「HSW」の本田博之さんに聞く(2)
photo by Jamandfix
いい音はひとつしかない
望月 唯:どうやって具体的に音をつくっていくんですか。
本田博之:ぼくがいつも考えているのは、年代の音のベーシックなトーンです。50年代の音をつくりたいなと思ったら、50年代の本物の音をたくさん聴いて、それのトーンのバランスを聴き取っていきます。50年代のギターを使っている90年代の音ではダメなんですよ。
望月:なるほど。
本田:面白いなと思うのは、料理人とよく話が合うんですよね。料理はすべてバランスなので、音も料理も“バランスをどう崩していくかが個性”なんです。だからバランスを崩すときに調味料的なパーツを使うわけ。
望月:本田さんが好きな音は?
本田:いいギターの音がしている音楽は全部好きですよ。
望月:好きなギタリストは?
本田:特にいないなぁ。強いて言えば南部ロック、60年代70年代ロック。かっこいいギターの音が鳴っているバンドは全部いい。ジャズでもロックでも好きですね。
望月:パーツの勉強とかされたんですか?
本田:音の研究は、音楽を聴くことだけです。それで、パーツ1つ1つの音を常に頭の中に入れていく。目指す音のためにパーツの組み合わせのイメージを描いて、どうしてもヴィンテージパーツの音域が必要なら取り寄せて使います。
望月:年間どれぐらいの数を開発するんですか?
本田:新製品を発表していた時期は、年間20~30台は開発していましたね。でも50~60台はつぶした結果の数ですけど。いい音楽を聴くとエフェクターをつくりたくなるんですよ(笑)。
望月:それはもう本能(笑)ですね。
本田:いい音楽を何回も聴いて、技術者にぼくのアイディアを話して。ぼくは技術者は通訳だと思っているんですよ。これまで、技術者とプロデューサーを両立できたのはレオ・フェンダーだけですね。彼と一緒に仕事をしたとき、僕は技術とプロデューサーは分けないと無理だなと思った。レオ・フェンダーは全部一人でできたんですよ。
望月:本田さんの中に理想の音があるわけですね。
本田:いい音はひとつです。カラダの中でイメージしている音というのはひとつ。それはスペックじゃなくて、いい音はカラダの中に入っているので、ブレがありません。
望月:では次回はHonda Sound Worksの名機列伝を。