坂本龍一|第13回 「アート」について言いきる
第13回 「アート」 について言いきる
教授自らの回答ですべて解決!する「上から」言いきる。
11月10日に発売されたアルバム『UTAU』をひっさげて、12月10日、11日はいよいよ東京国際フォーラム公演! ツアーを記念する「全部」言いきる連載再スタート!
回答=坂本龍一Photo by JAMANDFIX
はじめまして。私はいま芸術大学でアートの勉強(制作ではなく研究やプロデュースにかんして)をしています。大学の教授は、これからの社会にアーティストが必要とされていると言うのですがまったくそうは思えません。アーティストが必要なのではなく物事を深く考える力や自分と他者との関係、日本のアートをとりまく環境でいかに生き残るかを考えることが本当に必要なんじゃないかと思います。しかしまわりの制作をしている学生は「アーティストになればいいんだ」で考えることを止めてしまっています。
坂本先生にはアーティストの条件ってありますか? またこれからの社会でアート、アーティストは必要だと思いますか?
よろしくお願いします。
世の中の必要性などに反して、自分の道を行け
アートは社会にとって必要ではありません、余計なものなんです。
だから、社会に必要とされるアーティストになろうなんて愚の骨頂です。
アーティストははぐれ者じゃなきゃいけないし、自分がなりたいからなるのであって、社会がどう必要としているかなんてまったく関係ない。
アートを、エコのためにとか、貧困を救うために……なんて使っているけど、そんな馬鹿げた話はない。そういうのは、アートや音楽を使った洗脳だし、プロパガンダとしてアートを使うものではないと僕は思っている。
この前『サド、ゴヤ、モーツァルト』(ギィ・スカルペッタ著 / 高橋 啓訳 / 早川書房)という本を読んで、この3人は1789年7月14日のバスティーユ襲撃のときに、場所はちがうけど生きていたんですね。
フランス革命で王政と旧体制が崩壊するまでは、音楽や絵などのアートは、その時どきの権力者である教会や王侯貴族など、いわゆる金持ちの側で発展したもので、それはブルジョワを経て、現代ではお金をもつ企業や、お金を払う消費者などに変形しつつもいまもつづいている。
つまり、絶対王政ぐらいまでの長いあいだ、職人とアーティストはおなじ意味をもっていて、金持ちに雇われてやることだったし、そのことに疑念ももたなかった。“アートのためになにかをやること”なんてつい最近のことなんですよ。フランス革命あたりぐらいからそうやって新社会になっていく。
とても反語的なんだけど、アートはお金のあるところでしか発展しない。
だから、世の中の必要性などに反して、自分の道を行け。
アーティストの条件なんてないし、学校でアートを学ぼうなんて、もうそこからダメ。