LOEWE クリエイティブ ディレクター スチュアート・ヴィヴァースインタビュー
LOEWE|ロエベ
ロエベ――触れことが奏でるブランドストーリー
クリエイティブ ディレクター スチュアート・ヴィヴァースインタビュー
世界でもっとも長い歴史を誇るラグジュアリーブランドのひとつである。スペインレザーは、8世紀よりヨーロッパ王族の愛用品として高い評価を得てきた。1846年、マドリードでエンリケ・ロエベ・ロスバーグがみずからの名を冠した会社を創業したのがはじまりである。今回は現クリエイティブ ディレクターである、スチュアート・ヴィヴァース氏に話を聞いた。
Text by OPENERSPhoto by JAMANDFIX
伝統はそのままに、革新をはかる先見性
――1年ぶりの東京訪問だそうですね?
毎年、東京を訪れています。自分自身で街を歩きマーケットリサーチをして、街のシーン、ショップのシーンなどを見ていると、つねにあたらしい刺激はいただいています。もちろん、ヨーロッパでもどこでも、町歩きはしていますが、日本に来るとエネルギーを貰う気がします。
――ほかの街と東京はちがいがありますか。
ええ、もちろん。それはなぜか? 文化からくるものなのかわかりません。ですが少なくとも、若者の文化が革新的な部分の多くを支えている気がします。それはファッションにもあらわれていると思います。小売りの現場を見ていても、商品がとても革新的ですね。これはほかの大都市とかなりちがいますね。いろいろなインスピレーションをもらっています。
――すばらしい経歴をおもちですが、ロエベで仕事をする意味はどんな部分でしょう?
ロエベは企業自体がすばらしい物語をもっています。それを築き上げたブランドだと思います。その物語はいまもつづいていて、その一部になれたことを誇りに思います。自分自身も、その物語をつづける準備ができているといいなと感じています。これだけの歴史と伝統のある企業で働けることは、とてもラッキーだと思っています。
確かにこれまで、ミラノやパリなどファッションの中核となる都市で仕事をしてきました。そして、いま、マドリッドで仕事をしています。これも自分にとっては、とてもいい刺激になっています。
――スペインの職人さんのすばらしいところはどんなところでしょう?
国によって職人さんに差があるかというと、それはあまり感じません。イタリアもスペインも、みんなすばらしい。ただ、ロエベで働いていると、スペイン人らしい情熱みたいなものは感じますね。職人のみなさんが、情熱と愛をもって毎日とり組んでいます。それと特筆すべきは、ロエベの場合、革の職人として勉強をはじめたのはロエベでしたという方が多い。つまり、いまもづーっとロエベで働いている方が非常に多い。スキルや知識は、先輩から後輩に世代世代で受け継がれていくのです。ロエベで勤続40~50年という職人がたくさんいます。彼らのしていることが、ある意味ロエベのソウルになっているのです。
――裏地を使わないバッグは、ロエベしかできないと聞きました。
とにかくロエベの場合、使っている革の質は比類のないものだと自負しています。そして、職人たちの技がすごい。この両方がペアになっていて、魅力がさらにアップしていると思います。これぞロエベが長年培ってきた遺産だと考えます。
裏地を付けないバッグは実際にあり、見て触っていただければ、その緻密な仕事や革の質の良さがわかるでしょう。ロエベのバッグは、すべてにおいて表も裏も完璧です。こういったこだわりは、鞄だけでなく衣類にも反映されていまして、裏地のない仕上げのものもたくさん出ています。表も裏も完璧な革は、ロエベの特徴ですね。ステッチも表も裏も巧緻な仕上げです。
――そのこだわりを象徴するといえるレザーアイコンコレクションは、2011年に 2シーズン目を迎えました。
これの一番のアピールポイントは、まさに素材です。いい革がないと何もはじまらないということですね。このコレクションで使っている革は、普通のナパと呼ばないで“ロエベナパ”といっています。ほかのナパとはまるでちがうという意味合いです。実際、子羊の皮を加工して、できあがった革のいい部分5パーセントしか使っていません。最高のものばかりまず、選びます。さらにそのなかの5パーセントだけを使うのです。そもそもロエベがOKを出す革自体も希です。
正直、これだけの品質のレザーを調達することはとても難しいです。とくに、服に加工するということになると、そのレザーになにが大切かといえば軽さです。重いと着づらいのは自明です。だいたい0.7ミリぐらいの薄さにしてあります。つまり1ミリもないということですね。革の専門家が2人おり、彼らが最終的に革を選びます。服にかんしてはシーモという人間が担当しています。とても個性の強い男性で、とにかく自分の仕事に情熱が溢れています。
