松浦俊夫|from TOKYO MOON 1月3日 ON AIR 新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim)
Lounge
2015年3月6日

松浦俊夫|from TOKYO MOON 1月3日 ON AIR 新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim)

松浦俊夫|番組開始1周年、2時間スペシャル

プロダクトの裏側に秘める静かなる情熱──

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim)

日曜の夜、上質な音楽とともにゆったりと流れる自分だけの時間は、大人たちの至福のとき。そんな豊かな時間をお届けするのは、DJ松浦俊夫によるラジオプログラム『TOKYO MOON』──。彼が世界中から選りすぐったすばらしい音楽や知的好奇心を刺激する大人のためのトピックスを、毎週日曜日Inter FM 76.1MHzにて19時からオンエア。ここでは毎週オンエアされたばかりのプログラムをお届けします。今週は新春スペシャルと題し、ゲストに「visvim(ビズビム)」デザイナー 中村ヒロキさんをお迎えし、スペシャル対談を敢行。また、楽曲も美空ひばりから鬼才 デヴィッド・リンチのミュージシャンデビュー作まで、いつもとは少しちがったユニークな視点で選曲。番組スタート1周年を飾るにふさわしい充実の2時間だったのではないでしょうか。

文=松浦俊夫

新春を飾るシックな音楽

皆さん、明けましておめでとうございます。今年もおもしろい音楽をたくさん紹介していきたいと思いますので応援よろしくお願いします。

さて、2011年が明けて直後の初放送は、『エレファント・マン』『ブルーベルベット』でおなじみの鬼才 デヴィッド・リンチがミュージシャンとして今月下旬にリリースする注目のデビュー作品や、1950年代にアメリカのシンガー、ハリー・ベラフォンテがメキシコで見つけその後大ヒットとなった名曲「ククルクク・パロマ」を美空ひばりとカエターノ・ヴェローゾのカバーバージョンで聴き比べたり、おそらく楽曲的に影響を受け合ったであろう日英の楽曲をつづけてプレイするなど、いつもとは少しちがったユニークな視点で選曲をしてみました。

そしてゲストには「visvim(ビズビム)」デザイナー 中村ヒロキさんをお迎えし、スペシャル対談をお届け。たとえばキューバの話をしているところではバックミュージックにラテンのモントゥーノのピアノをセレクトしたりと細かいところで遊びを作り、ゆったりとした大人の正月の夜を楽しんでもらうようにしました。

TOKYO MOON 01

Nostalgia 77
The Sleep Walking Society

TOKYO MOON 02

Sarah Vaughan
VIva Vaughan

TOKYO MOON 03

Monica Zetterlund
Waltz For Debby

TOKYO MOON 04

美空ひばり
Jazz & Standard Complete Collection

150_5

Buddy Sativa
Deus Ex Machina

150_6

Caetano Veloso
Fina Estampa Ao Vivo

150_7

David Lynch
Good Day / I Know

150_8

Grady Tate
Movin' Day

REVIEW|TRACK LIST
01. Elizete Cardoso / Estrada Branca (Discmedi)
02. Milton Nascimento E Jobim Trio / Esperança Perdida (EMI)
03. Caetano Veloso / Cucuruccu Paloma (Verve)
04. Hibari Misora / Cucuruccu Paloma (Columbia)
05. Esther Ofarim / Speak Low (Bureau B)
06. Sarah Vaughan / Fever (Verve)
07. Bill Evans / Peace Piece (Riverside)
08. olafur Arnalds / Fok (Erased Tapes)
09. Elan Mehler / Scheme For Thought (Brownswood)
10. United Future Organization / Np Problem piano mix (Avex)
11. Matthew Herbert / Cafe de Flore-Trio Reprise (K7)
12. Dan Ecclestone Band / Rushes I (Inpartment)
13. Lonnie Liston Smith / Quiet Dawn (Flying Dutchman)
14. quasimode / 1000 days for spirit (Inpartment)
15. Monica Zetterlund / Waltz For Debby (Monicas Vals)(Universal)
16. Blossom Dearie / Tout Doucement (Universal)
17. Buddy Sativa / Waltz for the Leaving Souls (Favorite)
18.森山威男カルテット / 渡良瀬 (Solid)
19. Mike Westbrook / Waltz (Dream)
20. Karin Krog Quartet / My Favorite Things (Meantime)
21. Lorez Alexandria / Nature boy (Deep Roots) (Cadet)
22. David Lynch / I Know (Sunday Best / Beat)
23. Portishead / Humming (Go Disc)
24. Nostalgia 77 / Sleepwalker (Tru Thoghts / Beat)
25. Monte Carlo 76 / God Pulled The Plug On Us (Barrio Gold Records)
26. Gotan Project / De Hombre A Hombre - Nicolas Repac remix (Discograph)
27. Grady Tate / Moondance (Janus)

