フルモデルチェンジした新型スマートに試乗する|smart
smart fortwo|スマート フォーツー
smart forfour|スマート フォーフォー
フルモデルチェンジした新型スマートに試乗する
日本の軽自動車に匹敵する小さなサイズと、デザイン性が高く、個性あるボディバリエーションで独自の位置を築いてきたスマートが、フルモデルチェンジで第3世代へと生まれ変わった。注目の新型にドイツで試乗した河村康彦氏がリポートする。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
時代が追いついてきた設計思想
メルセデス ラインナップで最大サイズの「Sクラス」が占有するスペース内に、2台を駐車させる ―― そんな“圧倒的小ささ”の実現をコンセプトに立ち上げられたのが、そもそものスマートのプロジェクトだった。
実際、1997年に発売された「シティクーペ」は、全長わずかに2.5メートルほど。当時のSクラス=W140型の全長は標準ボディ仕様でも5.1メートル超だったから、まさに初志貫徹で姿をあらわした、なんともインパクトに溢れる意欲作が初代モデルであったことになる。
渋滞や駐車難の解消など、都市の交通環境の改善を念頭に「二人乗り乗用車として極限の小ささ」を目指したこのモデル。しかし、それが決して順風満帆な船出とはならなかったことは、後に同様のコンセプトを謳うモデルがまったくあらわれなかったことからも容易に推察ができる。
路上駐車が合法ながら、現実には“空き”のスペースを探し出すことが困難な、ローマやパリなどヨーロッパの都市部を中心とした一部マーケットでは、毎日の駐車のストレスを確実に軽減してくれる唯一無二の存在として、熱狂的歓迎を受けたという事実もある。
けれども、言うなれば「停まるために走っている」かのような極端なコンセプトは、さすがに多くの人に受け入れて貰うことは難しかったというのが現実だろう。
そんなスマートのプロジェクトのために、当初手を組んだファッションウォッチ ブランドのスウォッチは、収益が望み薄なそうした特異な自動車づくりからは早々に手を引き、残された当時のダイムラー・クライスラー社も、余りに市場が限定されてしまう極端なモデルづくりからは撤退するのでは、という憶測すら聞かれたもの。
そんな危機的状況を救ったのは、じつは“時代の流れ”でもあった。
世界的に省エネ・省資源が叫ばれるようになるなか、大型で、燃費の悪いモデルを主役としていたメーカーは、より小さく、低燃費なクルマを同時に生産・販売することが不可欠となったのだ。
かくして、息を吹き返したこのブランドは、あらたにアメリカ市場での販売も目論んだ2代目モデルを経て、今、再びフルモデルチェンジを実施。もちろんそれが、ここに紹介をする3代目モデルであるというわけだ。
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幅広になって見た目の印象も変わった
モデルライフ途中で 「フォーツー」へと改称しつつ、2007年にフルモデルチェンジがおこなわれた第二世代のモデル。それが、初代モデルを踏み台とした明確なキープコンセプトによる作品であったのに対し、2度目のフルチェンジを受けて誕生した新型は、これまで2代のモデルとはことなる雰囲気の持ち主であることを感じる人は少なくないはずだ。
確かに、全長は従来型と同等をキープしたので、「圧倒的に小さい」という見た目の印象に変わりはない。初代から継承される特徴的な“トリディオンセル”も採用が継続され、一見して「それがスマート」であることもすぐに理解はできる。
一方で、これまでからは宗旨替えしたな、とおもわされるのは、その顔つきが大胆に変更されたからだけではない。じつは、今度のモデルは全長と全高は従来型とほぼ同寸ながら、全幅のみを一挙に100mm以上も拡大。結果として、車両の“タテヨコ比”が大きく変わったことが、そうした雰囲気の変化をもたらしてもいるのだ。
国際試乗会が開催されたのは、“親会社”ダイムラーの本拠国であるドイツのなかにあっても、「スマートのシェアが最も高い」と紹介されるケルンの中心地。感覚的には、ヨーロッパでも、駐車スペースには比較的恵まれていると実感できることが多いドイツの各都市。が、それでも「スマートが売れている」ということは、この地の駐車環境がそれだけ厳しいことの裏付けでもあるはずだ。
じつは今回のイベントは、ヨーロッパ地域に向けては“追加設定”というカタチをとった、新開発の6段DCT仕様を対象としたもの。そのなかから、まずは目にも鮮やかなオレンジボディのターボ付きモデルをピックアップし、相変わらずアップライトな姿勢を要求されるドライバーズシートへと乗り込んでみる。
そこに広がるのはなんともポップなデザインが満載の、いかにも「スマートならでは」というインテリア。これまで2代のように、左右シートを前後にオフセットしてレイアウトする必要がなくなったのは、もちろん”全幅拡大”による効果であるはずだ。
そんなシーティング レイアウトを、「実質的には“1+1シーター”」と理解するのであれば、ユーティリティ性はおもいのほか高い、というのは、じつはこれまでの2代のフォーツーにも共通してきた特徴。
シートの背後、“エンジンルーム”の直上に用意をされるラゲッジスペースは、外観から察するよりはボリュームに富むし、パッセンジャー側のシートバックを水平位置まで前倒しすれば、そこにも荷物をガンガン載せられるからだ。
