クリーンディーゼルの真実(後編) ディーゼルの近未来
クリーンディーゼルの真実(後編)
ディーゼルの近未来
年々世界的に厳しくなっているディーゼルへの規制。とくに日本のそれはクリアするのがもっとも難しいとされていたが、今年、大手自動車メーカーが最新ディーゼルでそれを克服、これに続けとさまざまなメーカーが名乗りをあげている。その背景には、著しく進歩した技術と、国の環境政策があった。
文=森口将之
「クリーンディーゼル」とは
クリーンディーゼル。最近よく耳にするこの言葉の意味を知っているだろうか。有害物質のNOxやPMをほとんど出さない、排出ガスがきれいなディーゼル車と答える人が多いかもしれない。もちろんそれも正解だ。しかし日本では最近、この言葉にもうひとつの意味が込められることになった。
「新短期」「新長期」「ポスト新長期」。最新のディーゼルエンジンを調べていくと、こういう言葉が出てくる。いずれも排出ガス規制の呼び名で、新短期は2002年、新長期は2005年、ポスト新長期は2009年規制のことだ。
政府では、このうちポスト新長期に適合したクルマを「クリーンディーゼル」と呼んで区別し、補助金や税金優遇を用意することになった。ディーゼルがエコであると国が認めたのだ。
厳しい日本の規制
日本のディーゼル車規制は厳しい。たとえば3年前に実施された新長期を、今年施行された欧州ユーロ5規制と比べると、PMだけはユーロ5のほうがシビアだが、それ以外のCO、HC、NOxは新長期のほうがハードルが高い。そしてポスト新長期では、PMもユーロ5と同じ数字になり、NOxレベルはさらに高められた。
コモンレール式直噴、可変ジオメトリーターボ、微粒子フィルターと新開発の技術を次々に投入して規制をクリアしてきたディーゼルだが、ポスト新長期のNOx規制値クリアは「いくらなんでもムリだろう」という意見が当初は多かった。ところが技術の進歩は、不可能さえも可能にしてしまった。
日産がこの規制をクリアしたSUV「エクストレイル」を今年発表。輸入車ではアウディが2010年にクリーンディーゼルを積んだ「Q7」を発売すると表明した。一方、「三菱パジェロ」は、現行の新長期規制適合車を10月1日発表し、2年後をメドにポスト新長期対応車の開発を進めるという。これ以外では「ホンダ・アコード」が来年デビューする予定。現在は新長期対応のクルマを販売しているメルセデス・ベンツも、ポスト新長期に対応した「Mクラス」の発売を考えているという。
突破口は「アドブルー」と「NOxトラップ」
ムリといわれたポスト新長期クリアを達成した裏には、2つの新技術があった。ひとつは「AdBlue(アドブルー)」。アドブルーとは尿素水溶液の名称で、NOx触媒の直前でこれを噴射し、触媒内でNOxを窒素(N2)と水(H2O)に分解するというものだ。
もうひとつは「NOxトラップ」。こちらはNOxを一時的に吸着するトラップ触媒を使い、燃料が濃い燃焼を瞬間的に行うことで、排出ガスの成分とNOxを化合させ、窒素、二酸化炭素、水を生成するというものだ。
クリーンディーゼルはこのどちらかを使っているが、興味深いのはドイツのアウディやメルセデス・ベンツはアドブルー(AdBlue)方式、国産車はNOxトラップ方式にはっきり分かれていることだ。ただし同じ国産車でも商用車では、すでにアドブルー方式のトラックが市販されている。
エコだけではなく、ファン
もうひとつ、現在市販中あるいは市販予定のクリーンディーゼルを見ると、アコード以外すべてSUVであることも目につく。
これは低回転で大トルクを出すディーゼルの特性が、重いSUVを走らせるのに適しているからだ。現にヨーロッパでは、セダンやワゴンよりSUVのほうがディーゼル比率は高いという。さらにわが国では、かつてディーゼルのSUVが数多く市販されており、ユーザーが違和感を持ちにくいことも挙げられる。
今後ほかのボディや車種に拡大するかどうかは、ひとえにユーザーの反応にかかっているのだが、個人的にはディーゼルの未来に対して楽観的に見ている。
クリーンディーゼルはかつてのディーゼルとは違う。音は静かで、黒煙は出さず、臭いはなく、燃費はよく、環境にやさしい。しかも低回転から大トルクでグイグイ引っ張る加速は、ガソリン車とは違うドライビングプレジャーがある。エコだけではなく、ファンでもあるのだ。