「HSW」の本田博之さんに聞く(3)
photo by Jamandfix
値段は音の値段です
~Honda Sound Worksの名機紹介~
望月 唯:本田さんのエフェクターというとやはり「MAD FUZZ」からですね。
本田博之:これがHonda Sound Worksでのサウンドプロデュース第1号ですね。韓国にヴィンテージエフェクターの買い付けに行って、エーストーンのリズムボックスとかモーリーのエコーとかエレハムとかお宝状態だったときがあって、食事に行って、茶碗がころがっていて「これをエフェクターにしたら面白いよね」っていうのがきっかけでしたね。
望月:それを本当に使ったわけで‥‥。
本田:ぼくはアナログなパーツを取り巻く磁界にすごく興味があって、もちろんケースでも音は変わるわけです。
望月:これはどんな音ですか。
本田:トライアングルノブというビッグマフの初期の機器があるんですが、それを分離感を良くして、音の音圧感を出すというコンセプトでした。普通のケースより高域の倍音がキラキラしてキレイですよ。
望月:これはカタチがユニークだから外国人にもウケるでしょうね。値段はいくらですか?
本田:1万8000円ですね。
望月:外国人ミュージシャンが喜ぶと言えば「WALLMAN」ですね。
本田:これはギターアンプなんですが、トランジスタなのにチューブアンプの音がするんです。
望月:デジタルなのにアナログの音がするんですか。
本田:9Vの電池一つで、「どうしてヴィンテージアンプの音が出るんだ!?」と不思議がられますね。
望月:あと、Honda Sound Worksの名機と言えば「フジヤマドライブ」です。
本田:これは、ヴィンテージアンプのチューンナップをしているときに、最終的に大切なのは高域と低域のバランスだと悟ったわけです。そのバランスをつくれるエフェクター発想のギターアンプがあれば、どんなギターでもいい音が出るだろうと。
望月:何年頃に完成したんですか。
本田:友人の記憶だと2000年の5月らしいですね。これはかなり時間がかかりました。
望月:値段はいくらですか?
本田:これは12万円ですね。値段は音の値段です。一番苦労したのはアンプの倍音が出ないことでした。それで、オーディオや電話機の会社のウエスタンエレクトリック社の電話機の配線で使っていた線を使っているんですよ。抵抗とかコンデンサとかいろいろ試した結果でした。
望月:この「フジヤマドライブ5」というのは?
本田:これは山の5合目の5という意味で、価格を半分にして扱いやすいエフェクターをつくろうと。エフェクターは普通はプリ部でドライブさせる音が一般的ですが、ぼくはパワー部でドライブさせる音がロックだと思っているので、そのなかでも扱いやすいものをつくりました。倍音があまり出ない分、骨太な感じがして、コンプレッション感があるからサスティーンが出ていく。
望月:弾いてみたくなりますね(笑)。
本田:「フジヤマドライブ」はライブ的な音圧感がテーマですが、この「5」はレコーディングのときの音ですね。これで思い浮かんだのは初期のドライブサウンド、ZZトップの顔が浮かびました。
望月:それぐらい具体的なんだ。
本田:自分の中にデータとして音が入っているんですよね。海外のミュージシャンには「サウンドテーラー」と呼ばれています。「サウンドテーラー」のグル(笑)。
望月:まさに教祖(笑)。
本田:コンプレッサの「FCR450」は、いいコンプレッサがないのでつくりました。入れたら音の輪郭がしっかりして、圧縮率が良くて、ローからハイまでバッチリ出ます。最終的に音の厚みを出すためにヴィンテージパーツを使っていますが、すごくよくできましたね、これは。
望月:これはディレイですか?
本田:見た目はディレイっぽくないですが。アナログ素子がもうなくて、デジタルだったらなんとかつくれるとパーツから始まって、ぼくの好きなディレイの回路を研究して、改良して出来上がりました。デジタル回路だけど、音質はアナログのテープエコーの音がします。
望月:ほー。
本田:デジタル回路だからノイズが少なく、9Vでしっかり動いて、寿命が長くて、軽くて、パーツも比較的見つかりやすい。さらに操作性にこだわって、足でコントロールできるように工夫しています。トゥルーバイパスっぽい音の表現になっていますね。
望月:かなりこだわって時間もかかっていますね。
本田:完成したあとはもうネジ1本変えたくないです。
望月:開発にはどれぐらい時間をかけるんですか?
本田:音をつくるのは1日2時間ぐらいしかできませんね。あと、弾いたときに感動がないと‥‥。
望月:あと、ケーブルの話もぜひ!
本田:ピッキングを殺してしまうケーブルが多いので、ノイズが減って、音速が速くなって、音がでかくなるケーブルをつくって、200種類の中のベスト3を販売しています。絶縁部分が特許なんですが、アコースティックな倍音を含んだ音には「紙」、ブリティッシュな中域が速く耳に届く「ゴム」、高域が速く耳に届く「単行本の背表紙に使われているガーゼ状」の3本です。
望月:これもスゴイですね。でも本当にHonda Sound Worksがなくなるのは残念です。