北京国際モーターショー 2014 現地リポート(2)|Auto China 2014
CAR / FEATURES
2014年12月25日

北京国際モーターショー 2014 現地リポート(2)|Auto China 2014

北京モーターショー2014 現地リポート(2)

「小皇帝」とガーシュウィン

いまや数のうえでは北米につぐ巨大な自動車マーケットとよべるまでに成長し、各ブランドも目を離せない中国市場で開催される、北京国際モーターショー。そんな中国最大の自動車ショーを巡ったのは、日本で自動車雑誌の編集をつとめ、いまはイタリアに在住する大矢アキオ氏。日欧両方の視点をもった彼が、中国で見て、そして感じたものとは──。
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Text and Event Photographs by Akio Lorenzo OYA

既存コンパクト プレミアムにも熱い視線

北京国際モーターショー2014が4月29日に閉幕した。会期中の入場者は85万人をかぞえ、前回2012年の約80万人を上まわった。

並々ならぬ熱気は、筆者もひしひしと感じた。前回記したように、一人っ子政策で生まれ、家族から「小皇帝」「小皇后」と呼ばれながら大切に育てられた新世代ユーザーの関心を惹きつけるべく、各社は新開発のSUV&クロスオーバーのプレゼンテーションに躍起だった。

しかし、それらが本格的に市場投入される前の段階で、彼らの熱い視線をより集めていたモデルといえば、ドイツ系の既存コンパクト プレミアムである。

MINIのブースでは、「ペースマン」が今回はフェイスリスフトにもかかわらず、多くの若者たちによって取り囲まれていた。

スマートのブースもしかりだ。ヨーロッパの大都市では街角の風景となってひさしい同車だが、若者たちは友達と一緒に写真を撮りあっている。著名自動車誌「アウトモトール&シュポルト」中国版が2月に実施した読者投票で、42.9パーセントの高い得票率を得て「ベスト マイクロカー2014」に選ばれたのもうなづける。

MINI Paceman|ミニ ペースマン

「ミニ ペースマン」も4ドアモデル「ミニ クロスオーバー」とおなじくフェイスリフトを果たした

MINI、スマートとともに、先に中国市場で確固たるシェアを獲得している上位ブランド、つまりBMWやメルセデス・ベンツのイメージも、人気をささえているのはまちがいなかろう。

北京モーターショー2014 現地リポート(2)

「小皇帝」とガーシュウィン (2)

フランス勢も負けていない

それに続けと鼻息が荒いのはフランス勢だ。

PSA-プジョー・シトロエンは、プレミアムブランド「DS」の認知度向上に気合いを入れる。欧州各地の主要ショー同様、一角にはDSのクラフツマンシップをしめすべく、手作業実演コーナーが設けられていた。

そこにいたPSAの研究開発センターに勤務するレザー職人、ジェラール・カンポ氏は、かつてルイ・ヴィトンでも36年のキャリアを積んだ人物だ。DS用レザーシートの中央部分はリストウォッチのメタルバンドを模した複雑なパターンだが、「じつは一枚革です。中国製DSも、その技術が忠実に再現されています」と、フランス製と同等のクオリティを維持していることを力説する。

DSのレザーシートを説明するシトロエンのジェラール・カンポ氏

Renault Initiale Paris|ルノー イニシャル パリ

ルノーは、フランクフルト ショーで公開したミニバンコンセプト「イニシァル パリ」を中国で初公開した。同社コンセプトカー担当のエンジニア、ブノワ・リヨネール氏は「ドイツ系ブランドやドイツ系の合弁生産車がシェアを占めるなか、心地よいフレンチ テイストで差異性を訴えてゆきたい」と意気込みを語る。

なおルノーは、5月中旬から市街のホテルで、「パリ市庁舎前のキス」で有名な写真家ロベール・ドアノーが生前に撮影した、ルノー車にまつわる作品展を開催し、フレンチムードをさらに盛り上げる。

彼らの努力あってか、ショー会場ではDS、ルノーとも、前述のMINIやスマートにつぐ若者による人気を呈していた。

北京モーターショー2014 現地リポート(2)

「小皇帝」とガーシュウィン (3)

もし彼が生きていたら

都市に目を向けてみよう。

北京の活気を感じるのは容易である。街一番の繁華街、王府井には、ZARA、H&M……と、欧州の大都市とおなじファストファッションの巨大店舗が軒を連ね、潮男・潮女(流行ファッションをまとった男女)がショッピングをたのしんでいる。地下鉄の車内では、若者は最新のスマートフォンを操作している。かわりに街中で目立つものといえば、本体が撤去されたあと残った公衆電話用ポールだ。

ウェディングドレスを扱う店が多いのも、この街の若年層の多さを象徴している。ミラノやパリで、ここのところ葬祭センターの広告が目立つのと対照的、というのは皮肉すぎるか。

朝は宿の前を往来する自動車やスクーターの、けたたましいホーンの音が目覚まし時計がわりだ。これも、やはり国の活気を感じざるを得ない。

かつて作曲家ジョージ・ガーシュウィンはパリを訪れたさい、タクシーのホーンを買い求めてアメリカに持ち帰り、1928年の交響詩『パリのアメリカ人』のなかで、街の賑わいを表現するものとしてそれをもちいた。当時パリの人口は約300万人。いっぽう今日の北京の人口は、その約7倍にあたる2,114万人である。もしガーシュウィンが生きていたら、この東洋の街の活気と喧噪も、きっと作品として遺していたにちがいない。

キャビン付き3輪バイクの向こうをインフィニティが通過する

キャビン付き3輪バイクの向こうをインフィニティが通過する

次の北京モーターショーは2年後の2016年。小皇帝・小皇后たちが、さらに消費の主役となっているこの国で、どのようなクルマがスポットライトを浴びているのか、興味は尽きない。

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