岡部美代治|Vol. 4 「保湿」と「潤い」――本来のかたち
Beauty
2015年3月19日

岡部美代治|Vol. 4 「保湿」と「潤い」――本来のかたち

“化粧水で保湿”はできなかった

Vol.4 「保湿」と「潤い」――本来のかたち

大手化粧品メーカーの研究部門と商品開発部門にて、数々の優秀コスメ誕生にかかわってきた岡部美代冶さん。女性の美に対するあくなき探求心と鋭い視点、そして研究者ゆえの造詣の深さを活かして、さまざまな「美容の疑問」を、科学的見地から解説していただきます。

まとめ=小林由佳語り=岡部美代冶写真=JAMANDFIX

スキンケアに欠かせない「保湿」。スキンケア商品のほとんどが“潤い”をうたい、“保湿”への効果をアピールしている。しかし、そもそも「肌が潤う」とは、一体肌のどういう状態を指すのだろう。スキンケアが日々の習慣になっているだけに、手の感触だけでつい“潤っている”と判断していないだろうか。健康な肌を保つために欠かせない保湿。これがきちんとできていなければ、化粧品の有効成分が肌内部に届かないというのも、事実だ。

Q. まず、“肌が潤う”という状態が科学的に解明されたのは、美容業界史上、いつごろなんですか?

潤いについては昔から注目されていて、保湿という言葉もずっとあったんですが、「保湿って、本当はどういうことなの?」という質問にきちんと答えられるひとが増えてきたのは、じつは最近なんです。肌が潤いを保つための仕組みが、科学的にわかったのは、いまから15年くらい前のこと。「セラミド」の発見があったからです。

Q. セラミドの発見は、そんなに最近のことなんですか?

“肌に水を与える”という、潤いについての概念は、ずっと昔からありました。化粧水も、肌に潤いを与えるためのアイテムという定説が昔からありました。でも、このセラミドの発見で、これらの定説がまちがいだったということが、科学的に証明されました。
もちろん、セラミドが発見される以前から、潤いや保湿には各メーカー注目していました。メーカーの考え方は、「保湿のためには皮脂やオイルなど油分が大事」だというグループと、それはいらないというグループに大別されていて、とくにお医者さんは後者のグループが目立ちましたね。
私が在籍していた研究所では、油分があるほうが肌は潤うという考え方でした。セラミドが発見されるまでは、この油分は皮脂腺から出る脂質だという考え方が主流でしたが、じつは角質ができあがっていく過程で作られる油分がもっとも大事であることがわかりました。それが細胞間脂質であり、その代表格がセラミドだったんです。細胞と細胞をしっかりくっつけて、適度に水をふくんで、適度に水の出し入れもできる物質。それがあるから、肌は快適に水分を蓄えられるんですね。そのセラミドを最初に発見したのはカネボウです。そしてセラミド関連の商品を最初に世に送り出したのは、花王の「ソフィーナ」でした。

Q. セラミドが発見されて、スキンケア市場は大きく変わったんですか?

いえ。実際はまだまだですね。「肌が潤う」ということは、肌が水分を保つということなんですが、実際、その水分がどこから来るかについては、まだそんなに認知されていないんです。普通、「保湿」と聞くと、最初に連想するのが化粧水でしょう? 化粧水はほとんど水なので、水を外から与えて、そしてそれが逃げないように上からフタをする……というのが、昔からいわれているスキンケアのハウツー。この考え方が根本的にまちがっていることに、まだ気づいていないひとが多いんです。

Q. むしろ、それが当たり前と思っている人が圧倒的ですね。

たしかに、化粧水をつけると肌表面は濡れます。でも、すぐ蒸発するんです。蒸発して乾く。たとえば、唇が乾燥すると自分でなめますよね? なめてすぐは潤っていても、そのあとはパリパリになりませんか? その現象が、化粧水をつけた後の肌でも起こっているんです。もちろん、化粧水には、いきなりパリパリにならないように保湿成分などが入っていますが、次第に乾燥していくことには変わりません。そこで、その水分を逃がさないようにするために油分が必要なのです。

