岡部美代治|Vol.6  化粧品の“効果”と肌のターンオーバー
Beauty
2015年4月30日

岡部美代治|Vol.6 化粧品の“効果”と肌のターンオーバー

その肌の“実感”、ホント?

Vol.6 化粧品の“効果”と肌のターンオーバー

大手化粧品メーカーの研究部門と商品開発部門にて、数々の優秀コスメ誕生にかかわってきた岡部美代冶さん。女性の美に対するあくなき探求心と鋭い視点、そして研究者ゆえの造詣の深さを活かして、さまざまな「美容の疑問」を、科学的見地から解説していただきます。

語り=岡部美代冶まとめ・イラスト=小林由佳Photo by Jamandfix

“これは良さそう……”と思って買った化粧品でも、その効果をしっかり実感できているだろうか。“なんだか良くなってきているみたい”“高かったんだから絶対イイはず”じつはそんな曖昧な感覚で使っているひとも多い。そして、その化粧品を使う肌は、ご存じのとおり、ターンオーバーで生まれ変わりつづけている。……ということは、化粧品の効果の感じ方や、肌のターンオーバーそれ自体をしっかり把握しておきたいもの。

Q. 化粧品の効果は、どこで実感するものなんですか?

効果には3つあります。まず、“肌が引き締まる”とか“肌が明るくなる”というような、使った直後に感じる効果。それから、たとえば1週間、1ヵ月使いつづけることで出てくる効果。これは“ハリが出る”とか“シミが目立たなくなる”という類のものですね。最後は心理的な効果。この3つが化粧品の効果のポイントだと思います。ですから、「ホントに効くのかしら……」と疑ってかかると、化粧品の効果は損なわれます。3つのポイントのうちひとつがなくなった時点で、その化粧品をうまく活かせなくなるし、不安に思ったり疑いながら使うと、化粧品の継続的な効果も薄れてきてしまいます。これは、交感神経系などが微妙に影響しているからですね。

よくある「1週間お試しください」という商品も、“使いつづけて”効果を実感してほしからそう言っているです。メーカー側は、1週間で結果が出るような成分の入れ方をしています。なぜかというと、皮膚は1週間で角質の約半分が入れ替わるからです。それだけ変化があると、ちょっとざらついていたところもきれいに治りますし。

Q. 肌のターンオーバーと化粧品の効果は、どう関係してくるんですか?

「肌のターンオーバーは28日周期」というのが今では定説ですが、実際は25日から50日以上かかることもあります。年齢によって随分違うんです。まぁ大抵の方が、1ヵ月前後で肌の大部分が生まれ変わったように感じられます。私はよく「本当のその化粧品の効果を見るためには1本使い切ってください」と提案していますが、これは、メーカー側も、その1本が1ヵ月から2ヵ月くらいでなくなるように設計しているからです。約1ヵ月使いつづければ、ターンオーバーで生まれ変わった肌に化粧品がどう働いたか見えるわけです。その化粧品を使い続けたことによる肌の変化がある程度実感できるので、そのへんが効果を見るひとつのポイントになると思います。

Q. 目もとや頬など、皮膚の厚みでターンオーバーの早さも異なりますか?

ええ。皮膚の薄いところは早いし、あまり動かない部位は遅い。これもひとによって極端に早かったり遅かったりすることもあるので一概には言えません。ちなみに目もとは一般に思われているよりはターンオーバーが遅いんです。皮膚が薄いと思われていますが、実際はそんなに薄くないんです。ですから、たとえばアイクリームの効果は、本当に持続的な効果を実感するにはかなり時間がかかります。

Q. 肌荒れやくすみは、ターンオーバーでいうどの段階なんですか?

健康な肌のターンオーバーは大体28日周期ですが、角質が生まれてからきっちり熟成するまでは時間がかかります。でも、たとえば肌荒れの状態とか、余分な角質を取りすぎた状態になると、肌がそれに対応するために、普段よりも早くターンオーバーが進んでいくんです。そして、早いということは、逆に言えば未成熟の角質が表面に出てしまうということ。そうすると未成熟な角質層は乾燥などに耐えられないので荒れやすくなる。ですから、慢性的に肌荒れしてるひとは、ターンオーバーがつねに早くて、逆にそれが肌によくない状態になっていることがありますね。しっかりと防御することもできませんから、かぶれやすくもなる。慢性的にガサガサしているひとは、一回しっかりと上から“フタ”をして、ちゃんと成熟して完成した角質が表面に出るまでガードしてしてあげなきゃいけないんです。