あと私たちが心がけているのは、ひとの触感です。シルクのようななめらかさというものを目指しています。これをおめしになったお客様は、本当になめらかで気持ちがいいと仰っていただいています。
――ロエベには長い歴史がありますが、とても革新的であると思います。
ロエベといえばバッグと思われるでしょう、それは変わりません。よい質のレザーのバッグを出していきたいと思います。ネクタイなどシルクコレクションも、これからは注力していきたいですしね。私はクリエイティブディレクターとして、すべてを見ています。デザイナーは15名ほどいます。私はそのリーダーとして、統括しています。どこからクリエイティビティを得ているかというと、結局仕事が好きということにつきます。ロエベにかんしては情熱がたくさんあります。私はワーカホリックなんです(笑)。オフィスに仕事に行くのが、楽しくて仕方ありません。
それと刺激の源は、まわりにいるスタッフですね。15名のデザイナーがいると先ほど話しましたが、ときには課題を課してくれます。ときには興奮させてくれたり、プレッシャーを与えてくれたりします。そういう仲間がいるので、前に進んでいけるのです。マーケットリサーチで日本などいろいろなところをまわり、インスピレーションを得ていますが、私の場合は人間から一番刺激を受けます。
――今後のロエベをどのようにしていきたいか、ヴィジョンをお聞かせください。
これからのロエベはラグジュアリーレザーハウス、つまりレザーグッズにかんしては、とても贅たくなものをつくっていると考えていただければと思います。私自身がスペインで仕事をしていて、そこにいる人びとや歴史的な遺産などから感動をもらっていますし、それに対し情熱をもっています。また、スペインならではの大胆さ。そういうものをロエベの美の一部として、またユニークでこれだけ魅力のあるブランドであることをお伝えしていきたいですね。
ブランドというと、イタリア、フランス、英国などいろいろありますが、スペイン発のラグジュアリーブランドはロエベだけです。また、お店に入ったときのフィーリングを、十分に楽しんでいただきたいです。鞄や服に触れたときの感触は、個人個人でちがうと思いますが、ロエベならではの感覚をおおいに楽しんでいただきたいと思います。ミシンは使いますが、基本的にはすべて手製で大量生産の方法でつくられてはいません。たとえばウィメンズのアマソナは、職人がひとりで8時間かけてつくります。つまり職人が丸一日かかって、やっとひとつということですね。
――OPENERS読者にメッセージをぜひ!
私がいまの仕事について3年以上経ちますが、就任後ロエベのお店を変革しています。ですので読者のみなさまには、ぜひお店にいらしていただきたいですね。ロエベの綿々とつづく本質は変わりないですが、いまのロエベがどんなものなのか感じにいらっしゃってください。
Stuart Vevers|スチュアート・ヴィヴァース
ロエベ クリエイティブ ディレクター。ウエストミンスター大学を卒業後、ニューヨークにてカルヴァン・クラインと出会い、アクセサリーライン 担当としてキャリアをスタート。2年後、ボッテガ・ヴェネタの創始者でありオーナーであるラウラ・モルテードに抜擢され、ミラノに移り住む。アクセサリー担当として、大ぶりのレザー編みバッグにギターケースやグラフィティ柄のテニスバッグをあしらい、ブランド回生の一端を担う。その後、ロンドンの実力派ファッションデザイナーのひとりであるルエラ・バートレーと仕事をともする。8年間つづいた コラボレーションでは、さまざまな商品をつくり出し、とくに「ジゼル」バッグの人気は非常に高く、独立レーベルとしては類をみない成功をおさめた。つぎにジバンシィのプレタポルテ、クチュールの両ラインのアクセサリーデザイナーとなり、「マクラメ」「パンプキン」を生み出す。それらは大成功をおさめた。2002 年からの数年間は、ジバンシィとルエラを手がけつつ、数シーズンは自身のラインもデザイン。かつ、 マーク・ジェイコブスのクリエイティブ チームの一員として、ルイ・ヴィトンのメンズとウィメンズのアクセサリーデザイナー としての仕事もするという多忙な日々を送る。2004 年、母国ロンドンにもどり、マルベリーのデザイン ディレクターに就任。ブランド再生の立役者として、「エミー」「メイベル」「ポピー」「ロクサーヌ トート」などのヒットバッグを手がけるのみならず、メンズ、 ウィメンズのウェアの責任者となり、彼のウェアはあたしいカルトステイタスとなる。2008年1月1日、ヴィヴァースースはロエベのクリエイティブ ディレクターに就任。「160年を超える遺産を擁するメゾンと仕事をする機会を与えられて、とても光栄です。ロエベの熟練職人たちとともに 働き、その比類なき歴史を探訪して、ブランドの未来を切り拓くことは僕のよろこびです」(スチュアート・ヴィヴァースース)
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