2012年デトロイトモーターショー スペシャルインタビュー
CAR / FEATURES
2014年12月17日

2012年デトロイトモーターショー スペシャルインタビュー

2012年デトロイトモーターショー スペシャルインタビュー

GM 会長兼CEO ダニエル・エイカーソン氏 &
副社長 クリス・ペリー氏

世界シェアナンバー1復活の秘密

世界最大の自動車メーカー、GM(ゼネラルモーターズ)。その舵取りを担う同社CEOダニエル・エイカーソン氏と、GM内における最大ブランド、シボレーを率いるクリス・ペリー副社長に、デトロイトモーターショー会場でインタビューする機会を得た。2年半前に会社更生法を適用された同社が世界シェアナンバー1の座を奪取できたのは何故なのか。モータージャーナリスト、島下泰久氏が聞いた。

Text by SHIMASHITA Yasuhisa

日本市場にはあまり期待していません──
ダニエル・エイカーソンCEO

2011年、自動車販売台数世界1位の座に輝いたのはGMであった。昨年1位のトヨタが震災の影響で供給を滞らせたという背景があったにせよ、猛追するフォルクスワーゲンを振り切っての首位奪還は、GMが今からたった2年半前に倒産した会社だと考えると、信じられないような出来事と言うほかない。

もちろん、これは偶然などではなく、負債を切り離したからだという単純な理由ではない。では復活の要因は何だったのか。そして今後の展開は? GMのダニエル・エイカーソンCEOに話を聞くことができた。エイカーソンCEOはもともとネクステルなどの通信業界で会長兼CEOなどを務めてきた、自動車業界では異色の人物である。

──自動車以外の業界から入ってきて難しかったことは何でしょうか。

私に限らず、外からその会社に入ってきた人間は、あたらしいアイデアや物の見方を持ち込むことになります。そうすると、あたらしく入ってきたひとたちと、ずっとそこで働いてきたひとたちが混ざり合う“ハイブリッド化”が起こることとなります。これは自動車産業だけで経験を積んできたマネージメントよりも、絶対に強いと言えるんじゃないでしょうか。

当然、その産業の基本的なことは知っていなければいけません。ですが、それがコンシューマエレクトロニクスだろうと通信機器だろうと自動車だろうと、どの産業でも重要なことは変わりません。まずは優先順位を決める。つづいて、ひとやお金などリソースには限りがありますから、それを適切に配分して、三つ目にはそれを実行に移すということです。これは、どんな業種でも変わりません。

──GMは現在、北米だけでなくいわゆる新興国やヨーロッパなどの市場で非常に力強い勢いを保っています。一方で、日本の市場については、どのように見ていらっしゃいますか?


デトロイトモータショーでデビューしたキャディラックATS

おもしろいマーケットであることはまちがいありません。外国車はとても少ないですね。アメリカにはこんなに日本車が走っているのに。我われのブランドも日本ではマイナーです。マーケットに入り込むのは簡単ではないですね。

このような言い方をして不快に思ってほしくはないのですが、GMだけではなくほかのブランドも、日本市場にはもはやあまり期待をしていません。外国から入ってくるアイデアなどには日本はとてもオープンですが、自動車メーカーにとっては、非常に競争しづらいマーケットなんです。

2012年デトロイトモーターショー スペシャルインタビュー

GM 会長兼CEO ダニエル・エイカーソン氏 &
副社長 クリス・ペリー氏

世界シェアナンバー1復活の秘密(2)

コンポーネンツを共通化しながらモデルレンジを拡充していく──
ダニエル・エイカーソンCEO

──今後、車両の基本アーキテクチャーを整理していくということですが、モデル展開はどうするのでしょうか。マーケットの拡大を考えると、やはり増えていく方向ですか?

当然増えていきますね。ユーザーの目に見えない部分のコンポーネンツをいかに共通化していくかということですが、これはトヨタから学んだことです。

20年、あるいは30年前や40年前を振り返ると、かつてGMはすべてブランドごとに独自のクルマを作っていたんです。たとえばシボレーはシボレー、ポンティアックはポンティアックで独自のエンジン、独自のアーキテクチャーを開発して、それをシェアすることはありませんでした。日本車に席巻されてしまったのは、まさにそういう理由があったと思います。

今はそういう時代ではありません。グローバルパワートレイン、グローバルアーキテクチャーでやっていきます。これは日本から学んだことです。


デトロイトモーターショーにおけるキャディラックATSの発表


ダニエル・エイカーソンCEO

──過去には日本メーカーとの提携がありましたが、今後もあり得ますか?

