RANGEROVER EVOQUE|ブランニューレンジローバーに早速試乗!
RANGEROVER EVOQUE|レンジローバー イヴォーク
これまで培ってきた歴史を刷新する!
“サスティナブルオフローダー”イヴォークに早速試乗(1)
2010年のパリサロンでデビューしたレンジローバー発のコンパクトSUV「イヴォーク」。3ドア、5ドアの2タイプを用意し、エンジンのラインナップも豊富。内外装もこれまでレンジローバーが培ってきた歴史を刷新するかのようなスタイリッシュなデザインになっている。そんな衆目を集める同車に、英国・リバプールにてジャーナリスト 河村康彦が試乗した。
文=河村康彦写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン
尋常ならざる背の低さ
オフローダーならではのスクエア基調で背の高いボディに、いかにも機能性の高さが最優先されたかのようなデザインのインテリア──『レンジローバー』というブランドの響きに、そんなモデルの姿をイメージするひとは少なくないだろう。
モデルチェンジのスパンが押しなべて長いという特徴もあり、いかにも“時空を超えた”かのような流行に左右されないスタイリングこそが、レンジローバーというブランド名を冠した作品の、大きな売り物と受け取って来たひとも多いはず。だからこそ、「えっ! これってレンジローバーなの?」と往年のファンのあいだからはそんな声が上がりそうなブランニューモデルが、2010年秋のパリサロンで公に姿をあらわした『イヴォーク』だ。
全長4,355×全幅1,965mmというボディサイズにたいして、全高は“わずかに”1,635mm。1.8メートルを超える既存の『ヴォーグ』や『スポーツ』に比べるまでもなくこの1.6メートル少々に過ぎないイヴォークの全高は、レンジローバー車としては「尋常ならざる背の低さ」と、表現できるものであるはずだ。
そもそも、“4WDオフローダー専門メーカー”であるランドローバー社の、フラッグシップブランドとしてのレンジローバー各車の背が高かったのは「悪路で身体が激しく揺すられても、天井に頭をぶつけるようなことがあってはならない」という機能面からの要求もあってのもの。
それが、イヴォークではよもやの低全高を採用。実際、おとなが余裕をもってくつろぐことが可能なスペースは確保をされているものの、ヴォーグやスポーツのような大きな空間が頭上に残る状況は、こちらのモデルではもはやありえないのだ。
2008年発表の「LRX」をベースに作られたダイナミックなデザイン
いっぽうで、まるで“チョップドルーフ”とも表現をしたくなるようなこうした低全高プロポーションの採用へと踏み切ったからこそ、イヴォークのルックスは前述のごとく、見る人びとのだれもを「えっ? これがレンジローバー??」と振り返らせることが可能なものになったのもまちがいない。そもそもイヴォークのそうしたプロポーションは、2008年のデトロイトモーターショーで『LRX』の名とともに披露をされたコンセプトモデルで提案されたもの。そして、「そんなショーでの評判の高さが、量産化へと繋がった」というのが、イヴォーク誕生のひとつのストーリーであったとも伝えられている。
しかしどうやら、いまへといたる実際のプロセスはかくも単純なものではなかったようだ。あくまでも見栄えにのみ重点を置いた“デザインスタディモデル”としての『LRX』。これにたいして、量産モデルとして生を受けたイヴォークの低全高プロポーションには、時代を見据えたより深い意味が込められているからだ。
RANGEROVER EVOQUE|レンジローバー イヴォーク
これまで培ってきた歴史を刷新する!
“サスティナブルオフローダー”イヴォークに早速試乗(2)
空力を意識しながらデザインしたボディ
英国リバプールを基点に開催されたイヴォークの国際試乗会。その場で出会った開発担当のエンジニアは、「このモデルはランドローバー社の作品としてははじめて、空力を意識しながらデザインしたボディの持ち主」と明かしてくれた。
じつはイヴォークは、“サスティナビリティ・エンジニアリング”を採用したモデルであるという。聞きなれないこの言葉は一体何を意味するのか? それはどうやら、自動車がこの先も持続可能なモビリティとして生きつづけることを目的としての、それを意識した技術をしめす言葉であるようだ。では、このモデルの“低全高プロポーション”がなぜそれに相当するのか? 答えは「全高が下がることによって空気抵抗が低減され、使用する材料の削減にも繋がるから」だという。いや、このモデルでのそんな“サスティナブル”を目指した取り組みは、それだけには留まらない。そもそも、エンジンを横置きとしたFFシャシーベースの骨格の採用も、「それがCO2削減策に繋がるため」というのだ。
実際、イヴォークにはディーゼルエンジン搭載モデルになんと前2輪駆動仕様が用意をされ、3ドアと5ドアという2タイプのうちのより軽量な前者では、NEDC測定法でわずかに129g/kmという、おどろきの低CO2排出量モデルまでもがラインナップされているのである。
レンジローバーの新時代を感じさせるインテリア
そう、イヴォークの独創的なスタイリングは、「時代を見据えてCO2排出量の削減にフォーカスしたカタチ」でもあるということ。それを、たんなる“エコカー”としてだけではなく「これはちょっと乗ってみたいナ!」と多くのひとに思わせるにちがいない、夢のあるものへと仕上げたデザイン力は、相当なものであると自分は思う。
かくして、なんとも気合いの入ったエクステリアのデザインに負けるなとばかり、インテリアデザインでも頑張りが感じられる。ヴォーグやスポーツといった極めて高価なモデルほどに高級素材がふんだんに使われた印象はないものの、それでもチープな雰囲気が漂うようなポイントは皆無だし、シンプルでありながらもモダーンな造形そのものが、「あたらしい時代の、あたらしい人びとのためのレンジローバー」というイメージを巧みに演出している。こちらもまた、エクステリアと同様に一見して「ちょっと乗ってみたいナ!」と思わせる能力にかんしては、なかなかのポテンシャルの持ち主だ。
いずれにしても、今回のテストドライブ中のリバプールの街中でも、多くのひとを振り返らせたルックスこそがまずはイヴォークというモデルの最大の売りであることは、だれもが否定できないはずだ。
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これまで培ってきた歴史を刷新する!