松浦俊夫|番組開始1周年、2時間スペシャル

プロダクトの裏側に秘める静かなる情熱──

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim)(2)

 “ひとのはいてるビズビム”

松浦 今夜は東京を代表する世界に羽ばたくシューメーカー、というのもちがいますし、ファッションブランドというのも陳腐だし、なんとお呼びすればいいのか。「visvim(ビズビム)」のデザイナー 中村ヒロキさんお呼びしています。さっそくですが、どう呼んだらいいのでしょう、ビズビムというブランドは?

中村 どうなんでしょうね、僕も気づいたらこうなってましたみたいな感じなんですよね(笑)。

松浦 もう10年くらい経ちいますか?

中村 そうですね、昨年10周年を迎えました。

松浦 最初にビズビムを知ったのはもう10年くらい前です。“ストリートファッションオタク”であるレコード会社の担当ディレクターの彼がはいているシューズを見て、“どこの?”と尋ねたらビズビムだった。私自身が足が大きいので、なかなかビズビムのシューズが入らなかったので、私としてはこれまで“ひとのはいてるビズビム”という意識で接してきました。僕は現在ふたつの海外アーティストのエージェントをやっていて、ひとりがジャイルス・ピーターソンというロンドンのDJで、もうひとりがトマトのサイモン・テイラーなんですけど、じつはふたりともビズビムのファンで、5、6年ほど前からふたりともちがうタイプのシューズをはきはじめて、おもしろいなと思って見ていたんですよね。僕としては東京らしさを感じるプロダクトといいますか、おそらく中村さんにはそういった意識はないのかもしれませんが、結果的に作ったものが東京っぽく感じられるのだろうなと思うのです。いかがでしょう?

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim) 01

中村ヒロキ氏

中村 若いときに旅行など海外で過ごす時間が長かったせいか、あまり日本ということを意識しなくていいのかなって思いがあり、マーケットにかんしても日本なのか海外なのか、ということは気にせずスタートしました。日本らしさというのはなにも意識しなくても自然と自分のアウトプットに出てくるので、あまり考えてはいないんです。

松浦 意識はしていないけどすごく日本らしさを感じるものだったり、トラディショナルなもの、プリミティブなものを“現代に蘇らせる”という言い方ではなく、“進化させてアウトプットしてみせている”という表現がふさわしいのかなと思っていて、だから海外のひとたちにもすんなり受け入れられているし、ファンが多い理由なんじゃないかなって感じているんですよね。それはプロダクトしかり、お店のディスプレイやインテリアにもつながっていると思うんですけど、そこは意図しているのでしょうか?

商品とお客さんのファーストコンタクトの場所、ならば気持ちよく見てほしい

中村 ブランドをはじめたときからプロダクトが主人公になるようなブランドを作りたいなと思ってきました。だいたい6ヵ月ごとにものを作っていくわけですが、ショップという存在に対してはお客さんと商品が対峙する場、というイメージをもっていて、あくまでお店はニュートラルで、お客さんが商品を体験していただく場所と自分のなかで設定しているので、それに基づいたデザインですとか、お店づくりをしてきました。

松浦 プロダクトに焦点をあてるということですが、とくに原宿のお店はアートギャラリーのような雰囲気をもっていて、そこに心地よくプロダクトが置かれているというか、その空間がすごくいいなっと思っています。京都のお店はすみません、写真でしか拝見したことがないのですが、古くからある日本家屋を改装して使われているそうですね。それにはなにか理由があったのでしょうか?

