USM|ユー・エス・エム 丸若裕俊と吉岡更紗が語る「USMカラールネッサンス –美しさの方程式-」
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2015年5月11日

USM|ユー・エス・エム 丸若裕俊と吉岡更紗が語る「USMカラールネッサンス –美しさの方程式-」

USM|ユー・エス・エム

丸若裕俊×吉岡更紗が語る「USMカラールネッサンス –美しさの方程式-」(1)

<INTERSECTION>USMの美の方程式

「USMモジュラーファニチャーショールーム」のオープン5周年記念として展開された「USMカラールネッサンス」。本プログラムの集大成として、2月18日、ディレクションを務めた丸若屋の代表・丸若裕俊氏と、染司よしおかの吉岡更紗さんによるクロストークがおこなわれた。

Photographs by ASAKURA KeisukeText by TAN Miho(OPENERS)

USMの家具は、色で生活が変わることを体感させてくれる

丸若裕俊 吉岡さんは、日々のものづくりにおいて美しさをどう意識していますか?

吉岡更紗 美しいという定義はみなさんそれぞれ違いますよね。方程式というと固いですけど、仕事のうえで意識しているのは、鮮やかな色を出すことです。

丸若 まさに今回吉岡さんとご一緒させていただいたのには、色の感じ取り方の本質を考えたいということがありました。

吉岡 いかに自然なかたちで引き出せるかというのが、いちばん目指していることです。季節感をどう表現するかというのもすごく大事ですね。今回の企画のテーマの「カラールネッサンス」って、色の再構築ということ。春夏秋冬それぞれで丸若さんが考えられたことや色に対して、うちが答えを出して“もの”で語る。お手紙が来て返事を返すみたいな、そういう感じでしたね。

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丸若 ちなみに今日のお着物はどういったいわれのものなんですか?

吉岡 愛媛県の西予市野村町で、工房に戻る前に2年ちょっと染色の勉強をしたんですけど、そのときに養蚕のお手伝いもさせていただきまして。分けてもらった繭で、自分で糸を引いて織るところまでを勉強して作ったものなんです。それと、これにしたもうひとつの理由が色です。これからの時期、山や野で咲き始める花ってなぜか黄色が多いんですよね。福寿草とか菜の花とか。

丸若 撮影の現場でも、これから春だね、これから夏だねなんて、季節を思いながらやっていましたね。

吉岡 昔は、色で季節を表現するっていうのが教養の高さを表していたみたいですね。桜の季節なのに梅を感じさせるものを着ていると「あの人おバカさんね」みたいな。早すぎず、ちょっとの先取りがいいみたい。

丸若 そうなんですね、日本文化の中には多く見られる考え方ですね。

吉岡 季節に敏感な人が、美しさを知っているということだったようです。

丸若 美しさという言葉と季節という言葉って、同義の部分がありますよね。“ルネッサンス”って横文字にすると大きなことみたいなイメージがあるけれど、日本の四季っていうのは、毎回季節が変わるたびにルネッサンスをしているのかなと。

吉岡 そうですね。そう、そう、その通り。

丸若 USMの家具も、パネルを頻繁に替えるのは大変だけど、色を楽しむっていう意味では同じ感覚がある。日本人はそんなに強く、家具に色を求めないですよね。でもUSMの家具は、色があると生活がこれだけ変わるんだっていうのを体感させてくれるなって思いますね。色への感覚って、日本とヨーロッパで違うんでしょうか。

吉岡 海外に作品を持っていくと、「この色がなんで植物から出るんだ?」ってびっくりされます。特にヨーロッパの方に持っていくと、反応が大きいですね。ちなみに化学染料ってイギリスとドイツで生まれたんです。それまでは自然のもので染めていました。

丸若 化学染料を作ったっていうことは、ヨーロッパの方たちはそれだけ色への思いが強かったっていうことかな。でもいつしか、色への思いっていうスタート地点を忘れて、どんどん前に行っちゃったっていうことなのでしょうか。吉岡さんのところは、代々ずっと自然の色ですか?

