Jan Kusmirek(ヤン・クズミレク)×吉川千明(よしかわちあき)対談|本当の意味での“オーガニック”とは?
Beauty
2015年1月28日

Jan Kusmirek(ヤン・クズミレク)×吉川千明(よしかわちあき)対談|本当の意味での“オーガニック”とは?

OSCIEM|オシエム
ヤン・クズミレク×吉川千明対談

本当の意味での“オーガニック”とは?

フレグラントアース社の創始者であるヤン・クズミレクさんは、薬草療法士、アロマセラピスト、調香師の肩書きをもち、園芸学、薬草学、ホリスティック医学、自然療法学、栄養学などの学位も有す多才な人物だ。英国のオーガニック認定機関であるソイルアソシエイションの初期メンバーとしても活躍、文字どおり芳香業界の第一人者である。今回、美容家である吉川千明さんとの対談が実現。「オーガニックコスメ」に精通するふたりが、日本の「オーガニック」の現状、そしてヤンさんが開発したエイジングスキンケア「オシエム」の魅力について語ってくれた。

文=オウプナーズ
写真=鈴木健太

「オーガニック」と「ナチュラル」のちがい

吉川 「ビューティーワールド ジャパン」(※注1)に訪れて、日本の美容業界にいくつかの疑問をもたれたと聞きました。それはどのようなことですか?

ヤン 日本に来るたびに「オーガニック」についての質問を受けるのです。まるで「オーガニック」が、突然ファッションアイコンのようになってしまった、流行語になってしまったかのような印象でした。今回「ビューティーワールド」に行って気づいたことは、小規模な会社が「オーガニック」というアイデアをあたかも非常に印象的な、非常に重要なものであるかのようにプロモーションしているということです。その速度が加速しているような気がしました。また、「オーガニック」という言葉が「ナチュラル」と同義語のように使用されていると感じました。出展者や関係者の方々と話をしていると、ほとんどのひとが「オーガニック」というのはイコール「ナチュラル」であると言うのです。けれど、厳密にはそうではありません。英語を母国語としているわれわれと、そうでない方とで「ナチュラル」という言葉のとらえ方もちがうと感じています。

吉川 そうですね。私の理解では、オーガニック化粧品というのは、土作りからはじまって有機でつくられた「植物」をベースにしているものはもちろん、自然界から採取したものを利用するわけですが、日本のひとたちは「オーガニック化粧品」や「オーガニック栽培」について、じつは良く分かっていないのが現状なのだと思います。ヨーロッパのひとたちは自分たちの国や歴史、自分たちが壊してきた環境の重要性を、庭仕事をしながら語ったりすることが日常ですが、悲しいことに、日本という国は「オーガニックにはどういう意味があるのだろう」などと一般レベルで語られることがほとんどありません。

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美容家の吉川千明さん

そして、私たち日本人はとても流行りに敏感なので、「オーガニック」がビジネスになると思っているのですね。おそらく、たくさんの質問を受けるのは、オーガニックについての知識はないけれどオーガニックをビジネスにしたいと考えているひとたちが、ヤンさんに聞いたらすぐに答えが分かると思ったためだと思います。私は化粧品の知識から逆に有機栽培をすることにはどんな意味があるのだろうかと考えはじめました。今日は、ヤンさんの意味する「ナチュラル」と「オーガニック」について、詳しく教えてください。

(※注1) エステ、ネイル、美容機器、ヘア、癒し、医療美容にかんするすべての製品、サービス、情報、技術が国内外から一堂に集う日本最大のビューティ国際見本市。2010年は5月17日~19日に開催された。


OSCIEM|オシエム
ヤン・クズミレク×吉川千明対談

本当の意味での“オーガニック”とは?

化粧品には“効果”を求めるべき

ヤン 「オーガニック」つまり「有機栽培」そのものというのは私の人生にとっても、私の考えや哲学にとっても非常に大きな部分を占めています。この“オーガニックムーブメント”がなければ、私の過去60数年というのはまったくの無駄になったと言っても過言ではありません。では「なにがオーガニックとなりうるのか」についてお話しましょう。まずはきちんと認証された土壌、種、植物、保管場所、加工過程、そして出来上がった商品そのものもオーガニックであるという「認証」を受けなければならないということが重要です。認証を取るたびにコストが発生するため、この過程で6つのプライスタグが付きます。フレグラントアース社がビジネスをはじめたとき、当時はフレグラントアースが「これはオーガニックです」と言えばそれで充分だったのですが、さまざま会社がつぎつぎに生産するようになり、きちんと認証を取らなければならないという状況になりました。つまり、実際に10年前よりも製品の価格が上がってしまったので、我われの売る数量が減り、農家の収入もどんどん悪くなっているのです。

