松浦俊夫|注目のシンガー・ソングライター ジェイムス・ブレイク来日インタビュー
松浦俊夫|from TOKYO MOON 11月6日 ON AIR
イギリス発、注目の若きシンガー・ソングライター
ジェイムス・ブレイク来日インタビュー(1)
日曜の夜、上質な音楽とともにゆったりと流れる自分だけの時間は、おとなたちの至福のとき。そんな豊かな時間をお届けするのは、DJ松浦俊夫によるラジオプログラム『TOKYO MOON』──。彼が世界中から選りすぐったすばらしい音楽や知的好奇心を刺激するおとなのためのトピックスを、毎週日曜日Inter FM 76.1MHzにて19時からオンエア。ここでは、毎週オンエアされたばかりのプログラムをお届けします。今週は、来日したイギリスのシンガー・ソングライター James Blake(ジェイムス・ブレイク)を迎え、先日発売されたニューアルバムを中心に、話を聞きました。
文=松浦俊夫
オンエアにはなかった完全対訳を紹介!
今回は、10月に初来日を果たしたクラブ&メジャーの両シーンから支持を得るイギリスの若きシンガー・ソングライター James Blake(ジェイムス・ブレイク)をゲストに迎え、作品のこと、これまで影響を受けた音楽など、いろいろと話を伺いました。OPENERSではラジオ放送時にはなかったインタビューの完全対訳を紹介します。じっくりとお楽しみください。
James Blake / Sama
Crosby,Stills & Nash / Same
Stevie Wonder / Talking Book
REVIEW|TRACK LIST
01. James Blake / Not Long Now (Universal)
02. James Blake / Tep And The Logic (Universal)
03. James Blake / Limit To Your Love (Universal)
04. James Blake / I'll Stay (R&S)
05. James Blake / A Case Of You (Universal)
06. James Blake / Pan (Hemlock)
07. Crosby, Stills & Nash / Long Time Gone (Atlantic)
08. Stevie Wonder / You And I(Tamla)
松浦俊夫|from TOKYO MOON 11月6日 ON AIR
イギリス発、注目の若きシンガー・ソングライター
ジェイムス・ブレイク来日インタビュー(2)
自分はダブステップの外側と内側の境目くらいにいる存在
──惜しくもマーキュリーアワード「マーキュリープライズ賞」受賞を逃し、残念でした。お気持ちは?
あまり驚きませんでした。自分よりもふさわしい相手が受賞して、うれしかったです。PJ Harvey(PJ ハーヴェィ)さん、おめでとうございます。
──音楽性について、ダブステップ、ポストダブステップと形容されることが多いかと思いますが、それについてご自身ではどう思われますか?
ダブステップ、ポストダブステップというジャンルは、自分の音楽の一定の要素を説明するには必要なキーワードかもしれません。でも自分ではダブステップ、ポストダブステップという表現はしていません。もし言っていたとしたら、それは自分の音楽の一部の要素を説明するために言っただけだと思います。最近、たとえばアメリカでは、“自分がダブステップのピュアリストだ”と、僕の発言がまちがった解釈をされてしまっているけど、まったく逆で、自分ではダブステップの外側と内側の境目くらいにいると思っています。
ポストダブステップにかんしては、これは不思議な呼び方だなと思うのですが、もともとダブステップをはじめていたアーティストたちは、そこからどんどん進化していっているわけで、あの時代にダブステップをやっていたひとたちはみんないまポストダブステップなんですよね。もしかしたら未だに140bpmの要素はあるかもしれないけど、それ以外のところもどんどん変化して進化しているわけで、自分にとってのポストダブステップといわれているようなところは、クラブに行って楽しむ、そこに限ると思っています。でもクラブに行っても、おなじ衝撃は受けないかな。最初のころのような衝撃を受けられるのは、やっぱり自分の信頼しているDJが作る空間なのかなと感じています。
作品はすべてその時の自分の心境を反映しているもの
──今回、日本版は特別に2月にイギリスでリリースされたものと、10月にあたらしく出たEPがコンビになってリリースされたわけですが、アルバムを作っていたころと、EP制作のあいだにはどのくらい時間差があったのでしょう? というのも、サウンドの方向性がまた少し進化したように感じていて、EPではジョニー・ミッチェルの1971年の『ブルー』というアルバムからのカバーがあったり、より歌を前面に出した、どちらかというとフォークのようなイメージをもちました。なにか心境の変化などあったのでしょうか?