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim) 02

中村 最初にショップを作ろうと思ったとき、どんなお店で自分のプロダクトが見せられたらいいかなと考えながらいろんなブランドのお店を見てまわっていたんですけど、なかなかね……ちょっとちがうかな、と感じていたんです。そんなとき、アートギャラリーをおとずれたさいに、こういったニュートラルなスペースならお客さんが心地よく商品を見られるのではないかなってひらめいたんです。ここが商品とお客さんのファーストコンタクトの場所になるわけで、ならば気持ちよく見てほしい、そういう場所が作れればなと思い、アートギャラリーを中心にデザインされている建築家の方にお願いしました。アートギャラリーのようなニュートラルなスペースで、それでいてお客さんが心地よさを感じる、たとえば自然光や緑のような有機的なものだったり、ビンテージのショーケースなどをバランスをとりながら取り入れていきました。あまりあたらしいものだけで構成してしまうとちょっと冷たい感じがするので、そういったバランスをとりながら東京店は作っていきました。

京都店にかんしては、その日本家屋はもともと『松屋』という京人形屋さんだったんです。その京人形屋さんにはすでにすばらしいショーケースがあって、人形屋さん自体は16代つづかれている老舗なんですけど、京都の職人さんがだんだん少なくなり、人形をたくさん作ることができなくなってしまったんだそうです。それでお店を閉める決意をされたそうなんですけど、それを聞いていてすごい話だなと。僕もものをつくらせてもらっている人間のひとりとして、そこまでこだわるんだなと、ぐぐっと胸に迫るものがあり、そういったものをお客さんとシェアができたらなと思って『松屋』のオーナーの方にできればこのままお店を使わせていただきたいとお願いしたんです。

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim) 03

F.I.L.KYOTO photo : Hiroyuki Hirai

いまも店の外には松屋さんが使われてきたショーケースがそのままあるんですよ。僕が探してくるショーケースなんかよりよっぽどいいと思ったし、お店自体もう手を入れる必要はないのかなって。床だったりライティングだったりは多少手をいれましたけど、そのままのほうが僕のコンセプトにあったすてきな空間ができるのかなと思ったので、ほとんど手を入れずに使っているんです。

松浦俊夫|番組開始1周年、2時間スペシャル

プロダクトの裏側に秘める静かなる情熱──

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim)(3)

なにか感じさせるものを作りたい

松浦 お店に入ったときの香りがすごく演出されているなと思ったんですが、オリジナルでキャンドルなども作られているんですよね。

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim) 04

中村 パリに住んでいるパフューマーにお願いしているのですが、彼はとても印象に残る香りを作るんです。以前僕が宿泊したホテルのアメニティをデザインされていて、そこで使われていたフレグランスが作り手の心意気を感じるような香りで、ああ、このひとに会ってみたいなと思い、連絡をとってみたんです。それから東京とパリを互いに行き来し、プロジェクトがスタートしました。いまではビズビムの香りのトレードマークのようになってきましたね。

松浦 もうブランドを形成するひとつのエレメンツになっていますよね。ここからはプロダクトの話をうかがっていこうと思うのですが、そもそもシューズというプロダクトからスタートされたことにはなにか理由があったのですか?

中村 僕自身、若いときから古着とかビンテージのものが大好きで集めていたんですけど、おなじように見えても奥行きを感じるものと感じないものがあって、そこに興味をもつようになっていったんです。それで自分がビジネスをスタートしてものを作ろうと思ったときに、まずそれをどう表現できるかと考えたんですね。なんでこの古着はいいと感じて、こっちはよくないと感じるのか。その理由はなんなんだろう? 自分がプロダクトを作るときにはなにか感じさせるものを作りたいなって思ったんです。

松浦 こうして靴からはじまって、いまではパンツもジャケットもシャツもある。エレメンツはいまあるプロダクトにあわせるものとして増やしたのでしょうか?

中村 靴をはじめるとき、どういうプロダクトを作ったらオーセンティックな存在に近づけるのかをつねに考えていました。靴というのは衣装のなかでもパフォーマンスが必要とされるプロダクトだと思っています。というのも、はき心地がいいとか悪いとか、使用感がすぐにわかってしまうものなんです。だからこそ表現しやすいというか、ただ単に衣装的なベクトルだけでなく、いろんなベクトルが存在しているものだから表現の幅が広がるなって思ったんです。

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim) 05

ずっと大切にしてもらえる靴を、と考えたとき、いろんな角度から検証した結果はきやすさにフォーカスしていったものが、もしかしたらほかのものよりもオーセンティックな輝きを得ることができるんじゃないかなって思ったんです。あくまで僕の考えですが。

松浦 ラボラトリーみたいですね(笑)。実際にかたちにして、トライ&エラーを繰り返していかなければ思い描いたものはできないと思うのですが、その過程というのはチームで進めていくのですか?

