BoConcept|ボーコンセプト南青山店で、建築家 谷尻 誠がボーコンセプトを語る
DESIGN / FEATURES
2015年5月19日

BoConcept|ボーコンセプト南青山店で、建築家 谷尻 誠がボーコンセプトを語る

BoConcept|ボーコンセプト

ひとの住まい方には、かならずライフスタイルがにじみ出ている

建築家 谷尻 誠、ボーコンセプトを語る

「以前と比べてずいぶんナチュラルでソフトな色が増えましたね」──昨年9月に南青山店で開催されたボーコンセプトのパーティーで、Kyoto Jazz Massiveの沖野修也さんとのトークショウをおこなって以来、約1年ぶりに南青山店を訪れた建築家の谷尻 誠氏。新作のテーブルやチェアを熱心に見はじめた。

Text by OPENERSPhoto by JAMANDFIX

テーマは「余白」。完成しない建物とは……を考えながら設計しています

“建築と音楽”というトークショウから1年ぶりのボーコンセプト南青山店。谷尻氏は、新作のエクステンションテーブル「Occa(オッカ)」や、オーク仕上げの「LONDON(ロンドン)」チェアなどの説明を受けながら、丹念に見て、実際に触れて、座り、あたらしい色や素材づかい、デザインを体感した。

──新作の印象はいかがですか?

以前のボーコンセプトの家具は黒が主流で、とてもシャープな印象がありますが、新作はとくにナチュラルカラーが中心で、少し驚きました。以前は、家具を選ぶときに、ウォルナットなどの濃いめのブラウンをよく使っていましたが、昨年ぐらいからナチュラルカラーを推すようになって、自然と使うようになってきています。

自分が設計する空間がシャープでモダンなものが多いので、濃い色の家具を置くとよりシャープに仕上がるのですが、最近は“ミスマッチのマッチ感”というか、家具やファブリックに柔らかいものを使いたいと思うようになってきた。空間とのコントラストが生まれるんですね。洋服でも全身シャープな着こなしより、破れたジーンズにキレイなシャツのような合わせがいい。

近年は「余白」がテーマで、ビシッと設計するよりも緩さがある、設計しきらないほうに気を配っています。完成しない建物とは……を考えながら設計していて、以前よりも緩く緩くつくるように心がけています。

ボーコンセプト|谷尻誠 02

ボーコンセプト|谷尻誠 03

──建物の設計と家具との関係は?

設計の段階で、家具までアドバイスさせていただくことが多いですね。個人の住宅にかぎらず、お施主さんによっては小物まで選んでほしい、アートの提案などスタイリングまでしてほしいというケースもあります。自分には、設計事務所だから、設計だけを考えていればいいという感覚があまりなくて、いかに余計なお世話をするかも仕事です(笑)。

施主さんへのはじめてのプレゼンテーションのときに、模型の段階で、家具はもちろん、絵まで飾って、生活感が垣間見ることができるように提案するんですが、そこで生活のきっかけを提案できれば、施主さんもそこから想像が走り出します。

また、設計する前にかならず家を訪問するのですが、住まい方を見ると、料理が好きなんだなとか、器や本、音楽にこだわっているんだなとか、ライススタイルがにじみ出ています。扉もなるべく開けさせてもらって、実際の生活を見て、施主さんの価値観を見て感じることも大切にしています。

BoConcept|ボーコンセプト

モノ以外の考え方に共感することからはじまるモノ選び

建築家 谷尻 誠がボーコンセプトを語る(2)

差異から生まれてくる“しっとりとしたあたらしさ”とは

──ボーコンセプトの家具はいかがでしたか?

