ル・コルビュジェに捧げられた名品ジャケット|Berluti
Berluti|ベルルッティ
アルニス3代目当主が語る「フォレスティエール」の魅力
ル・コルビュジェに捧げられた名品ジャケット
「Berluti(ベルルッティ)」がパリを代表するアトリエ「アルニス」を統合してから約1年の歳月が過ぎた。それを記念して、ベルルッティ銀座店に、アルニスの3代目当主である、ジャン・グランベール氏が来日。ベルルッティのデザイナーであるアレッサンドロとアルニス当主とのコラボレーションによって進化した名作ジャケット「フォレスティエール」にまつわる魅力と物語をひも解いていきたい。
Text by ITO Yuji(OPENERS)
アルニスにとっての「フォレスティエール」の価値
ル・コルビュジェからの依頼によって生まれたジャケット「フォレスティエール」を語るとき、まずアルニスの歴史にふれる必要がある。パリのセーヌ川左岸、サンジェルマン・デ・プレの近く、セーブル街にアルニスが居を構えたのは1933年のこと。初代当主であるテーラーは、優れた技術によって、パリの洒落物たち、つまり当時の芸術家から絶大な信頼を得ていた。
また、テーラーの場所が彼らが生活していたモンパルナスからも近いこともあり、店はピカソ、コクトーといった文化人が集うサロンとしての役割も果たしていた。
そこに集う人びとのなかにいたひとりが、ソルボンヌ大学で教鞭をとっていた建築家のル・コルビュジェ。彼が初代当主の息子であるレオン・グランベールにオーダーしたのは“黒板を書く際に腕を挙げやすいジャケット”だった。それを仕立てるときに、インスピレーションの源となったのが、猟区監視人のジャケット。モノクローム映画『ゲームの規則』のなかで実際に、猟区監視人役のエドゥアール・シューマッハは、「フォレスティエール」を着用している。銃を構え、野山を行き来するという実用性をふまえてつくられたデザインは、ル・コルビュジェのオーダーとリンクする機能性を備えていたのだ。それにくわえ、レオン・グランベールは1920年に父親がデザインした「ピヴォ」と呼ばれる袖に着想を得た。非常にゆったりとしたアームホールをもつこの袖は、着物の袖をモチーフにしたもので、わずかに中心をずらすことによって、腕を挙げてもジャケットの裾が上がらないという特徴をもっていたのだ。
猟区監視人のジャケット、父親が手掛けた袖
このふたつの要素を手に入れたテーラーは、ブラックのコットンコーデュロイ地でル・コルビュジェのためにジャケットを仕立てた。表地と同様にブラックカラーのシルクのライニングがついた一着は、従来のスーツよりも肩幅が広く、なで肩のつくりで、ポケットの縁飾りとアームの折り返し部分は異なる色で仕立てたもの。これこそが「フォレスティエール」が誕生した背景に秘められた物語である。以来、1950年代には「フォレスティエール」はお揃いのスラックスとともに、スーツとして販売され、タウン用でありながらレジャー用のジャケットとしても使える利便性の高いウエアとして親しまれた。そして1990年代にはレオンの息子であるジャン・グランベールがさらなるアレンジをほどこした。そのデザインは、ブーニャ(石炭屋)が着るシャツのような着心地の良さがあったという。
このモデルは、ボタンに銃のようにエングレービングされた真鍮の飾りがついており、ジャケットの出自がソローニュ地方の猟区監視人を彷彿とさせるもの。そしてパッチポケットは、縁飾りを見せてマチのように見せるために7ミリ幅で縫われ、オプションで冬用のライニングも提案されていた。
時を超えても受け継がれるものこそが、名品の証
そして、2013年。「フォレスティエール」はさらなる進化を遂げることになる。その主役となったのが、ベルルッティのデザイナー、アレッサンドロ・サルトリとアルニス3代目当主、ジャン・グランベールである。ふたりのコラボレーションによって生まれ変わった「フォレスティエール」は、なで肩、オフィサーカラー、パッチポケット、同素材のエルボーパッチ、2種類のライニングといったオリジナルのディテールを受け継ぎながら、袖を長めに取り、ロールアップした際の洒落心を覗かせることができるデザインに。またアレッサンドロも独自の解釈によってベルルッティのフィールドジャケットに近いタイトなシルエットのモデルを発表するなど、時を超えた名品ジャケットはあらたな展開を見せている。 4色のカシミアコーデュロイ、ウール100パーセントのフランネル、カシミア100パーセントのバージョンは、パリのセーブル店と銀座店の限定となるが、アレッサンドロによる、ダブルカシミアを使い、レザーのトリミングが施されたジャケットはベルルッティの全店舗で発売されている。時代とともに美しく進化する「フォレスティエール」との出会いを求めて、ブティックの扉を開いてみてはいかがだろう。