AS by atsuko sano|過去と現代、そして未来を自在に行きかうための刺激
FASHION / MEN
2015年2月27日

AS by atsuko sano|過去と現代、そして未来を自在に行きかうための刺激

AS by atsuko sano|エーエス バイ アツコ サノ

過去と現代、そして未来を自在に行きかうための刺激

パリを拠点にグローバル展開を続けるジュエリーブランド「AS by atsuko sano(エーエス バイ アツコ サノ)」。そのジュエリープロデューサー/デザイナーであるAS(アズ)氏がいま注目しているカルチャーが、大衆文化だ。ラグジュアリーなジュエリーと親しみのある大衆、その両者に共通する要素と魅力を全3回にわたってお届けする。

Photographs by WATANABE Hajime(diapositive)Text by ITO Yuji(OPENERS)

いま大衆文化に注目している理由とは?

「もともと私は、いわゆる富裕層といわれる人たちや各分野の先進的なアーティストやクリエイターと、多く接しながら生きてきました。それゆえに、何百年の歴史を持つ建築物や貴族が観賞したクラシックバレエや美術品には親しみを感じるいっぽう、いわゆる大衆の混雑に交わることが苦手でした。

しかし世界中を旅するなかで、現地のさまざまな大衆文化に触れ、旅行者としてあたらしいものへの好奇心を超えたインスピレーションをもらうことがたくさんありました。そのとき、ふと自分のなかにある矛盾が解きほぐされたような爽快感を感じたのです。大衆文化、演劇と自分とのかかわりを感じることができたことで、大衆演劇というものが、世界の共通性、人間の根源にたいする納得感として自分のクリエーションの枠組みに飛び込んできたのです。

いま、私はパリを拠点に異文化の方々と直接仕事をしています。そうしたなかで感じるのは、いまは贅沢品や高級ファッションの定番アイテムとしてジュエリーが求められる時代ではない、ということ。私自身もつねに『あなたのジュエリーは本物? 必要な存在なのか?』と注視され、少しでも気を緩めたら、瞬く間に終わる環境下でジュエリーを提供しています。毎期毎期の一瞬が命がけであり、日々、次のテーマや具体的なデザインを考える最中に出会ったのが大衆演劇の劇団荒城だったのです。

彼らは日替わりの演目をおこなうアスリートでもあり、裏方から表方まですべてを自分たちで仕切る運営力、そして一生の大半を自分ではなく役になりきらなければならない。なんてすごい世界なのだろうと心を打たれました。これまでのさまざまな経験と劇団荒城との出会いを通じた自国の大衆演劇との接点、それらすべてが立体的につながり、自分のクリエーションへのモチベーションとなることは必然のようにも感じられました」

文化からインスピレーションを

「ここ数年間通っている、アートアクアリウムにもおなじことがいえますが、大衆演劇 劇団荒城を見て受ける感覚は、過去と現代とさらに未来を自在に行きかう大きな刺激をもたらしてくれました。

ジュエリー創作において私が大切にしていることは、ジュエリーの普遍的パワーによって人々を予期しない世界へと導くこと。それによって、ジュエリーを身に着けた人は時空を飛ぶことができ、自分の過去生と対峙する楽しみも味わえるのです。

劇団荒城に接することは、私の想像の世界を広げ、ときには演劇のひとりに自分が役として入り込むことで演じたり、また江戸の男尊女卑の世界に身をおいて、現実には絶対にありえない女性になりきったり、妄想のなかからいろいろと考えが浮かんできて、とても楽しい。また、綺麗な女形の男性を見ると、男性の気分にもなれ、カッコいい男性のひとり舞台を見ると、特別なおもてなしを受けた気分で女性心をくすぐられ癒されるのも事実。観劇しているあいだは集中しているものの、その後に残るのは楽しく幸せな気分のみ。そのエンターテイメントとしての完成度の高さが秀逸だと思います」