アルバムでもEPでも、作品というのはすべて写真のように、その時の自分の心境を反映しているものなんです。アルバムを作っていたときは、まるで保育器に入っているような感じで、誰からも邪魔されることなく、またライブショーやツアーについて考えなきゃいけないということもまったくなく、逆にクラブミュージックについてや自分のための音楽について、ピアノについて考えることに集中することができました。
EPの作品はどちらかというと、アルバムを作ってから、いまの自分のあいだをうまくつなげていく感じで、聴くひとによっては、もっとベースが入っていればいいのにとか、もっとこういう方向にいけばよかったのに、と思うひともいれば、いらない要素を全部そぎ落として、聴きたかった要素に集中してくれてよかったと感じたひともいると思う。ただ作っている最中はそんなことまったく考えていなくて、これは振り返っての感想ですけど。
日本で展開される、アルバムとEPが一枚になった作りというのはすごくいいなと思っています。世界的にもEPは発売されましたが、こうしてひとつの作品になることにより、ボーナス作扱いにされていた曲がボーナス作ではなく、ちゃんとひとつの曲として扱われてるということは、トラックリストを見て充実感を得られますよね。
松浦俊夫|from TOKYO MOON 11月6日 ON AIR
イギリス発、注目の若きシンガー・ソングライター
ジェイムス・ブレイク来日インタビュー(3)
無機質なサウンドにはしたくなかった
──その時々の自分の心境ということですが、一概には言えませんが、やや悲しい雰囲気の詞が多いような気がします。それは自身の実体験の別れや愛情といったところから生み出されているのでしょうか?
悲しみの要素というのは、別れからというより、別れすらもないような、別れる相手すらいないような状況に対する悲しみ、という方が大きかったかなと思います。あとはその時に住んでいた状況ですね。大学に通っていたのですが、はじめて家から離れ、大学の友人と一緒に暮らしたり、いろんなひとたちとうまくやっていかなければいけない、そういったことに対する悲しみがあったのかもしれません。
大学でも音楽を専攻していましたが、自分が刺激を受けられるような環境ではまったくなかった。ちゃんと勉強する姿勢といいますか、周りが崩れているために自分発信でそれをするのを大変に感じていました。音楽的に自分が成功するためには、やっぱり自分自身がハッピーじゃなきゃいけないし、成功もしなくちゃいけないという点では、なかなか難しい環境にいるなと思っていた。おなじころ、住んでいる環境、一緒に住んでいる相手ともなじめなくて。そういったところから、わりと内向的な歌詞になっていたんじゃないかなと思います。
──おなじ曲でも、アルバムで聴くのとライブで聴くのとでは当然ちがいがあるとは思いますが、7月の「ワールドワイド・フェスティバル」ではいい意味で驚きを感じたという声を周りから聞きました。それは意図的にサウンドプロダクションを変えているのでしょうか?
ギター、ドラム、自分がキーボード兼ボーカルの3人なのですが、ドラムの場合どんなサウンド、どんなビートを与えても再現してもらえるというところがあり、ギターというのも楽器としてどんな音もほとんど再現できるということがわかったので、3人で思考を凝らし、なるべくアルバムとおなじサウンドを再現したいとは思っていましたが、ギター特有のサウンド、ドラム特有のよさを無理矢理封じ込めてまでアルバムに近いサウンドを作ろうとは思いません。ドラムとギターのふたりはもともと昔からの友人なので、とにかく3人で楽しんでライブがしたい。コンピューター的な無機質なサウンドにはしたくなかったんですね。
音楽とは、ひとつの旅
──お父さんはギタリスト、お母さんはアートに携わる方ということで、幼いころからクリエイティブな環境のなかで育ったのかなと思っているのですが、そのとき流れていた音楽や見たもので、印象に残っているもの、影響を受けたものはありますか?
子どものころは、たとえばCrosby, Stills & Nash(クロスビー・スティルズ・アンド・ナッシュ)とか、Sam Cooke(サム・クック)、Sonny Boy Williamson II(サニー・ボーイ・ウィリアムソンII)などのブルースハープだったり、Professor Longhair(プロフェッサー・ロングヘア)だったり、Robert Johnson(ロバート・ジョンソン)だったり、ブルースのピアノプレイヤーの作品が多かったかな。あとNeil Young(ニール・ヤング)もよくかかっていました。父が好きだったのでよく聴いていただけで、好きになったのは最近です。あとはAretha Franklin(アレサ・フランクリン)といった古いソウルアルバム。それから徐々に自分好みの音楽を開拓していきました。
──自分の人生を変えてくれたような、なにかきっかけになったような曲はいろいろあると思いますが、一曲挙げるとしたら? また、自分にとって音楽とは?
感銘を受けた一曲は、Stevie Wonder(スティービー・ワンダー)の「You And I」。僕にとって音楽とは、ひとつの旅ですね。自分のなかへの旅というか。再現の仕方はいろいろあると思うけど、自分が満足感を得られるものであればいいんじゃないかな。
──ありがとうございました。
毎週日曜日19:00~19:30 ON AIR
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