ケータハム セブン160に試乗|Caterham
Caterham Seven 160|ケータハム セブン 160
軽自動車規格におさまるセブン
ケータハム セブン160に試乗
英国生まれのネイキッドな自動車、ケータハム「セブン」にあらたに登場したエントリーモデル「セブン160」は、スズキ製の660ccエンジンを搭載し、日本では軽自動車として登録できる点も注目される一台。電子制御による走行安定装置はもちろん、エアコンやラジオまで一切ない、ただ楽しく走るためだけのプリミティブなクルマだ。そんなセブン160を、大谷達也氏がリポートする。
何もかも普通ではない
普通の自動車とまったくことなる乗り物であることは、ルーフはおろかドアやサイドウィンドウさえないことから一目瞭然。しかも、着座位置は地面スレスレといっていいほど低く、おまけに足下のスペースは極端に狭いから、両腕で上半身の体重を支えながら2本の脚を素早くレッグルームに滑り込ませるという芸当が必要になる。まるで、フォーミュラカーに乗り込むようなものだ。
でも、このちっぽけなケータハム「セブン160」を操る楽しさを覚えてしまったら、そんなことはすべて頭から消え去ってしまうはず。むしろ、まるで手足のように操れるこの軽快感を手に入れるには、クルマが走るのに本当に必要な機能以外をすべて省いたこの形以外にはありえないと思い込んでしまうことだろう。
そして、直径25cmほどの“超”小径ステアリングやセンタートンネルからこぶしひとつ分くらいしか突き出ていないマニュアル ギアボックスのシフトレバー、そして薄いアルミの板をただ折り曲げただけの簡素なボディが次第にいとおしく思えてくるはずだ。
ロータス「セブン」として1950年代に誕生した“セブン”は、1970年代にロータスが生産を取りやめると、もともとロータスの代理店だったケータハムがその権利を引き取り、現在に至るまで彼らが作りつづけているという息の長いスポーツカー。クラシカルなアピアランスや、シンプルきわまりないメカニズムも、その原型が50年以上も前に誕生したと聞けば納得がいく。
Caterham Seven 160|ケータハム セブン 160
軽自動車規格におさまるセブン
ケータハム セブン160に試乗 (2)
時代に合わせてハイパワー化する“セブン”
しかし、セブンはその長い歩みのなかで、好むと好まざるとにかかわらず進化を強いられてきた。より大きく、そしてよりハイパワーなエンジンが搭載され、これと歩調をあわせるようにして足回りも次第に強化。持って生まれた軽量ボディと相まって、それこそロードゴーイングレーサー的なおもむきを備えていったのである。
いまもケータハム セブンのラインナップにはパワーウェイトレシオが2.1kg/psなんていうレーシングカー並みのモンスターも存在していて、これはこれで走らせれば痛快だろうけれど、比較的ローパワーなエンジンを軽量ボディで補うことで独特のスポーツカーを生み出していたロータスのコンセプトとは大きく外れているといえなくもない。率直にいって、ハードなドライビングに没頭するだけならいいけれど、気軽にスポーツドライビングを楽しむにはちょっと荷が重いモデルになっていたのだ。
原点に立ち返ったセブン160
そこに登場したのが、この「セブン160」である。巷でも話題になっているとおり、セブン160のフロントに収まっているのは日本のスズキが軽自動車用に作っている660ccの3気筒ターボエンジン。その最高出力は80psに過ぎないけれど、そもそも車重が490kg(!)しかないので、パワー ウェイト レシオは6.1kg/psとなかなか立派な値になる。たとえば、おなじオープン2シーターのBMW「Z4 sDrive20i」が8.2kg/psだと聞けば、相対的にセブン160がどれほど高性能かがわかるだろう。
それでも、セブン160の足回りは思いのほか手触りが柔らかい。極端な話、これだったら街乗りでも全然苦にならないと思えるほどなのだ。
それでいながら、ワインディングロードを飛ばせば他ではちょっとお目にかかれないほどダイレクトなドライビング フィールを味わえるだろうことは容易に想像がつく(今回の試乗会は都市部でおこなわれたため、残念ながらハンドリングを本格的に試すことはしていない)。これほど簡素なメカニズムにもかかわらず、街乗りで快適なうえにダイレクトなハンドリングを実現できているのは、この軽量きわまりないボディがまちがいなく大きな役割を果たしているはずだ。
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ケータハム セブン160に試乗 (3)
純粋に運転して楽しいクルマ
そうやってセブン160を操っていると、この素っ気ないほどシンプルな作りのコクピットが、操作性の面で驚くほどよく考え抜かれていることに気づく。
たとえばウィンカーは、自動で中立点に復帰する機構さえもたない、ただ左右に「パチッ、パチッ」と動くトグルスイッチで操作するのだけれど、それはシフトレバーを操った後で左手を持ち上げたときに自然と届く場所にあって、すべて最小限の動作で事足りるようにできている。これだったら、別にウィンカーレバーが自分から元に戻ってくれなくても構わないと思えるほど、このスイッチは使いやすいのである。
さらに、横滑り防止装置のESPはおろか、ABSやトラクションコントロールなど、自動と名の付く装置はなにひとつついていないけれど、全部自分でコントロールすることがひとつも苦にならない。すべて、軽くてシンプルで扱いやすいセブンだからこそ実現できたことばかりだ。
だから、このセブン160とだったら気軽に出かけられると思う。別にひっちゃきになって山道を飛ばさなくたっていい。1泊か2泊の小旅行に、この手足のように走ってくれる軽快なスポーツカーと出かけるのは、かなり楽しい体験となるだろう。
それでもひとつだけ忘れてほしくないのは、ドライバーを保護する機能がこのクルマには本当に最小限しかついていない、ということだ。
なので、万一事故が起きた場合、ドライバーが負傷するリスクはバイク並みに高いことを心得ておくべきだし、そうでなくとも、特に高速道路では跳ね石などでケガをする恐れがあることを理解しておいたほうがいい。たとえば、各種プロテクションの入ったバイク用のウェアを着ていればより安心だし、顔や頭を保護するという意味ではヘルメットの装着を考えたほうがいいかもしれない。
──と、最後に少し脅かしてしまったが、それでもセブン160が運転して楽しいクルマであることだけは保証できる。ちなみに、394万2,000円というお手頃な価格、そして軽自動車登録できるというメリットが受け入れられてオーダーが殺到、いまでは納車までに10ヶ月ほどを要するらしい。
裏を返せば、純粋に運転の楽しさを求める層がそれだけ多かったということになる。これを聞いて、私は思わず頬を緩めてしまった。
Caterham Seven 160|ケータハム セブン 160
ボディサイズ|全長 3,100 × 全幅 1,470 × 全高 1,090 mm
ホイールベース|2,225 mm
トレッド 前/後|1,220 / 1,301 mm
最低地上高|100 mm
重量|490 kg
エンジン|658 cc 直列3気筒 DOHC ターボ
ボア×ストローク|68 × 60.4 mm
最高出力| 58.8 kW(80 ps)/ 5,500 rpm
最大トルク|107 Nm /(10.9 kgm)/ 3,400 rpm
トランスミッション|5段MT
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウイッシュボーン
サスペンション 後|リジッドアクスル
タイヤ|155/65R14
ブレーキ 前|ソリッドディスク
ブレーキ 後|ドラムブレーキ
最高速度|160 km
0-100km加速|6.9 秒
価格(消費税8パーセント込み)|394万2,000円
ケータハムカーズ ジャパン
Tel|03-5754-2227