日本のクリエイティブが世界に羽ばたく方法。中川悠介(アソビシステム社長)×中馬和彦(KDDI) |対談
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2021年9月6日

日本のクリエイティブが世界に羽ばたく方法。中川悠介(アソビシステム社長)×中馬和彦(KDDI) |対談

au 5G|渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

バーチャル原宿から考える、日本のクリエイティブ業界に足りないこと

コロナ禍により、ライブを中心に活動していたエンターテインメントは苦境に立たされている。その一方で、新しい変化を受け入れ発展させるチャンスと見る向きも。そこで、アソビシステムの社長を務める中川悠介氏と、KDDI事業創造本部 ビジネスインキュベーション推進部の部長 中馬和彦氏による対談を企画した。
今後バーチャル空間はエンターテイメントをどう変えていくのか? さらには日本のクリエイティブをガラパゴスにしないための方法論についてなど、興味深い話が盛り沢山の内容となっている。

Edit & Text by TOMIYAMA Eizaburo | Photo by MAEDA akira

コロナになったことで「バーチャル」という新しいエンタメがスタートした

ーー「バーチャル渋谷」のエリアが拡張され、新たに原宿エリアがオープンしました。おふたりは、その記念イベント「バーチャル原宿 au 5G POP DAY OUT2021」(2021年5月25日~31日)でご一緒されたのが出会いですか?
中川(アソビシステム社長) それ以前に「バーチャル渋谷」のハロウィンフェスでもきゃりー(ぱみゅぱみゅ)がライブをさせてもらっていて。当時もコロナ禍でライブができず、SNSなど一方的な発信が続いていたのでファンと触れ合う機会が得られたのは大きかったです。
先日の「バーチャル原宿」では、りゅうちぇるさんや、ねおちゃんなどのトークセッションを見ていて新たな可能性を感じました。バーチャル空間はバーチャルな人だけのものだと思っていたんですけど、リアルな僕らも参加できるんだなって。
アソビシステム代表取締役社長・中川悠介氏
中馬(KDDI) 逆に、もっとできたなと思うことはありましたか?
中川 う~ん、もっと好き放題やれたのかなとは思います。
イベントでは「バーチャル原宿」スペシャルサポーターを務めるきゃりーぱみゅぱみゅさんと、モデル・動画クリエイターのねおさんによる「原宿のおすすめスポット」についてのVTRも放映された。
中馬 このご時世だと、リアルで開催できないからバーチャルでやらざるを得ないという感覚が強いと思うんです。それだとリアルに戻ったときの存在価値が希薄になってしまう。本当の意味で、バーチャルだからこそできることが今後のポイントになると思うんです。
中川 確かに、当初はリアルの代替としてバーチャルを考えていました。その後、ライブ配信とかいろいろやってみて思うのは、既成概念を超えたことをやるチャンスだなって。2013年にきゃりーが海外ツアーをしたとき、LA公演を日本のファンに観てもらうという発想は一切なかったんです。でも、今の感覚ならバーチャル空間でライブをやってもいいし、初音ミクやキズナアイと共演することもできる。それはすごく面白い未来だなと思います。
中馬 バーチャルを一度体験すると接し方がわかりますよね。そうすると新たにチャレンジしたいことが出てくる。
KDDI 事業推進本部 ビジネスインキュベーション推進部 部長・中馬和彦氏
中川 「リアルだけでいいよ」というのは思い込みで、「バーチャルにいけばもっと広がるじゃん!」みたいなことは気づきましたね。
中馬 ありきたりですが、バーチャルは「時」や「場所」を超えることができる。きゃりーさんの海外公演を日本でも観られるだけでなく、当時と同じ場所で過去の自分と共演できたりもする。
中川 そうなんですよね。でも、コロナ前はその面白さに気づくのは難しかったと思うんです。そういった意味でも、コロナになったことで「バーチャル」という新しいエンタメがスタートした気がします。