Q. “フタ”とは、具体的には、クリームや美容液みたいなものですか?

クリームのように、しっかりと肌の表面を守ってくれるものが一番大事ですね。クリームが合わなければ、ワセリン軟膏みたいなもの。もう純粋に油分です。まず肌に化粧品の効果が出るのは、健康な状態でターンオーバーがおこなわれている場合です。ターンオーバーが乱れてるときは、それを正常にもどさない限りその化粧品の本当の効果はわかりません。

Q. 肌荒れは、ターンオーバーが滞っているからだと思っていました。

それはほとんどまちがいですね。某メーカーに、角質をとって、早くターンオーバーを起こして肌を早く生まれ変わらせる目的の商品がありますが、これが導入されてから、その誤解が進んでいったようですね。もちろん、ケミカルピーリングや角質を早く取り去る方法もありますが、これは管理されてない状況でやると、荒れっぱなしの状態がつづいてしまいます。

Q. その管理とは?

要するに、ターンオーバーに働きかけるのなら、その後、ガードをしっかりしてください、ということです。取るだけ取ってその後のフォローがなくては困ります。メーカーがピーリングや角質を取ることにかんして、正しい認識をきちんと啓蒙してないのが現状です。私は、「角質を取りすぎちゃいけない」といつも主張しています。洗顔でこすって角質を取り過ぎないで、むしろ、はがれかかっているような角質は、はがれないように気をつけて、肌をガードしたほうがいいんです。

Q. ターンオーバーと加齢は関係ありますか?

ターンオーバーは早ければいいのではなく、50日でも25日でもいいんです。そのひとに合った適切なスピードであればいいんです。もちろん加齢はターンオーバーに影響しますが、加齢より、むしろ生まれつきの体質が影響しているようです。ターンオーバーは、要するに、肌が生まれてから剥がれるまでの代謝です。その基礎代謝が早いひともいれば遅いひとも、それで肌がきちんと健康であればいいんです。じっくり派もいれば非常にセカセカ派もいる、ということです。

Q. 化粧品に入っている栄養分も、効果に影響するのですか?

化粧品の成分には、皮膚の内部に入って細胞に働きかけるものもあります。これがここでいう“栄養”に当たるのでしょう。この効果は実際に検証もされてます。ただ、医薬品みたいに効果が素早くダイナミックに見えるわけではありません。薬事法でそれだけの成分は入れられないことになってますから。だからこそ、化粧品は使いつづけてほしいんです。それがすぐに目に見えるかたちじゃなくても、1ヵ月くらいのサイクルで効いてる可能性は十分あります。

Q. ひとつを長く使っていると、途中から効果を実感できなくなることも……。

その理由にはふたつあります。ひとつは、はじめて使ったときの感覚の新鮮さが薄れてきたということ。あるいは、使いはじめた時は確かに効果があったんだけど、使いつづけるうちにザラつきなどに気付くようになる、これはその商品と使うひとのスキンケアのシステムが合わなかったという結果でしょう。

化粧品は薬ではありません。ですから、たとえば広告に謳う成分が使用直後の効果と継続の効果にどのぐらい影響してきてるかというと、多分言うほどではないでしょう。むしろ大事なのは、使い心地、感触……要するに、一番大事な要素は、表に出してもあまりおもしろくないところなんですね。料理の隠し味みたいなものです。新製品のイメージを際立たせるために、新処方だとか、新技術というのを謳っていますが、使う側がそっちに目を奪われていると、実際の本質の善し悪しが見切れないというケースが多いと思いますよ。つけてすぐ効果があるかないかを判断するのではなく、しっかりつけてみて、つけた直後と2、3日使ってから、肌がちゃんと応えてくれてるかな、いい状態を保ってくれてるかなって見てもらうのが一番よいと思います。

岡部美代冶オフィシャルサイト
「美」の科学 「ビューティサイエンスの庭」

http://www.kt.rim.or.jp/~miyoharu/

           
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