LOOPWHEELER|ルモアズ特別モデルのスウェットパーカをオーダー! 代表 鈴木 諭氏にインタビュー
LOOPWHEELER|ループウィラー
「ループウィラー」にルモアズ特別モデルのスウェットパーカをオーダー!
代表 鈴木 諭氏が語る、“メイド・イン・ジャパン”へのこだわり (1)
“トレンド”というひとつの時代の流れに合わせ、移り変わる人びとのファッション。ブランドが提案するあたらしいスタイルに誰もが敏感となり、その変化に目を見張る。LOOPWHEELER(ループウィラー)代表である鈴木 諭氏は、その舞台裏で日々汗を流してきた人物だ。商品ラインナップは吊り編み機で編まれた生地のみを使用したアイテムの数かず。ブランドスタートから10数年経ったいま、店舗では新作を発表すれば完売続出、人気ブランドやセレクトショップからも別注アイテムのオーダーは絶えない。このたび、そんなループウィラーとショッピングサイト「rumors(ルモアズ)」が特別モデルを制作することとなった。発売は来年3月を予定。OPENERSでは特別モデル完成までの道のりを数回にわたり紹介する。第一回目となる今回は、ブランドスタートの経緯やこだわりについて「ルモアズ」ディレクターである松本博幸が聞いた。
Text by FUJITA Mayu(OPENERS)
“吊り編み機=Loop wheel Machine”
――ブランド立ち上げのきっかけは?
もともと僕たちがやっていた仕事というのは企画・生産という裏方で、あらゆるアパレルブランドのカットソーをつくってきました。それが15年くらいでしょうか。素材、パターンメイキング……いわゆる“生産管理”という仕事です。 僕自身、大学を卒業してからずっとこの業界であらゆる素材や製品を手がけてきました。靴下から機能性重視のスポーツウェアまで、テーラードもの以外はすべてつくったと思います。そうして裏方で経験を積みながら、吊り編み機で編まれた生地の豊かな風合いや、その価値感を共有できるメーカー(職人)さんとの出会いを重ね、商品企画に携わり“モノつくり”をしていました。
――吊り編み機とほかの編み機では、なにがちがうのでしょう?
1960年代中盤まで、世界の多くの編み機は吊り編み機でした。ではなぜ吊り編み機が衰退していったというと、ようするに効率が悪かったんです。たとえばスウェット生地だと、素材などの条件によってもちろん差はありますが、吊り編み機では1時間に1メートルほどしか編めない。60~70年代とは社会が急激に成長する時代で、機械メーカーも非効率な機械よりはるかに優れた近代的な高速機を開発し、1時間に10メートルも20メートルも編めるようになったんです。
ただ、双方の生地はまったくちがう仕上がりになります。吊り編み機は、糸にほとんどテンションをかけずに編める編み機です。どんなものを編むかによって多少異なりますが、1分間にだいたい24回転、それが平均スピード。はっきりと目で追える速さです。編まれた生地も重力によって下に下がっていき、床に用意されたタライのような丸いトレイの中に重なっていく仕組みです。かたや現代の高速編み機だと、遅いものでもその10倍、早いもので30倍。もちろん目で追える早さではありません。
しかも編むスピードを上げるには、糸もピンと張らないと絡まってしまいますし、編み上がった生地をおなじスピードで巻き取ってあげないと、できあがった生地が出口につまって機械が止まってしまいます。ようするにスピードを上げるためには、つねに糸に緊張感を与えなくてはなりません。
この機械を上回る機械は存在しません。いまのテクノロジーでは
針の形状も異なります。吊り編み機の針は釣り針のようなカタチで、糸を引っ掛けているだけなので、なにかの拍子に糸が抜けてしまうこともあります。しかし現代の高速編み機の針は、針の先が可動式になっていて、糸をカシッとはさむんです。これなら高速で回転しても糸が抜けることはありませんが、そのかわり遠心力により糸はつねに引っ張られることになります。
――糸が痛んでしまう、ということですか?
