ちいさな図版のまとまりからから建築について考えたこと|石上純也氏レクチャー・前編
DESIGN / FEATURES
2015年3月4日

ちいさな図版のまとまりからから建築について考えたこと|石上純也氏レクチャー・前編

ちいさな図版のまとまりからから建築について考えたこと
石上純也氏レクチャー 前編

INAX出版の書籍、若手建築家の建築作法を1冊にまとめた「現代建築家コンセプト・シリーズ」。第1弾の藤本壮介氏、そして9月5日発行予定の第二弾は今月イタリアで開催の「第11回 ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展」に参加で話題の建築家・石上純也氏のコンセプトブックが登場します。

こんかいはコンセプトブックの発売にあわせて、先日INAX:GINZAで開催された建築家フォーラム主催、石上純也氏講演会「自作について」よりお話を抜粋、石上純也氏のふたつのテーブル作品と、空間デザインのプロジェクトについての話をお贈りします。

まとめ、文=加藤孝司協力=建築家フォーラム、INAX出版

レストランのためのテーブル

レストランの内装の依頼です。クライアントからの要望は5組ほどのお客さんをそれぞれ特別な空間でサービスをしたいということでした。50平方メートルくらいの空間でしたのでそれぞれのお客様に個別の空間をつくるほどには広くありません。そこで空間を仕切って小部屋をつくる代わりに、二人には大きすぎるくらいのテーブルを用意することにしました。壁で仕切るよりは強固な境界ではないのですが、テーブルがあるとそこで自分の空間だということがある程度認識できます。そのことで、ゆるやかに空間をわけるようなことができるのではないかと考えました。

ここでまず最初に考えていたのが、内装のプロジェクトとはいっても壁や床を張ったり塗ったりという風にして空間をつくるということではなくて、何かをもう少し建築的に考えたいなと思っていました。

僕はこのテーブルを、空間をゆるやかに仕切る小さな建築としてつくりたいと思っていました。 テーブルの大きさは2m×2mで、結構スペースをとります。そこで、存在感の調整がとても重要だと考えました。具体的には、紙のように薄くて、大きなテーブルがいいのではないかと考えました。素材は鉄なのですが凄く薄いので普通にデザインするとたわんでしまいます。ですので、建築と同じように構造家の方とコラボレーションして、構造解析を行っています。あらかじめたわむ場所やたわむ大きさや曲率を算出して、たわむ方向と逆の方向に最初から曲げておくことで、床に設置したところで天板と脚が水平垂直になるようにしました。

レストランの空間を建築でいえば敷地に見たてて、大きなテーブルを小さな建築に見立てて、建物を敷地に五つ配置していくようにテーブルを店内に計画していきました。

僕はテーブルがインテリアのなかで割りと建築に近いと思っていました。というのも天板が屋根に見えたり脚が柱のように見えたりとか、何か建築の原型に近いような印象をもっていたからです。

天板と脚の表面には突き板を貼っています。実際の素材は鉄なのですがパッと見何でできているのか分からない。べニアでできているようにも見える。構造的にもどうなっているのか分からない。そういうものをつくりたいと思っていました。そのようなものが空間の快適性につながっていくのではないかと思っていたのです。どうなっているのかが分からない物の方が、なにか境界線がはっきりしないというか、どこからどこまでがそれ自体で成り立っていて、どこからが何かに依存しているのかが曖昧になると思っていました。その曖昧さが、最終的なデザインが持つフレキシビリティーを広げるように思っていました。

大きなテーブルですので、大半の部分に植物を置いたりして、大きなテーブルを小さな庭のように見たてて、それを眺めながら食事をします。注文をたくさんしたときにはテーブルの下に植物を置いて、また、ときには自分たちの荷物をテーブルの上に投げ出したりして喋ったりしています。

側面からみると厚みがないかのように見えるテーブルなので、それは、空間のなかにドローイングを描いたような印象を持ちます。そこにあるのかないのか、よく分からないような感じでテーブルをつくることで、そのテーブルがプロダクトであることを超えて空間そのものになっていくことを意図していました。そうすることでテーブルが建築と呼べるなにかになっていくのだと思っていたのです。

キリンアートプロジェクト2005「table」

次はレストランのテーブルを発展させてつくった大きなテーブルの作品です。ギャラリーでの展覧会のためにつくりました。

最初は「レストランのためのテーブル」を出品するということも考えていたのですが、レストランの機能に合わせてつくったものをギャラリーという展示空間のなかに置くということに、何かぎこちないものを感じていました。この空間にあったテーブルを新たに考えない限り、そのぎこちなさは取り払えないと思っていました。