“サスティナブルオフローダー”イヴォークに早速試乗(3)
おもに2リッターターボつきガソリンエンジン搭載モデルに試乗
ヨーロッパ市場では、過半のモデルがディーゼルエンジン搭載仕様で売れるにちがいないイヴォーク。試乗会でもそんなモデルがズラリと並ぶなか、おもに日本導入仕様を見据えての2リッターのターボつきガソリン直噴エンジン搭載モデルに試乗した。最高出力240psは2.2リッターターボディーゼルの150ps、190psを押さえてのシリーズトップという位置づけ。ただし、340Nmという最大トルクでは380Nm、400Nm、420Nmと3種のチューニングがほどこされる前出ディーゼルに先行を許すデータだ。
なめらかでありつつもなかなか力強いスタートシーンや、微低速時のアクセルワークにたいする不快なショックの小ささは、組みあわされるトランスミッションがトルコン式ATであることとも無関係ではないはず。車輛重量が1.6トン台に収まるゆえか、加速力は文句ナシで、低回転域からターボブーストが即座に立ち上がることもあり、クルージングシーンからの再加速時でもキックダウンは頻繁には発生せず、シフト動作が頻繁に繰り返される“ビジーシフト”感が少ないのは好印象だ。
相対的に、19インチのシューズが伝えるロードノイズがやや目立つ傾向はあるものの、静粛性は十分高い。
スポーティなサスペンションセッティング
オプションアイテムとして用意をされる電子制御の可変減衰力ダンパー“マグネライド”の有無にかかわらずサスペンションの動きはなかなかしなやかで、このアイテムは快適性向上というよりはコーナリング時の過度なロールを抑制するなど、よりスポーティな走りのテイストを獲得するのための設定という印象を強く受けた。
操舵力は適度でライントレース性にも優れるいっぽう、「中立付近での手ごたえ感はあと一歩」とも感じられたステアリングは、テストルート中に用意されていたオフロードセッションで、キックバックの遮断性に大変優れていることに気がついた。そもそもは、燃費向上=CO2の削減目的でフル電動式の機構が用いられたイヴォークのステアリングシステムだが、オフロード走行シーンではそんな好ましい”副産物”が隠されていることも明らかになったわけだ。
RANGEROVER EVOQUE|レンジローバー イヴォーク
これまで培ってきた歴史を刷新する!
“サスティナブルオフローダー”イヴォークに早速試乗(4)
オフローダーメーカーとしての歴史を垣間見せる駆動力
ちなみに通常走行シーンでは前輪への駆動力伝達にバイアスがかけられた、いわゆるオンデマンド式の電子制御式4WDシステムが採用されている。比較的ライトデューティな乗用車系のモデルに用いられることが多いシステムではあるが、これがたとえ低ミュー路面での急坂発進といった厳しいシーンでも、ほとんど4輪同時にしっかりと駆動力を伝えてくれることには感心した。
こうしたシチュエーションもふくめ、走行中には例の“前輪駆動ベース”という事柄を意識させられることは皆無。じつは、シャシーレイアウトの決定にあたっては社内でも大きな議論が沸き起こったというが、タップリとしたボディ対障害角の確保や渡河水深の設定、さらにランドローバーの作品ならではのエンジンやトランスミッション、シャシーの統合制御システムである“テレイン・レスポンス”の採用などと、トータルとしてなかなか高いオフロード性能を実現させていた点には、さすがはオフローダーの老舗の作品だけのことはあると、あらためて思った。
低全高が功を奏し、軽やかさもプラス
いっぽう、オンロードのワインディングルートを軽やかに駆け抜ける背景には、やはり低全高プロポーションがおおいに功を奏していたにちがいない。低全高であることは、そのまま低重心であるということへと直結。すなわち、こうしたシーンでは背の高いモデルよりも決定的に有利であるのは言うまでもない。
なるほど、こうしてあらゆるアングルから検証をしてみると、イヴォークはたしかにこれからの時代を見据えた、機を見るに敏な“サスティナブルオフローダー”と評価ができる1台なのかも知れない。
試乗会が開催されたリバプールの街にもほど近いヘイルウッドの工場で、フル生産時には1年に10万台という規模で生産がおこなわれるというイヴォーク。「もしかすると、それだけではとても世界での需要を賄うことができないのではないか!?」と、個人的にはそんな大ヒットの予感がするのがこのモデルでもある。