Diary-T 157 「噛む」
Lounge
2015年5月8日

Diary-T 157 「噛む」

Diary-T

Diary-T 157 「噛む」

文・アートワーク=桑原茂一

Diary-T 157 「噛む」 01

デザイナーの草野剛と久しぶりにランチだった。

自分の四歳になる息子がいうことを聞かないので怒ったら噛みつかれたそうだ。

で、草野がすごいのは、

息子に噛みつかれて痛いと思った瞬間今度は自分が息子に噛みついたそうだ。

で当然痛いから四歳の息子も泣き出す。

そこからの記憶が曖昧だが、

”うゎ~ん、パパ、今、僕を、噛んだでしょう~”

”う、うんううん、噛んでないよ~パパが噛むわけないよ~”

で、そう息子に嘘をついた草野は、そのあと子どもの顔をまともに見られず、

遂に、嘘をついたことを四歳の息子にあやまったそうだ。

これまでも息子に嘘ついたらいけないと諭している自分が思わずついてしまった

「嘘」にさいなまれるという草野くんの心根話もなかなかいいのだが、

私は、思わず噛みつき返した草野の感性に愛を感じたな。

つまり、普通親は理性で子供に接しようとするのが当たり前だが、

草野のように、感情をむき出しにして子どもに接するのも、

本来動物でもある人間の性を考えればひとつの愛情表現かも知れない。

噛むと相手は痛いんだ。噛まれると自分も痛いんだ。

経験することで人間の感性や脳の成長が促されるとするなら、

噛んではいけないと言葉で諭すのとはちがう感性の誕生、

本能に直接訴えることでしか伝わらない野生の感性が生まれるのではないか?

もちろん、その加減が親のセンスということなのだが……

で、そんな想いを私はサンドイッチを頬ばりながら草野くんに話したら、

パツ~ン突然草野の独壇場どエロ話がはじまった。

”それって、セックスとおなじですよね。相手がしてほしいことをしてあげるのがいいんですよね。っていうか、されたら仕返しますもんね。”

そそうか、「仕返し」って、あんまり悪い言葉でもなかったのかもね。

”でブラジャーをたくし上げてるところに佐川かなんかが来て慌ててたくし上げたブラジャーのままシャツだけ下ろして玄関で用事を済ませたくし上げたブラジャーが透けて見えるシャツの佇まいがもう堪らないですよね~はははは……でも最近全然ですよ。あまりにもしてないんで、もうセックスの仕方すら忘れちゃいましたよはははは……”

思わず、私も”はははは、俺なんか最近歩き方を忘れてるもんね。”

“……年寄りと話すと意味が深いですよね~”

う~ん。

ま、そんなこんなで、

次号1210発行143号のdictionaryのいくつかのコンテンツをお願いすることになった。

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Diary-T 157 「噛む」 02

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