KDDIがエンターテインメント分野に5Gを積極導入する理由

ーー中馬さんは5Gによって、第一次産業も含めすべての産業構造が変わると仰っています。それほどまで大きな変化の中で、なぜKDDIはスポーツやエンターテイメントに力を入れようとしているのでしょうか?
中馬 シンプルに熱量が高いからです。革新的な技術って意外にわかりづらいから伝わりづらいんですよ。一方で、フェスに行って「えっ、何これすごい!」っていうピークの振り切れた体験をすると、原体験として心に残ると思うんです。そこからちょっとずつ生活の中に落ちてきて、便利さを感じながら現実になっていくほうが訴求しやすい。なので、一番最初は熱量の高いところからやっていきたいんです。
中川 2013年には「au 4G LTE」を使ったイベント(FULL CONTROL TOKYO)で、きゃりーが増上寺でライブをやらせていただいて。最後は東京タワーの明かりをろうそくのように吹き消した。あのときも現実世界と空想世界がつながった気がしたんです。「バーチャル原宿」では、その先を感じることができましたし、エンターテイメントで未来を創れるのかもしれないと思えたんです。
中馬 あのイベントは面白かったですよね。映像がハイビジョンになって新しいメイクが生まれたように、テクノロジーが進化することで演出も変わっていく。

リアルを拡張するためにバーチャルはある

中川 僕らはスタートアップなど新しい技術を持った方々とお会いする機会が多いんです。その経験から言うと、テクノロジーの可能性を広げるにあたって、エンターテイメントがお手伝いできることはまだまだある。それって、中馬さんが仰るように「人の力」とかリアルな「熱量」が必要だということですよね。
中馬 そうなんですよ。「バーチャル渋谷」を作ったときから一貫しているのは、僕らはリアルを拡張したいだけなんです。今はコロナ禍なのでバーチャルに振り切らないといけないですけど、本当はリアルと連動したい。「バーチャル渋谷」も「バーチャル原宿」も、コロナのせいでやりたいことが全然できていないんです。
バーチャル空間での演出がリアルな街に影響を与え、さらにはリアルに集まっている人たちの温度感をバーチャルに伝えていく。そのためには仮想の街ではダメで、渋谷なり原宿なり個性的なオンリーワンのオリジナリティがあるからこそ、独特なバーチャル世界が生まれると思っているんです。
中川 当初は僕も、リアルとバーチャルは完全に別物だと思っていたんです。でも、「バーチャル原宿」を体験して、中馬さんの仰る「拡張性の中にある未来」なんだとわかった。ラフォーレ前を歩行者天国にしたいとか、ファッションショーのランウェイにしたいとかはリアルでは難しい。でも、バーチャル空間では交通を気にせず、オシャレをして集まることができる。そんな街のパワーを世界中に広めることにもなるし、結果的に「リアルに行ってみたい」という気持ちが生まれると思うんです。
そういうバーチャルとリアルの相互性、可能性は無限大にあるのかなって感じています。リアルの熱量をバーチャル空間で加速させ、強くさせるんじゃないかなって。
中馬 リアルな「今」の情報ってネット検索しても出てこないですよ。例えば、これから踊りに行こうとしているクラブが「今」盛り上がっているのかを知りたいじゃないですか。お店としてはあえて見せないのもありますけど、本来は「見える化」されるべきで。ネットの世界であれば、盛り上がってるところに人が集まってくる。リアルの街でも局地的に起きていることですけど、もうちょっとダイナミズムがあってもいいと思うんです。
幸いなことに、5Gになると街中の至る所が見える化される。カメラによる実況だけでなく、ここに何人いますよ、どれくらい盛り上がってますよとか、ホットスポットができているなとか。それがバーチャル側で見えるとリアルと共鳴し合うようなことが起こる。アナログの街がリアルタイムで見える化されると、次の文化というのはこれまでとは違うカタチで起きるんじゃないかと思うんです。