いまや、初代モデルからのひとつの“アイコン”でもある上下開き式のテールゲートは、後方を壁際まで近づけた際の荷物の出し入れには大いに便利なアイテム。その厚みのあるロアゲート内部がじつは“隠し収納スペース”となっているのは、従来型と同様だ。
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ターボとNAのちがい
メルセデス・ベンツ各車と同等の衝突時安全性を求めたゆえか、車両重量は900kg超と見た目よりは立派(?)な数字。
が、最高90psと130Nmを発する898ccの3気筒ターボ エンジン+新開発された6段DCTの組み合わせによる動力性能は、必要にしてじゅうぶん以上の印象だ。幹線道路の信号からの素早い発進シーンでも、周囲の流れをリードするのは容易い作業となる。
そんな新型の動力性能面でなによりも嬉しいのは、これまで2代のモデルに付きまとった、変速時のあの忌々しい駆動力の途絶現象から完全に開放されたこと。DCTを採用したゆえに当然といえば当然だが、新型ではアクセルペダルを踏みつづけている限り、一定した加速力が見事に継続してくれるのだ。
そんなターボ付きモデルから、日本市場には最初に上陸と見られるターボなし仕様へと乗り換えると、さすがに加速の力感のダウンは小さくない。19psと44Nmという最高出力/最大トルクの落差はやはり明白。ちょっと急ぐ、という場面では、タコメーターの針が5,000rpm付近まで跳ね上がることも珍しくなかった。
ただし、じつはスタート時の蹴り出しから1,500rpm付近までは、こちらの方が力強い印象。どうやらそれは、ターボ モデルよりも101cc大きいという排気量の差によるところでありそう。それゆえ、「高速道路などには乗らず、大半は街乗り」とそんなユーザーにとっては、あえてこちらを選択する価値もありそうだ。
外乱により進路が乱された場合、ブレーキの介入でそれを補正する“クロスウインド アシスト”が新採用されたが、そうしたディバイスの存在自体が示すように、「横風には弱い」印象も相変わらずだった。
それでも、従来型に比べれば「ずっとしなやか」だし、「コーナリング時の安定感もグンと向上した」と、フットワークにかんしてそう感じられたのは紛れもない事実。
ただし、そうした乗り味はターボ付きモデルの印象。ターボなしの方が明確に硬質だったのは、じつは今回のこちらの試乗車には、1インチ大径のシューズや10mmローダウンされたサスペンションなどからなる“スポーツ パッケージ”がオプションで選択されていたからだろう。
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4ドア+ハッチモデルの復活
そんな新型フォーツーの走りで、とにもかくにも驚かされたのが、「圧倒的!」という言葉で紹介するしかないその小回り性能の高さ。「トヨタiQ超えを狙った!」とエンジニア氏が誇らしげに語るそのデータは、“最小回転直径”で6.95メートル。すなわち、半径へと換算すればそれは3.475メートルと、なるほどこれまで世界最小と目されてきたiQの3.9メートルを「大きく下回る」ことになる。
実際、ステアリングをフルロックまで切り込みつつUターンを試みると、フォーツーのボディは後輪が大きく逆相にステアされた4輪操舵車のごとく、まるで“自転”をするかの感覚で回ってしまう。全幅を拡大したことでホイールハウス内にゆとりが生まれ、前輪切れ角を増すことで実現されたのが、この驚異的な小回り性なのだ。
ところで、今度のスマートでは4ドア モデルも同時に登場したのが大きなニュース。そう、2004年に誕生をしながらわずかに2年ほどという短命で終わった「フォーフォー」が、久しぶりに復活をしたのだ。
初代モデルは三菱自動車との共同開発によるものだったが、今度のモデルはルノーとの共同開発。新型ルノー「トゥインゴ」はこのフォーフォーとボディの基本骨格やランニング コンポーネンツなど、多くの部分を共有するモデルであるのだ。
初代フォーフォーは、当時のフォーツーとはメカニズム上でまったく共通項を持たないFFレイアウトの持ち主であったものの、今度のモデルは新型フォーツーをベースとしたRRレイアウトを採用。端的に言ってしまえば、「全長を800mm、ホイールベースを620mmほど延長した上で、リアシートとリアドアをアドオンした“ストレッチ スマート”」が、あたらしいフォーフォーであるということになる。
なるほど、このモデルを成立させるためにも、大幅な拡幅は必然だったのか――と、そんな深読みもできそうなフォーフォーも、そのルックス上はエクステリアもインテリアも、巧みに”スマートらしさ”を演じている。フロントドアのトリムデザインは、一部フォーツーとはことなるものの、なんともポップで若々しい全体的な雰囲気は、やはりフォーツーのそれと共通だ。
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大きくことなるキャラクター
