松浦俊夫|ジャイルス・ピーターソン来日! 彼の“Now&Then”に迫る
Lounge
2015年4月20日

松浦俊夫|ジャイルス・ピーターソン来日! 彼の“Now&Then”に迫る

松浦俊夫|from TOKYO MOON 10月9日 ON AIR

秋のスペシャルプログラム

ジャイルス・ピーターソンの“Now&Then”

日曜の夜、上質な音楽とともにゆったりと流れる自分だけの時間は、大人たちの至福のとき。そんな豊かな時間をお届けするのは、DJ松浦俊夫によるラジオプログラム『TOKYO MOON』──。彼が世界中から選りすぐったすばらしい音楽や知的好奇心を刺激する大人のためのトピックスを、毎週日曜日Inter FM 76.1MHzにて19時からオンエア。ここでは、毎週オンエアされたばかりのプログラムをお届けします。今週は11月に新作の発表を控えるGilles Peterson(ジャイルス・ピーターソン)をゲストに迎え、お話を聞きました。

文=松浦俊夫

ニューアルバム『Havana Cultura :The Search Continues』

今回はゲストにGilles Peterson(ジャイルス・ピーターソン)を迎え、11月にリリースが予定されている彼のキューバにおける音楽プロジェクト Havana Cultura(ハバナ・カルチュア)第2弾『Havana Cultura :The Search Continues』をみずから解説し、とくにお気に入りだという楽曲を紹介してくれました。また、有名・無名を問わず、彼がそのときどきにフレッシュだと思う楽曲を集めて紹介するコンピレイション『Brownswood Bubblers』の最新作に収録された、ソウル、フォーク、ジャズ、そしてダンスミュージックについても語ってくれました。


そして彼の主宰するインディペンデントレーベル Brownswood Recordings(ブラウンズウッド・レコーディングス)のこれからについてや、自身の目で見た震災後の日本についてもコメント。番組では時間の関係で私が要約したものだけの紹介となりましたが、ここOPENERSでは全訳を掲載します。どうぞお楽しみください。

REVIEW|TRACK LIST


01. Gilles Peterson's Havana Cultura Band / La Vida (Brownswood / Beat)

02. Afrikun / Kimbiseros (Brownswood / Beat)

03. Gilles Peterson's Havana Cultura Band / Orisa (Brownswood / Beat)

04. Tall Black Guy / Water No Enemy (Brownswood / Beat)

05. Cleveland & Ahmed / Sensitive Cleveland & Ahmed (Brownswood / Beat)

06. Zara McFarlane / Desire (Brownswood / Beat)

07. Gang Colours Fancy Restaurant (Brownswood / Beat)

松浦俊夫|from TOKYO MOON 10月9日 ON AIR

秋のスペシャルプログラム

ニューアルバムとレーベルの今後、そして震災について(1)

『Havana Cultura Volume.2』完成

“Havana Cultura”の第一弾は、僕にとってあたらしい経験だった。はじめてキューバに行くキッカケにもなったし、アルバムをプロデュースしたのもはじめてだった。アルバムに対する反応はよかったよ。ヨーロッパでのライブも好評だったしね。アルバムに参加しているシンガーのひとり、Dnay(ダナイ)とはソロアルバムも作った。彼女は今フランスで成功しはじめているみたいだね。


僕のキューバストーリーはだんだん広がっている。経験だけでなく、ハバナ・カルチュラ・バンドとの関係も深まっている。というのも、彼らから第二弾を作ってほしいと言ってきてくれたんだ。ロンドンマラソンで走って、環境を整えてから準備のためキューバに3回行って、いざレコーディング。アルバムの一部はRoberto Fonseca(ロベルト・フォンセカ)とレコーディングしたり、一部はRoberto Carcasses(ロベルト・カルカセス)とだったり。Simbad(シンバッド)とVince Vella(ヴィンス・ヴェラ)というふたりのあたらしいプロデューサーとも作業したよ。今回はより大きなサウンドを取入れたかったんだ。もっとコンテンポラリーなサウンドをね。

『Havana Cultura Volume.2』はダブルアルバム!