原宿はオンリーワンを再定義するときがきた

ーー一方で、現在のリアルな渋谷や原宿は空き物件が増えていて、少し寂しい気持ちになります。アフターコロナにおいてリアルな街はどうなると思いますか?
中川 緊急事態宣言中もずっと原宿で過ごしていましたが、昨年の4~5月頃はまったく人がいなくて。今も「for rent」が増え続けています。アフターコロナに向けて、それこそバーチャル原宿と絡めながら盛り上げる秘策というか、ここに来る理由を作れたらいいなと思っています。でも、原宿は時代ごとに変わってきた街だと思うので、これからどう変わるかは楽しみでもあるんです。
中馬 懐古的になってしまうと絶対にうまくいかないですよ。だから、戻っちゃいけないと思う。大きく変わらざるを得ないときに、変われる活力があるかどうかが大事なんです。
原宿はオンリーワンを求める人たちが集まる街だから、そのオンリーワンを再定義するときなのかなって。原宿や裏原宿に来たくなるアトモスフィア(雰囲気)をデジタルで表現することで、MZ世代の子たちはより共鳴するものがあるような気がしています。
中川 今、僕らは地方へも積極的にアプローチしているんです。というのも、エンターテイメントの事務所として従来とは違うストーリーが必要だと思っていて。地方から東京に出てきて、東京でデビューして活躍するというのがこれまでのストーリー。それよりもむしろ世界に行きたいので、いちいち東京に出てくる必要はないんじゃないかなって。僕は東京出身なので、東京への憧れがないんですよ。東京はハブでしかない。

世界でビジネスをするにはリージョンが必要不可欠

ーーこれまでの日本の面白がられ方というのは、ある種のガラパゴス的なクリエイティブが「なんじゃこりゃ」という感じで世界的にウケたという状況だと思うんです。今後、テクノロジーを有効活用しながら、世界でビジネスをするにあたって大事なことはどんなことでしょう?
中馬 ネットの世界はすでに国境がないですから。そこを前提に最初からどう仕立てるかだと思うんです。やっぱり仕掛けるコツはあって、つまりそれぞれの国や都市ごとのリージョン、そこを意図してやるかどうかが重要になると思います。
中川 この6~7年、「クールジャパン」のボードメンバーにさせてもらっているんですけど。日本人は結局クリエイティビティなのかなと思っていて。古くは電化製品や自動車、最近では食やアニメ。あと、ロンドンやニューヨークにいる日本人の美容師ってすごく人気じゃないですか。そういう繊細さや技術に対してテクノロジーが乗っかってきたので、世界に羽ばたくチャンスは広がっていると思うんです。それは音楽でもそうで。あと、Z世代の子たちは英語や中国語を喋れる子も多いし、感性も変わってきていますよね。
中馬 でも、HYBE(韓国の芸能プロダクション)の時価総額が1兆円とかになって、UUUM(日本のYouTube関連プロダクション)が数百億ですから。その差が10倍以上ある。スタジオドラゴン(韓国のドラマ制作会社)やJTBC(中央日報系のテレビ放送局)に関しても、Netflixのグローバルのお金で制作している。日本はアニメと『全裸監督』くらいでしょ? ちょっと心配ですよね。
ーーそう考えると、偶然を待つのではなくしっかり世界進出を狙っていくべきだと。
中馬 だと思いますね。例えばK-POPのアーティストって、Vキャラとリアルが同時にデビューしたり、下手したらVキャラが先にデビューして後からリアルが出てきたりとかが当たり前になっている。そういう時代なのに国内はまだないですよね。
中川 ないですね。やっぱり日本のエンタメ業界はすごくガラパゴスで、国内だけで成立しちゃう側面があるんです。だから、仕組みが強すぎる部分があって。その良さもあるんですけど、「特殊」だということを理解したうえで世界を攻めないといけない。そこはコロナで痛感しましたね。