Q. その油分を与えるために、乳液やクリームが必要なんですよね?

いや、外から与えた水分を逃がさないようにする、という以前に、もともと肌の水分というのは、体の内側からきている、ということを忘れてはいけません。私たちのからだは70%が水ですから、内側から肌表面に向かっていき、肌から少しづつ蒸発しているんです。そして、ある程度の水分を保つ働きが角質層にあるからこそ、“肌が柔らかい”という状態になるんです。
たとえば、サカムケやマメで肌から皮膚が離れると、その皮膚はパリパリになるでしょう? これは肌内部からの水分が来なくなるからです。つまり、本当の保湿とは、からだの内部からくる水分を角質層で受け止める仕組みが円滑であってはじめてできるものであり、これが「潤っている」という状態なんです。
角質層は、ケラチンというたんぱく質がシート状に重なっています。このシートが14層くらい重なって、これが下から順番に代謝で上がっていく。古くなったらはがれてアカになるわけですから、上のほうにある2、3枚あたりが、肌内部からくる水分を受け止めるために、セラミドを主体とする油分で補う必要があるんです。

Q. 油分をふくむクリームや美容液には、「サッパリ」や「モチモチ」など使用感のちがいがありますが、これも保湿の効果に関係あるんですか?

いいえ。これは油の種類を変えているだけです。商品のコンセプトや求める感触に合わせて、処方を変えているのがいまの化粧品です。セラミドは、商品にそのまま使うには感触があまりよくありません。昔は配合もしにくかった。そこでいまは、セラミドが上手に配合できる技術やセラミドを使った融合体など、セラミド関連物質が続々と登場しています。普通のオイルだけだったら、肌につけてもベタついたりギラついたりしますが、セラミドがきちんと肌に浸透していると、肌感触は絶対にベタつきません。おそらく、いまの化粧品の乳液やクリームで、セラミドが入っていないものはないでしょう。セラミドにはたくさんの種類がありますが、化粧品に使えるのはそのうちの5つくらいでしょうか。

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Q. もはや、従来の“化粧水で水分を肌に入れる”という考え方はふるいんですね。

“化粧水を肌に入れ込む”というのは……たしかに化粧水の有効成分は入るかもしれませんが、水はそんなに中まで入りません。“パッティングすればするほど肌に水分が入る”ということはありません。基本的に、肌の水分をキープするのはセラミドをはじめとした油分。よくある「アミノ酸配合」などという商品は、これらが入ることでより油分と一緒になって水分を保ってくれる、というものです。アミノ酸がセラミドなどの油分と役割分担をして結果として水分をしっかりと保ってくれる働きをします。
化粧水の水分で肌表面は柔らかくなります。そしてその結果、油分が入りやすくなります。化粧水の水分は基本的に肌の表面を緩めてくれる役割です。それでも、肌表面のケラチンのシート3枚分くらいしか届きませんから(笑)

Q. では、“シートマスクでタップリ保湿”っていうのも……

それが常識だと思っているでしょう? でもそれは、研究者とは別分野のひとたちが科学的な根拠をあまり知らずに、「化粧水=水分補給」というイメージ先行で言っているだけです。感触的にはそんな気分にもなれますが、科学的にクールに見ると、無駄なことをしている(笑)。シートマスクをとったときに肌表面に潤いを感じると、感覚的な満足感は得られますが、本当に潤いを得るためには、そこにちゃんと適切な油分を補う必要があります。
エマルジョンタイプなら、洗顔後に直接つけてもいい。最近洗顔後につける乳液が増えているのはその理由からでしょう。油分を効果的に補いたいなら、洗顔後がいいんですよ。

Q. 私たちは、「保湿」を感覚的な満足感で勘違いしていた、ということですか?

いえ、化粧水をパッティングするのも、いらない手間というわけではありません。肌のキメを整え、次に油分を補うための下準備としては効果的です。でも、大事なのは、そこで水分を入れているわけではない、ということです。化粧水をつけてスーッと肌に入っていくという感覚、この感覚はまちがっていません。でもそれは表面に水を与えているだけで、そこから油分の補給までの作業がすべて終わったときに、はじめて「肌内部に水分が入った」という状態になり、スキンケアが完成します。
市場では長らく「油分=悪い」という定説があったり、メーカーも「オイルフリー」をうたう流行もあったので、油分にあまりいいイメージを抱けないひとが多いんですね。そして多湿気候の風土で暮らす風呂好きな日本人は、基本的に水が好きだから、化粧水の感触が好まれるんです。さらにメディアが流す情報の影響も大きいので、「化粧水が保湿する」「油分は肌に悪い」といういままでのイメージが、正しい保湿の方法の妨げになっていたようです。

岡部美代冶オフィシャルサイト
「美」の科学 「ビューティサイエンスの庭」
http://www.kt.rim.or.jp/~miyoharu/

           
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