじきつよし×小町渉、アーティスト対談(1)
圧倒的なライブパフォーマンスと高い演奏力で1980年代のロックシーンを席巻し、多くのミュージシャンに影響をあたえた、うじきつよし率いる「子供ばんど」。彼らは2011年から活動を再開させ、復帰後2枚目となるアルバム『ロックにはまだやれることがあるんじゃないのか』を5月5日(火・祝)に発売する。さらに今回は、迫力のコラージュ作品を武器にパリやロンドンなどで世界的な活動をおこなうアーティスト・小町渉が、ジャケットのアートワークで参加。ふたりの出会いからこのアルバムの制作秘話まで、話をうかがった。
Photographs by ASAKURA KeisukeText by TOMIYAMA Eizaburo
ファーストコンタクトは少年期、世田谷区祖師谷にて
――まずはおふたりの出会いから教えていただけますか?
うじきつよし(以下、うじき) もともとアートとかデザインとかは好きなんですけど、最近の人がよくわからなくてまわりのみんなに聞いたんですよ。そうしたらコマッチー(小町渉)を勧められて個展を観に行って。そのあとにお住まいの京都で話していたら、じつはお互い世田谷区の祖師谷で少年期を過ごしていたことがわかって。
小町渉(以下、小町) おそらく歩いて1分くらいの場所ですよね。
うじき 幼馴染がクリーニング屋だったんだけど、家からその店に行くあいだくらい。
小町 僕はそのクリーニング屋がビデオ屋になったとき、ちょっとバイトしていたことがあって(笑)。
うじき 年齢がちがうから学校が重なることはなかったけど、僕らはそのエリアが生んだ2大アーティストですよ!
小町 兄貴(バンド「あぶらだこ」のメンバー)の影響もあって、小さいころからバンドが好きだったから子供ばんどは知っていて。むかしから団地に行く途中に「子供ばんど」って描かれた機材車が置いてあったのが、ずっと不思議だったんですよ。
あと、中学生くらいのころかな、ヤマハが主催していた「EastWest」っていうバンドコンテストの受賞者が出るイベントに行ったことがあります。
うじき あったね、懐かしい。だから近しくなったのは1年半だけど、じつはそういうストーリーもあって、いつか何かをやりたいなと思っていたんですよ。それで、昨年12月に彼が大阪でやったインスタレーションを観に行って。そこにあった作品のひとつに「NO WAR , MAKE ART」と描かれていて。次のアルバムイメージを考えていたときだったから、こういうやり方があるんだって、言葉の強さが印象に残ったんです。そうか、単純にアートワークをコマッチーに頼めばいいんだって、そこで結びついたんですよ。
Page.2: 「言いたいことがあったら言うのがロックだし、アート」
INTERVIEW|子供ばんど『ロックにはまだやれることがあるんじゃないのか』発売記念
うじきつよし×小町渉、アーティスト対談(2)
「言いたいことがあったら言うのがロックだし、アート」
小町 今回、曲を聴かせてもらう前に、うじきさんから「タイトルが決まったよ」って連絡をいただいて。そのタイトルを聞いたとき、すぐにバーってイメージが広がって。
うじき タイトル『ロックにはまだやれることがあるんじゃないのか』は、メンバーのなかからもキツイんじゃないかって話があって。自分でも何パーセントかダサい感じもわかっているし、でも何パーセントかは本気っていう。でも、1970年代のフォークのような、大上段に構えて吠える感じでいきたかった。それはいま、こういうことを言う人があんまりいないから。
じゃあ「言いたいことはないのか?」っていうとそんなことはなくて。みんな発信の仕方を悩んでいるというか困っているというか、途方に暮れている。2015年のいま、相当ヤバイことになってるでしょ。
そんなとき、炭鉱のカナリアほど美しくなくても、せめて掃き溜めのカラスが叫ぶくらいのことはしないと。それを誰でも意味がわかるような言葉で表現したくて。
このタイトルの「ロック」の部分に「あなた」とか、なにか身近な言葉を当てはめたとき、きっと力が湧いてくるんじゃないかなって。
――言いたいことを言えない世の中の雰囲気は、なにが原因だと思いますか?
