Volkswagen CC|新型CCに南仏で試乗
Volkswagen CC|フォルクスワーゲン CC
ライバルはCクラスと3シリーズ
新型CCに南仏で試乗
フォルクスワーゲンの上級パーソナルカー、パサートCCが、「CC」へと名前を変えた。日本にも2012年夏に上陸する、エレガントな4ドアクーペに、ニースで試乗した。
Text by OGAWA Fumio
Photo by Volkswagen
よりシャープになったスタイリング
フォルクスワーゲンCCは、「みずからハンドルを握るひとが楽しめ、ビジネスクラスのように快適に過ごせる、ほかに類のないモデル」と自信満々に謳う上級車種だ。2008年に発表され、これまでに32万台が世界中で販売された。
とくに米国市場での評価が高く、欧州全体と同等数が売れてきたという。日本でも500万円になんなんとする価格ながら、エレガンスとスポーティさが融合したキャラクターで独自の地位を築いてきた。
今回は、「ひとつの場所に留まっているのは進化とはいえない」とするフォルクスワーゲンの方針にのっとって、スタイリングに手を入れられシャープさが増したばかりか、同社として初の採用となるレーンキープシステムによる安全性の向上など、アップデート化がはかられている。
Volkswagen CC|フォルクスワーゲン CC
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新型CCに南仏で試乗(2)
新しい高級イメージ獲得のために
フォルクスワーゲンが試乗会場に選んだのは、冬でも気候温暖な南仏の保養地ニースだった。飛行機で訪れたジャーナリストは、コートドダジュール空港わきの特設会場でクルマを受け取り、サンジャン・キャップフェラという優雅な海辺のリゾートのホテルまでドライブを楽しむという趣向だ。
これまでのパサートCCから今回CCへと名称変更された理由について、プロダクトマーケティングを担当するヘンリク・スベンソン氏は「上級移行するパサートの顧客を取り込みたいため、イメージを切り離すことを狙いました。同時に、メルセデス・ベンツ CクラスやBMW 3シリーズなどのライバルと市場で戦うためにも、新しい高級イメージが必要と判断しました」と、ニースのホテルでの昼食の席で語ってくれたのだった。
ビジネスクラスのよう”と謳われるインテリア
フォルクスワーゲンCCの外寸は、先代とほぼ不変。ただしフロントエンドは「ファミリーのアイデンティティを強調するため」(エクステリアデザイン担当のフェリックス マヌエル・シェル氏)グリルとヘッドランプの意匠がややアグレッシブな印象となり、さらにバンパー部分にも作り込みが増えている。
ドアを開けると、「ビジネスクラス」とフォルクスワーゲンが表現した室内が、英語でいうところの「インバイティング」、いかにも快適そうで腰をおろしてみたくなる印象をかもしだしている。試乗車はみなオプションで用意される2トーンのレザーシートだったが、サポートもよく、すぐからだになじむ。やや低いダッシュボードの意匠も、ドライバーの仕事場というより、モダン家具に慣れている乗員にとっても快適に思えるクリーンさがある。
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日本には1.8リッター+7段DSGが導入予定
フォルクスワーゲンCCには、エンジンのバリエーションが多い。1.8リッターTSI(160ps)をはじめ、2リッターTSI(210ps)、3.6リッターV6(300ps)、くわえてディーゼルが2リッターTDI(140psと170psの2種類)と、ユーロ6という規制をクリアした2リッター「ブルー」TDI(140ps)となる。日本には今夏、1.8リッターに7段DSGトランスミッションという組み合わせが導入される予定という。駆動方式は米国では4モーションという4WD版が人気だが、日本では前輪駆動のみになるそうだ。
フォルクスワーゲンが推進しているダウンサイジングコンセプトにのっとって、CCも1.8リッターを導入するのがフォルクスワーゲン日本の方針。それがまちがっていないと思われるのは、軽快な走りを味わえたからだ。ターボチャージャーを装着しているが、効きはマイルドで、ターボの領域は明確に感知できないほど。
充分だと感じさせる1.8リッターエンジン
デュアルクラッチシステムを備えたギアボックスの制御も緻密で、アクセル操作に敏感に変速を繰り返し、つねに有効なトルクバンドを使えるので、全長4.8メートルという車体に1.8リッターの排気量でも充分だと感じる。試乗では、ニースとモナコのあいだを、ワインディングロード、市街地、そして高速道路と、さまざまなパターンで走った。交通量が多く、加減速を強いられる場面が多かったが、CCは軽やかなドライビングを体験させてくれた。
1.8でも加速力はすぐれていて、車体の大きさを感じさせない。出力に差はあっても、130km/hまでの範囲内では、加速性で1.8が2.0に劣るようには感じられなかった。トップギアの7速で100km/hでのエンジン回転数は2000rpm。これは巡航用のギアのようで、少しでもアクセルペダルに載せた足に力を入れると瞬時に6速にギアが落ち、クルマは加速態勢に入る。
