第12回 アニメーション作家・佐藤雅晴
Fashion
2015年5月20日

第12回 アニメーション作家・佐藤雅晴

第12回 アニメーション作家・佐藤雅晴

ドイツを拠点にアニメーションを制作している佐藤雅晴くんを紹介します。

文=増田啓晃

佐藤くんとは数年前、仕事で立ち寄ったドイツのデュッセルドルフで知り合って以来、僕が手がける「CAUSE」の展示会のDMなどの依頼を通してのつきあいです。
ちょうどそのとき、彼が自主制作短編アニメーションの作業にとりかかっていて、その一部を観せてもらい、従来のアニメーションとはちょっと違う異質な印象をうけたことを憶えています。
しかも独学で個人制作と聞いたので、丁寧に描かれた画を一枚一枚制作することを考えたら、膨大な作業量になるだろうなと思いました。

そして、今年に入って佐藤くんの帰国時に完成した作品を観ることができたのですが、気がついたら彼と出会ってから、3年の月日が経っていました。

アニメーションをつくる

佐藤くんはもともと東京芸大でインスタレーション作品を中心に制作していたのですが、渡独後、デュッセルドルフアカデミーというドイツの芸術大学に通うころから、アニメーション制作を始めたそうです。

「日本にいたころとくらべて、ドイツでの制作は渡独前に考えていたよりも言葉の問題や生活環境など、とても困難でした。でもその環境がかえって、じっくりと自分と見つめ合う時間を与えてくれました。そうした影響からか、芸大のころは絵を描く行為から離れていましたが、もう一度描いてみようと変化しました」と佐藤くん。つづけて、「また、新しい環境のせいか頻繁に不思議な夢を見だしたこともあって、それをモチーフに制作し始めました。そして、模索していくうちに流動的な夢の世界観をビジュアル化するためには、アニメーションという表現手法が非常に相性がいいことに気づきました」と語る。

アニメーション『TRAUM』 © 2007 MASAHARU SATO

TRAUM

3年間という長い時間をかけて完成した『TRAUM』(トラウム)はドイツ語で夢という意味だそうです。
佐藤くんがドイツに渡ってから一貫してつくり続けた夢の世界は、かならずしも空想のみの世界ではありませんでした。
『TRAUM』の映像には彼の住む街の風景が基盤になっているようで、どちらかというと、ふだんの日常の世界に夢が入り込んで来るような印象を感じました。

「夢というものは私たちが普段の日常生活のなかで生じた無意識の反映だと思います。夢の具現化をするために、その影響の元である日常を具体的に描きながら、そこに夢の断片をスライドさせることで、より強く夢の世界を成立させようと試みています。一言で言ってしまえば白昼夢の映像化のようなものです。
『TRAUM』はそんな夢と日常を行き来するアニメーションです。
音楽はsub-tle.(サヴトレ)が協力してくれました。彼らもまたドイツを拠点としてヨーロッパで活動しているバンドで、クラウス・ディンガー(Kraftwerk, Neu!, la duesseldorf)ともいっしょに活動をしています。(4月17日にはベルリンから彼らのアルバム『pre_mary』が世界リリースされます)。
私の意向もあって環境音の録音やスタジオでの演奏、プロセッシングなど、アニメーションの映像にインスピレーションを受けたカタチでの制作をしてもらいました。
最終的には映像のみのときには表現できなかった雰囲気を彼らの音が加わることで、私が当初イメージしていたものより数段いいものに仕上がったと思います」と、佐藤くんは自信をみせています。

アニメーション『TRAUM』 © 2007 MASAHARU SATO

団・DANS「The House展」

今年の5月に開催される団・DANS「The House展」という展覧会に佐藤君が参加します。場所は六本木ヒルズのそばにある住宅展示場が展覧会場のようです。

佐藤くんは、「団・DANSは今年で第4回にあたるのですが、既存の型にはまらない展示スペースでの展覧会を開催しています。今回もまた住宅展示場という一風変わった場所での展示になります。また出品者は若手アーティストが大多数をしめていて、とてもエネルギッシュな展示空間になると思います。
私の出品作品は『TRAUM』のアニメーションと新作の平面作品3点です。
平面作品は私のテーマでもある夢の世界を、映像ではなく一枚の画に展開できるかの新しい試みです。また、展示空間は一部屋を与えられるチャンスにも恵まれました」。すごく楽しみです、と語っています。

僕もこの「The House展」、とても楽しみにしています。
佐藤くんの作品が新作も含め観賞できる絶好の機会なので、みなさんも時間があったらぜひ、展覧会に足をはこんでみてください。

平面作品『White Octopus』© 2008 MASAHARU SATO

団・DANS「The House展」
会期│5月19日(月)~5月29日(木)
時間│11:00~17:00(入場は16:30まで)
場所│六本木旧住宅展示場
    東京都港区西麻布3-2-19(グランドハイヤット東京の斜め向かい)

sub-tle.│http://www.sub-tle.com/
団・DANS「The House展」オフィシャルサイト│http://www.geocities.jp/dandans_news/index.html

           
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