VWグループが描く自動運転社会へのシナリオ|Volkswagen
Volkswagen|フォルクスワーゲン
開発責任者のヘルゲ・ノイナー博士に聞く
VWグループが描く自動運転社会へのシナリオ
1月15日のデトロイトモータショーで、米フォードモーターとグローバル規模の戦略的提携を結ぶと発表した独フォルクスワーゲングループ。商用車部門で共同開発を行なった後、EVや自動運転、モビリティサービスなどの分野で協業していく予定だという。そんなフォルクスワーゲングループで自動運転部門の責任者として開発を担当するヘルゲ・ノイナー博士が、オートモーティブワールドで基調講演を行うため来日しており、絶好のタイミングで同グループが考える自動運転実現のための課題と現況について話を聞くことができた。
Text & Photographs by HARA Akira
5段階に分けられる自動運転
まず現在の自動運転のレベルは、米国の非営利団体SAEが策定した6段階に分けられており、その概要は以下の通りとなっている。
レベル0(自動化なし):ドライバーがすべての操作を行う。
レベル1(運転支援):システムがハンドル操作か加減速のいずれかを支援する。自動ブレーキやACC(アダプティブ クルーズ コントロール)がこの分類となる。
レベル2(部分自動運転):システムがハンドル操作と加減速の両方を支援する。高速道路の渋滞時などで前車に追従走行するフォルクスワーゲンの「トラフィックジャム アシスト」などがこれ。ドライバーは常に周囲を監視する必要がある。
レベル3(条件付き自動運転):限られた状況下ですべての操作をシステムが行う。緊急時はドライバーが操作を行う必要がある。一般的に自動運転と呼ばれるものはこのレベルからで、アウディ「A8」が「AIトラフィックジャムパイロット」で初の市販化。
レベル4(高度な自動運転):高速道路など、特定の場所においてシステムが交通状況を把握し、運転や緊急時の対応すべてをこなす。
レベル5(完全自動運転):場所や状況によらず、システムが運転に関わるすべての操作をするドライバーレスの自動運転。フォルクスワーゲンが先に発表したコンセプトカー「セドリック」はこれに属する。
今回ノイナー博士が説明してくれたのは、上記のレベル2からレベル3へ移行する際の技術的課題や、レベル3とその応用型の「ガーディアン エンジェル」という考え方、レベル5へのシナリオなどだ。
Volkswagen|フォルクスワーゲン
開発責任者のヘルゲ・ノイナー博士に聞く
VWグループが描く自動運転社会へのシナリオ(2)
「ガーディアンエンジェル」とヒューマン マシン インターフェース
すでに15年間にわたって開発が進められてきたフォルクスワーゲンの自動運転は、まず、運転を安全なものにしたい、次により効率的なものにしたい、そして快適性を向上させたい、という3つの課題に取り組むことで始まったという。
現在市販化されている自動運転については、運転支援と呼ばれているレベル2までのもので、「最初の課題としては、ユーザーがレベル2のクルマに接した時の対応について、という点です。ユーザーは、自動運転モードと自分が運転するモードの2つに対処する必要があり、そのために専用のHMI(ヒューマン マシン インターフェース)というものを導入し、インジケーターにそれぞれがわかりやすく色や形状で表示されるようになりました」という。
さらにレベル3になると、自動運転からドライバーの運転に戻る場合に、どうするかという課題がある。
「設計を始める段階で、運転に戻るまでにどれくらい引き継ぎ時間がかかるか、という調査を行なった結果、音楽を聴くなど聴覚だけを使用していると平均で3.2秒。ビデオゲームなど聴覚、視覚、触覚を使用していると8.8秒となり、そこには年齢による影響はありませんでした」。つまり、最大で約10秒という運転に戻るまでの時間を念頭に入れ、レベル3でのインターフェースが設計されたのだという。また、当然ながら「この機能はどこでも作動する必要があり、コストがいくらかかってもいいというものでもないので、そのメリットに対する購入費用という点も考慮する必要がありました」とも。