ギャラリーという展示空間にテーブルをつくるということがどういうことなのかと考えたときに、少なくともレストランのように肉を切ったり肘をついたりといったことはないと思うし、物を書いたり打ち合わせをしたりするわけでもない。だからといって、テーブルの機能に必要性がないかというと、そういうわけでもなくて、テーブルであるからにはテーブルとしての最低限の機能がないとだめだと思っていました。ギャラリーなので上においてあるものを眺めたりといった、鑑賞することが多いはずです。眺めることとテーブルの機能が微妙な関係性で結びつくのがよいと考えました。

ランドスケープのように配置された植物や食器や茶器。それらが、水面の上に浮かんでいるようなイメージ。ゆらゆらと漂うようにゆっくりと振幅する水面に浮かぶ静物がつくりだす風景を眺めながら、水面に浮かぶ茶器でお茶が飲めたらいいなぁと思っていました。

テーブルの長さは9.5mで、高さは普通のテーブルより少し高くて1.1m、巾は2.6mになっています。素材はアルミで出来ていてレストランのテーブルのようにすごく硬いというよりは、紙のようにすごく柔らかいものをつくりたいと思いました。その紙のようにすごく柔らかいテーブルはすこし手を触れたりすると水面に波紋がひろがっていくように、ゆっくりと振幅を始めます、大きなテーブルが水面のように柔らかく揺らぎます。

「レストランのためのテーブル」は自重のみで成立していましたが、このテーブルは上に乗るものもあらかじめ計画して空間をつくっていきました。構造的にも上に載っかってくる重量もふくめて計算しています。上に載せる物の荷重も含めて成立しているので、設営するときは最初に物を載せる代わりに水を入れたペットボトルを置いて、想定している重量のバランスを取りながら、少しずつ展示物に置き換えていくということをしました。

テーブルの重量は700キロあるので、かなりの重さです。このようなすごく重いものが、風が水面を揺らすように軽やかに、ゆっくりと波打ちます。上に載っているものが倒れないくらいの振幅度合いで揺れ続けます。そのゆったりとした、目の錯覚にもみえる静かな揺らぎは、空間が動いているのかテーブルが動いているのか認識できないようなあいまいな揺らぎをつくり出します。一回揺れはじめると、ものすごく周期が長いので、一時間とか二時間くらいゆっくりと止まらないままにいます。

ギャラリーのなかに水面をつくるように大きなテーブルをつくりました。そこで、ゆっくりとお茶を飲めたらと思っていたのです。

LEXUSの会場構成

トヨタのレクサスが世界展開するにあたり、ミラノサローネの時期にあわせて、市内の古い劇場を使って、そのお披露目会を兼ねてインスタレーションをしてほしいという依頼がきました。

空間自体は1500平方メートルくらいの古い劇場で、イベントという性質上、2日間で設営をしなければならない条件でした。

そこで考えたのが、僕にとっては大きなその空間を、短期間にどのようにしてつくりあげるかということと、自動車を劇場のなかでどのように展示するかです。

僕はもともとショールームとかそういうところで車が室内に展示されているということにかなり、違和感をもっていました。屋外的なスケールの物を、屋内に強引に入れるということが僕のなかではすごくぎこちないことと思っていたのです。そういうスケール感の違いを、この空間のなかでどのように解決していくかということが大きなテーマになっていました。そこで、劇場全体を風景のようにしようと考えました。

LEXUSの会場構成

ランドスケープをつくるような感じで空間をつくっていけば、もともとの空間が自然と屋外的なスケール感を許容できるようになっていくだろうと思っていました。具体的には、劇場全体を霧でみたすことで、天気がかわるように刻々と空間が変化していくような感じにしました。すごく曇っているときもあるし、一方で、お客様が入ってきて温度が上がってくると飽和水蒸気量が上がって、だんだんと霧が晴れてくるときもあります。そうすると、もとの古い劇場の風景にもどったりします。

刻々と1日のなかで空間が変化していって、霧で曇ってくると白い布で覆った劇場のなかの客席が雪山に見えたり、もっと曇ってくると空間の奥行きが全く分からない真っ白な空間になったり、ぼんやりと元の劇場が現われてきたり、1日のなかでも山の天気に左右されるように劇場の風景が変わっていきます。よくあるようなインテリアの固定された空間というよりは、自然界のなかにあるようなゆったりとした流れのある空間になったと思います。

LEXUSの会場構成

現代建築家コンセプト・シリーズ・2 石上純也
ちいさな図版のまとまりからから建築について考えたこと

著者|石上純也、五十嵐太郎、ほか
発行|INAX出版 http://www.inax.co.jp/publish/
判型|210mmx150mm
ページ数|160ページ(オールカラー)
定価|1890円
2008年9月5日発行

石上純也さんの詳しい情報はこちらまで──
http://openers.jp/interior_exterior/index/junya_ishigami.html

           
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