MP4-12Cとは? 渡辺敏史が解説|McLaren MP4-12C
McLaren MP4-12C|マクラーレン MP4-12C
野望を秘めた革新的スーパースポーツ(1)
2011年10月5日にジャパンプレミアを果たした“ロードゴーイングF1”と謳われるマクラーレン製高性能スポーツカー「MP4-12C」。レーシングチームの名門として、多くのグランプリ優勝回数、タイトルの獲得回数などを誇り、現在ではさまざまな業種にも着手しているマクラーレンだが、このMP4-12Cは今後年間4000台の生産を目指すという同車にとって、さらなる規模拡大を目論むべく誕生した、まさに肝いりのモデルである。マクラーレンにとって、そしてスーパースポーツカーセグメントにとっても、次世代の幕開けを感じさせる、そんなエポックメイキングなモデルについてジャーナリスト 渡辺敏史氏に語ってもらった。
文=渡辺敏史
あたらしく建てられる工場で、年間4000台の生産を目論む
往年の名ドライバー、ブルース・マクラーレンによって1963年に設立されたレーシングチームは、今やその枠にとどまらず、世界最速のレースフィールドで培った開発・分析・シミュレーションのテクノロジーを、スポーツ競技や医療、航空の分野にまで広げている。すなわち現在の「マクラーレン」はたんなるカンパニーというよりは、発想と技術をボーダレスで展開する集団と言ったほうがふさわしい。そのすべてはロンドンの郊外、ウォーキングという街にあるマクラーレン・テクノロジー・センターに纏められ、フォスター+パートナーズによって設計されたその独創的な社屋のなかでは、すべての機能が適切な距離感をもって収められている。
その敷地内に、おなじくフォスター+パートナーズの手がけたファクトリーが本格稼働するのはまもなくだ。言わずもがな、それはこのMP4-12Cが生まれる場所である。この強大な投資の裏には、マクラーレンのオートモーティブ部門が描く青写真にさらなる野望が隠されている。具体的には、このMP4-12Cを核としたいくつかの車種展開が予定されていることはまちがいない。それらをあわせて年間4000台生産という、現状のランボルギーニをも上まわる規模の会社へと成長させる。それがマクラーレングループを率いるロン・デニス会長の思惑だ。
とはいえ、マクラーレンにとっては初出にひとしい量産車であるこのクルマが属するのは、いわゆるスーパーカーセグメントのど真んなかである。ライバルが跋扈する場所に、あえて身を置くからには彼らを弾き出す勝算があるのだろう。
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野望を秘めた革新的スーパースポーツ(2)
ドライカーボンとアルミ押出材の複合構造からなる「モノセル」を採用
その勝算とはなにか。MP4-12Cが開発においてもっとも強く意識したであろうことは、マスの低減にある。600psのパワーを受け止める芯となるのは、ドライカーボンとアルミ押出材の複合構造からなる「モノセル」で、その重量はわずかに75kg。図らずもレクサス LFAやランボルギーニ アヴェンタドールも類似した形式を用いてきたことからみても、スポーツカーにもたらす効能が非常に高いことはうかがえる。そしてなにより、F1にカーボン素材をもちこんだ張本人でもあるマクラーレンが、この形式を採用しない理由はない。ちなみにMP4-12Cの実質重量は日本の表示基準に近いDIN規格で1,434kg。直接のライバルにたいしては1割近く軽く仕上がっている。
くわえて、MP4-12Cはもっとも重要なヒューマンインターフェイスの調律、すなわちコンパクトな車体と視界の確保という点にしっかりと気を配られている。注目すべきは1,908mmの全幅で、このクラスのスタンダードにたいしてあきらかにタイトなそれは、コクピットのセンターコンソールを縦型にするなどの腐心によって導かれたものだ。そして車内に座ればミッドシップカーにして斜め後方の視界が開け、前を向けば盛り上がるフェンダーの峰をとおして車幅と前輪位置が把握しやすいように気づかわれていることがわかる。ひとがスポーツドライビングを愉しむにあたってなにが一番重要かといえば、視覚情報の量と明確さであることに疑いの余地はない。MP4-12Cのそれが偶然の産物ではなく、フロントカウルの上端をできるだけ低くするなど、設計の時点から確保される前提だったと知れば、このクルマがいかに走りを本気で考えているかが伝わってくるだろう。
自社製3.8リッターツインターボエンジンは最高出力600psを発揮