あると思いますよ。今のGMは考えを変えました。全部自分たちだけでやるということをしない。得意なところにフォーカスして、そうでもないところはほかのメーカー、サプライヤーと連携してやっていきます。

たとえばLGエレクトロニクスとの契約もそうですし、帝人とのカーボンファイバーにかんする契約もそうです。私たちは自動車会社として私たちにできることに集中して、彼らサプライヤーもやはりみずからの専門分野に集中していくということです。

とくに日本ということで言えば、私は日本に住んでいたことがあります。いまでも世界第3位の経済国ですし、安定した民主主義国です。アメリカにとっては良き友人でもあります。もちろんアメリカにも良い技術はありますよ。でも日本はいつも興味深い国です。だからこそ私は、このテーブルにあなた方と話に来たんですよ(笑)

2012年デトロイトモーターショー スペシャルインタビュー

GM 会長兼CEO ダニエル・エイカーソン氏 &
副社長 クリス・ペリー氏

世界シェアナンバー1復活の秘密(3)

「繋がる」という要素を、いかにクルマに持ち込むかがカギ──
クリス・ペリー副社長

現在のGMの勢いを支えている、もっとも元気なブランドがシボレーである。何しろGM車の世界販売のなかでも、シボレーブランドが半数以上を占めているのだ。つづいて話を聞いたのは、GMのシボレーグローバルマーケティング&ストラテジー担当であるクリス・ペリー副社長である。

──今回のプレスコンファレンスにおけるプレゼンテーションでは、とくにクルマへの関心が薄れつつある若者に強くフォーカスした3台のワールドプレミアがおこなわれました。この“若者のクルマ離れ”という傾向は日本では、すでに数年前から言われていることですが、これに気づきはじめたのは、どれぐらい前のことですか?

ここ2、3年のことです。ひとつのきっかけは、運転免許証の取得者数が減ってきたということがあげられます。私の世代では16歳になったら免許を取るのが当たり前でしたが、今では18、19歳まで待って取るという若者が少なくありません。もちろん、昔は感じられたクルマへのパッションが、今の若いひとたちからは感じられないということもありますね。

──そうした傾向への対策としては、良いクルマが求められるのは当然として、クルマへと手を伸ばす、関心をもってもらう、そのための方策としては何が考えられますか?

若いひとたちの傾向を調査すると、彼らは始終インターネットに繋がっているんですね。ですが運転中は、繋がっていることはできません。友達と繋がれない不安。そこを解消することは、ひとつの策だと思います。「繋がる」という要素を、いかにクルマに持ち込むか。まちがいなく、これがひとつのカギになるはずです。課題は、それを安全性などとどう調和させていくかということになります。

──家にいれば「繋がって」いられるのに、わざわざクルマを運転するでしょうか?

いい質問です(笑)。もちろん、そこに向けた解決策を探っていかなければいけないのは事実です。繋がるクルマと繋がらないクルマで言ったら、繋がらないのではダメでしょう。そのうえでクルマにどんなかたちのパッションを植えつけていくかということは、チャレンジしていかなければいけないと考えています。デザインなのか、走る愉しさなのか。アップルのようなブランド力も大事だと言えるでしょうね。

デトロイトモーターショーでお披露目されたシボレー130R

──繋がるというのはクルマにとってはメインの機能ではありません。もっと根本的な部分では、若者には受け入れられないのでしょうか。

当然、考えていかなくてはいけません。たとえば、あたらしいカテゴリー。たとえば、かつてクライスラーがミニバンを出したように、ニーズに対応していくことをいろいろなアングルから見ていく必要があります。

2012年デトロイトモーターショー スペシャルインタビュー

GM 会長兼CEO ダニエル・エイカーソン氏 &
副社長 クリス・ペリー氏

世界シェアナンバー1復活の秘密(4)

ユーザーはいまでもファン・トゥ・ドライブを求めている──
クリス・ペリー副社長

──今回コンセプトカーとして出展したコード130Rは、かつてのマッスルカーの縮尺版のようにも見えます。こういうクルマへの思い入れというのは、まだ今の若いひとにもあるのでしょうか?

はい。市場全体が冷えているわけではなく、アツいひともまだまだ沢山いますよ。彼らにアピールするには、スタイリングやパフォーマンスにこだわった、130Rのようなクルマが大事なんです。でも、これが唯一の答じゃないですよ。場合によっては、一緒に提案したトゥルー140Sと2台両方が必要なのかもしれません。マーケットは複雑。いろいろなひとがいますからね。多様化が求められているんです。


4シーターのスポーティークーペー、シボレー140Sもデトロイトモーターショーでデビュー


シボレーグローバルマーケティングストラテジー担当副社長、クリス・ペリー氏

──ユーザーの望むもののなかに、ファン・トゥ・ドライブへの思いは、まだあるということですね。

あると思います。

──エコカー需要にはどう応えますか?

この面でもソリューションはいろいろです。ひとつでは足りません。エンジンはガソリンだけでなくディーゼルも、バイオ燃料を使うものもあります。e-アシストやマイルドハイブリッド、ボルトのようなレンジエクステンデッドEVもありますし、スパークにはEVを設定します。また、BMWと共同で手がけている燃料電池も将来的には出てくるでしょう。ニーズや車種などによって異なる答が沢山あるのです。

──そんななかで今後、カマロやコルヴェットはどんな方向に行くのでしょうか?

それは教えられませんよ(笑)。でも期待は裏切りませんよ!

           
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