吉川 なんだか難しい問題ですね。

ヤン 確かに難しい問題なのですが、これこそ、先進国が自分たちの基準・規格をもってより小さな国、あるいは開発途上国、小さな農家に侵入をしているということの典型的な例なのです。ではオーガニックコスメの話をしましょう。非常にすばらしいナチュラルコスメであるオシエムは「オーガニック」の認証は受けておりません。それはなぜか。ビタミンEという成分を例にとります。まず、オーガニックの小麦があります。これを挽いた胚芽はオーガニックです。これを今度はつぶします。すると、オーガニックのウィートジャームオイルができます。するとこのつぎに、非常に馬鹿げた状況が起こります。ここからビタミンEを抽出すると、残ったオイルというのは、重要な成分であるビタミンE はすでに抽出されてしまったのに「オーガニック」として売ることができる。ところが、抽出したビタミンEを売ろうとすると、これにはオーガニックであるという認証はつけられないのです。それはなぜか。この段階で、我われは一番の大もとであるのが「農業」だということを忘れてしまっているためです。本来、オーガニック農業の一番の目的というのは土であり、腐葉土の健康なのです。そして一番大切なことは、有機栽培された食品を我々が食べる、身体のなかにとり入れるということなのです。

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吉川千明(よしかわちあき)さん

吉川 確かにオーガニックで作っていても、精製や分離と加工するなかで、オーガニックと謳われなくなることもあるのですね。そしてそうやって加工したほうがスキンケアの素材としては有用なこともあるのですね。認証をとっているかどうか、素材をすべて認証を得たもので揃えるかどうかが問題ではなくて、植物の栽培にかんしては、土を守り、環境を守るという点では、オーガニックで栽培することは重要で、大切なことなのですね。
認証をとっているかどうかではなく、その会社がきちんとした土作りをして環境を守っているかどうかが重要だと。そして重要なことは、食べ物。私たちは、土からの栄養を食べ物からしかとれない。だから、食べ物は、オーガニックにこだわるべきなのですね。

ヤン そのとおりです。そして、ここでもう一度「倫理」の大切さを訴える必要があるでしょう。つまり、化粧品がナチュラルであるかどうかということよりもまず、その化粧品に効果があるのかどうかということが問われるべきなのです。なぜなら、オーガニックのオイルを皮膚に塗布しても分子が大きすぎて皮膚のなかには入っていけないわけですから、このオイルがオーガニックであるということは皮膚にも農家にも無関係なのです。

吉川 有機で植物が育てられるということが大切なのであって、それをそのまま塗ったからといって効果が得られるわけではない。化粧品に効果を求めるのであれば、そこには精妙な化学の力が必要になってくるということですね。

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Jan Kusmirek(ヤン・クズミレク)さん

ヤン おっしゃるとおりです。ココナッツやパームオイルのプランテーションが有機栽培されれば環境にとってどれだけ大きなちがいを生むのか、このことをもっともっと広めていくべきなのです。たとえばパラグアイ。昔は手つかずの森林が広がっていただけなのですが、今は大豆畑一色です。現実的に考えてみれば、森林に対する需要はなかったわけですね。ですが大豆に対する需要はあった。しかしこの大豆を有機栽培にしたならば、昆虫ももどってきますし、鳥や小さな動物ももどってきます。そしてそれらを狙う動物も出てくる。しかし、そこに閉じ込めてしまうと、何の広がりもなくなってしまうでしょう。この考えは、化粧品にも応用できます。オシエムの場合、バイオコンパティビリティという生体適合性成分を使用しています。オシエムでは、微生物の働きで土壌環境を整えるオーガニック農法とおなじように、皮膚そのもの、肌表面に存在するマイクロフローラ(微生物叢)にとって「使えるものかどうか」という視点が大事だと考えています。


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ヤン・クズミレク×吉川千明対談

本当の意味での“オーガニック”とは?