中村 最初は作っている行程をすべて理解して、そのなかにヒントがないかって工場や革をなめすタンナーさんのところにはりついて見てきたという感じですね。

松浦 考えはじめるともうオンもオフもない状態になってしまうのでは?

中村 でもそれは音楽をやっていらっしゃる方も一緒なのでは?

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プロダクトの裏側に秘める静かなる情熱──

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim)(4)

かけがえのないインスピレーション

松浦 何シーズンか前に突然キューバシャツがお店のなかに飾ってあって度肝をぬかれたんですが、キューバシャツを作るにあたり、なにかきっかけや理由があったのですか?

中村 そのときは社会システムとプロダクトがどういうふうにかかわっているのかということを考えていて、生産効率が上がるとものがつまんなくなりやすいんですよね。どうしても資本主義の原理に沿ってものを作っていくと僕にとってはつまらない。じゃあ反対側ってどうなってるんだろうと思い、キューバに行ったんです。そこで感じたことを落とし込んでいったシーズンですね。でも、あのキューバシャツにかんしてはすばらしいソーイングテクニックをもつフランスのブルターニュにあるファクトリーにたまたま出会ったのがきっかけなんです。普通キューバシャツにはプリーツがほどこされているのですが、出来合いのプリーツを後づけするのではなく、大きな面積のシャツにアイロンをかけて、ひとつひとつにステッチを打っていく手法ができるファクトリーがあれば、いつかやってみたいなと思っていて、こちらのファクトリーではそれが可能だったんです。

松浦 とてもきれいでしたよね。僕はああいったシャツが好きなので興味があったのですが、シャツの値段ではなかったですよね(笑)。ひとつひとつの物づくりにストーリーがある、たとえば音楽もプロダクトとして考えるならば、おなじようなものなんじゃないかなと思っているのですが、あらためてお話をうかがってみて、やっぱりそうなんだなという感じです。キューバのほかにもチベットや北極、それも北極点に近い地方にもいらっしゃっているとか。自分にとっても旅って冒険のようなもので、その冒険のなかからなにかインスピレーションを受けたり、生みだしてくれるものがありますよね。どちらかというと現代社会からは外れた方面に旅の目的地を選ばれているように感じますが、それはなにか理由があるのですか?

本当に必要とされる素材や使われ方を肌で感じる

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim) 06

中村 ノルウェイに行ったときは、たまたま僕が使いたかった“レインディア”というトナカイの革のサプライヤーさんが、革を仕入れているひとたち、遊牧民の方なんですけど、その方たちを紹介しようかと言ってくれたので、行きたい行きたい! って(笑)。彼らは食べたり、着たり、はいたり、レインディアを実際に生活のなかに取り入れていて、伝統的な暮らしのなかで素材がどう使われてきたのか、それがどうプロダクトに活きているのかというところを見てきたのですが、そういう経験ってかけがえのないインスピレーションの源というか、まず入ってこないインフォメーションなんですよね。まぁ、アドベンチャーも嫌いではないですが、本当はそれがすぐに手に入れば一番いいんですけどね(笑)。

松浦 チベットにも行かれてますよね。それもどちらかというと現代的ではない生活をされているひとたちとの触れ合いだと思うのですが。

中村 なにかを探しに行ったわけではなく、たまたま友人と行こうかと話をしていたんですよね。実際におとずれてみて、こんなふうにマテリアルと生活しているんだとか、本当に必要とされる素材や使われ方だったりを肌で感じることができました。
ノルウェイに行ったさい、シープスキンの靴をはいていたんです。じつはマイナス30度の世界でテストをしていたんですけど、現地のサミー族のおばあさんから、だまされたと思ってこれをはいてみろっていわれてレインディアのファーがついた靴をわたされたんです。靴の中にはわらが入っていて、それがインサレーターになっていたんですね。これは裸足ではいたほうがあたたかいんだと言われ、でもマイナス30度で裸足は……なんて思っていたんですけど、なかなかあたたかくて。あと、ビズビムのゴアテックスジャケットも着ていったんですが、マイナス30度以上ともなるとたぶん湿気が表面についた瞬間に凍ってしまって、せっかくの透湿防水機能も寒すぎて本来の機能があまり発揮されなかったんです。かたや彼らはウールだったり、動物のスキンをメインで着ていて、自分でも実際に着て体感してみたんです。それから彼らがそういったアイテムを作っているところを目の前で見たりして。いろんなインスピレーションを受けましたね。

松浦俊夫|番組開始1周年、2時間スペシャル

プロダクトの裏側に秘める静かなる情熱──

新春放談 松浦俊夫 x 中村ヒロキ(visvim)(5)

いまの自分の個性をいまの作り方で込める

松浦 ご自身のプロダクトとしてかたちにしていくにあたり、旅先で受けてきたインスピレーションなどをスタッフと共有するにはどうされているんですか?

