2010 ミラノサローネ 最新リポート|アレッサンドロ・アニーニが見たイタリアンデザインのいま 前編
特集|ミラノサローネ国際家具見本市 2010
アレッサンドロ・アニーニが見たイタリアンデザインのいま 前編(1)
アートディレクター アレッサンドロ・アニーニ氏によるサローネレポート前編。イタリア人ならではの視点でイベントの概要をお伝えするとともに、「B&B」「Cassina」「DIESEL」「Kartell」といったイタリア国内のブランドを取り上げる。イタリアンデザインのあたらしいトレンドとは?
Text/Photo by Alessandro Agnini
イタリアブランドのあたらしい挑戦
2010年のミラノサローネが大成功のうちに幕を閉じた。成功のカギとなったのは、言うなれば飽くなき新発明への欲求。今年のサローネではさまざまなブランドが世界的な不況にもめげず、リサーチをつづけ、積極的に新素材を採用するなど、あたらしいデザインの可能性に目をむけていたように思う。また、B&B、Cassina(カッシーナ)、Flos(フロス)などの各社があらたに起用した才能あるデザイナーたちがブランディングに大きく貢献したことで、「イタリアブランド」の真髄が再認識されたことも大きな要因といえるのではないだろうか。
それはまさしく作り手と消費者の関係性を再確認するようなものであり、デザイナーの名
前がひとり歩きしているような、「デザインありきのデザイン」が姿を消しつつあることを示しているかのようであった。各デザイナーたちが消費者の目線に立ち、デザインの美しさだけでなく機能性にも気を配り、各社もこぞって市場の動きや住宅事情、住環境をリサーチし、その点に力を注いでいたようだ。
デザイン偏重から機能性重視へ
もっとも注目のトレンド、それは「Size」「Comfort」「Nature」。今回のサローネで見られたデザインは、全体的に機能重視の傾向にあったように思う。家具は使いやすいユニット式のものが増え、シングル向けのアパートからファミリー向けの大きな家まで、住環境に合わせて選択の幅が広がり、またサイズだけでなく色や素材のバリエーションも充実していた。これは不況の影響で住宅事情が悪化したことと、国外のマーケットを意識したうえでの変化と言える。
厳選された素材へのこだわりと、失敗を恐れずにあたらしいことへチャレンジする姿勢が顕著にあらわれていた今季のサローネは、とても実りあるものだったと思う。ひと言でまとめるとすれば、「サローネはやっぱりすばらしい!」
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アレッサンドロ・アニーニが見たイタリアンデザインのいま 前編 (2)
B&Bおなじみの人気デザイナーたちが今年も登場。パトリシア・ウルキオラの「Bend Sofa」は、ぐにゃっとした形が特徴で、ソファの概念を覆すあたらしいデザインだ。アントニオ・チッテリオのユニットソファ「Ray」は、緻密に計算された均整のとれたフォルムと、ゆったりとした幅広のデザインが彼の作品らしい。基本は直線状のソファとして、そこに長椅子やオットマンなどをくわえて自由に形をアレンジできる。深澤直人のアームチェア「Piccola Paillo」は、昨年発表され大好評を博した「Grande Papilio」の「Piccola(小さな)」バージョン。小さい部屋にも置けるサイズで、一列に並べても場所をとらず、また小ぶりながら、究極の座り心地を約束してくれる。またおなじく発表されたアウトドアコレクションも見逃せない。
今季のカッシーナでは「本物志向」であることをメインテーマに掲げながら、「Less is more, Less is green」をモットーに、さまざまなプロジェクトを立ち上げた。ガエタノ・ぺシェの「Notturno a New York」は彼が拠点とするNYへのオマージュ。イタリア統一150周年を記念したぺシェのプロジェクト「Sessantuna. Tavolo Italia 2011」にも注目。ピエロ・リッシーニの「Aire」は軽量で、組み立てやすいのがユニット式ならでは。おなじくリッシーニの「TreunoTre」は、その極限まで無駄をそぎ落としたデザインが際立つ。ほかにもフランコ・アルビーニの、持ち運びができるロッキングチェア「Canapo」(折りたためるクッション付)や、コルビュジエの名作をカラフルにアレンジした「LC2010」、など見応えたっぷりの内容だった。
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アレッサンドロ・アニーニが見たイタリアンデザインのいま 前編 (3)
市内のフラッグシップストアに展示され注目を集めたのは、ディーゼルオリジナルの「FIAT 500C」。サテンのようになめらかなボディと黒のデニム地で仕上げられたインテリア、シフトノブにほどこされたロゴは、まさにディーゼルのデニムを思わせる。「Diesel Home」コレクションの新作は、その名の通り岩の形をした「Rock chair」と「Rock Lamp」、インダストリアル・スタイルの「Prismic Dining Table」など、イタリアを代表するソファメーカー Moroso(モローゾ)が製作。また照明ブランド Foscarini(フォスカリーニ)とのコラボレーションによる「Perf Light」は、北アフリカの伝統的なランプシェードからインスパイアされたもの。表面にパンチで空けられた穴からほのかに漏れる光が、繊細な模様を映しだす。
カルテルでは、吉岡徳仁によるルミニッセント(冷光)インスタレーションを開催。まるで雪の結晶のような棒状のポリカーボネートを用い、幻想的な世界を表現した。このポリカーボネートは今までにない厚みが特徴で、同素材でテーブル、ソファ、アームチェアやベンチもデザインされた。雪の結晶のように消え入りそうなフォルムは、座るひとがまるで宙に浮いているかのような錯覚を生みだし、プリズムによって分散された光が一層その姿を引き立たせる。
Alessandro Agnini|アレッサンドロ・アニーニ
1979年ナポリ生まれ、ミラノ育ち。大学で広告&コミュニケーションを専攻し、卒業後はトッズ・グループに入社。広告やグラフィック全体の制作を担当。2005年からフリーとなり、2006年より日本にベースを移す。現在フリーのアートディレクター、フォトグラファーとして活躍中。