こうして、あらたな4ドア4シーター パッケージが与えられたフォーフォーだが、RRレイアウトの持ち主ということもあり、リアシートでのニースペースやヒール段差はいずれも限定的。シートそのものも小ぶりな印象で、ドアウインドウもフロント側にヒンジを持つ横開き式と、全般に“2+2”的な発想が感じられることは否めない。リアシートをアレンジすれば、それなりに大きなスペースが得られるものの、後席使用時に残されるラゲッジスペース容量は、わずかに185リッターとフォーツーの260リッターに遠く及ばないことになる。
テストドライブをおこなったフォーフォーは、3気筒ターボ ユニットにDCTを組み合わせた仕様。フォーツーに対して80kgほど重量が増す計算だが、とりあえず街乗りシーンではさしたるパワーの不足感は抱かない。
ただし、テストドライブのかなわなかったターボなしモデルに、4人乗り、といったシーンを想像すると、さすがにちょっとばかりの物足りなさが生じそう。ちなみに、0-100km/h加速タイムもターボ付きの11.9秒に対し、ターボなしでは16.9秒と大幅なダウンを余儀なくされてしまう。
ところで、そんなフォーフォーの走りのテイストは、フォーツーのそれとはおもいのほかに大きくキャラクターのことなるものだった。
ノイズ発生源であるエンジンが遥か後方に位置するためか、フロントシートでの静粛性が予想よりも優れていたことがまずは第一の驚き。くわえて、ストローク感に富み、フリクションのとれたその乗り味が、やはり予想以上に上質であった点にも驚かされた。
一方で、DCTを採用するゆえか時にスタートの瞬間に飛び出し感を伴ったり、ブレーキのペダルタッチがスポンジーであった点などはマイナスのポイント。前述の、ちょっと特異なキャビン パッケージングも含め、良くも悪くも個性の強いことが、またこのモデルならではの特徴と言えそうだ。
smart fortwo 66 kW twinamic|スマート フォーツー 66 kW トゥイナミック
ボディサイズ|全長 2,695× 全幅 1,663 × 全高 1,555 mm
ホイールベース|1,873 mm
トレッド 前/後|1,469 / 1,430 mm
重量|940 kg
エンジン|898 cc 直列3気筒 ターボ
ボア×ストローク|72.2 × 73.1 mm
圧縮比|9.5 : 1
最高出力| 66 kW(90 ps)/ 5,500 rpm
最大トルク|135 Nm / 2,500 rpm
トランスミッション|トゥイナミック 6段DCT
駆動方式|RR
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|ドディオン
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|ドラム
タイヤ 前/後|165/65 R15 / 185/60 R15
0-100km/h加速|11.3 秒
最高速度|155 km/h
燃費(NEDC)|4.1 ℓ/100km(およそ 24.4 km/ℓ)
CO2排出量|96 g/km
トランク容量|260-350 ℓ
smart fortwo 45 kW|スマート フォーツー 45 kW
ボディサイズ|全長 2,695× 全幅 1,663 × 全高 1,555 mm
ホイールベース|1,873 mm
トレッド 前/後|1,469 / 1,430 mm
重量|885 kg
エンジン|999 cc 直列3気筒
ボア×ストローク|72.2 × 73.1 mm
圧縮比|10.5 : 1
最高出力| 45 kW(61 ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|91 Nm / 2,850 rpm
トランスミッション|5段マニュアル
駆動方式|RR
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|ドディオン
ブレーキ 前|ディスク
ブレーキ 後|ドラム
タイヤ 前/後|165/65R15 / 185/60R15
0-100km/h加速|15.6 秒
最高速度|151 km/h
燃費(NEDC)|4.5 ℓ/100km(およそ 22.2 km/ℓ)
CO2排出量|104 g/km
トランク容量|260-350 ℓ
smart forfour 66 kW twinamic|スマート フォーフォー 66 kW トゥイナミック
ボディサイズ|全長 3,495 × 全幅 1,665 × 全高 1,554 mm
ホイールベース|2,494 mm
トレッド 前/後|1,467 / 1,429 mm
重量|975 kg
エンジン|898 cc 直列3気筒 ターボ
ボア×ストローク|72.2 × 73.1 mm
圧縮比|9.5 : 1
最高出力| 66 kW(90 ps)/ 5,500 rpm
最大トルク|135 Nm / 2,500 rpm
トランスミッション|トゥイナミック 6段DCT
駆動方式|RR
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|ドディオン
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|ドラム
タイヤ 前/後|165/65R15 / 185/60R15
0-100km/h加速|11.9 秒
最高速度|165 km/h
燃費(NEDC)|4.2 ℓ/100km(およそ23.8 km/ℓ)
CO2排出量|98 g/km
トランク容量|185-975 ℓ