「世界ベストレストラン50」から読み解く世界のガストロノミー最前線!
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2015年7月17日

「世界ベストレストラン50」から読み解く世界のガストロノミー最前線!

コラムニスト、中村孝則氏特別寄稿
沸騰する世界のガストロノミー最前線!

「世界ベストレストラン50」から、世界の食のトレンドを読み解く(1)

今年も「世界ベストレストラン50(以下、ワールズ50)」が決定した。メインスポンサーはサンペレグリノ&アクアパンナ。毎年、ジャーナリストや批評家、シェフ、レストランオーナーなど、食に関するプロたち930人余りが評議委員となって、いまもっとも「ウマい」店を選び出す。36人いるという日本の評議委員の代表を務めているのが、コラムニストの中村孝則さん。気になる今年のランキングとともに、世界の食のトレンドを読み解いてもらった。

Text by NAKAMURA Takanori
Edited by TANAKA Junko (OPENERS)

ミシュランより価値あるレストラン・ランキング?

2014年度ランキングが先ごろ発表された。これは毎年、イギリス・ロンドンの「ギルドホール・アート・ギャラリー(Guildhall Art Gallery)」で発表される、世界規模のレストラン・ランキングだ。今年も4月28日に発表された。2002年の設立以来、翌2003年から毎年発表しているが、その注目度は鰻のぼり。最近は「グルメ界のアカデミー賞」とも呼ばれ、結果は各国の主要メディアのトップニュースでも扱うようになった。なぜなら、このランキングの影響力は料理業界だけでなく、観光を含む国の経済効果にも大きく影響するからだ。世界の若手シェフたちの間では「ミシュランよりワールズ50を狙いたい」という声は少なくない。
(今年のランキング:http://www.theworlds50best.com/list/1-50-winners)

「レストラン・アンドレ」のアンドレ・チャン氏

「エル・セレール・デ・カン・ロカ」を営む三兄弟

会場前ではシェフたちが再会を喜び合う姿も

そもそもこのランキングは、世界各国の食の専門家や評論家など、930余名の評議委員の投票数によって確定する。地球上のすべてのレストランが審査対象となるため、世界を26の国と地域に分類して、それぞれの地域にチェアマン(評議委員長)を据えている。日本では犬養裕美子さんがその責務につき、長年尽力をされていたが、今年からは筆者がその任務を引き継いでいる。そして、2014年のロンドンのアワードにもチェアマンとして初参加した。さっそく、その結果とともに現在のレストラン事情を巡る最新トレンドの流れを探りたいと思う。

注目のトップは、レネ・レゼピ氏率いるデンマークの「ノーマ(NOMA)」であった。ノーマは2013年のランキングで、それまで3年間キープしていた1位の座から2位に転落。返り咲いたかたちで2014年のランキングを制した。昨年の転落がよほど悔しかったのだろう。レネは授賞式のスピーチで、自分たちが今回のアワードに懸けた想いと、受賞の歓びについて10分近くにわたって涙ながらの演説をした。

2010年にはじめて1位になったとき、ぼくは準備していたスピーチを読み上げることができなかった。偉大なシェフを目の前にして、怖じ気づいてしまったんだ。でも今日は、胸を張ってそれを読み上げたいと思う。まずは親愛なる友人たちに感謝を。そしてノーマを選んでくれた方々に感謝を。信じてくれてありがとう。みんな、やったぞ! 今日こうして喜びを分かち合えたこと、本当にうれしく思う。よく聞かれるんだ。「成功の秘訣はなんだ?」って。答えは簡単さ。みんなで成し遂げたんだ。力を合わせれば、どんなことだって乗り越えられる。実際ぼくたちは、ここまで幾多の試練を乗り越えてきた。ぼくにとって、みんなは最高のドリームチームだ。ノーマがオープンしたときのことを覚えているかい? 信じてくれる人なんてだれもいなかったあのころを。ぼくたちは洗練されたファイン・ダイニングの世界で、明らかに浮いた存在だった。変なあだ名をつけられたこともあったけど、そんなこと気にも留めなったよね。それがいまこうやって実を結んだんだ。でもこれはゴールじゃない。これからもぼくたちの冒険はつづくんだ。ずっとそうやってきたみたいに、いっぱい失敗しながら、あたらしいレシピを生み出していく。みんな、これからも失敗しつづけていこうじゃないか。

一方、昨年1位の「エル・セジェール・カン・ロカ」は順位を2位に下げ、3位はイタリアの「オステリア・フランチェスカ」、4位はアメリカの「イレブン・マディソン・パーク」が獲得した。評議員が欧州や米国にかたよっていることもあり、欧米の料理店がランクインしている傾向は続いているものの、一昨年から「アジア・ベストレストラン50」がはじまり、昨年には「ラテンアメリカ・ベストレストラン50」もスタートして、戦いはよりグローバル化の傾向にある。ワールズ50が世界戦なら、このエリアは地域戦といったところだろうか。地域戦の設立で双方のエリアへの期待値は高まるだろう。

2位「エル・セレール・デ・カン・ロカ」

4位「イレブン・マディソン・パーク」

コラムニスト、中村孝則氏特別寄稿
沸騰する世界のガストロノミー最前線!