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初採用された「サイドアシスト プラス」
フォルクスワーゲンCCで注目すべき、もうひとつの点は、「セイフティとコンフォートです」と前出のプロダクトマーケティング担当、スベンソン氏は話す。「過去10年間に電子技術の使用で、クルマの安全性は向上しました。さらにボディ構造や操縦安定性の分野でも、電子技術があずかるところが大でした」。
CCでは、「サイドアシスト プラス」と名づけられた走行支援システムが、フォルクスワーゲンとしてははじめて採用されたのが注目点だ。これは「レーンアシスト」という車線逸脱防止機構と、「サイドアシスト」という側方安全確保機構で構成されている。たとえば隣の車線を走行する車両が70メートル以内に接近するとレーダーがその存在を感知し、ドライバーにLEDの点滅で知らせ、もしドライバーがレーンチェンジをしようとしてもハンドルがそれに抵抗をしめすようになっている。
レーンアシストは、車線内に車両をとどめるためにステアリングにコンピューターが積極的に介入するシステムだ。極端にいえば、ハンドルから手を離しても、車両は自動でハンドルを切ってカーブを曲がっていくことすら可能だ。車線を逸脱しそうになると、ゆるく握った手の中で、ハンドルがぐぐっと自動的に動くのが感じられる。ただし、ハンドルから手を離していられるのは約5秒ほど。すぐに警告音が鳴る。
「もちろん長時間手離しでドライブできるように設定することもできますが、運転の責任はあくまでドライバーに、というのがフォルクスワーゲンの考えなので、運転の自動化へは進みません」。技術面を統括したラルフ・フルート氏はそう語ってくれた。
高級車の将来の方向性を示唆する走行支援システム
先行車両への追突防止のためブレーキも自動で作動する。また、ハンドル操作などでドライバーが疲労していると車両が判断した場合、休憩をうながすサインを計器盤に点灯させることによる安全性の向上や、日本では当面採用はないだろうが、交通標識をクルマが読み取って制限速度などをドライバーに伝える機構など、電子技術による走行支援システムの拡充がめざましい。これらは高級車の将来の方向性を示唆している。
静粛性も高く、風切り音は低く抑えられている。個体によってはフロントホイールのあたりから路面騒音の侵入がやや大きめに感じられたが、そうでもない車両もあった。発売前の車両ではときどきあることで、近いうちに、すべてのモデルで問題点は克服されるだろう。
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ライバルに対する優位性
メルセデス CクラスやBMW 3シリーズに対する、CCの優位性はどこにあるのか。そう尋ねると、技術を統括したフルートは、「クオリティの高さ」と即座に答えた。サーフェスと専門用語でいうボディパネルの張り、そこに入れられたキャラクターラインという凹凸のメリハリ、そして室内各所における素材の豊富さとパーツとパーツの緻密な組み合わせ。
フォルクスワーゲン クオリティとまで呼ばれる徹底した品質管理が、CCの存在感を高めている、ということだ。実車に接すると、まったくもって同意せざるを得ない。「インテリアではさまざまな素材をぜいたくに使い、かつ、表面処理に凝ったのが、CCをほかの製品と明確に区別していると思います」。デザイナーのシェル氏の言葉だ。
静かに、しかし確実に目を惹く存在感
エレガンスとスポーティさを同居させるのに腐心したというボディスタイリング。発表されたときはリーマンショック前で、優雅でそれなりに高価に見える先代に、ウォール街のビジネスマンが飛びついたというのは、よくわかる。しかし時代が変わり、市場の嗜好はもっと地に足がついたものになっているのかもしれない。それについて、どう思うのか。
「たしかに市場が変わっているという事実はあります。変化に対応できず苦労している他社モデルがあるのは事実です。でも、CCはことさら華美に存在を主張するクルマではありません。英語を使えばラウドではない。静かに、しかし確実に目を惹く存在感。それがいまのCCだと思っています」。ニースのロワイヤル リビエラという高級ホテルでのプレゼンテーションにおいて、プールサイドに置かれたCCを横目で見ながら、デザイナーのシェル氏は自信たっぷりに語ってくれた。新しいアッパーミドルクラスのありうべき姿が、CCにあるのかもしれない。
繰り返しになるが、日本への導入は2012年夏の予定。価格は未定だが、現行パサートCC 2.0TSIが497万円で販売されていることを鑑み、「VW各モデルと同様、最新装備を満載しながら価格上昇を回避できるよう調整して」いくと、フォルクスワーゲン日本ではしている。
Volkswagen CC|フォルクスワーゲン CC
ボディサイズ|全長4802×全幅1821×全高1417mm
ホイールベース|2,711mm
エンジン|1.8ℓ直列4気筒DOHC+ターボチャージャー
最高出力|118kW(160ps)/4,500~6,200rpm
最大トルク|250Nm/1500~4200rpm
燃費|5.6~9.6ℓ/100km
CO2排出量|167g/km
トランスミッション|7段DSG
駆動方式|前輪駆動
価格|未定(2012年夏日本発売予定)