TWIGGY|祝20周年! 松浦美穂インタビュー
BEAUTY / FEATURES
2015年1月26日

TWIGGY|祝20周年! 松浦美穂インタビュー

ORGANICAL on Twiggy Special
Twiggy 20th anniversary party Report

ヘアスタイリスト松浦美穂が、20年目に感じたこと

今年20周年を迎えたヘアサロン「ツイギー」の祝宴が、先月、原美術館の中庭で開催された。来場者を驚かせた幻想的な会場を「この世界観は私が思い描いていたとおり、いや、それ以上でした」という松浦さん。20周年を記念したこの宴に、どんな思いを込めていたのだろう。

Text by KOBAYASHI Yuka
Photo by SATO Koji

夕闇が迫る中庭の芝生に、キャンドルの怪しげな灯りが影を落とす。場内中央に配されたバンケットテーブルにも大小のキャンドルが並び、そのあいだを熟した果実や黒土に植えられたフレッシュハーブが埋め尽くす。所どころに配されたディップの“ 畑 ”にはスティックの野菜がささり、横に添えられた細い木の枝を模したパンが、ツイギー (小枝) を思わせる。…パーティ中は、この中世の晩餐会を再現したようなテーブルのまわりを、蠱惑的(こわくてき)な衣装の舞踏家たちが時間感覚を惑わせるパフォーマンスで練り歩いていた。

──今回のパーティには、フードコーディネイターの野村友里さん、キャンドルアーティストのCandle JUNEさん、スタイリストの長瀬哲郎さんなど、錚々たるメンバーがスタッフとして参加されていますね。

今回のツイギー20周年パーティでいちばんに感じたのは、「自分のキャスティグはまちがってなかった」という実感です。普段の撮影もそうですが、ひとつのものを作り上げるときには、やはりキャスティングが命。

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"「Twiggy banquet」〈2007〉Photo:Koji Sato Styling:Tetsuro Nagase Makeup:Noboru Tomizawa Fooddirection:Rieko Teramoto"

そこで、私と似た世界観をもつ野村友里さんやCandle JUNEさんに、私が表現したい世界を託しました。
このふたりとはほとんど会話をすることもなく、ただ、「Twiggy banquet」の写真(画像下)を見せて「イメージはこれ」と伝えただけなんです。森のなかに没落貴族やボヘミアンが時空を超えて集まって開いた晩餐会……この空気感を感じてもらいました。「Twiggy banquet」のスタイリングは長瀬さんなので、彼に舞踏家さんたちのスタイリングをお願いし、長瀬さんが選んだtakayuki SUZUKIのデザイナー、鈴木隆行さんに衣装をお願いしたんです。

野村友里さんは、彼女の監督した『eatrip』(2009年)という作品が以前から気になっていて。そこでいろいろなひとにその話をしていたら、出会えるチャンスがきた。すでに友里さんは私のお米づくりや仕事の話をひとづてに聞いていらしたそうで、はじめて会ったときは気づかず、依頼後に「あぁ、そっかぁー」と思ったそうです。

それでも何度かサロンに足を運んでもらい、サロンの屋上緑化、私のお米の写真を見てもらいました。さらに友里さんが「このひとのパーソナリティっておもしろいなぁ」と思っていた知り合いが、ことごとくツイギーでカットしているひとだったとか(笑)。
だから「もうびっくりしちゃう。松浦さんとは会う前から知ってたみたい」って言われましたが、私自身も、野村友里さんをキャスティングしたのは奇跡ではなく必然だっだと感じましたね。そんな出会いだったので、パーティのための打ち合わせはとくに必要ナシ。「パーティに松浦さんの新米を使っていい?」と聞かれれば、「あ、やっぱりそう思ってた?」みたいなカンジで(笑)。

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手にとることを躊躇するほど美しくコーディネイトされた野菜

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パンはすべてツイギー(小枝)を模した形状に焼き上げられた。