中村 たとえば日本のアトリエのスタッフだけでなく、イタリアで生地を作っているファブリックデザイナーさんとか、僕に協力してくれているマニュファクチャーの皆さんが各地にいるのですが、最初はみなさん“このひとなに言ってるんだろう……”って感じだったんですけど(笑)、回数を重ねるごとに、“今度はどんな発想をもってくるんだろう”って思うようになってくれました。

最近思うのは、世の中デジタル化して、僕らはその恩恵を受けているわけですが、それは同時に均一化されていくことになるんですよね。とくにマニファクチャーはそうなんですけど、どんどんフラットになっていくんです。1960年代、70、80、90年代、いま生れているもの、レザーひとつとってもフラットになっていくんですね。そこを僕たちがフラットにさせないように、自分の個性を作っているものに込めていく、そこがキーなのかなと思っています。

でも、マニファクチャーとなると流れ作業じゃないですか。自分が担当するところって本当に短いですよね。そのなかでとくに“僕”のパートに個性を入れていくっていうのはなかなか難しい。

中村ヒロキ氏

中村ヒロキ氏

だったら僕はいろんなところへ実際に足を運び、手で掴むことでできるだけ距離を近くする、そうして自分のインスピレーションを込められないかなと思って。それはファブリックにしても靴にしてもそうなんですけど、それをチームのひとたちは理解してくれているんですよね。

松浦 その結果ワン&オンリーな、ほかには真似できない独自性が保たれているんじゃないかなと思いますし、それは音楽もおなじなんですよね。どうしても世の中にあわせていこうとするとどんどんフラットになっていく。でもフラットにしないと逆に受け入れられないという状況もある。ただその独自性を保っていかないと作り手側のせめぎ合いみたいなものが生まれないので、みんな横並びになってしまっているという状態に陥っている。先ほどおっしゃっていたように、つね日頃から自分の個性をどう込めていくかというところに集中していかなくてはならないんですよね。

本物が見つかるのはやはり実体験のなか

中村 尊敬するイタリアのファブリックデザイナーの方と一緒に仕事をしているのですが、彼らも100年、150年前にはお腹が空いたらうち込みが弱くなり、早く帰りたかったらうち込みが強くなり、そうしてファブリック自体に表情が生れていて、それは機械では出せないし、そのぬくもりみたいなものには勝てないと思うんです。そうやって伝統を守る方がいることはすごくいいと思うのですが、では僕たちは2011年のいま、なにをするかといったら、おなじものを作ってもしょうがない。やっぱりデジタル化されたこの世界のなかで、できるだけアドバンテージをもって、いまの自分の個性をいまの作り方で込めることで昔のファブリックやプロダクトたちから感じる輝きをもたせることができるのではと思っています。

松浦 なるほど。そろそろ最後の質問ですが、自分を突き動かす衝動を維持していくのは非常に難しいと思うんです。もちろんああしたい、こうしたいというものもありつつ、やっぱりそれ以上に湧き出てくるもの、それがはっきりとしたものじゃないにせよ、それを沸き立たせるために心がけていることがあれば教えてもらえますか? 

中村 興味があると思ったらすぐそこに行きますね。見たいもの、おもしろそうなものがあるなって思ったら実際に行ってみて、はずれもあるんですけどね。はずれでもなんか探してきて、ここから広げられないかなって考えたり。そういうのはありますが、正直あまり意識したことはないかな。

松浦 でもきっとその即行動ってところがすごく大きいんじゃないかと思います。いまって、なんでもどこでも情報として手に入るじゃないですか。ただ自分が本当に求めているものが見つかるかどうかというのは非情に難しいし、それがあやしかったりもする世の中に生きているので、本物が見つかるのはやはり実体験のなかなのかなと。そこで出会っていくというのが大切だと思いますよね。今日はどうもありがとうございました。 

中村 ありがとうございました。

MOVIE

松浦俊夫『TOKYO MOON』
毎週日曜日19:00~19:30 ON AIR
Inter FM 76.1MHz

『TOKYO MOON』へのメッセージはこちらまで
moon@interfm.jp
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