吉岡 そうではないんです。初代は江戸の末期で、そのころの日本は、みんな植物で色を出していたんですね。明治に入って化学染料が入ってきて、世の中が「あたらしいものを取り入れたらかっこいいやろ」みたいな感じになって、京都の染物屋が全部化学染料になるんですよ。なので、うちも二代目の後半から化学染料。三代目はずっと化学染料で。

丸若 …吉岡さんには、化学っていう言葉すら使ってはいけないんじゃないかって思っていましたよ。

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吉岡 四代目は私から見ると祖父になるんですけど、一度染屋を戦争で畳んでいるんです。再開するときに染色ともう一度向き合ったときに、昔から残っている植物で染められたものを見て、その美しさにやはり感動したらしいんです。戦後は化学染料がいいと言われる時期だったので、祖父は植物での染め方を研究しなおしたんです。五代目の父になってからは、化学染料を完全にやめて、すべて植物にっていう感じです。

丸若 なるほど。いろんな歴史があるんですね。

吉岡 日本全体がそういう時代だったんですね。

丸若 当時は、化学染料を使うことが美の方程式だって、みんなが言ったってことですよね。時代によって、そして性別や国によって、美しさの方程式って変わりますね。そのなかでいま、吉岡さん含め多くの人たちがきれいだというのは、最終的に自然の色なんですね。

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丸若裕俊×吉岡更紗が語る「USMカラールネッサンス –美しさの方程式-」(2)

<RENAISSANCE>丸若屋がコンセプトに盛り込んだ美の方程式

美しいという感覚は、感動と心地よさの後に生まれる

丸若 「USM カラールネッサンス」は、みなさんの日常にある色を、もう一度認識してもらうきっかけになればと考えさせていただきました。その気づきをいただいたのは、USMのファニチャーを見たとき。色で高級感まで感じさせていて、素晴らしいなと思いました。で、日本でやるんだったら、日本の色とも接点をもちたいなと。頭のなかが色、色、色ってなったときに、吉岡さんの、色で満ち溢れた工房を思い出したんです。まずは春バージョンから。

吉岡 右側の布は桜をイメージした色なので、桜色と言ってもいいかも。左は柳ですね。昔の古今和歌集に「柳桜をこきまぜて」っていうフレーズが出てくるんですけど、桜のピンクと柳の薄緑の組み合わせ、すごくきれいで。

丸若 春ということもあって、雪の中から幹が覗いていて、その先には新緑という葉がつき、やがてその花が咲くというイメージを表現したいなと思ったんです。

吉岡 丸若さんの選んだ家具が割と落ち着いた色合いですし、ぴったりでしたね。

丸若 撮影、苦労したんですよ。というのが、USMの色が輝くポイントと、自然のもので染めた布が輝く瞬間って、光の加減が違うんですよね。どちらも美しく見えるライティングをするのに、すごい時間がかかりましたね。夏バージョンは、布も家具も白と青ですね。

吉岡 これは藍染で、板で挟んで防染する板染めという技法を使いました。それでこういうストライプのような感じが出ます。左側も同じ技法なのですが、USMのファニチャーの市松模様に近いような造形のものを選びました。清流のような美しいイメージを暑い夏にお届けできたらなと。

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丸若 これを見たら春だな、これだと涼しげだなって、色を見るだけでなくイメージをも見ているようですね。色が違うだけなのに。