以前からお付き合いのあるJUNE さんとは、「旗、いきましょうか? 旗に豆電球とかがあるやつ」って聞かれて、「あ、まさにそれなのよ」というノリでした。ゲストが同伴する子どもたちのために、なかで遊べるテントを用意したいと話しただけで、私がイメージしていたとおりのモンゴル風パオが会場に。

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会場は装飾の豆電球とキャンドルの灯りをメインに、ミステリアスな雰囲気が漂う。

その光景を見た途端、「やっぱりパオかぁ、すごいなぁ」って(笑)。さらに「会場の受付には、救護班みたいなテントがいいと思うんですよ」ってJUNEさんが言う。おまかせしたら、本当に避難所で使う医療用のテントを張り、これをくぐり抜ける幻想的な世界が広がっている、という仕立て……もう最高です。JUNE さんと友里さんは、2010年という時代を切り取ったふたりだと思っています。「トレンド」ってもう死語ですが(笑)、全体の流れよりもパーソナルに注目したい今の時代、私のなかでは2010年の最高にトレンディなふたりです。


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Twiggy 20th anniversary party Report

夢は「今」。自分が夢中になれることを探していく

──普通のイベント準備とちがって、現場では皆さんじつに粛々と作業をしていましたね。

これからの時代は、何が自分のライフスタイルなのかという主義主張を誇大したり隠したりするのではなく、まんまの自分でいること……それがトレンディだと思います。みんながそうすれば、誰を選ぶかにも迷いがなくなる。「じつは隠し技がある」とか「自分はそこまでできない」ということもなく、等身大であることが、今の時代のテーマだと思っています。そういう意味で、今回はスタッフ全員が等身大でベストを尽くしてくれたからこそ、パーティが成功したのでしょう。

スタイリストの“ ジャイアン ”こと長瀬さんは、その日、福岡での仕事を手早く終わらせてこのパーティのために東京に戻ってくれました。Suzuki Takayukiさんの衣装を、丁寧にひとりひとりスタイリングしてくれて、タップダンサーの熊谷和徳さんの衣装まで手掛けてくれました。それぞれのプロが、ピリピリせずに誰に指示されることなく、自分の仕事を完璧にこなしていく……その結果、ショーアップされたイベントが成立し、その形はソフィスケートだけを目指したものよりゲストの心をつかむものだと確信しました。

パーティ本番だけでなく、このすべてのことが、私自身の「学び」とさせていただきました。こうやって人と関わって“ 縁 ”を“ 円 ”に変化させていく力こそが、私の継続源です。今回来ていただいた方々、関わっていただいたスタッフの方たちに、これからは私自身が「喜ばれる」存在となれるよう仕事を丁寧に返していくことで、“ 円 ”は成立していく……そう考えると、ますます背筋がピンと伸びる思いです。

──「20年」という時間の蓄積は、それなりに重みのあるものでしょうか。

20年が、老舗という扱いになるとは思いません。老舗といわれるひとたちのなかには50年とか100年も多いですからね。ほかの方々が5周年、10周年というのを見れば「ああ20年もやってきちゃったんだな」と思うものの、どのレベルもみんなおなじ。何年たってもおなじ感覚でいたい。

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華麗なタップダンスでパーカッションとのセッションを披露したタップダンサー熊谷和徳さん。

たとえばUAさんは15周年をかみしめてライブをやっているし、大貫妙子さんはそもそも「○周年」っていう感覚が嫌いだという。前しか見ていないから、“周る”という過去を捉えた感覚がイヤだって。でもそのふたりは、私から見れば両方フレッシュなんですよね。15年でも35年でも、そのときの感じ方がいちばん大事だと思うんです。だからツイギーも何周年を迎えてもフレッシュでいたいと強く思っていますが、一方で、今回これだけ完成度の高い20周年記念ができたことで、今はゼロにもどれる。……ゼロにもどりたかったから、完成度の高いものであればいいとは思いましたが、逆にそこで課題が残っても、これから追いかけるものが見えるからそれも良しです。

