ベアブリックは白いキャンバス。そこに何を描くかがデザイナーの勝負!|MEDICOM TOY
MEDICOM TOY|メディコム・トイ
KIDILLデザイナー 末安 弘明さんに聞く(1)
BE@RBRICKは、様々なコラボレーションを展開するアイテムである。これまで多彩なジャンルから話題の人々が参画しているが、ファッションカルチャーからも参画者が多いことが、特徴なのかもしれない。BE@RBRICKは造形がはじめから決まっているゆえに、あとは発想勝負となるのだが、彼らは何を求めて、この勝負に挑むのだろうか?
Photographs by OHTAKI KakuText by SHINNNO Kunihiko
ブランドのアイコンが、BE@RBRICKになる
――まずは、KIDILL(キディル)というファッションブランドについて教えてください。
末安 KIDILLは“純粋性と気持ちの有様”を意味する造語で、2014年に立ち上げました。
僕が’90年代に体験したカルチャー、グラフィティやパンク、スケートボード、映画、現代文学などからインスピレーションを得て、自分なりに服に落とし込むやり方をとっています。
――ストリートとモードの狭間を颯爽と駆け抜けるKIDILLの服の魅力は、末安さん自身の嗜好が反映されているんですね。
末安 結局かっこいいなと感じるものって若いときに自分が好きだったカルチャーなんです。
自分の好みに寄せて作るようにしないと服が嘘くさくなってしまうので。
いまの若い子たちってかっこいいから、そういう子たちに着てもらえたらなと思いながら服を作っています。メンズのブランドですけど、最近は女の子のお客さんも増えてきていますね。
――今回、ブランドのアイコンである「KIDILL BEAR」と「KIDILL CAT」が、それぞれBE@RBRICK、NY@BRICKになって登場しました。
どちらもパンキッシュでインパクトのあるデザインですが、あのキャラクターたちはどういう風に生まれたんでしょうか。
末安 KIDILLを始める前に10年ほど別のブランドをやっていたんですが、その頃からグラフィックがひとつの特徴で、その流れの中で、いろいろなグラフィックを手掛けました。
ちょっとクレイジーな動物のキャラにしようということで、「KIDILL BEAR」がTシャツへの刺繍、「KIDILL CAT」がセーターのジャガード織りのキャラクターとしてデビューしました。
――ちなみに末安さんはなにか動物は飼ってらっしゃるんですか?
末安 動物は飼ってないんですけど、猫、熊、狼は好きですね。ブランドの顔的なキャラクターのつもりで、毎シーズンなにかしらのかたちで登場しています。
MEDICOM TOY とのコラボレーション成立までの経緯
――どういうきっかけでメディコム・トイとコラボレーションが実現したんでしょう?
末安 メディコム・トイ代表の赤司さんが、もともとKIDILLの服を気にいって買っていただいていたんです。
それで、うちがコムデギャルソン トレーディングミュージアムさんと限定商品を作って展示販売したときに初めてご連絡をいただいて。
赤司さんもああいうちょっと変わったキャラクターがお好きなようで、KIDILLのキャラクターを使って何か一緒におもしろいものを作りませんかという提案をいただいて。
――これまでフィギュアなどコレクションされたことはありますか?
末安 子供の頃はビックリマンとか集めてました。
’90年代にアメコミのフィギュアが流行った頃は、それ系のフィギュアも買ってましたし、根本的にはめちゃくちゃ好きです。
なので最初に話をいただいたときは嬉しかったです。
――立体化された「KIDILL BEAR」「KIDILL CAT」をご覧になって、いかがでしたか?
末安 もとは平面なので、「どうなるんだろう?」という気持ちばかりでしたね。
サンプルを見たときは「とにかく完成度が半端ナイな」「さすがツワモノだな」って印象でした。
――修正や変更点など微調整もされたんですか?
