Diary-T 249 宮沢章夫の「素晴らしきテクの世界」
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2015年4月15日

Diary-T 249 宮沢章夫の「素晴らしきテクの世界」

Diary-T

Diary-T 249 宮沢章夫の「素晴らしきテクの世界」

文・アートワーク=桑原茂一

私の大変尊敬する作家、宮沢章夫から
新刊「素晴らしきテクの世界」が届いた。
誠にうれしい。なぜなら、面白いからだ。
ふふふと微笑む程度の笑いなら、そこかしこに書きなぐられているから、うれしさも微小だがハハハ…と声に出して笑える。読み物に出会うことはめっきり容易ではないから、ハハハ…自分の発する笑い声にハッとサプライズし心から陽気な気分になってしまう。腹から笑える。これがどれほど楽しいことか(泣く)そういえば、

なんでも声に出して読みたい本というのがあるらしい。

うん?…出して読みたい本?
「本」では響きも文章の締めの座りも
見劣りがしてしめっぽくて不都合な趣はどうあがいても抗えない気がする。

で類語辞典で「本」の言い換えを検索してみると、

図書館・書店などに並ぶ本 類語・縁語

書物 ・ 著作 ・ 著書 ・ 書籍 ・ 図書 ・ 蔵書 ・ 文献 ・ 作品 ・ 書き物 ・ ものの本(によると~) ・ 印刷物 ・ (活字)出版物 ・ 禁書 ・ 発禁本 ・ 「(焚)書(坑儒)」 ・ 古本 ・ 書誌(学) ・ テキスト

しょもつ、おにもつ、ぞうもつ、モツの煮込み…
ニュアンスも響きもいいじゃないか、
声に出して読みたい「書物」ではどうか。
なんとなく、本よりは座りが良い気がする。
では今度は、その「書物」の言い換えを再度検索してみる。

身辺・書棚などに置かれた書物 類語・縁語

(ものの)本 ・ 文芸書 ・ (旅行)案内書 ・ 記録 ・ (交友)録 ・ フィクション ・ ノンフィクション ・ 論文 ・ 論考 ・ 論集 ・ 歌書 ・ エロ本 ・ 漫画本

なにしろ面白くてあっという間に読んでしまった。
宮沢章夫の「素晴らしきテクの世界」
ということは、もう既に、

身辺・書棚などに置かれた書物

という解釈で誠に可笑しくないだろう。ハハハ、ここは笑うところではない。可笑しいという言葉は腹を抱えて笑うことだけを意味しない。たぶん。といって、

声に出して読みたいエロ本ではどうか、

これは演出によっては、つかの間、聞いてみたい気もするが、
そもそも目的が異なる。

というように、話はどんどん本筋から外れながらも話の変化の妙についつい釣られて繋がれて連れられて縦横無尽にもて遊ばれそして遂には本筋へと帰結していく。
これは音楽の選曲であれ、小説や映画のストーリーテーリングであれ、ものづくりのテクニックということである。
テクニックの優れたひとをテクニシャンと呼び、その最上位に位置するテクニシャンをマイスター(ドイツ語: Meister)、マエストロ(イタリア語: maestro)、また「メートル・ドテル」(フランス語: maître d'hôtel)と呼ぶことになっているらしい。

話がくねっと迷路へと遊んだが、とどのつまり、

宮沢章夫の「素晴らしきテクの世界」

このエロ本のではなくこの書籍の素晴らしさは、

宮沢章夫がマスターであるということに尽きる。といってしまおう。

もちろん彼がシェーカーを振って私に

サイドカー、ダイキリ、ジン・フィズ、アレクサンダー

次々とうまいカクテルを振って振る舞って私を酔わせてくれた訳ではないが、

文章を紡ぐマスターとしての境地は、
まさに他のBarでは味わうことの出来ない
見事なカクテルで私たちを酔わせてくれるのだ。

こうしてつぶやいているうちにあちきもカクテル話で酔っぱらってきたようでごんざれす…ひっく、参った狸は目で分かる。はどなたさまのお言葉だったでしょうか…

「誰も書かなかった笑える文章の書き方その一」
「読むだけで世間のまやかしが分かる。」

そんな副題もあってもいいかもしれないこの名著

宮沢章夫の「素晴らしきテクの世界」

批評性とは一番書きたくないテーマに突っ込むこと。

しかも腹から声に出して笑えること。

ワンダフル宮沢・Critic章夫

今回も大変美味しゅうございました。

で最後に今更ながらだが、
挿絵をあのマエスロのしりあがり寿さんがご担当されている。
なぜこれまで二人のコラボがなかったのか?
関係者に問い正たくなるほど見事なコラボだ。

才人は才人を呼ぶ集う。人生はこれだから辞められない。

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