──会場は、いわゆる業界パーティとはちょっとちがって、老若男女、お仕事仲間から一般の方々までじつに多彩な顔ぶれでしたね。

大人、子ども、おじいさんおばあさん、そしてエッジの利いたファッションピープルっていうひとたちが、同じ場所でリラックスできるというのは、私の理想です。

これはロンドンのパブ文化で学んだことです。パブに行くと、さっきまで道路工事をしていたワーキングクラスのオジサンたちと、パンクロッカーや、得体のしれないアーティストのような若者たちが、パイントを飲みながら一期一会の会話を楽しんでいるんですよ。ハムステッド・ヒース(北ロンドンの広大な公園)に行ったときに近くのパブに入ったら、なんとカウンターにスティングがいた(笑)。 でもこのときも誰も騒がず、近くで飲んでたオジサンがごく普通に「『ブルー・タートルの夢』はジャズだっけ?」なんて話しかけ、スティングもそれに自然に返している。それを見て、「あ、理想だ」と思いました。日本で、たとえば矢沢永吉さんが居酒屋入ってきたら、みんな騒ぐじゃないですか(笑)。

今のロンドンにはその空気がなくなりましたが、逆に今の日本は徐々にそういう空気になってきている気がします。そして、「美容室」という場所もまた、それを感じるところのひとつだと思っています。

Twiggy 20th anniversary party07

パーティ終了に近づくにつれ、会場の一角に設けられたドレッサーのまわりには、つぎつぎとキャンドルが集められた。

美容室にいると、シャンプー後のタオル巻いた頭とかパーマのロット巻いた姿……と、誰もがまるで無防備な状態で一緒に過ごしている。その代わり、スタッフには「お客様をどこにおとおしするかで、その日、そのときの気分が決まるからね」と言っています。有名無名に関係なく、人びとがおなじテンションになっていくのが気持ちいい。世代のバトンタッチ、人間に上下はないということ。宗教的な意味ではなく、ヘイアメイクという仕事をつうじいろいろな立場の方にお会いして、本当にそう感じるんです。どんなひとも、みんな一緒なんだという考え方。これは父から学んだことです。

──大成功の20周年のあと、「これから」をどう考えているんですか?

夢は、「今」なんです。だから『夢はなんですか』って聞かれるのがいちばん困る。「夢中」って、「夢」の「中」って書くでしょう? だから夢中になれることを探す。自分に火がつくこと、おもしろいと感じる、それが快楽。そして、自分が絶対イイと思うものを褒められたら、快楽も増長する。つまり結局は、自分主義でいいんです。自分が満足することが快楽なんです。自分がやると決めたこと、やらせてもらえることを精一杯満足すること、それが快楽であって、夢の中なんです。だから今でも夢の中だし、これからも夢の中。そういう意味では、このパーティは快楽の絶頂でしたね(笑)。「一回死ねた」という気分。明日から生まれ変わって新しい1日が始まります! って感じです。まさに「Reborn」。

じつはパーティ翌日が私の誕生日だったので、そういう意味でも真っ白になれた気がします。当日はパーティ終了後、日付が変わる時にスタッフが誕生祝いを兼ねた打ち上げをやってくれました。そして打ち上げの最後に、スタッフが一人ずつ花を渡してくれて…でもね、その花に顔まで囲まれた自分の姿が、まるでお棺に入ったひとみたいで、思わず「みんな、今日は私のことを死なせてくれてありがとう」って言いましたよ(笑)。めでたいことです。みんなに死なせてもらったから、これからがすごく楽しみ。今回の20周年、自分のバースディ、すべてがとにかくフレッシュでした。「いつもフレッシュでいなさい!」って後ろから押されたような感じです。

           
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