吉岡 パネルの色をベージュから青に変えれば夏になる。

丸若 実際、この青が本当にきれいで。ショーウィンドウでも同じものを設置したんですけれども、夜になれば夜の涼しさもあるし、昼は昼の涼しさを感じる。手さぐりのなかでもひとつ見えてきたのかなっていうような気持ちでした。
春夏はものに照準を合わせてやっていったんですけど、秋冬に向けて、いろんな意見があったんですよ。ここに人がいたらどんな空気感になってくんだろうとか。家具も自然の染物も、そこに人があって完成するんじゃないかとか。さらにはUSMの家具は使うもの。芸術品を置いているわけじゃない。そして吉岡さんの布も大判で見せたいなとか、欲がどんどん入ってきてしまって。
で、出合ったのが私たちの共通の知り合いの方の日本家屋だったんです。定住ってわけではないんですけど、実際に住まわれている日本家屋。ロケハンというかたちで最初お邪魔させていただいたとき、合うかどうかとか、できるかどうかっていう以前に、ここで撮りたいっていう気持ちになってしまった。

吉岡 ここだったらなにができますかみたいなところからはじめたんですね。

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丸若 撮影では、たとえば「これは下駄箱」といったような、使う目的を決めずに進めました。これだけものがあふれている時代でものを所有するのは、必要不可欠だからっていうのと、もうひとつは、使いたくなったり心を豊かにしたいっていうののふたつのモチベーションがあると思うんですけど、僕は後者の方をちゃんと伝えたいと思っています。秋のバージョンの布の色のグラデーションは、何色なんですか?

吉岡 5色ですね。丸若さんのセレクトは黄色と茶色で渋めの色合いだったので、黄色から赤までを配して日本の紅葉を表現しました。

丸若 現物を見ると、本当に自然のもので染めたのかなっていうぐらい鮮やかで、目に飛び込んでくる。でもその後、なじんでいくような色だなって拝見していました。感動のない美の体験はないですね。

吉岡 そうですよね。

丸若 感動の後、心地よさのような染み渡るものがあったときに、美しいなって思うのでしょうね。最初は驚きで、次に沈黙。

吉岡 余韻に浸るみたいな。

丸若 まさに美しさを体感する経験でしたね。ネタばらしじゃないんですけど、冬バージョンも同じ日に撮影しています。ただ、場所は変えてですね、秋が玄関なんですけど、冬は奥の部屋でおこないました。

吉岡 冬の方は、右上の額に入っているのが私共のものなのですが、これは和紙なんです。そして、植物で染めていると先ほど申し上げたんですけど、これは薄墨で塗りあげました。手書きで思うままに書いたものなんですけど、すごく合っていますね、色合いも。お家にも。

丸若 どこの国かとかどの時代かとかは関係なく、日本人が見ると理由なしに心が落ち着く。そして、海外の方たちが見たときには日本らしさを感じたり、自分たちの生活感となんとなく近しいように感じる、そういった不思議な空間でありビジュアルだったなと思っています。

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丸若裕俊×吉岡更紗が語る「USMカラールネッサンス –美しさの方程式-」(3)

<FUTURE>ふたりが描く、これからの美の方程式

伝統を守るということは、前を向いて生み出しつづけるということ

丸若 FUTUREの話しをする前に僕聞きたかったことがあって。更紗さんはどういうお子さんだったんですか?

吉岡 父がいま五代目を継いでいるんですけど、わたしが生まれたときは美術系の出版社をしていました。祖父が研究していたものを出版するのが父の仕事のひとつだったようなんです。なので、ひとつのものを作っていく過程を双方から見ている感じがありました。それと、祖父の仕事はすごく昔気質でして、子どもはあまり入れてもらえなかったんです。入れてもらえないと余計に気になるので、隙間からちらちら見ていたのがわたしの幼少期です。

丸若 やっぱり染めたものを見ると子どもながらにきれいだなと思ったんですか。

吉岡 思いましたね。そして、たくさんの人がいる場所だったこともあって、大勢でひとつのものを作っていくことに憧れがありました。

丸若 なるほど。なぜお聞きしたかっていうと、このFUTUREというテーマから友人の話を思い出しまして。彼は小さい頃にガンダムをこよなく愛してですね、で、いまカーデザイナーなんです。「三つ子の魂百まで」じゃないですけれど、子どものときに美しいとか楽しいと感じたことを、人は無意識のうちに追い求めているんじゃないかっていう話をしていたんです。色もおなじで、美しいなって思うのは、子どもの時の体験や感性がもとにあるのかなと。それが未来につながっている。

