四月の魚|shigatsu no sakana
Design
2015年4月22日

四月の魚|shigatsu no sakana

四月の魚|shigatsu no sakana
唯一無二の空間に置かれる古道具たち

のどかに広がる田園風景。白壁造りのたてものや、家々のあいだをぬうように築かれた水路。そこに暮らす美しい人びと。今回は福岡県うきは市吉井町にある古道具のお店を紹介。

写真と文=加藤孝司

静かに、そして生きるということにたいして、あたりまえに暮らす喜び

福岡県の東南に位置する吉井町は、豊後街道の宿場町として栄え、いまでもところどころに白壁土蔵造りの商家がのきをつらねる風情のある町だ。福岡市内から高速に乗り、朝倉か杷木あたりで高速を降りると、そこはのどかな風景の広がる田園地帯である。

あるひとつのモノから受ける印象は人それぞれ、さまざまだ。モノといえども機能の面からみることによって見えるものと、美的な情緒的な側面から見ることとでは見えてくるものもおのずと異なる。モノも人と同じように何かの機能をもち、誰かの役にたつ道具であるまえに、かけがえのないある特定の個性ある存在感をもつものだ。

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「四月の魚」は古道具をあつかうお店だ。お店である建物は昭和30年代に建てられたという町の歯科医院だった一軒家。その佇まいは静けさと清々しさにみちている。店主の関さんは丁寧につくられたその味わい深い建物を、ほとんどリノベーションせずにそのままを生かしそこに暮らしている。

モノのありのままを受け入れる生きかたのスタイルやお店としてのありかたが、そのお店がつくりだす雰囲気や、その空間のなかに置かれているものにも確かに反映されている。

この町の背骨のように遠く連なりそびえる耳納連山の山並み。現在も吉井町には宿場町風情の残る町並みが広がり、そこに住まう美しい人びとの生まれ変わりのような、春になると美しく咲きほこる花々の植栽があり、それを育てる人のやさしい心づかいがある。訪れた日はお店で以前から取り扱いのある、やきものの産地として知られる岐阜県多治見で作陶し、現在吉井町のとなり町うきは市浮羽町に窯をもつ陶芸家黒畑日佐代さんの展示会が開催されていた。

黒畑さんがつくるやきものは、低温でゆっくりと焼きあげる貫入も美しい楽焼とよばれるやきもの。そのかろやかでたたずまいのしっかりとしたやきものからは、つくり手の思いや心くばりといった、人間味あふれる奥ゆかしさが感じられる。

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長年、人の暮らしぶりを見てその手を経てきた、日常使われてきた日用品や道具。そして生真面目につくられたいまという時代に生まれた器やオブジェ。それらがそれらの適正な居場所を確保しつつ、静かにかたよせあうように並べられたこの空間は、ほかのどこにもないここだけの唯一無二のものだろう。

静かに、そして生きるということにたいして、あたりまえに暮らす喜び。そんなかけがえのない日常の風景がいとおしくも美しく感じられる、人の暮らしとともにあるお店だ。

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古道具 四月の魚
福岡県うきは市吉井町1133-5
営業時間|11:00~18:00
定休日|水曜
Tel. 0943-75-5501

           
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