最初のアルバムは1970年代から99年、もしくは2000年のあいだのいつでもレコーディングできただろうけど、今回のアルバムはもっと2012年っぽくて、コンテンポラリーだと思う。1月にはじめてキューバを訪ねたときにバッキング・トラックをレコーディングして、ロンドンにもちかえってループに入れて、よりヒップホップスタイルのプロダクションに仕上げていったんだ。


キューバにはMala(マーラ)も一緒に連れて行ったんだよ。彼はロンドンのベスト・ダブステップ・ナイトのDMZをオーガナイズしている、すごくスピリチュアルなダブステップ・プロデューサーで、ジャマイカ出身。ジャマイカの要素をキューバにもっていくのはいいアイデアだと思った。隣同士だしね(笑)。ニューレゲトンをやりたいと思ったんだ。



今回はふたつのスタジオをオーガナイズしたことになる。ひとつは自分のレコーディング用。いろんなミュージシャンたちと一緒にレコーディングするため。もうひとつはマーラが自分のバージョンを作るため。そう、今作にはふたつのバージョンがあるんだ。マーラのバージョンは2012年の1月に、僕のは今年の11月にリリースされる予定だよ。

すばらしいゲストアーティストとのコラボレーション

アルバムにはたくさんのあたらしいゲストが参加してくれている。まずはLos Aldeanos(ロス・アルデアーノス)。彼はヒップホップの天才。彼らをアルバムに迎えることができたのは誇りだよ! それからダナイのほかにもうひとり、最高のルンバ・シンガー Drusil(ドゥルシール)。彼はChucho Valdés(チューチョ・ヴァルデス)とのパフォーマンスをはじめ、大勢のミュージシャンたちと共演している実力派だね。今回のアルアバムにはルンバのバイブスが必要で、それにはもっと本格的なヴォーカルが必要だったんだ。


あとは、Osdalgia(オスダルヒア)。彼女はDoble Filo(ドブレ・フィロ)のEdgaro(エドガロ)のガールフレンドなんだけど、彼もこのアルバムに参加しているよ。彼女はもっとディープでソウルっぽい……キューバのChaka Khan(チャカ・カーン)、Jocelyn Brown(ジョセリン・ブラウン)みたいな感じかな。とにかくすごくいいサウンドなんだ。あとはもちろんArema(アレマ)。アレマは僕にとってあたらしい発見だった。Lauryn Hill(ローリン・ヒル)とJoni Mitchell(ジョニー・ミッチェル)を一緒にして、キューバンスタイルにしたのが彼女って感じかな(笑)。


今回のダブルアルバムは、ひとつはあたらしくて、僕がシンバッドやヴィンスとプロデュースしている。もうひとつはコンピレーション。僕のキューバの旅はまだまだつづく。旅もつづくし、追求もつづく。僕たちはキューバのアーティストの新世代をいつだって探してる。みんながアルバムを気に入ってくれるとうれしいな。

松浦俊夫|from TOKYO MOON 10月9日 ON AIR

秋のスペシャルプログラム

ニューアルバムとレーベルの今後、そして震災について(2)

コンピレイションアルバム『Brownswood Bubblers 7』

『Brownswood Bubblers(ブラウンズウッド バブラーズ)』は僕がブラウンズウッド立ち上げ当初からずっとやっているシリーズ。エレクトロニック・ソウル・ミュージックを世に送り出すのが目的で、基本的にはアルバムでは発表されていない音楽を集めたコンピレーション・アルバムになっているんだ。ウェブやMP3で見つけたクールなトラックや、あたらしいグループなど、とにかくあたらしく発見したものを集めてる。


あたらしいとはいっても、ソウルとかジャズとかって伝統的な音楽なんだけどね。ハウスやダブステップ、ドラムンベースのミュージシャンではなく、もっとクラシックなサウンドを作っているクリエイターたち。今回の新作にも、あたらしい音楽や興味深くて質のいいニューグループがたくさん参加しているよ。

次代を担うニューエイジをピックアップ!

たとえばChris Turner(クリス・ターナー)。彼はBilal(ビラル)のバックボーカルをつとめていて、ロンドンに来るときは必ず僕たちに音楽を送ってくる。それをラジオで流したりしているんだ。The Park(ザ・パーク)はサンフランシスコのすばらしいグループ。Alice Russell(アリス・ラッセル)とか、大勢のソウル・ミュージシャンたちのバック・ボーカルをつとめている。

The Stepkids(ステップキッズ)もいい! 彼らはStones Throw(ストーンズ・スロー)と契約していて、サイケデリック・ソウルというか、彼らの曲「La La」は、Rotary Connection(ロータリー・コネクション)を思い起こさせるようなトラック。どうやら僕っぽいバイブスが流れてるみたい。Omar(オマー)にプロデュースされたIvy Chanel(アイヴィ・シャネル)というアメリカのシンガーのトラックは、ボサノバ・ソウルっぽくてクール! 