裁縫用の糸がもし家にあったら試してもらうとわかりやすいと思いますが、たとえば長さが1m、直径が1mmの糸があるとします。これを力いっぱい引っ張ると、おそらく長さは1m1cmと長くなり、その分直径は0.9mmと細くなると思うんです。そのまま編めば、糸が細くなった分だけ密度が増しますから、どうしても生地目のつまった固い生地になります。ですから目を詰めた固めの風合いのスウェットをつくるのであれば高速編み機が優れているといえます。
しかし糸本来のもつ綿のふわふわとした柔らかさをなるべくそのままに、自然の風合いや素材本来の潜在能力を残しながらいかに生地にするか、ということであれば吊り編み機でつくったものがいまのところ最高でしょう。現在のテクノロジーでは、この機械を上回る編機は存在しません。もともと綿の繊維は天然の中空(空洞)構造になっていて、空気を含むほどふんわり柔らかく、保温性も高まります。洗濯を繰り返せば繰り返すほど、高速機械で編まれた生地との差を感じてもらえると思います。
LOOPWHEELER|ループウィラー
「ループウィラー」にルモアズ特別モデルのスウェットパーカをオーダー!
代表 鈴木 諭氏が語る、“メイド・イン・ジャパン”へのこだわり (2)
吊り編みのスウェットを着ている日常が、僕の“普通”だった
――メイド・イン・ジャパンにこだわる理由とは?
バブルがはじけてから1995年くらいにかけて、生産が加速度的にメイド・イン・チャイナにシフトしていきました。昔は僕の知る限り、吊り編み工場が和歌山に10軒ほどありました。それが倒産するところもあれば、廃業するところもあり、その結果90年代後半には2軒に。もう吊り編み工場は日本に、たった2軒になってしまいました……。
僕はこの業界でずっと工場の方々にお世話になってきたわけですし、日本製がなくなっていく寂しさも感じていました。生産背景やマーケットが変化するなか、自分たちも中国へ進出してモノづくりをするのか、それとも日本製にこだわり、あくまで日本に留まるのか、自分の仕事、会社としても深く考えていました。
そのなかで自分にはなにができるのか、なにが一番好きなのか。原点に返ったとき、“僕は吊り編み機で編まれたこのスウェットが大好きなんだ”と思ったのです。
服に囲まれた仕事をしてきたので、あらゆるブランドの洋服を着ていました。でも結局、自分たちが作った吊り編み生地のパーカやスウェットを着ている日常が僕の“普通”。ああ、自分はこれが一番好きなんだ、これを着ている自分が一番しっくりくるんだ、とあらためて気づきました。
せっかく仕事が増えても、継ぐ人間がいなければ産業そのものが衰退してしまう
少し話は変わりますが、いろんなことを総合して考えると、吊り編み機で編む生地を使ったブランドをつくり、年間をとおして計画的に生産していければ、吊り編み機の文化を後世に繋いでいける。それが“メイド・イン・ジャパン”を守ることに繋がる……なんて、ちょっと偉そうですけれど(笑)。
僕たちがひとつの“ケーススタディ”として、ちゃんと世の中に認めてもらえれば、そういうものがあるんだと気づく若いひとが出てきて、たとえば“自分たちも吊り編み機で編んだ生地でなにかつくってみよう”という広がりが生まれるのではないかと思ったのです。自分ひとりでは支えられませんからね。
そうやって少しずつ広がって、いろんなブランドがそこに入ってくれば、この業界が少し盛り上がっていけるんじゃないかなって。ブランドだけでなく、工場の門をたたく若いひとも増えるかもしれない。
とにかく着てみて、洗ってみて、時間を一緒に過ごしてもらう
――ブランドスタート当時のお客さんの反応は?
吊り編み生地にはデニムの“赤耳”のようなわかりやすいアイコンもありませんし、着心地をビジュアルで表現することはできません。つくり手として多少の自信はありましたが、いざ売り手となるとまったくの素人(笑)。どうしたら吊り編み生地のよさを言葉でお伝えできるのか。最初は吊り編み機で編まれた生地について説明することが仕事、という感じでした。ただ正直に本当のことだけを伝え、実感していただき、信頼してもらうこと。その積み重ねをいまも変わらずつづけています。とにかく着てみて、洗ってみて、時間を一緒に過ごしてもらうことで、わかってくださる方はもう一度ご来店してくださる。
ものをつくるというよりも、お店という場所をとおして、吊り編み機で編まれた生地というものを説明するのが仕事、という感じでした。
LOOPWHEELER|ループウィラー
「ループウィラー」にルモアズ特別モデルのスウェットパーカをオーダー!