ヤン氏の長年の研究と哲学が詰め込まれた「オシエム」の魅力

吉川 なるほど。ヤンさんの長年の研究と経験が注ぎ込まれた「オシエム」の製品、私も愛用しています。せっかくの機会なので、詳しく教えてください。

ヤン ご存知のように、私はいろいろなブランドの商品開発を手がけてきましたが、オシエムの場合は、日本サイドからバルト海と太平洋とインド洋の3地点を結んだ三角形のなかにいるひとたち、つまり、アジア系、スラブ系、オリエンタルの肌をもつ女性に向けた製品をつくってほしいという依頼があったことがきっかけです。そして我われがディスカッションしてきたことは「ナチュラルであるということは安くない」ということです。効果のある製品を作るためにはやはりある程度の価格になってしまうので、ラグジュアリー製品として認めてもらえるような市場に限られてくるだろうと、そのことは受け入れなければいけないと思ったわけです。ですから、私にとってオシエムの立ち位置というのは非常にシンプルなものなのです。

ビジネスという側面で考えてみますと、高価格帯の製品であればあるほど、あまり多くの品目はもてません。なので、本当に必要なものはなにかというところから考えはじめました。きちんと教育を受けたひとたち、経済力のあるひとたちは、モスクワでも東京でも共通点があります。彼女たちはメイクアップをしすぎると(笑)。ですからまずは、よりよいクレンジングフォームが必要だと考えました。スキンケアにとって一番大切で大きな問題は、まずはクレンジングが一番大事なのだということをみなさんに解ってもらうことです。

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Jan Kusmirek(ヤン・クズミレク)さん

吉川 「タイムラインソフトウォッシュ」私も毎日使っています。じつは私もクレンジングが一番大事だと考えていまして、毎日顔を洗うたびに肌を壊しているひとが多いのではないかと思っていたんです。でもこれは、肌の常在菌を殺さないのですよね。

ヤン そのとおりです。それと、日本人はオイルを嫌うひとが多いのであまり大きな声では言っていませんが、じつはオイルをたくさん使っています。そしてもう一点言えるのが、オシエムは高価であるということです。では、安い製品と何がちがうか、安い製品というのは、大半を「水」が占めているのです。たとえば、タイムラインソフトスウォッシュの洗浄成分については、パーム油、菜種油、ココナッツ油などの脂肪酸に、サトウキビやビートからとったショ糖をくわえて作った100パーセント植物由来です。そのほかにも、サボテンの抽出エキスやヒマワリオイル、グレープフルーツ精油やレモン精油なども配合され、落とすものなのに非常に多くの成分が配合されています。ジェルミルクのようなテクスチャーも特徴で、肌なじみがよいのに吸収されすぎず、肌の上に留まって汚れをしっかりと落とすように作られているんです。

吉川 これは確かに感触がほかのものとちがいますね。メイクも良く落ちますし、朝も夜も使えるのがすごくいいですよね。

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OSCIEM(オシエム)「タイムラインソフトウォッシュ」

ヤン では次のアイテムをご紹介しましょう。ここに非常に興味深いデータがあります。ロシア人というのは自分たちの肌は分厚いと思っている、そして日本人は自分たちの肌はオイリースキンだと思っている。そして両方にスクラブマニアの女性がいる。さて、これに関しては何時間でも話ができるのですが(笑)、スクラブ料の「スキンスムース」を開発しました。というのも、私は両者の認識は正しいと思うのです。いわゆる細胞の表面ですが、これはクレンジングなどにより自然に剥がれ落ちます。そして残ったものは何かと言いますと、“防護”の役割をもって肌に残る意味があるものです。ところが、ごく簡単に一番上の層を取り除くことができてしまうんですね。すると、肌を守るためにオイルがさらに出てきてしまい、結果、皮膚がどんどん分厚くなってしまうのです。

吉川 オイリー肌でなくなるためにはオイルを残しておかなければいけないということですね。


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ヤン・クズミレク×吉川千明対談

本当の意味での“オーガニック”とは?

“ナチュラル”とは、肌がもともともっている自然な力を活かすこと

ヤン さらに「スキンスムース」でまた別のアプローチを試みました。ミクロ粒子と呼んでいる小さな粒子を使ったのですが、粒子が入っているのが分かるように敢えて黒い粒を入れました。一見、これによって肌表面を削っているように思いますが、じつはAHAという成分が働きかけていまして、肌に直接刺激を与えるようなアグレッシブなアプローチはしていません。スクラブをして物理的に表面を剥がすのではなく、溶剤ソルベントを使い皮膚の一番表面の層をこの溶剤で溶かしているのです。なので、実際は溶けているだけなので皮膚の上には残っていて、皮膚にあるマイクロフローラで再びリサイクルされているのです。ここで「ナチュラル」というあたらしい定義ができます。つまり“リサイクリング”されているということです。そして、使用しているAHAというのはじつは乳酸なのです。皮膚の上にいる常在菌は、乳酸菌が一番の好物ですから、肌にとってとてもナチュラルです。つまり、あえて「スクラブ」と記載していますが、このスクラブを使うということで実際に肌のうえで何が起こっているかというと、皮膚の上のナチュラルな、通常のリサイクリング、再生のメカニズムの一部になっているということです。