軽くて小さく取りまわしやすい。設計時点で掲げられたそのコンセプトは、かつてのホンダ NSXをみているかのようだ。実際コクピットに収まると、そのなじみやすさはスーパーカーカテゴリーにおいて異質なほどで、なにかを引きあいに出すならNSXのそれに近い。
しかしMP4-12Cが搭載するエンジンは、2WDのリアミッドシップとしては禁断領域ともいえる600psである。前述の車重も相まって、その瞬発力はフェラーリ 458 イタリアや日産 GT-Rと対峙し、最高速にいたっては330km/hオーバーをうたう強烈なものだ。そもそも車名の12Cには12気筒に匹敵するという意があるほどで、それを前後長の短い自社設計の3.8リッターV8ツインターボで達成することにより、理想的なパッケージも両立したというのがマクラーレンの言い分だ。げんに重量配分をみても約42:58と、昨今のミッドシップモデルにしてはリア側の荷重が若干強い。くわえて、搭載される電子ボディコントロールデバイスは氷雪路からサーキットアタックまであらゆる場面を想定しての走り込みによってセットされたというから、トラクションにかんしては相応の気配りがなされているものと思われる。
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野望を秘めた革新的スーパースポーツ(3)
徹底的に空力の最適化が図られたプロポーション
そして超高速域でのスタビリティを担うのは、おそらくマクラーレンが培ってきたノウハウを徹底的に叩き込んだであろうエアロダイナミクスということになるはずだ。床下を流れる空気を効果的に整流することによって、エンジンルームの熱を吸い出しながら強烈なダウンフォースを生むという発想はすでにこのクラスのクルマではメジャー化しているが、MP4-12Cもご多分に漏れず、空気の裁きにはF1スペックの風洞実験施設を用いて徹底的な解析がおこなわれた。フロントバンパー下部中央がなめらかに削ぎ落とされているのはそのためで、風の流れを床下へと導くべく形状も最適化されている。
くわえて、メルセデス・ベンツとのジョイントによって先に市販されたSLR マクラーレンでは、リアフード端をポップアップさせることで後輪側に大きな減速効果を生むエアブレーキを採用していたが、MP4-12Cでもその考えは継承された。
ハイパフォーマンスに比して、優秀な環境性能を実現
軽量化とベストパッケージの両立、そしてエアロダイナミクス──と、MP4-12Cを語るに欠かせない要素はハイスピード指向に終始するが、その副産物としてこのクルマが対ポテンシャル比で優れた環境性能をもっていることもひとつのポイントだ。
279g/kmという発表されたCO2排出量から察するに、日本での高速巡航燃費は、10km/ℓをオーバーすることもむずかしくないだろう。そしてマクラーレンが盛んに主張するのは「ミドルサルーンに匹敵する乗り心地の良さ」である。こればかりは試乗してみないことにはなんともいえないが、さすがにこのセグメントにおいて快適性を無視したクルマづくりはできないだろう。
仮にその点がかなえられているとすれば、このクルマはそのサイズや視界の良さもあいまって、ポルシェ 911よろしく日常に供せるものとなるかもしれない。
僕がウォーキングでMP4-12Cのランニングプロトにはじめて触れたのは10年の春のことだったが、市販型がリリースされた現在にいたるまで、目に見えるほどの変更点は見当たらない。その時差からも慮るに、マクラーレンは熟成期間をしっかり取りながら、慎重にこのクルマを公道に乗せているはずだ。彼らの思い描くストーリーははじまったばかりだが、今回日本発表の場に置かれた白い生産型には、華やかさ以上に得もいえぬ清冽さが感じられた。それは我われがマクラーレンの名にたいして抱く「完璧」というイメージと図らずもシンクロしている。
McLaren MP4-12C|マクラーレン MP4-12C
ボディサイズ|全長4,509×全幅1,908×全高1,199mm
車輛重量|1,434kg
エンジン|3.8リッターV8ツインターボ
最高出力|600ps(441kW)/7,000rpm
最大トルク|600Nm/3,000-7,000rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ
燃費|11.7ℓ/100km
CO2排出量|279g/km
価格|2790万円
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