あなたのクルマ 見せてください 第13回 ルツェルン篇
第13回 ルツェルン篇
ヤープ・シューパー氏×フォルクスワーゲン・ティグアン 4モーション
「クルマ好き支配人」がホテルを経営すると――
各地に“クルマ好き”を訪ね、人びとのクルマにたいする考え方、ライフスタイルを拝見するシリーズ「あなたのクルマ見せてください」。今回はスイスでホテル アソシエーション「アウトバーン・ホテルズ」を創設したヤープ・シューパーさんを大矢アキオ氏が訪問した。
report & photo Akio Lorenzo OYA
信頼できるパートナー、ティグアン
インターネットが普及した今、泊まるホテルのイメージは、出発前からある程度抱けるようになった。しかし、オーナーのキャラクターまでは、なかなか分からない。
スイス・ルツェルン近郊にあるそのホテルは、一見クールな外観でありながら、いざ到着してみると、クルマ好き独特の香りが漂っていた。そのホテルの支配人であり、スイス国内27箇所を網羅するホテル・アソシエーションを率いるヤープ・シューパーさん（50歳）に、プライベートカーの話を糸口に、クルマへの思いを語ってもらった。
―― ホテルの外にパークしているフォルクスワーゲン（VW）「ティグアン」が、支配人のプライベートカーですか？
そうです。4モーションのガソリン2リッター仕様です。以前は同じVWの「ゴルフ」に乗っていました。スイスはたとえ雪が降っても、即座に除雪が行われるので、一般道やアウトバーンを走っている限り、2WDでも別段問題はありません。しかし、4駆であれば、より安心で、何より行動半径が広がります。ということで、私のクルマ歴にとって初の4WD車です。
―― どのような天候でも、必要とあらば出勤しなくてはいけないホテル支配人の仕事にとって、ティグアンは心強い味方ですね。
今日もすでに午前からマイナス3度で大雪です。それでもオートエアコンと良く効くシートヒーターのおかげで、室内はリビング感覚です。バリュー・フォー・マネーの観点からすると、極めて高ポイントのクルマです。なにより大きな自動車産業がないスイスにとって、隣国ドイツを本拠とするファオヴェー（筆者註: 「VW」のドイツ語読み）は、もっとも身近で、もっとも信頼されているブランドの1つですから。
―― ところで、ティグアンのナンバープレートは「200」番です。すっきりとした、切りのいい数字ですね。
少し前までスイスでは、ナンバープレートの番号を譲渡することができました。実はこのナンバー、もともとは知り合いのお年寄りが所有していたものです。彼が運転からリタイアするとき、お嬢さんが「クルマを運転しない」というので、頼み込んで番号を譲ってもらったのです。手に入れた直後、私のもとに別の人から「そのナンバー譲って！」というオファーがありましたが、もちろん断りました（笑）。
―― 仕事以外では、どんなところにティグアンで？
友達が山岳地帯でドライビングスクールを経営していて、雪上ドライビングスクールも開講しています。そこへ赴くにも、ティグアンは頼れる足です。春にはアルプスを越えて、イタリアのブレシアまでヒストリックカー・ラリー「ミッレミリア」のスタートを観に行きます。もう7回くらいになるかな。
第13回 ルツェルン篇
ヤープ・シューパー氏×フォルクスワーゲン・ティグアン 4モーション
「クルマ好き支配人」がホテルを経営すると―― （2）
乗り物好きにはたまらない
―― かなりのクルマ好きとお察ししました。ところで、ヤープさんがホテルマンになったきっかけは？
実は私はオランダ人です。故郷のホテル学校を卒業後、ルツェルンのホテルに就職したのがスイスを拠点とするきっかけでした。その後2005年に独立して、今のホテルの支配人となりました。
―― ホテルには、「アウトバーン・ホテルズ」というサブネームが付いています。
「アウトバーン・ホテルズ」は私が7年前に考案し、実現したホテル・アソシエーションです。スイスをクルマで旅する人々に「セープ・ザ・マネー＆タイム」に、機能的かつ快適なホテルを提供しています。現在までに国内27の施設が加盟しています。
―― しかしながら「アウトバーン・ホテルズ」とは、わかりやすいネーミングです。
協会の設立登記段階で調べてみたら、意外や意外、先を越されていなかった名前だったんです（笑）。
―― そのフラッグシップホテルが、ルツェルン湖畔に建つヤープさんのホテルというわけですね。
ここは、38室あって収容客数96人のホテルです。でも面白いでしょう？ 1階には路線バスの車庫が、向かいにはそのメインテナンスを担当するメルセデス・ベンツ・バスの修理工場があるんです。ついでにいうと、ホテルのすぐ近くには飛行場もあり、ビジネスジェット機メーカーとして知られる「ピラトゥス」社が本社工場を構えています。
―― 乗り物好きには、たまらないロケーションですね。加えて、訪れたゲストすべてが度肝を抜かれるのは、1階から3階まで貫くミニカーを収めたガラスのタワーです。
高さ14メートル、約700台のミニカーコレクションです。いちばん多いのは、1階のバス車庫にあるのと同じ「ポストアウト」といわれるスイスのバスです。山間部が多いこの国では、20世紀初頭からスイス郵便が旅客輸送も担当してきました。もちろん、今日では郵便輸送とバスは別々の車両ですが、スイスの交通文化史を語る上で欠かせないものなのです。
―― ところで、館内には、イタリア警察のランボルギーニ ガヤルドが映ったスナップが飾られていますね。
イタリア交通警察隊が遠征してきたときのものです。2013年にダイムラーが「スマート」の国際ファン大会をルツェルン湖畔で開催したときは、オフィシャルホテルに選ばれました。クルマ好きがクルマ好きをかぎあてる嗅覚って、なかなかのものですね（笑）。