三原康裕│日本モノづくり「第4回 和田メリヤス」(2)
Fashion
2015年3月13日

三原康裕│日本モノづくり「第4回 和田メリヤス」(2)

MIHARAYASUHIRO × Wada Meriyasu × Shinnaigai Textile

第4回 和田メリヤス×新内外綿のスウェットパーカ(2)

ファッションデザイナー三原康裕さんが、日本の誇る工場や職人を訪ね、日本でしかつくれない新しいモノを生み出す画期的な連載企画「MEANING MADE IN JAPAN MIHARAYASUHIRO(MMM)」。
旧式の「吊り編み機」を独自に改造し、独創的な生地を編み出している和田メリヤス。その工場内で初めて吊り編み機に触れた三原さんは、ここでしかつくれないスウェットのアイデアを探っていく。

写真=溝部 薫(ホークアイ ヴィジュアルワークス)、jamandfix構成・文=竹石安宏(シティライツ)協力=萩野 宏

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不可能を可能にした独自の技術

広々とした和田メリヤスの工場内には、梁に吊り編み機が整然と吊り下げられている。現存する吊り編み機は約200台といれているが、同社はそのうちの150台を所有。100台を常時稼働させており、残りの50台を新しい企画開発のために充てている。

そうした独自開発によって実を結んだのが、ノッターと呼ばれる靴下用の編み糸切り替え機を組み込み、コンピューター制御することで表現可能になったボーダー生地だ。そんな伝統的吊り編み機と最先端技術が融合する和田メリヤスの工場内を見学した三原さんは、その吊り編み機の表現力に新たな可能性を見出したようだ。

三原 吊り編み機はアナログのイメージがありましたが、コンピューターを導入されているのは意外でした。

和田 弊社は創業以来ずっと吊り編み機一筋であり、シンカー編み機を導入したことはありません。約10倍の生産速度と1/3の稼働コストを誇るシンカーに対抗するには、最新技術を導入しオリジナリティで勝負するしかなかったという面もありますね。コンピューターは1980年代から導入し、プログラミングも独学で勉強しました。

三原 そんな時代から導入されていたとは、職人でもあるのにハイテク関係にもお強いんですね。

和田 携帯電話などは普段持ち歩かないんですけどね。振り回されるし、機械を見ているときに油だらけの手で触りたくないので(笑)。

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ここでしかできない革新的生地

こうして工場を見学し終えた三原さんは、和田さんが開発したオリジナルのサンプル生地をチェックしている途中、ある生地に目を留めた。

それは一見すると一般的なパイル生地だが、編み物の構造を理解している者にとっては驚嘆に値する生地。その生地は表面だけではなく、裏面もパイル組織になっていたのだ。

生地の表面に糸がループ状に残るパイルは、糸にテンションをかけられないので、編み地の場合はとくに組織が不安定になる。ましてや両面にループを残すとなると、それはなおさらのこと。そんな問題を解決した両面パイルの編み地は、最新のニットマシンはおろか和田メリヤスの吊り編み機でしか編めない生地だという。

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三原 この生地はどんな構造になっているんですか? よくこれで組織が安定しますね。

和田 たまにデザイナーも工場見学にきますが、三原さんほど編み物に詳しい人はいませんでしたよ。この生地は……

和田安史さん

現場で見えたメイド・イン・ジャパンの実力

その後ふたりは生地の組織構造について専門的なやり取りを熱心に交わした。そして三原さんは、今回のスウェットづくりのためにこの生地を選んだ。それは吊り編みらしい手編みのように柔らかな肌触りと、両面パイルがもたらす驚くほどの軽やかさを備えた、紛れもなくここでしかつくれない生地だったのだ。

三原 今回訪問させていただいたことで、吊り編み機のイメージが変わりました。これでデイリーに着られるハイクオリティなスウェットがつくれそうです。

この連載では「メイド・イン・ジャパンとはなにか?」というテーマを掘り下げることが目的ですが、それは全体で見ると得てしてぼやけてしまいます。でも、今回のように一社にスポットを当てて入り込むと、その意味がクッキリと見えてくる。ぜひいまの体制をつづけていただきたいと思います。

和田 弊社の吊り編み機は自分でメンテナンスもしなければなりませんが、いまでは息子も手伝ってくれています。それに吊り編み機を使った新しいアイデアが、まだまだあるんですよ。ひとつの技術が完成すると、いろいろなことにそれを応用することもできますからね。吊り編み機には「これだけしかできない」というイメージをもったことがないんです。たとえ弊社しかなくなっても、今後もずっと吊り編み機でやっていきたいですね。

こうして吊り編み機に対する和田さんの飽くなき情熱と探究心に触れた三原さんは、今回のスウェット生地を編むための糸まで探求したいという、新たな欲求に駆られることになる。

そして日を改め、スウェット生地には欠かせない杢糸の生産で名高い、岐阜県の紡績工場ナイガイテキスタイルへと向かうことになったのだ。

           
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