GIORGIO ARMANI|画家、松井冬子が語る“私が重要なシーンで選ぶ服”
FASHION / FEATURES
2015年5月4日

GIORGIO ARMANI|画家、松井冬子が語る“私が重要なシーンで選ぶ服”

GIORGIO ARMANI|ジョルジオ アルマーニ

フェミニズムとインディペンデンス――ジョルジオ アルマーニの哲学をまとう

画家 松井冬子が語る“私が重要なシーンで選ぶ服”(1)

女性を題材にし、人体や痛み、生や死にアプローチする日本画を描き、世界的に活躍する松井冬子さん。彼女が考える“重要なシーン”において、服を選ぶ基準とは、どんなものだろうか? ジョルジオ アルマーニの服を着ることによってもたらされるフェミニズムとインディペンデンスについて、解き明かしてくれた。

Photographs by NAKAGAWA Makoto (3rd)Styling by KIMATA AyumiHair by TAKU(eight peace)Make-up by MICHIRU (3rd)Coordinated by Gallery NARUYAMA , NARUYAMA AkimitsuEdit&Text by NAKAMURA Akiko (OPENERS)

“自分が思っていたアベレージを超える服”というものについて

傷ついた女性の身体や、むき出しにされた内臓、幽霊……その作品から感じられるのは、この世のものではないような「美しさ」、さらに「痛み」が変貌していくような「美しさ」。世界的に注目されている画家、松井冬子さんが描き出す世界観だ。

海外での評価も高く、ちょうどいま現在も、サンフランシスコにある「ASIAN ART MUSEUM(アジア美術館)」で開催されているグループ展「アジアの亡霊展」(※展覧会は2012年9月2日まで)へ参加出展しているところである。

画家という職業である松井さんが考える、だれか重要人物と会うとき、または重要な場面へと登場するときに選ぶ装いとは、どんなものなのだろうか。また、その装いに必要な要素とは何なのだろうか。

――今日はまず、松井さんが考える“重要なシーン”と“そこで選ぶ洋服の基準”について聞きたいと思います。松井さんにとって“重要なシーン”とは? どんな場面を思い浮かべますか?

松井冬子(以下、松井) 自分の展覧会のオープニングや、大切な方との会食などの機会でしょうか。そのような機会は国内外ともにありますが、最近だと海外のほうが多いかもしれませんね。そのときに選ぶものというのは、日本では着物が多いのですが、海外ではガラディナーなどの場面でロングドレスを着ることが圧倒的に多い。ロングドレスはふだんはなかなか着れないので、やっぱりうれしいです。

――画家というとどんな日常を送っているのか、なかなか一般のひとたちからは想像しづらいのですが、ふだんの作品制作のときなどは、どんな格好をしていらっしゃるのですか?

松井 できるだけ埃の立たないものですね(笑)。画面に埃がついてしまうので、セーターなどは着れないんです。あとは、色が目立ちすぎると作品に反射してしまうので、できるだけ黒っぽくて目立たないものを着るようにしています。

GIORGIO ARMANI|ジョルジオ アルマーニ|松井冬子 04

――今日はジョルジオ アルマーニのコレクションをモデルとして着こなしていただきましたが、どうでしたか?

松井 そうですね、身体を美しく見せてくれたというのが、やっぱりいちばんうれしかったですね! とても着やせして見えた(笑)。1カットめの黒ジャケットは特にそうで、エッジが効いているのに、いい部分だけが引き立って、隠したいところは上手に隠してくれる。着心地がいいのに、かたちの美しさも損なっていない。首から肩にかけてのラインも、すごくきれいに見えていましたね。

4カットめのコーディネイトも、はじめは色と柄を見て着こなすのが難しいかな?と思ったのですが、自分で言うのもなんですけど、着てみて本当に「アメイジング!」と思いました(笑)。はじめて見る雰囲気の服だけれど思いがけず似合っていたし、とても好きになれたというか。タイトスカートに黒レザーのサッシュベルトを締めるというコーディネイトも良かったですね。

全体的に、色と質感とシルエットとを総合させたときに、自分が考えていたアベレージを軽く超えているような感じがしました。

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GIORGIO ARMANI|ジョルジオ アルマーニ

フェミニズムとインディペンデンス――ジョルジオ アルマーニの哲学をまとう

日本画家 松井冬子が語る“私が重要なシーンで選ぶ服”(2)

――ところで、松井さんが画家という職業を選び、いまの作風を作り上げるに至るのに、どんなものが影響していると思いますか?