末安 最初からメディコム・トイさん側の方で、このキャラをこうしたいというアイデアが固まっていたので、微調整もなにも、最初の段階から完成されてました。
スムーズ過ぎて逆に心配になる感じでしたね(笑)。
たしかに「KIDILL BEAR」「KIDILL CAT」はすごく相性がいいキャラクターだったと思います。
これまで服しか作ってこなかったから、どういう人たちがフィギュアを買ってくださるのか、反響が楽しみです。
Page02. MEDICOM TOYをきっかけにした、原典逆引きのススメ
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KIDILLデザイナー 末安 弘明さんに聞く(2)
MEDICOM TOYをきっかけにした、原典逆引きのススメ
――もしかすると今回のBE@RBRICK、NY@BRICKとのコラボレーションをきっかけにKIDILLというブランドを知る人がいるかもしれないですね。
末安 そう思います。BE@RBRICKは初期の頃からFUTURA(フューチュラ)やSTASH(スタッシュ)、KAWS(カウズ)といったグラフィティ・アーティストのコラボモデルを作っていたじゃないですか。あれで彼らのことを知った人も多いと思うんです。
僕は’90年代、専門学校時代にFUTURAを知って、グラフィティに興味を持ちました。FUTURAのグラフィティを観に行くだけのためにニューヨークに行ったぐらい大好きで。
――2000年代前半は独学で服作りを学ぶためロンドンにいらっしゃったそうですね。
末安 3年間住んでました。BANKSY(バンクシー)のグラフィティが路上にたくさんありましたね。スーパーで買い物した帰り道に彼のグラフィティを発見したり。
当時はまだ知られていませんでしたが、あんなに人気になるとは思わなかったですね。
――2007年のサザビーズオークションで総額37万2千ポンド(日本円で約8500万円)で落札されたことが大きかったと思います。
末安 久しぶりにロンドンに行くと、盗まれないように保護されてるんですよね。グラフィティがそういう扱いになるのはちょっと驚きでした。
メディコム・トイさんはBANKSYの作品にインスパイアされたアイテムも作ってますよね。さすがだなと思います。
BE@RBRICKに関しても目利きというか、その時代の最先端の人とコラボレーションしてるなという印象があります。
アーティストの方もBE@RBRICK自体を真っ白なキャンバスのひとつと捉えて作品にしているし、すごく相性いいですよね。
――グラフィティ・アーティストとのコラボレーションでは最近Jean-Michel Basquiat(ジ
ャン=ミシェル・バスキア)、Keith Haring(キース・ヘリング)のBE@RBRICKが発表されました。
末安 ええ、見ました。総柄みたいになってて、かわいかったですね。
――ファッションデザイナーという立場からご覧になってBE@RBRICKとはどういう存在でしょう?
末安 さっきお話しした通り、真っ白なキャンバスに近いですね。構造的なところは赤司さんたちが時間をかけて作り上げてきたものだと思いますし、今回の「KIDILL BEAR」「KIDILL CAT」に関しては、平面のグラフィックをいかに立体物に落とし込むかという作業がとても興味深かったです。
――ブランドに話を戻すと、KIDILLの2018 Spring Summer COLLECTIONでもコラボレーションが行われています。
末安 “NEW CHAOS”というタイトルで、写真家のデニス・モリスとコラボレーションしています。もともとジョン・ライドンがすごく好きなので、いつかPublic Image Ltd(P.I.L.)とコラボをやりたいと思っていたら、デニス・モリスが3年前に日本に来たときにヒカリエ渋谷でやったKIDILLのランウェイを観に来てくれたんです。それが最初の出会いで、僕の洋服も気に入ってくれて。それからコンタクトをとり合って今回ようやくコラボが実現した感じです。
――理想的な出会いですね。
末安 そうですね。お互い、いい感じにやれています。’70年代後半、パンクが下火になってニューウェーブが台頭してくるわけですが、セックス・ピストルズ脱退後のジョン・ライドンもまたパンクから脱却するためにポストパンク的なものを模索してた時期だと思うんです。その時期にずっと一緒にいたのがデニス・モリスで、当時の空気を写真で記録しているんです。
なので僕も今回はパンクというものを一回脱ぎ捨てて、さらに一歩踏み込んだ自分なりのポストパンクのつもりで服を作ってみました。尊敬の意味を込めてジョン・ライドンの写真を使わせていただきつつ、ちゃんと現代に落とし込んだ服にしている感じです。
――なるほど。
末安 それと、今シーズンはTokyo新人デザイナーファッション大賞を受賞しました。その関連で、Amazon Fashion Week Tokyo期間中に、渋谷ヒカリエにてコレクションを発表しました。都知事の小池百合子さんから、グランプリの東京都知事賞を頂いたのは嬉しかったです。
またデニス・モリスとのコラボレーションを、ランウェイ形式で見せることができたのも良かったと思ってます。服は僕なりの現代のジョン・ライドンみたいな感覚で楽しみながら作りました。
ショーの後にデニス・モリスから連絡があり、「キーホルダーが大量に付いた服(※前出)が欲しい」と言ってくれて。でも、本当に着るのかな(笑)。ショーピースとして作ったものなので驚いたけど、嬉しかった。ちなみにそのキーホルダーの服は、MEDICOM TOYの赤司さんも気に入ってくれました。
――店頭に並び始めるのは来春ですか。
末安 そうですね。来年の2月くらいだと思います。
――これからメディコム・トイと挑戦したいことはありますか?
末安 今回が初めてだったので、また何かの機会でやらせてもらうことがあれば、ぜひ! たぶん1回目より2回目の方がもう少しいろいろ面白いことができそうだなと思うので。
あと、自分がどこかで大きいことをやるときにお願いしたいですね。例えば、ロンドン・コレクションでデビューするとき、メディコム・トイさんにめちゃくちゃ作り込んだマスクを作ってもらうとか。服はやっぱりコレクションが一番お客さんたちも見てくれるので、その時に一緒にやっていただけたら嬉しいです。とにかく誰も見たことない、トンでもナイことをやりたいです。
――それはぜひ見てみたいです! 今後の展開を楽しみにしております。