「世界ベストレストラン50」から、世界の食のトレンドを読み解く(2)

つづく中南米への関心と高まる日本への期待

今年のランキングで欧米圏以外の最高位は、ブラジル・サンパウロの「ドム」。シェフのアレックス・アタラ氏は、シェフたちの人気投票で決まる「シェフズチョイス賞」を獲得して、彼のクリエーションに対する評価とブラジルの景気のよさを見せつけた。気になる日本勢だが、「ナリサワ」が昨年の20位から14位へと大きくランクアップして存在感を見せつけた。33位の「日本料理 龍吟」とともに2店がランクイン。アジア勢では日本を含め合計7店。2月末に発表された地域戦の「アジア・ベストレストラン50」の7位までが、世界のランカーになるという計算だ。

「ドム」のアレックス・アタラ氏

ブラジルは料理の新大陸として注目されている

アジア勢で個人的に注目しているのは、初入賞した「ハイエスト・ニュー・エントリー賞」を受賞したバンコクの「ガガン」だ。シェフのガガン・アナンド氏は、エルブリで修業経験も持つインド人。インド料理をベースとしながらも、独自の世界をクリエーションする。アジアの注目でいえば、シンガポールの「レストラン・アンドレ」(昨年は38位)は37位につけた。インドや中国本土からの入賞はなかったものの、今後は侮れない存在になるに違いないだろう。

アワードを通じて知り合った各国のチェアマンたちとの会話では、引き続き好景気のブラジルやペルーを筆頭に、中南米への興味が高かった。まだまだ未知数ながら、アフリカ大陸への食指も囁かれていたが、レストランの質や数を含めた、圧倒的なポテンシャルを持つ日本への期待は相当に高い。その意味でも先駆的な役割を担っている「ナリサワ」「日本料理 龍吟」が連続で入賞していることは、日本の存在感をアピールする上でも、彼らにつづく日本のレストランの後押しする意味でも、大きな価値を持つ。いま以上のランクアップを狙うためには、情報発信や渡航者の呼び込みなど、国レベルで取組む必要もあるだろう。

少なからず、そのきっかけになりそうな最新情報が入ったので、その話題で締めくくろう。今回1位を獲得した「ノーマ」が、期間限定ながら、店を東京に移転することが決まった。2015年1月9日~1月31日まで「マンダリン オリエンタル東京」37階のシグネチャーレストランが「ノーマ」になる。

(詳細:http://www.mandarinoriental.co.jp/tokyo/hotel/hotel-news/)

ノーマ

「ノーマ」の店内は、テーブルにクロスがなく、シンプルな木製の丸テーブルが配されている

ノーマ

シェフのレネ・レゼピ氏

森や海岸をテーマに食材を料理に取り入れるのを得意としている

聞くところによると、デンマークの店を閉めて、シェフのレネを筆頭にスタッフ全員でやってくるらしい。これも噂レベルだが、将来的には日本での展開も視野にいれているそうだ。そういったことも含め、どんな内容で料理を提供するのか、いまから楽しみではある。おそらく、年末になればこのニュースが国内外で大きな話題になるに違いないし、少なからず観光の呼び水にもなるだろう。

もっとも個人的に期待するのは、多くの日本人にガストロノミーの世界的なトレンドに興味をもってもらう機会になることだ。同時に、ノーマがなぜほかの国ではなく日本に出店するのか、“日本の食”の魅力を再確認するいい気づきになればいいと願っている。彼らが「儲かりそうだ」という理由だけで、日本にくるはずがないからである。


中村孝則|NAKAMURA Takanori
コラムニスト。ファッションやカルチャーやグルメ、旅やホテルなどラグジュアリー・ライフをテーマに、雑誌や新聞、TVにて活躍中。2007年にシャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)を受勲。2010年からは『Hr.StyleNorway』として、ノルウェーの親善大使の役割も担う。現在、世界ベストレストラン50の日本評議員代表。剣道錬士7段。大日本茶道学会茶道教授。近著に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社刊)がある。

           
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