うじき 政府にあんなことを言わせる原因の100万分の1でも、どこか自分が片棒を担いでいるという罪の意識があるんじゃないかな。また、「それはちがう」と言おうとしたとき、周りに迷惑がかかるんじゃないかって心配したり。そこをブレイクスルーすることができずに、ちょっと前に行ったり後ろに下がったりしていると思う。僕は人を信じているし、みんな変えなきゃいけない気持ちがあると思う。そのきっかけをちょっとでももてればなって。そこで大上段に構えたタイトルをつけたんだけど。
小町 以前ライブを観せていただいたときに、「格好なんてつけている暇はないよ、この時代」って語っていて。
今回のタイトルもそこと直結しているというか、言いたいことがあったら言うのがロックだし、アート。このタイトルを聞いたときに「これしかない!」って思ったので、ちょっと過剰に作っちゃったんです。
うじき そうなんだ。今回コラージュで使ってもらったのは、すべてむかしの写真なんだよね。
小町 ファンが撮った写真から、カメラマンが撮った写真まで、貴重なものが段ボールで何箱も届いたんです。うじきさんは直接ハサミを入れていいと言ったんですけど、躊躇してしまいますよね。じつは、やりはじめたときは遠慮して、失敗のないようにやりながら1~2個作ったんですけど、やっぱりタイトルと合わなくて。
うじき へぇ~。
小町 グレイテストヒッツみたいになるのがイヤで、そこは難しかったですね。音を聴いても「いま」だったので、懐古主義じゃなくむかしの写真を集めて、リメイクみたいな感覚で「いま」を表現したかった。だから途中で躊躇するのをやめたんです。タイトルを聞いて心が動いて、躊躇しているのも逆に失礼かなって。
うじき 送った写真は楽器を置いている倉庫部屋に保管してあって。それを見たときに、俺が死んだらどうなるんだろうって思ったんだよね。いまいっしょにやっているのは、デビュー当時のオリジナルメンバーなんだけど、彼らとはブランクがあって。1980年代後半くらいのものばかりだし、死んでそのままゴミに出すのも申し訳ないし。タイトルもジジイが「ロックだ!」って吠えているわけだし、「いま」やることに意味がなかったらダメなんじゃねぇの? っていう。
それなら、若気の至りを引きずってやろうと。この積み重なったものを「いま」につなげるっていうか、懐古主義じゃない、でもあきらかにそこがあっての自分たちだから。コマッチーならそこをクールに表現してくれるだろうと思って。
INTERVIEW|子供ばんど『ロックにはまだやれることがあるんじゃないのか』発売記念
うじきつよし×小町渉、アーティスト対談(3)
「格好なんてつけている暇はない」
――オリジナルの写真を切ってもいいというお話は、今回のアルバムが一発録りだったことと似ている気がしました。
うじき いまのレコーディングは何度でもやり直せるし、ありとあらゆることができる。そこから素晴らしい音楽も生まれているけど、俺たちが「いま」やる必要があるの?って。スケベ根性でちょっとでも良くしたいって気持ちはあるけど、それをやったらキリがない。だから、コマッチーの作業とおなじく、もう一発録りでやりましょうと。ヘボいところがあっても、それが「いま」の俺たちなんだから。
小町 たしかに、写真をスキャンすれば失敗は少ないし汚くもならない。しかも、プリント写真はどれもサイズが小さいから見せ場が作りづらいんですよ。取り込んじゃえばフォトショップで大小もつけられる。じつは、躊躇しているときにそういうのも作ったんです。
うじき そうなの?
小町 でも、今回のタイトルやライブを観せてもらったときに、デジタルは絶対に合わないなって。子供ばんどをはじめてみたときにも感じた、カラっとしていて元気がよくて、なにしろ勢いがある感じ。それは汗をかいているからであって。そこを表現するなら、デジタルよりも失敗したような痕跡が残っているアナログのほうがおもしろいなって。
うじきさんが言われた、「格好なんてつけている暇はない」に通じるというか。感情をバーンと出すには、目の前のものをスキャンしている時間なんてない。バーンときてバンバンやっていく。だから、最終的に見てもらった3案はすべてアナログのものなんです。
うじき うちのドラムが酒瓶を持って真んなかにフィーチャーされていて、ここまであいつが目立つことはないからね(笑)。本人はじーっと見ていましたよ。うちのメンバーって、どんなものでも絶対に文句を言うんだけど、今回はみんなじーっと見ているだけ。つまり気に入ったんですよね、3案のなかからみんなおなじものを選んだし。
小町 何千枚という写真を見つづけてびっくりしたのは、昨年末に観たライブの表情と全然変わってないんですよ。それがすごいなって。たいてい、「枯れた」って言葉にかこつけて大人しくなるんですけど、子どものまま。それだけロックが好きなんだなって。
うじき まさか、この歳になってやれるとは思ってなかったけどね。でも、変わってないっていうのは「え~っ」て感じ(笑)。