代表 鈴木 諭氏が語る、“メイド・イン・ジャパン”へのこだわり (3)
世界で一番と言われるスウェットメーカーになりたい
――海外を意識するようになったきっかけは?
じつのところ発表は海外の方が先だったのです(笑)。スタートしたからにはその世界で一番とか、金メダルをもらいたい。とれないかもしれないけど、一番をとる努力はするべきだと自分に言い聞かせてました。だからループウィラーをはじめたからには世界で一番、と言われるスウェットブランドになりたい……と思いながら、日々吊り編み生地と向き合っています。
裏方をずっとやってきたので、“スウェット”というカタチをつくることにかんしてはプロとしての意識をもっていましたし、ある程度自信もありました。あとはクリエイションが通用するのかどうか。それなら無垢な目で見てくれる海外で見ていただいたほういいと思ったのです。それで知り合いがロンドンにいたこともあり、まずはロンドンに持って行ったのがはじまりです。
――そのときの反応は?
当時Denime(ドゥニーム)やFULLCOUNT(フルカウント)、EVISU JEANS(エヴィスジーンズ)など、日本のデニムが英国で流行っていて、オーセンティックなモノづくりにかんしては、フラットに見てくれました。ただループウィラーの製品がスウェットシャツとしては高価なこともあり、最初はなかなか相手にしてくれませんでした。それが1999年、翌年の2000年は英国のジャパンイヤーだったんです。あらゆる分野でイベントをやって、日本の製品を紹介する、という1年で、Selfridges(セルフリッジ)というデパートがメインとなっておこなわれました。
たった3、4行のメールからはじまったコレットとの付き合い
ちょどその頃、僕たちもセルフリッジにアプローチしていたところで、ジャパンイヤーをきっかけに商談が成立し、いいスタートになったことを記憶しています。
さらにセルフリッジに入っていた僕らの商品をcolette(コレット/セレクトショップ)バイヤーのSarah Lerfel(サラ・ラフェル)さんが見て、現地の雑誌などで紹介してくれました。それからすぐにサラから商談の連絡があり、コレットとのお付き合いがはじまりました。まだコレットができて3年目くらいだったと思います。
――セルフリッジにはどんなアイテムを?
彼らが一番気に入っていたのは、カタカナで胸に“セルフリッジ”とプリントしたものでした。僕ら日本人からすれば“ちょっと……”と思うかもしれないけど、彼らにとってカタカナは記号、あるいはデザインに見えるのでしょうね。
大人にこそお薦めしたい、大人のためのスウェット
――さて、ルモアズとの特別モデルは、どんなアイテムをつくる予定ですか?
鈴木 デザイン自体はループウィラーで展開しているパーカーをベースに、基本的にはルモアズサイドにお任せしています。ただ今回、これまで展開のなかった新素材を使用する予定です。
松本 今年の春夏シーズンに発売されて即完売したという“エキストラライト”の生地より厚めで、定番の“ライト”の生地より薄め、それでいてちょっとハリ感のある生地がイメージなのです。というのも今回ルモアズでは“大人のための春スウェット”を提案したいと思っており、私のイメージとしてエクストラライトでは表現できない、もう少しコシのある素材感が必要だったのです。
鈴木 ベースのカラーはループウィラーの“グレーメランジ”という色味を予定しています。ループウィラーでは他ブランドさんとコラボレーションするときの袖口のネームタグをそのブランドだけのカラーリングでつくっているんです。
松本 ルモアズでは黒地にグレー文字のタグをリクエストしました。よりシックなイメージです。全体のデザインとしては、トラッドなスタイルで進めています。若い方ももちろん着られるけど、大人にこそお薦めしたい、大人のためのスウェットをつくりたいと思っています。
――ありがとうございました。
次回は実際にカタチになったサンプルを前に、デザインについてご紹介します。乞うご期待!