吉川 すばらしいですね。汚れを落とすだけでなく、洗顔しながら、肌の再生もしてしまうのですね。

ヤン そしてもうひとつ、私自身が楽しんだのが「ブラックパールマスク」です。これはまず、優しいマスクを作りたかった。クレイを使ってしまうと非常に乾きやすくて、使うひとは長く使いすぎる傾向がありますよね。これはほとんどクリームと言ってもいいようなマスクなのです。さらに黒蝶貝を砕いた微細なパウダーを使っています。これを肌にのせるとマスクを拭き取った後も若干輝きが残るのです。40代以上の女性がこれを使ってキラキラとしているのはとてもラグジュアリーで魅力的です。

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OSCIEM(オシエム)「ブラックパールマスク」

吉川 ほんとそうですよね。私はやっとこれを使える年齢になったなと思いました。

ヤン では、クリームの話をしましょう。オシエムには「デイクリーム」と「ナイトクリーム」の2種類の製品があります。

吉川 全然ちがうクリームなんですよね。香りもまったくちがいますし。

ヤン ほとんどの化粧品会社というのは、コスト削減のためにベースをひとつしか作らないのです。しかしオシエムは、製品によって使っているベースが異なります。オシエムがチュラルコスメというふうに言っているのは、素材がナチュラルという意味ではありません。

吉川 「我われがもともともっている自然な力を活かす」という意味ですね?

ヤン そのとおりです。私個人にとっては、これがはじめて「オーガニック」という原理、原則を使った製品なのです。成分がオーガニックだということはもちろんなのですが、考え方にオーガニックを盛り込んだ最初のブランドだと言えます。つまり、オーガニックなやり方でオーガニックな機能を肌のうえで果たしているということです。化粧品にとって重要なのは何で作られているかではなく、皮膚の上で何をするか、どういう効果を生むかなのです。ですから我われはバイオコンパティブル(生体適合性)という言葉を使っているのです。生体適合性があって、皮膚の上でリサイクリングを再強化しているという製品なのです。ですから、我われにとって、みなさんはまるで農婦なのです。皮膚というこの農場を耕しているということとおなじなのです。

吉川 なるほど、すごく良く分かりました。自分の肌を「Farmimg!」(耕す!)ということですね。

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Jan Kusmirek(ヤン・クズミレク)さん

ヤン 自分の肌のうえで調和する、自分の肌のバランスを自分自身でとっていく。オシエムという製品を使っていただくことによって、自分でどれだけの量を使うか、自分のスタイルに合わせて変えていただくことができるんですね。ひとによってはナイトクリームが必要ないかもしれない、ひとによってはデイクリームが必要ないかもしれない。自分のツールキットのように、自分で自由に組み合わせて、自分に合うかたちに調整していただきたいと思っています。

吉川 やっぱり今日お聞きできてよかったです。今日のお話の一番最初の「オーガニック」と「ナチュラル」のちがいがやっとわかりました。ヤンさんのおっしゃる「ナチュラル」とは、単に自然素材やオーガニック、有機栽培から作ったもの、という意味ではなく、生体適合性があり、肌を育てることのできるスキンケアであるかどうかということなのですね。それを指して「ナチュラル」というのですね。ヤンさんの考える究極の「ナチュラル」がオシエムなのですね! 今日は本当にありがとうございました。

Jan Kusmirek|ヤン・クズミレク
英国フレグラントアースインターナショナル社の創始者。薬草療法士、調香師、アロマセラピストの肩書きをもち、園芸学、ホリスティック医学、自然療法学などの学位も有する英国芳香業界の第一人者。オーガニック栽培の農家を保護しながら、さまざまな提言で現代アロマセラピーの質の向上にも貢献。天然香料を用いた化粧品や香水の開発なども数多く手がけるかたわら、講演活動や執筆活動など、精力的な活動をおこなっている。文中で紹介されたスキンケア「オシエム」の開発者でもある。
フレグラントアースホームページ www.fragrantearth.jp
オシエムホームページ www.osciem.jp

YOSHIKAWA Chiaki|吉川千明
美容家。「最上級のビューティは自然の力、植物の力が与えてくれる」という考えのもと、化粧品やスキンケア、スパのみならず、女性医療、食、漢方、生き方など、女性のためのナチュラルで美しいライフスタイルをさまざまな角度から提案している。ジュリークショップ青山、白金台ビオ・パスカルなど、ナチュラル感を重視した5つのサロンとスパ、オーガニックコスメ、ナチュラルコスメのプレスルーム「ビオ代官山」を主宰。国際植物療法協会指導員、CIDESCO国際認定エステティシャン&アロマセラピスト。
オフィシャルホームページ www.biodaikanyama.com

           
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