吉岡 よく「あたらしい色を探すんですか」「新作を作るんですか」って聞かれるんですけど、もともと植物でやり直すって決めたときから、化学染料が入ってくる前の技法を守るっていうのが基本的な信念でして。染料以外に使う定着剤も、すべて自然のものを使うのが守ることだと思っていて、あたらしいものを探すという気持ちがほとんどないんです。ただ今回のプロジェクトで、守りつつもあたらしい表現をすることもできるんだなって気づきました。

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丸若 伝統に対して“守る”っていう表現をしますが、僕は守るっていう言葉も再定義してもいいのかなと日々思っているんです。守るって、いつも前を向いて、心の中での確信的なものや情熱をもっているのが前提にあります。海外の方が日本の伝統を素晴らしいって言ってくれるのは、前向きさや折れない気持ちがあることに対してなんですよね。
でも、日本人の守るっていうのはちょっと後ろ向き。「変えちゃいけない」とか。変えちゃいけないのは、気持ちの部分や心の中なのかなと思っていてですね。

吉岡 そうですね。私共も技法は変えないって言ってるんですけど、ブラッシュアップはいつも少しずつしているんです。いまだいぶ大地の力が弱ってきていて、植物のもつ色素量が減ってきているんですね。そうなると使う量を増やさないといけない。2年前、台風が多くて徳島で藍があまり育たなかったときは、うちでも育てている藍で蒅を作ることもしました。守ると同時に、少しずつ進化しているのかなと思いますね。

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丸若 守りつづけるためのルールがあったとしても、未来に向けた可能性は無限にありますよね。USMも、美しいと思わせるビジュアルは変わっていないですが、ジョイント部分や蓋をあける部分を構成しているパイプのなかは、何度もモデルチェンジしているんですよね。当初とは全く違う。本当に、日々前進して作られているなと。そして、これからも変わっていくのだろうと思います。それを外には見せずにやっているというのも素晴らしい。

吉岡 あたらしい場所で、美しい色と美意識が生まれる機会がまたあればいいですね。

丸若 私たちは21世紀を生きていくことは間違いないんで、18世紀にも16世紀にも一応戻れないはずなんで。前向くしかないなかで、これからもものづくりで、あらたな感動をつくりだしていきたいですね。そんな気持ちにさせるようなすがすがしいプロジェクトをご一緒できたこと、とても嬉しく思います。

USM
Tel. 03-5220-2221
http://www.usm.com

丸若屋
日本とフランスを拠点に、伝統あるものの内に潜む、本質的かつ絶対的な美しさを的確に捉え、伝統工芸から最先端工業に至る、幅広い分野における最高峰の技術に無限の可能性を見出した革新的な取り組みを通して、21世紀を生きる人々の生活に、驚きと喜びの提供をおこなう。パリ・サンジェルマンにて、美しき日本の品々の展示販売をおこなう「NAKANIWA」をオープン。
www.maru-waka.com

染司よしおか
京都において江戸時代の末頃から続く染屋で、当代で5代を数える。自然に育まれた紫草(ムラサキ)、紅花、茜、蓼藍(タデアイ)、刈安(カリヤス)などの植物から、美しい色を引き出し、絹や麻、木綿などの天然素材を古法に忠実に染色。その伝統的な技法を用いて、東大寺修二会に使われる椿の造り花を染めるなど、古社寺の行事にも関わる。地下100メートルから汲み上げられる水と、丁寧に自然と向き合う手に支えられ、古きを温( たず )ねながらゆっくりと静かな毎日を繰り返している。
www.sachio-yoshioka.com

           
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