もっと高い家具だと思っていました(笑)。この価格は、きちんとブランディングができているということですね。もっとシャープな家具のイメージがありましたが、ダイニングテーブルの白木とシルバーのコンビネーションなど、シャープさと柔らかさが一緒になっているのが印象的です。

いままで見たこともない形であたらしさを表現するのは、あたらしいことがわかりやすいですが、テーブルやソファ、椅子のように、社会で確立された形があって、そのモノの姿形が変わっていないのに、あたらしさを感じさせるのはハッとしますね。その微差に向き合えているかどうかが大事です。

モノに向き合うことってできそうでできなくて、たとえばテーブルに向き合って、テーブルについて考えつづけるとやがて差異が生まれてくる。そこで生まれるのは、モデルチェンジのあたらしさではなく、しっとりとしたあたらしさです。

世の中は、つねにあたらしさを誇張したがりますが、歴史がありながら、いまのあたらしさが表現されている。まさに微差だと思います。

ボーコンセプト|谷尻誠 05

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──家具にかぎらず、谷尻さんがモノを選ぶ基準は?

企業の思想や、デザイナーの考えかたを聞けると、いいなと共感して買ってしまいます。洋服でもそうですが、こういうひとがつくっているからと思うと、余計好きになりますね。モノづくりにはコンセプトがあって、そこからモノができてきますが、じつは、モノができたときが、一番純度が落ちる瞬間なんですよ。だから、コンセプトと合っていないモノは意外と多いんです。その落差が少ない、落差がないものが好きですね。

BoConcept|ボーコンセプト

何のためにつくるのかをわかった上で建築と向き合う

建築家 谷尻 誠がボーコンセプトを語る(3)

“行為が空間をつくる”という考え方では、家具は大事な存在

──谷尻さんの広島の事務所で開催しているイベント「THINK」は大盛況ですね。

本や音楽、美術など、あらゆる社会と手を繋ぐべき存在が建築ですが、建築ばかり勉強して、建築だけをつくっていても、果たして社会性のある仕事ができるのか? をずっと自問していました。もしかすると建築以外から建築の大切な要素が見つかることもあると、それぞれのジャンルの世界の第一人者を広島に招いて、コミュニケーションの場をつくりました。

──先日対談をされたBEAMSの青野賢一さんなどもゲストに予定されているとか?

まさに、青野さんに言われた「翻訳」ですよね、僕がやっていることは。「THINK」をとおして社会と手を繋げる状態を模索しながら、建築に置き換えるとどうか? をずっと翻訳しています。

「THINK」は、“行為が空間をつくる”ことをやりたくてはじめたものです。たとえば、廃墟に、ソファとダイニングテーブルがあって、シャワーがあって、キッチンがあれば生活ができるから、そこに住宅という名前がつく。容れものは廃墟でも、エキシビションを開けばギャラリーに、お酒を飲めばバーに、髪を切れば美容院になります。

また、インテリアショップの設計を頼まれれば、インテリアショップらしきものを絶対につくるのですが、空間に手を入れずに、家具を入れれば、そこはインテリアショップになる。そのことをわかっていながら僕たちは空間をつくります。だから、つくる前に、何のためにつくるのかを考えなければならない。それをわかったうえで建築と向き合わなければならない。だから、空間にとって家具(インテリア)はとても大事です。

「THINK」という場をとおして、廃墟のような空間が、行為によって部屋の名前が変わっていくことで、よりモノをつくることに向き合えるし、あたらしいコミュニケーションが生まれるのを実感しています。

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──では、谷尻さんにとって、くつろげる時間と空間とは?

僕はひとが好きなので、たとえば大きなダイニングテーブルを見ると、そこに友だちが集い、お酒や食事があって、楽しい語らいがあるというように、その先の出来事を想像できるモノが好きです。そういう時間がいちばんくつろげているし、仕事の発想の原点になっていますね。

──ありがとうございました。

BoConcept南青山店
東京都港区南青山2-31-8
Tel. 03-5770-6565
営業時間|11:00~20:00
無休
http://www.boconcept.co.jp/

ボーコンセプト|谷尻誠 10

谷尻 誠|TANIJIRI Makoto
1974年 広島県生まれ(37歳)
1994年 穴吹デザイン専門学校卒業
1994年~1999年 本兼建築設計事務所
1999年~2000年 HAL建築工房
2000年 建築設計事務所Suppose design office設立
現在 穴吹デザイン専門学校非常勤講師
Suppose Design Office
http://www.suppose.jp/

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