グローバルの可能性を感じる若者が増えていく

ーー世界を視野に入れるという意味で、アソビシステムに所属している若いアーティストの意識はどうですか?
中川 昨年12月、「新しい学校のリーダーズ」というグループが「88rising」(アジアカルチャーを発信する米国のメディアプラットフォーム)からデビューしたんです。それによってTikTokのフォロワーが180万から280万人になったりして、そういうことが起こると彼女たちもグローバルの可能性を実感するわけです。ひとりが気付くと、それがバーッと伝播していく。若い子ほどいっきに広がると思います。
でも、大事なのは良いクリエイティブを作り続けること。それが成功への近道だと思っています。その手段として、テクノロジー方面などいろいろなところと連携していくのが大切だと思います。
ーープラットフォームを作る側とコンテンツを作る側、どういう関係が良好な関係だと思いますか?
中馬 若い頃、僕は福岡のクラブでずっと遊んでいたんです。そのときに出会ったのがミハラヤスヒロ。当時から彼は本当にすごくて、クリエイティブの才能が抜きに出ていたんです。それを目の当たりにしたとき、自分はクリエイティブを諦めて、才能のある人を応援する側になろうと思ったんです。
なので、常にクリエイティブな人をリスペクトしています。客観的に見れば私の立場は、大企業の投資担当なので影響力があるのかもしれませんが、上から目線になることはありません。インディーズ・マインドを忘れないメジャーでいたい。そういった意味で、プラットフォーマーはいかにコンテンツや文化をリスペクトできるかどうかにかかってると思います。

優秀なCFOなどビジネスパーソンの重要性

中川 僕らからすると、中馬さんみたいな方がいらっしゃるのはすごく明るい未来だなと感じるんです。「バーチャル原宿」をやるにあたって、KDDIの偉い人に会うと聞いてすごく緊張したんですよ。どんなスーツの人が来るのかと思ったら、今日みたいにラフな感じで来られて(笑)。カルチャーをわかってらっしゃるというか、コンテンツを大事にしてくれる方は日本では貴重なんです。
海外では、エンターテイメントと向き合いながら良いコンテンツを入れて、生きたプラットフォームにしようとする人たちがちゃんといる。遊びの現場でアーティストの横に投資家がいたり、スタートアップの横にセレブがいたりする。日本は経済界とスタートアップと芸能界が別の村になっているんです。本当はもっと密接になる必要がある。
中馬 日本はエンタメ業界にビジネスパーソンが少な過ぎますよね。だからクリエーター至上主義的にもなってしまう。本来は、ビジネスパーソンがバランスを取るべきなんです。海外に関しては、そこの役割り分担がしっかりしていますよね。
中川 そうですよね。
中馬 海外ではクリエーターよりプロデューサーのほうが圧倒的に偉い。そういう構造にはなっていない。
中川 日本のクリエーターは個人商店のトップで終わってしまいがちなんです。芸能事務所でもアパレルでもなんでも。そこからショップにもデパートになれない。ある程度食えるとクリエーターも満足しちゃって、「やりたいことを続けるために自由でいたい」と言って結局は苦しんでしまう。でも、海外はちゃんとその先のやり方を持っている。その差は大きいと思います。
ーー最後に今後の展望を教えてください。
中川 「バーチャル原宿」とかもそうですけど、新しい可能性があれば最初から一緒に組んでいくことが大切だなと思っています。これまでの芸能界って、様子を見ながら横一線でよーいドンと乗る準備をしていたと思うんです。でも、もう待っている時間はないので乗っていくしない。最近はそう思うようになっています。
中川悠介|Nakagawa Yusuke
アソビシステム 代表取締役社長
1981年、東京生まれ。きゃりーぱみゅぱみゅなど世界で活躍するアーティストが所属するアソビシステムを07年に設立。青文字系カルチャーの生みの親であり、原宿を拠点にファッション・音楽・ライフスタイルを世界に発信。内閣官房「クールジャパン官民連携プラットフォーム」構成員および「ナイトタイムエコノミー議員連盟」アドバイザリーボード メンバーを務め、国内におけるインバウンド施策も精力的に行い、新規事業の開発にも積極的に取り組んでいる。
中馬和彦 | Chuman Kazuhiko
KDDI株式会社 事業創造本部 ビジネスインキュベーション推進部長/KDDI∞Labo長
ベンチャー支援プログラムKDDI∞Laboやベンチャー投資ファンドKDDI Open Innovation Fundを統括。
・経済産業省 J-Startup 推薦委員・始動Next Innovator メンター ・ILS アドバイザリーボード ・クラスター株式会社 社外取締役 ・Okage株式会社 社外取締役 ・スポーツ産業振興委員会 委員
                      
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