それから、KING(キング)というあたらしいグループは、なんとErykah Badu(エリカ・バドゥ)からの紹介なんだ。彼女たちは今ロサンゼルスで活動していて、これからビッグになると思うよ。

オベネワ、彼女は最高!

今話題になっているシンガーはJesse Boykins III(ジェシー・ボイキンズ)。彼もいろんなアーティストと一緒にパフォーマンスしている期待の新星だよ。Michael Rutten(マイケル・リトゥン)が紹介してくれたTanya Auclair(ターニャ・オークレール)というイギリス出身の女の子もいる。彼女の音楽はMatthew Herbert(マシュー・ハーバート)っぽくて、すごくおもしろいんだ。あと、Stealing Sheep(スティーリング・シープ)というグループは僕の大のお気に入り! フォーク・ソウル・ミュージックのようなテイストをもっている。


そしてObenewa(オベネワ)。彼女は最高! ロンドンのヴォーカリストなんだけど、Dego(ディーゴ)とも一緒にコラボレーションしていて、これもフォーキー。僕のお気に入りの曲はCleveland & Ahmed(クリーヴランド&アーメッド)の曲。このトラックは本当に美しくて、本物のストリングがたまらない。二度とこんなすばらしい曲は書けないんじゃないかってくらい、すでに彼らの最高傑作と呼ぶに値する曲といえるだろうね。


そんな盛りだくさんの内容となった今回のアルバムは本当に満足してる。僕が好きなトラック、ラジオでプレイするトラックをみんなに披露できるのはうれしいね! とにかく楽しいアルバムに仕上がっているよ。

松浦俊夫|from TOKYO MOON 10月9日 ON AIR

秋のスペシャルプログラム

ニューアルバムとレーベルの今後、そして震災について(3)

インディペンデント・レーベルBrowswood Recordingsのこれから

僕たちはずっと忙しい日々を過ごしている。レコードレーベルのブラウンズウッドは本当に楽しい! 今はスタジオを建て直しているところなんだけど、来年にはピカピカのホームベースができる。だから今はみんなホテルに住んでいるんだ(笑)。ここ数年はすごく忙しいね。たくさんのレコードがリリースされたしね。Owiny Sigoma Band(オウニー・シゴマ・バンド)や、マーキュリーにノミネートされたGhostpoet(ゴースト・ポエット)のアルバムは僕たちにとっては大成功だった。


レーベルには今、すばらしいシンガーがいる。Zara Mcfarlane(ザラ・マクファーレン)っていうシンガーは、近ぢか、本当にすぐ、作品がリリースされるんだ。僕はとにかくジャズが大好きなんだ。伝統的でクラシックなジャズが。彼女はすごくすばらしいジャズ・レコードを創り上げてくれた。最初に聴いたときは、Jose James(ホセ・ジェイムズ)のようだと感じたよ。彼の作品『The Dreamer』っぽいんだ。


Gang Colours(ギャング・カラーズ)は、ブラウンズウッドのエレクトロニック・シリーズと深くかかわっていて、もっとダウンビートで、アンビエントで、エクスペリメンタルな、ロンドンのあたらしいポスト・ダブステップ・サウンドともいえる、本当に才能溢れるアーティスト。もうひとつ、今ダナイのあたらしいアルバムをレコーディングしているんだ。小さなレコード・レーベルにとってはエキサイティングな時代だよ。


最後に、日本のみんなへ

ロンドンではイベントのオーガナイズをしているけど、じつは日本でもイベントを計画しているところなんだ。みんなが日本のために祈って、日本のことを考えている。今はみんながもっと強くなって、はやく復興することを祈ってるよ。このできごとでみんなには、なにが起こってるのかを考え、目を向け、チェックするキッカケができたと思うんだ。誰がコントロールしているのか、自分の人生をコントロールしているのは誰なのか、これからどうなるか、考えるときなんだと思う。そして、前に進むんだ。


──ありがとうございました。

松浦俊夫『TOKYO MOON』

毎週日曜日24:00~24:30 ON AIR
Inter FM 76.1MHz

『TOKYO MOON』へのメッセージはこちらまで
moon@interfm.jp

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