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アートと大衆演劇における共通項と、それぞれの魅力

「以前、脳科学者の酒井邦嘉先生にお話をうかがったのですが、芸術の創作と観賞はどちらも人間の脳の精妙な働きの為せる技であり、美的感覚とは脳機能の一部としての心の機能である、とおっしゃっていました。その意味では、アートも大衆演劇も芸術(アート)であり、創作者の表現したい心を鑑賞者が自身の心で受けとめるコミュニケーションのひとつだと思うのです。

大衆演劇役者は演目の背景や、登場人物の喜びや悲哀を自分の心でどう解釈しているかが、鑑賞している人々の楽しみにも影響を及ぼすでしょうし、ジュエリーも本来もっているパワーや普遍的な世界観を創り手が味わい、表現することで、身に着けた方の感情や人生観に影響を与えるものだと思います。

もちろん、どのアートも人によって好きか嫌いかがはっきりしていますし、他人に押しつけるものでもありません。だからこそ、社会のなかで生かされ、その意味を自分の心で表現したものを、それぞれの人がもつ、切り口や想いで鑑賞してもらえればいいのではないのでしょうか。そして発信者と受信者が一瞬一瞬のうちに、相互関係を築くことができることが、喜びへとつながるのです。

また、世界の共通性、人間の根源に対する納得感というものも共通的なポイントだと思っています。人間はみなおなじであり、そして人は前向きに生きていくものである。そうした気持ちを伝えることがアートの役割であり、そこにジュエリーと大衆演劇の垣根はありません。人は生きていくために、感動した気持ちを『美』と感じるようにプログラミングされているのでは、とわたしは考えています」

時空を行き交う世界観を表現した「RINコレクション」新作ジュエリー

「エーエス バイ アツコ サノ」の新作ジュエリーは、大衆文化からインスピレーションを受け、より自由な発想をもとに、より力強い世界観が表現されている。今シーズンのコレクションは「コズミック」と「ミリタリー」のふたつのラインによって構成されており、それぞれにデザイナーの真摯な思いが込められている。

未来への希望を表現した「コズミック」

AS(アズ)氏は新作の「コズミック」について、こう語る。
「ジュエリー=宝石とは? 宝石と人とは共通の元素から成る同志であり、宇宙では我々の魂はかつて友人関係にありました。そこが、なぜ数千年前から人間は宝石を祈りとして身につけるのかにつながるのです。

また近い将来には、簡単に宇宙へ旅立つ時代が訪れます。それをふまえると、まだ知らない宇宙人と出会う日も近い。あの暗闇には誰もがワクワクせずにはいられない魅力を秘めています。そのため、このコレクションは未来への興味と希望を表現しているのです」

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戦いのさなかにおける感情を表した「ミリタリー」

「戦闘下の精神とは? 生と死をさまようなか、使命感と覚悟をもったパワーは想像を絶する世界です。現代日本に女性として生まれた私の身の上には、直接的には訪れませんが、いまこの瞬間も世界では戦いがつづいています。欲望のぶつかりあいは、絶え間なくつづいており、たくさんの国でさまざまなモノやコトに触れてきたなかで溜まった、行き場のない感情をこのミリタリーコレクションに込めました」

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AS by atsuko sano Jewelry producer/designer Atsuko Sano
2001年より南青山にジュエリーインファッションを軸にしたオーダージュエリーサロンをスタート。その後フラッグシップショップを青山骨董通りにて5年展開。2010年からコレクション発表の場をパリへ移し、ファインジュエリーカテゴリーでメンズ、レディースを展開。おもに海外のカッティングエッジなセレクトショップ、ジュエリー専門店へ展開中。ダイレクトオーダーはHPよりアクセスを。

Vol.2「大衆演劇とアートアクアリウムに見る、親しみのあるアート」 を読む

Vol.3「劇団荒城、荒城月太郎が演じる未来の希望と覚悟」 を読む

AS by atsuko sano
Tel. 03-5466-0502
http://www.as-by-atsuko-sano.com

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