一方、死亡事故が発生する場所は、高速道路よりも郊外の方が圧倒的に多く、安全性を高めてくれる高速道路でのレベル3自動運転技術を、それ以外での郊外の道路でも使えないだろうか、と考えて2018年の半ばごろまでに導き出したのが「ガーディアン エンジェル(守護天使)」と呼ばれるアプローチなのだそうだ。
「例えば、郊外を走行中に前方にカーブがある。クルマは搭載している技術や地図情報によって、システムはどういったカーブがあるというのはすでに検知しています。システムは、ドライバーがどういう挙動をしているかを確認。ドライバーの視線や走行スピードをチェックし、事故の確率が高まればシステムが介入し、早期警告、緊急警告、ブレーキやステアリング操作などのアシスタントを行い、リスク回避と危険の軽減を行うのが、ガーディアンエンジェルの考え方です」と説明した。
そして、技術的にはレベル5よりも簡単ではあるが、人間とのインタラクション(意思疎通)はまた別のもので、やはりここでもHMIが重要になるようだ。
「自動運転では“アクセルペダルを踏めば後は何もしなくていい”と分かりやすいが、ガーディアンエンジェルの場合は、普段は運転してもらい、何かあったらシステムが介入する。ユーザーはそれにどう対処したらいいか、その微妙なところを理解してもらうのが難しいのです。そこで、少し前のことになりますが、普段サーキットで運転しない人にそこでドライブしてもらい、ガーディアン エンジェルが作動したらどうなるかを体験するレーストレーナーというテストを行いました。そうした体験からHMIを学んでいる段階です」と教えてくれた。
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VWグループが描く自動運転社会へのシナリオ(3)
レベル5に向け、パートナーと開発を加速
次に、すでに実際の道路上で試験走行が行われているレベル5の自動運転コンセプトカー「セドリック」について語ってくれた。
「セドリックは全くビジネスケースの異なるもので、こちらはサービスとしてのモビリティです。いま現在街を走っているタクシーなどと競合するもので、人件費がタクシーだとどれくらいかかるか、といったことなどと比較しながらビジネスモデルを進めていく」と説明してくれた。
技術面では、「人間が運転中には、周囲を走るクルマがどういった動きをするか予測しながら操作を行なっています。完全自動運転車では、センサーやレーダーといったハードウェアが情報を取り込み、それを処理するソフトウェアが予測し、最適な軌道を弾き出します。実は高速道路では操作自体は少なく、一方欧州などでよく見られる街中のランナバウトでは侵入時に減速、他のクルマをやり過ごし、加速して進入、抜けたらまた再加速する、といったサブタクスがたくさんあります。ソフトはアルゴリズムを使ってプランニングするのですが、その計算は大変複雑な作業です」
「今日発生している事故の9割はドライバーの人為的ミスによるもので、死亡事故というのは統計的に見てドライバーが6億キロメートル走って初めて起きます。その6億キロメートルの中で、ありとあらゆるシナリオをカバーする必要があり、我々はそれを5つのレイヤーに分けました。ただし、シナリオの中のクルマは形状やメーカー、色、バンパーにステッカーが貼ってある、などさまざまな違いがあり、すべてのバリエーションをシステムがカバーするには無理があります。実データには抜け穴があり、重複や繰り返しがあるのです。全データのカバーは必要ないと思っていて、システムのアプローチと実際のデータを検証しつつ、ソフトウェアが処理するのに必要なデータを収集する作業が重要です」と述べた。
セドリックの発売時期については、「2021年に発売できれば、いいタイミングだと考えています。自動運転の実現にはコンピューターやセンサーなどハードウェアも大事だが、一番重要なのはソフトウェアなのです。他のパートナーと組めば開発が加速するのは分かっているので、どこと組むかは常に模索しています」
ラスベガスCESで発表したイスラエルの半導体メーカー「モービルアイ」との共同開発や、今回発表したフォードとの提携は、そうした流れの一つ。トヨタとウーバー、ホンダとGMなど、自動車業界最大のチャレンジである自動運転に向け、他社でも同様の動きは加速するのだろう。一方ではその実現には、法律面をはじめ、先進国と新興国の違いなど、戦略的に解決すべき課題も多いのも事実なのだ。