小町 再始動して郷愁的な感じになるバンドは多いですけど、子供ばんどは攻めているんですよ。それこそがロックだと思うし。
うじき 今回のアルバムは密度が濃いものになった。多少の知恵と技術がむかしより備わっているせいか、完成までのスピードも含めて勢いもある。やっぱり吠えずにはいられないから、オシャレなものではないのかもしれない。でも、いまの4人が出せる音ですごくいいものができた。それをいっしょに聴いてもらえる人がいてくれればいいなって思うんだよね。
――最後に、5月5日の『子供ばんど ONE DAY ツアー』の内容を教えてください。
うじき 今回は、コマッチーとエキシビション展というカタチでセッションします。当日は、まず昼過ぎに渋谷タワーレコードでインストアライブをやって、お客さんにはそのあとにヒステリックグラマー 渋谷店でコマッチーの作品に触れてもらって、夜は下北沢でライブ。すべてをひとつのライブツアーとして楽しんでもらえたらと。僕らもみんながどう反応して、どんなバイブレーションになってライブになだれ込むのか楽しみなんですよね。
小町 アルバムに使わなかったコラージュ作品もけっこうあるので、エキシビション展では、そういうものも展示します。
うじき むかしのアンプを持って行こうかとか、雑誌のスクラップブックを置いて見られるようにしようとか、いろいろ考えています。
小町 これまで子供ばんどのファンではなかった人が観ても「おもしろい展示だったね」って言われるものにしたいですね。
『ロックにはまだやれることがあるんじゃないのか』
子供ばんど
全13曲収録予定
価格|3400円(LNZM-1094)
内容|CD+DVD
発売日|5月5日
Mastard Records
http://kodomoband.jp/
5月5日 子供ばんど ONE DAY ツアー
『ロックにはまだやれることがあるんじゃないのか
~5月5日は1日やれることがあるんじゃないのか~』
<ライブ>
日程|5月5日(火)
時間|オープン17:30 スタート18:00
会場|下北沢 GARDEN
東京都世田谷区北沢2丁目4−5
Tel. 03-3410-3431
http://gar-den.in/?p=3477
料金|5500円(ドリンク別)
<インストアライブ>
日程|5月5日(火)
時間|13:00~
場所|タワーレコード 渋谷店
東京都渋谷区 神南1−22−14
Tel. 03-3496-3661
http://towershibuya.jp/2015/05/05/35101
同店にてアルバムの予約・購入者を対象に先着で招待。握手会あり
<エキシビション展>
日程|5月4日(月)~5月6日(水)
時間|11:00~20:00
場所|ヒステリック グラマー 渋谷店内ギャラリースペース
東京都渋谷区神宮前6-23-2
Tel. 03-3409-7227
料金|無料
子供ばんど|KODOMO BAND
1973年、うじきつよしが高校時代に結成。現在のメンバーは、うじきつよし(Vo, Gt)、谷平こういち(Vo, Gt)、湯川トーベン(Vo, Ba)、山戸ゆう(Vo, Dr)。1979年、ヤマハ主催の『EastWest』に出場し、グランプリを受賞。1980年、キャニオンレコードからファーストアルバム『WE LOVE 子供ばんど』でデビュー。1983年、EPICソニーへ移籍し、リック・デリンジャーのプロデュースのもと、アルバム『HEART BREAK KIDS』をリリース。その後、アメリカ・ニューヨークを舞台に活動を展開。1988年、カナダ・バンクーバーでアルバム『KODOMO BAND ROCK』を制作し、ビクターレコードより発売。1988年10月10日、ライブ2000本を達成し、活動休止状態に。2011年、「永久凍土解凍」と銘打ち、再始動を宣言。
小町渉|KOMACHI Wataru
アーティスト。コラージュ作品が、米俳優/映画監督のデニス・ホッパーのコレクション作品となり、それを機に本格的なアーティスト活動を開始する。以降パリを中心にファッションブランド「クリストフ・ルメール」とのコラボレーション、セレクトショップ「コレット」、老舗デパート「ル・ボンマルシェ・リーブ・ゴーシュ」での展示に参加。米ミュージシャン「ベック」のヨーロッパツアーオフィシャルTシャツデザインなど、欧米で高い評価を得る。国内においても2008年、松屋銀座との全館を使用した大規模コラボレーションをおこなう。2009年、日本メンズファッション協会MFU 第6回『ベストデビュタント賞』受賞。2010年、「アルフレッドダンヒル」の『Dunhill Local Artist Collaboration』日本アーティストに選出される。2012年「コーチ」が主催するチャリティプロジェクトに参加。http://www.watarukomachi.com