松井 私はいまでも解剖学にとても興味があるのですが、興味をもったきっかけは祖父ですね。祖父は私が小さなころに、大学で美学(※芸術学)を学んでいたのですが、おなじ大学の医学部生に「きみは絵が上手いから解剖の絵を描いてくれないか」と頼まれて、結構な量を描いていたようで。それを聞いて、“なんてロマンチックなんだろう”と、解剖というものに対して憧れのような気持ちをもったことが、いまも頭のなかにこびりついて残っているわけです。実際に祖父の絵を見たことがあるわけにはないのですが、幼少のころのちょっとしたきっかけというものは、そのひとを形成する大きな要素になるのでしょうね。

――お母さまが茶道教授をなさっていらっしゃることも、影響があったのでしょうか。

松井 なんだかんだでいろいろ融合されているのだと思います。スタート地点がそのひとを形成するものだということにかんしては、ジョルジオ・アルマーニさんもきっとそうなのかな、と、先日自伝を読んで感じました。アルマーニさんのお母さまが、パラシュート布地や軍服をきれいに仕立て直した服を子どもたちに着せていたというエピソードや、お祖父さまがウィッグ店を経営していてアルマーニさんがそれに魅了されていたというのも、ファッション業界へ進むことを暗示しているかのようですし。さらに医学部に進学して、アナトミー(解剖学)的な視点をしっかりもったというのも、大きな要素なのではないかな、と思います。

GIORGIO ARMANI|ジョルジオ アルマーニ|松井冬子 03

――そこが洋服のパターンに表れている?

松井 そうですね、当然反映されてくることだと思います。デザインの基本となる土台が、アナトミーのようなところからエッセンスを得ていることが、すごくおもしろい。ジョルジオ・アルマーニという人物まで、すごく見えてきますよね。

ほかに興味深いなと感じるエピソードは、70年代中盤にフェミニズムの波が興って、アルマーニさんの妹やその友だちが、兄たちのジャケットを着たがったというところ。マドモワゼル シャネルも、当然フェミニズム的な考え方があっていろんな服を作ってきたと思いますが、アルマーニは男性でありながら、フェミニズムの考え方を取り入れて服づくりをしていった。男性的な威厳というものを女性の服に取り入れていったというところがおもしろい。

――ジョルジオ・アルマーニ氏とのあいだには、ご自身との共通項を何か感じますか?

松井 共通項だなんて、おこがましくてとてもそんなことは言えないですが(笑)……やっぱり見るからに、完璧主義ということは伝わってきますよね。それと、少ししつこいようですけれど、フェミニズム的な考え方というものが私のなかにはあるので、そういう意味で共通するものを感じます。みんなが嫌がるいわゆる“フェミニズム”ではなく、女性がインディペンデントな存在になっていくことを支える意味でのフェミニズム。ジョルジオ アルマーニには、女性の自立を支えているブランドというイメージがあるんですよね。

――「女性の自立を支える洋服」だということが、重要なシーンにおいてジョルジオ アルマーニを選ぶ理由につながってもくるのでしょうか。

松井 そうですね。ジョルジオ アルマーニを着ることが、イコールフェミニズム的哲学をもっているという提示にもある。その服をまとえば、哲学も読み取れるし、美しくも見えるし……やっぱり自分を演出するのには、もってこいのブランドなのだと思います。

松井冬子|MATSUI Fuyuko
1974年静岡県生まれ。2005年、東京の成山画廊にて初個展「松井冬子展」開催。2007年 東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程 美術専攻日本画研究領域修了、博士号(美術)取得。2010年にはパリ Galerie DA-ENDにて「松井冬子展」、2011年には横浜美術館にて「松井冬子展 世界中の子と友達になれる」、2012年成山画廊にて「鳥眼」開催。

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